街の正門に集まった冒険者達は、凄まじい威圧感を放つモンスターを前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
デュラハン。
人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。アンデッドとなり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。
正門前に立つ漆黒の鎧を着た騎士は、左脇に己の首を抱え、街中の冒険者が見守る中、フルフェイスの兜で覆われた自分の首を目の前に差し出した。差し出された首から、くぐもった声が放たれる。
「……俺は、つい先日、この近くに越してきた魔王軍の幹部の者だが……」
やがて、首がプルプルと小刻みに震えだし…………!
「まままま、毎日毎日毎日毎日っっ!! おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿者は、誰だああああああああー!!」
魔王の幹部は、それはそれはもうお怒りだった。
「…………爆裂魔法?」
「爆裂魔法を使える奴って言ったら…………」
「爆裂魔法って言ったら…………」
冒険者達の視線が俺の隣にいるめぐみんに集中する。視線を集めているめぐみんは隣に立っている関係無い魔法使いの女の子を見た。それに釣られて他の冒険者達もその子を見る。
「ええっ!?あ、あたしっ!?なんであたしが見られてんのっ!?爆裂魔法なんて使えないよっ!」
デュラハンの城に爆裂魔法を撃ち込んでいたのはやはりめぐみんのようだ。そして、めぐみんが嫌そうな顔をしながら前に出る。
「お前が……! お前が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んで行く大馬鹿者か! 俺が魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい! その気がないなら、街で震えているがいい! ねぇ、なんでこんな陰湿な嫌がらせをするの!? どうせ雑魚しかいない街だと放置しておれば、調子に乗って毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって……っ!! 頭おかしいんじゃないのか、貴様っ!」
あらら、激しくお怒りで。流石に気圧され、若干怯むめぐみん。けれど、肩のマントをバサッとひるがえし………!
「我が名はめぐみん! アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!」
「………めぐみんってなんだ?馬鹿にしてんのか?」
「ちっ、違わい!」
そんな風に突っ込まれるが、めぐみんは気を取り直すと。
「我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは魔王軍幹部のあなたをこの街におびき出すための作戦…………!こうして、まんまとやって来たのが運の尽きです!」
いや、違うよね?ノリノリのめぐみんに対してそんなことを思う。
「………おい、あいつあんな事言ってるぞ。毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬとか駄々こねるから、仕方なくあの城の近くまで連れてってやったのに。いつの間に作戦になったんだ」
「………うむ、しかもさらっと、この街随一の魔法使いと言い張っている」
「………確かに、爆裂魔法に関してならこの街随一の魔法使いだ、めぐみんは」
「しーっ!そこは黙っておいてあげなさいよ!今日はまだ爆裂魔法使ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強気なのよ。今良いところなんだから、このまま見守るのよ!」
デュラハンに杖を突きつけているめぐみんの顔がほんのりと赤い。俺たちの会話が聞こえていたようだ。
「………ほう、紅魔の者か。なるほど。そのいかれた名前は、別に俺をバカにしていた訳ではなかったのだな」
「おい、両親からもらった私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」
「………フン、まあいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」
「それは、私に死ねと言っているも同然なのですが。紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」
その嘘はホントにどうなの?
「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気はないと?俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味は無い。だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」
デュラハンの威圧にめぐみんは後ずさるが不敵な笑みを浮かべた。
「迷惑なのは私達の方です!あなたがあの城に居座っているせいで、私達は仕事もろくににできないんですよ!………フッ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデットのスペシャリストがいるのですから!先生、お願いします!」
………コラコラ、盛大に啖呵を切っておいて、丸投げって。
「しょうがないわねー!魔王の幹部だか知らないけれど、この私がいる時に来るとは運が悪かったわね。アンデットのくせに、力が弱まるこんな明るい内に外に出て来ちゃうなんて、浄化して下さいって言ってるようなものだわ!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ、覚悟はいいかしらっ!?」
アクアもアクアでノリノリだし。
「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか? この俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいない。そうだな、ここは一つそこの紅魔の娘を苦しませてやろうかっ!」
デュラハンは、左手の人差し指をめぐみんへと突き出す。
それを見たアクアが魔法を唱えようと杖を構えるが………。
「間に合わんよ。汝に死の宣告を! お前は一週間後に死ぬだろう!!」
その瞬間、俺はめぐみんの襟首を引っ張り、俺と同時に飛び出していたダクネスの方に突き飛ばす。結果、俺が死の宣告を浴びた。
「なっ!? ユ、ユウジ!?」
「貴様!」
めぐみんが叫ぶのと、激昂したダクネスがデュラハンに突っ込むのは同時だった。
「下がれダクネス!」
っ、ダクネスがデュラハンの乗ってる馬に蹴り飛ばされた!
俺は急いでダクネスを抱き起こす。
「汝にも死の宣告を!」
っ!?マズイ!ダクネスも俺が受けたやつを!?
「くそっ、やられた、死の宣告か! ダクネス、ユウジ、大丈夫か!?」
「……ふむ、なんとも無いのだが」
「俺も平気だよ。心配ない」
デュラハンは勝ち誇った様に宣言する。
「その呪いは今はなんとも無い。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者には、むしろこちらの方が応えそうだな。……よいか、紅魔族の娘よ。このままではその金髪の騎士と赤眼の騎士は一週間後に死ぬ。ククッ、お前の大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え、苦しむことになるのだ……。そう、貴様の行いのせいでな! これより一週間、仲間の苦しむ姿を見て、自らの行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言う事を聞いておけばよかったのだ!」
デュラハンの言葉にめぐみんが青ざめる中、ダクネスが戦き叫ぶ。
「な、なんて事だ! つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言うことを聞けと! つまりはそういう事なのか!」
「えっ」
…………ダクネス。今そういうこと言う?
「くっ…………!呪いぐらいではこの私は屈しはしない……!屈しはしないが………っ!ど、どうしようカズマ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば、黙って言うことを聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だっ!」
大衆の前で、突然変質者呼ばわりされた可哀想なデュラハンは、ぽつりと言った。
「…………えっ」
ああ、予想外の変態に絡まれて気の毒に。
「この私の身体は好きにできても、心までは自由にできると思うなよ! ああ、どうしよう、どうしようカズマっ!! 予想外に燃えるシチュエーションだ! 行きたくはない、行きたくはないが仕方ない! ギリギリまで抵抗してみるから邪魔はしないでくれ! では、行ってくる!」
「ええっ!?」
「やめろ、行くな!デュラハンの人が困ってるだろ!」
ノコノコと敵についていこうとしているダクネスをカズマが羽交い締めにして止めるとホッとしているデュラハン。
「と、とにかく! これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ! そして、紅魔の娘よ! そこの二人の呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい! ……だが、城には俺の配下のアンデッドナイト達がひしめいている。ひよっこ冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着くことができるかな? クククククッ、クハハハハッ!」
そう言ってデュラハンは哄笑しながら、この場から去っていった。
~~カズマside~~
あまりと言えばあんまりな展開に、集められた冒険者たちは呆然と立ち尽くしていた。
それは、俺も同じことだ。
と、めぐみんが青い顔でわなわなと震え、杖をぎゅっと握り直す。
そして、一人で街の外へ出て行こうとする。
「おい、どこ行く気だ。何しようって言うんだよ」
「今回の事は私の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法ぶち込んで、ダクネスとユウジの呪いを解かせてきます」
「……俺も行くに決まってるだろうが。お前一人じゃ、雑魚相手に魔法を使ってそれで終わっちゃうだろ。そもそも、俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だって気づかなかったマヌケだしな」
俺の言葉にしばらく渋い表情を浮かべていためぐみんは、やがて諦めたように肩を落とした。
「……じゃぁ、一緒に行きますか。でも相手はアンデッドナイトがひしめいているらしいです。となると、武器は聞きにくいですね。私の魔法の方が効果的なはずです。……なので、こんな時こそ私を頼りにしてくださいね」
そう言って、めぐみんは微かに笑みを浮かべた。
アンデットナイトって言うからには、鎧を着た相手なのだろう。
そんなのが相手では、安物の剣しか持たない俺は途端に無力になる。
だが、それならそれで考えがあった。
「俺の敵感知スキルで城内のモンスターを索敵しながら、潜伏スキルで隠れつつ、こそこそ行こう。もしくは、毎日城に通って一階から順に、爆裂魔法で敵を倒して帰還。毎日地道に敵を削っていく。…… 一週間の期限があるなら、そんな作戦でいってもいい」
俺の提案に少しは希望が持てたのか、めぐみんが明るい表情で頷いた。
俺とめぐみんはユウジとダクネスの方を振り返ると。
「おいダクネス、ユウジ!呪いは何とかしてやるからな!だから、安し…………」
「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」
二人を元気付けようと、俺が声を掛ける最中。それを遮る形でアクアが唱えた魔法を受けて、ダクネスの体が淡く光った。そして、ほんの少し残念そうな、しょんぼりしたダクネス、その横で苦笑いのユウジとは対照的に、アクアが嬉々として言ってきた。
「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!どう、どう?私だってたまにはプリーストっぽいでしょ?」
「アハハ…………心配かけてゴメン。この通り、大丈夫だから」
「ユウジ~、ご褒美頂戴よ、ご褒美!」
そう言ってユウジに抱きつき、あからさまにキスを迫るアクア。
「ありがとう、アクア。勿論いいよ、というかむしろ此方がご褒美貰ってるね、これじゃ」
と、アクアとキスし始めるユウジ。
「んっ……ちゅっ………ユウジ~♡好き好き~~♡んぅっ……ちゅ…………んっ………」
と、少しして離れると、ユウジは────。
「ほら、ダクネス。俺の方を見て?」
「ん………?っ、んむっ!?」
ダクネスがユウジの方を向くと唇を奪い、深い口付けをする。
「んっ……!ちゅっ、んっ……むぅっ……ちゅ……ちゅぷっ……んっ………」
段々とうっとりして目がトロン、としていくダクネス。ユウジが唇を離すともっともっと、とせがむように唇を近づける。
「流石にこの状況じゃあこれでおしまい。また次、ね?」
「むぅ………わかった」
とりあえず、呪いはもう大丈夫らしい。………俺たちの気合いを返せ。