14週間ハーメルンに投稿するエレボス 作:えっちゃんエレボス大邪神
恋愛ド素人ナギちゃんの話(ランス)
こん、こん。
トリダシタ村の夜、村に一つしか無い宿に控え目なノックの音が響いた。
「はーい、どうぞー?」
あなたは部屋の中から響く声に扉を開いて中へと入る。
「あれ?」という声と共に金色の長い髪を後ろで纏めてポニーテールにした女性がこちらに振り向いた。
「エール? どったの、こんな時間に。」
「今日一日ぐらいはクルックーさんに甘えてると思ったけどなぁ。」
ナギ・ス・ラガール、または魔想ナギ。 あなたと仲間達と共に長い冒険をした姉の様な人だ。
あなたを見てうーんと考えた後、彼女は「まぁいっか」と呟いてこちらに近付いてくる。
「こんな時間に女の子の部屋に来るのは感心しないなぁー、うりうり。」
「お姉さまの顔でもみたくなったの~?」
そのまま、あなたの首に手を回して身体を抱き寄せた。お風呂上がりなのだろうか、心地よい香りがあなたの鼻を擽り
柔らかな肌と胸の感触が身体ごと押し付けられる。
「……へ、あたし?」
きょとん、と。 あなたからの言葉にナギが問い返して来る。あなたはもう一度自分はナギに会いに来たのだ、と伝えた。
あなたは真面目な顔で伝え、疑問を投げかけて来たナギに頷いて返した。
「ぷっ……あははははははっ!もー、エール、冗談でしょー?」
真面目な顔で答えたあなたを笑い飛ばして、首に回していた手を離していつもの調子に戻ったナギがベッドにに腰掛ける。
けらけらと大きな口を開けて朗らかに笑いながら、自分の隣のスペースを軽く叩いた。
「とりあえず座ろっか、お姉さまは夜風にあたってくるーって言って出てっちゃったから暫く戻ってこないし。」
「けどまぁ、難しいと思うよー、実際。」
促されるままベッドに腰掛けたあなたに、ナギが今度はにやにやと笑いながら足をぱたぱたと動かす。
あなたは思わず何が、と問い返した。
「ん? だからー、お姉さま。 お姉さまはホラ、ランスにぞっこんだから。」
「シィルさん居なかったり、ランスがどっか逃げたりしなければ付いていったんじゃないかなぁ……色々あって昔よーりは素直だし?」
「けどまぁあたしは応援するから……え、違う?」
あなたはぶんぶん、と首を横に振り、今度は縦に振るう。
志津香は確かに初恋だったが、ナギのいうランス――あなたの父を愛している、というのも聞いたことがある、と。
「……お姉さまが? エールに、そんな風に言ってたの?」
「ふぅん、知らなかったなぁ……私の前では意地でも言わなかったのに。」
ナギが唇に指を当てて、へー、だの、ほー、だのと呟く。 ……その様子にあなたはどうしても気になっていたことを聞いた。
志津香と同じようにナギもランス――あなたの父の事を愛しているのか、と。
「あたし? あたしはねぇ……うーん……。」
「……うん、ランスの事は好きだよ。愛してる。」
考える仕草を見た後、ナギはけろりとそう言い切る。あなたは自分の身体から力が抜けていくのを感じていた。
自然と視線が下がり、木目の床と自分のブーツだけが視界を支配する。
「けど――……うん、お姉さまのとはちょっと違うかなぁ。」
あなたは、身体に力が入るのを感じてばっと顔を上げた。 ナギが頭に疑問符を浮かべた後、言葉を続ける。
「ほら、前に温泉で言ったでしょ。だから私のは子供がお父様を好きなのと同じ感覚だと思うんだ。」
「男の人としても……うーん、好きだけど。それよりは それとは別にしてお姉さまの負担を減らしたいっていうのと……。」
「好きな人もお姉様と同じが良い……っていう部分の方が強かったかなぁ。」
姉妹だから全部共有できるのがいいの、幸せとか好きな人とかも。 昔はよく困らせたかなぁ。
そんなこと言ってナギは憧憬に思いを馳せるように、丸い碧の瞳を細めた。
「けどほら、流石に私がランスの子供とかお嫁さんっていうのはねぇ……色々アウトな気がするし。」
「お姉さまでギリギリ? だからー……本当の男女の好き嫌いっていうのは違うと思うよ?」
自分でも疑問に思いながら言って笑うナギを、あなたは見つめる。
やけに自分のつばを飲み込む音がうるさく聞こえるな、と思いながら、あなたはナギに続けて問いかけた。
「……え? ”なら僕は?”って……何が?」
自分はナギの恋愛対象にはならないのか、と。隣同士腰掛けたまま真剣な顔でナギを見つめる。
暫しナギが気の抜けた表情で、呆然とあなたを見つめ返した。
「あははははっ! こーら、お姉さんをからかわないのー。 本気にするぞぉ~?」
「あたしはさぁ、そういうんじゃないでしょー、そういうのはお姉さまとか……。」
あなたから視線を逸し、ナギが可笑しそうに笑う。こちらは真剣なのにちゃんと受け取ってくれていない。
あなたはむっとしてぱたぱたと自分の顔を仰いでいたナギの手を取って、距離を詰めた。
「ひゃわ!?」
互いにベッドに腰掛けた体勢のまま太腿が触れる。息遣いが聞こえる距離までを縮めて、あなたはじぃっとナギを見つめる。
「ちょ、え、エール……、冗談だったら趣味悪いよ?」
あなたは困惑して頬を僅かに朱に染め視線を彷徨わせるナギにまじめな声で「冗談なんかじゃない」と返す。
自分を見てくれないナギに、こっちを向いて欲しいと頼みナギの手を引き寄せた。
「じょ、冗談じゃなかったら、なんなのさぁ。……もー、子供の癖に、こういうのはもうちょっとおとなになってから……。」
子供じゃないと語気を強めて返し、あなたはナギのもう片方の手も掴んで引っ張る。
「あ」と声を漏らしたナギが、あなたの方を向かざるを得なくなり無理矢理に手を繋いだまま視線が交わった。
「…………え、エール……? ちょ……あ、あんま見ないでよ、なんかこういうの……。」
ナギが、どうにかしてあなたから目を逸らそうと視線を宙に彷徨わせる。あなたはナギにもっと自分を見て欲しくて、更に顔を近付けた。
「ひぅ」、と。 眼の前の女性からあまり聞いたことのないような可愛らしい悲鳴がある。
「わ、わ、ば、ばか、ちゅーしちゃう、ちゅーしちゃうって……! 手、手一回はなそ!? ね!?」
ナギが弱々しく抵抗して、手足をばたつかせる。しかし今までの冒険で鍛えられたあなたを振り解く事は容易ではない。
いや、例え本気で抵抗したとしても振り解く事はできなかっただろう。なにより年の差はあっても、男と女だ。
あなたは胸の中から湧き上がる自分でもよく理解できていない感情に従うまま、ナギをベッドの方へと押し倒した。
「あ――……ぅ、あ、ぅ、あぅあぅ……ぅぁ、ちょ……。」
ぽふん、と。 柔らかい音を立ててベッドに押し倒されたナギが何を言っていいかわからず口をぱくぱくさせる。
あなたより少し背の高い、これまでの冒険で導いてくれていた溌剌としていつも明るい笑顔を見せる姉の様な女性が。
「……え、えーる……だ、だめ、おねえさま、かえってきちゃうし……あたし、こういうの……。こういうのじゃ、無い、じゃん……?」
可愛らしく頬を染めしおらしい態度、潤んだ瞳でであなたを力無く見上げている。
あなたは逃がすつもりはないと言うように「ぐっ」とナギの手を握る手に力を込めた。
「……ほん、き……?」
既に似たような問いかけは何回目かになる。 あなたは「うん」と頷きナギのことが好きだ、という思いを伝えた。
「……………ぅ……。」
思いもしていなかったであろう言葉にナギが顔を茹蛸のようにして目を閉じた。
こち、こち、と時計の音だけがやけにうるさく聞こえる。
「――…………………キ、キス、だけ。」
「キスだけ、だよ? それ以上は、今はだめ、だから……。」
身体から力を抜いたナギが、あなたと重ねている手に指を絡めて来る。細くたおやかな指が、冒険で力強く鍛えられたあなたの指と絡み合う。
どうしようもなく魅力的で、あなたの奥の何かをぐつぐつと煮立たせるその様に、ごくりと生唾を飲み込み、ナギに顔を近付けた。
お互いの距離がゆっくりと、0になりかけて――
「……。」
その様子を、ドアを開けて呆然と立ち尽くしていた志津香に目撃される。
「……にゃあああああああああああああああ!?!!?!?!?!」
<どーーーーーーんっ。>
あなたはナギに魔法でふっとばされた。部屋の物が散乱し防御体勢を取る暇すらもなかったあなたは壁に軽く叩き付けられる。
どんがらがっしゃんと間抜けな音を立てて、あなたは壁からずり落ちて床の上に大の字に転がった。
「……ナギ、エール、あんた達……。」
「ち、ちが、違うのお姉さま!これはね!? エールがその、恋人ができた時の……そう、練習を!したいっていうから!」
志津香が小さな声で呟き、ナギとあなたを交互に見る。ごまかそうとしてこちらに同意を求めるナギにあなたは断固として首を横に振った。
練習ではなく本番で、自分は冗談とかそんなつもりであんな事はしない、と志津香に聞こえる声ではっきりと伝える。
ナギが、真っ赤な顔を更に赤くして手をぶんぶんと振り回した。枕がこちらに飛んできて、あなたの顔に直撃する。
「はぁ……いいわよ、ナギ。 わかってるから。」
「お、お姉さまぁ……!」
志津香が息を小さく吐き出して帽子のつばを抑えた。軽く頭を振って、息を吸い込む。
「……年頃だものね。 私、クルックーさんの所にお邪魔してくるから。 二人でゆっくりしてなさい。」
ぎい、ばたん。 頬を僅かに赤くし目を逸した志津香が早口で言い切った後に、無情に扉が閉められた。
部屋の中には志津香に手を伸ばしていたナギと、枕に顔を埋めていたあなたが取り残される。
「あ、にゃ、あああ、あああ、ああ~~~~~……っ……!!」
ナギが頬を、口元を抑えながら悶える。あなたの視界を塞いでいた枕は、ぽすんと床に落ちて転がった。
……視界の先に羞恥に涙を溜めててぷるぷると震えるナギが見える。
「ちーーがーーうーーのーー!! ちょっと流されそうになっただけだもーーーーーん!!!」
ナギの叫びが、夜のトリダシタ村に木霊した。
結局その日、ナギはあなたに対して「ばか」や「すけべ」とか「子供のくせに」と言うばかりでキスはさせてくれなかった。
……ただ、今更帰るわけにもいかないと言ったら添い寝はしてくれたのであなたは、次こそはと決意を固めるのだった。
-つづかない-