プロローグ
人類を滅ぼす。
と、天の神は言った。
人類を守る。
と、地の神は言った。
自分はどちら側に付くべきか?
とある一柱の神は悩んだ。
生まれを考えるなら、天の神の側に付くべきだろう。
しかし、その神は人類が住む土地に愛着があった。
当然だ。義兄弟の契りを結んだ友とチカラを合わせて造った
丹精込めて造った
その神は友情を選んだ。
天の神でありながら、地の神の集合体である《神樹》となって、人類に恵みを与えた。
敵の侵攻を防ぐ結界を張り、心優しき無垢な少女たちに戦うためのチカラを授けた。
最初はそれが正しいことだと思っていた。
しかし、やがて神は葛藤する。
本当に、この行いは正しいのだろうか。
過酷な戦いの末、世界はいっときの安寧を取り戻した。
だが……そこには常に、罪無き少女たちの犠牲があった。
いまに始まったことではない。
神と人間との交渉とは、過去からそういうものだった。
供物。生け贄。等価交換。
それ無くして、人類に奇跡のチカラを与えることはできない。
それでも、納得できなかった。
人類を救うために、地の神の側に付いた筈だった。
しかし現実はどうか。
世界のために戦った少女たちが苦しんでいる。
一番報われるべき少女たちが不幸になっている。
何年も、何十年も……何百年も、同じことが繰り返されている。
なぜだ。なぜなのだ。
神は苦悩する。
己の無力さを悔いながら。
他に方法はないのか。
こんな形でしか守れないのか。
変えようがないのか。
もうこれ以上、少女たちが傷つく姿を見たくはないのに……。
いまのままでは、救えない。一番救いたいと思った存在を、救えない。
救えないならば、いっそのこと……。
やがて、かの神はひとつの決意を固める。
かつて、友は尋ねた。
――私が造った
あのときは曖昧な答えしか返さなかった。
だが……。
いまこそ、はっきりと答えを出そう。
友よ。
罪無き少女たちの犠牲で成り立つ世界。
そんな世界は、絶対に……。
* * *
勇者部は美人揃いで羨ましい。
と、よくクラスの男子に言われる。
このごろは、またもや美人でスタイル抜群の新入部員が入ったので、より羨望の眼差しで見られることがしょっちゅうだった。
そんなに羨ましいのなら、いっそ入部してしまえばいいのに。
ただでさえ男手が足りないのだ。きっと歓迎されるだろう。
そう言うと、だいたいの者は苦笑いで返答を詰まらせる。
顔も性格も良い美少女揃いの、男にとって夢のような部活。
それでも、やはり多くの女子に囲まれる環境に身を投じるほど、度胸のある男子生徒はいないらしい。
あるいは単純に、ゴミ拾いや、迷子の猫探しや、幼稚園でのボランティアといった、勇者部の主な活動が面倒だからだろう。
勇者部の活動自体も充実している。
幼少時から父によって鍛えられたカラダは力仕事のとき頼りにされるし、手先が器用なので、演劇の小道具造りや舞台のセッティングをする際は、いつも大活躍する(……ときどき凝りすぎて本番に間に合わないのが玉に瑕だが)。
勇者部は強い団結力が必要とされる部活である。
日々の活動は、やがて男女の垣根を越えた、気安い関係を生んだ。
そんな勇者部が、悠人は好きだった。
……とはいえ、気安すぎるというのも、ときどき考えものだった。
悠人とて、健全な中学生男児である。
気安いがゆえに少女たちがときおり見せる無防備な格好や、近すぎる距離感には、どうしても年相応の感情が沸き立つのだった。
部長の
学園のマドンナ的存在である
風の妹である
勝ち気な
抜群の美貌とスタイルを持ちながら、天然で人懐っこい
勇者部の皆は仲間である。
よこしまな目で見るのは、彼女たちの信頼を裏切ることだ。
勇者部の少女たちから『性』を感じ取るたび、悠人はそんな自己嫌悪に陥った。
ダメだと思えば思うほど、実り始めた青い欲望は悶々と淫らな空想を生み、夜ごとに艶めかしい淫夢となった。
そういうときは素直に覚えたての、たどたどしい性技で自らを慰めた。
勇者部は「皆のために成ることを勇んで実行する」清く健全な部活である。
生々しい情欲にまみれた空気など、勇者部には似つかわしくない。
だから明日には、いつもどおり陽気な顔で部室に行けるように。
性差など関係ない対等な仲でいられるように。
決して彼女たちを淫らな目で見ないように。
そう思いながら、オスとしての一面を影で発散してきた。
確かに勇者部の少女たちは、皆が素敵な異性だ。
それでも彼女たちと男女の関係になるなど、悠人には想像もできなかったし、彼女たちからそういう目で見られるわけが無いと思い込んでいた。
だからこそ現在、彼は困惑している。
よもや、特定の誰かと交際する以前に。
カップルが重ねていくべき段階を大きくすっ飛ばして……
勇者部の少女、全員と深い関係になるなど。
……いや、困惑するならばそもそも、彼女たちが人知れず、世界を滅ぼす怪物と戦う文字通りの《勇者》であったことにも驚いたし。
この四国以外の土地はすべて炎の海に包まれ、恵みの源である《神樹》の結界に守られているという話も、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた。
……だがそれでも悠人にとって、人生で最も驚愕したことは──
「ユウちゃん……私、いいよ? ユウちゃんとなら、そういうこと、しても……」
勇者部の中でも、特によこしまな目で見るはずがなかった少女。
悠人にとって、最も大切な存在。
それこそ、天地がひっくり返るような衝撃だった。