静花
「つまり、あれからもあの状態が続いていて、お兄ちゃんはエリカさんが日本に来ていたのも知らなくて」
「ああ」
「むしろ、お兄ちゃんは困ってる。そう言いたい訳ね?」
朝食の時間。朝起きて帰宅してから朝ご飯の準備をしていたら、お兄ちゃんの部屋から叫び声が上がった。何事かと思ったら、お兄ちゃんがエリカさんと同衾していた。
「お待たせしましたエリカ様」
「ありがとう、アリアンナ」
「とてもそうは見えないけど」
「本当なんだ信じてくれ静花!なんだかわからいけど、突然ころっと俺に対する態度が変わったんだ!」
「ころっと? どうせ一緒の部屋で下着姿のエリカさんと一緒に寝たり、命懸けで助けたり、一緒に危険な事したり、エリカさんの家に行って捕まったり、変な人に襲われたりしたんでしょ」
「「どこまで知ってるんだ(のよ)!」」
「あれ、当たってたの?」
「いっ、いや……」
「そっ、そんな事ないわよ。ええ……」
「ふーん。まあいいや。アリアンナさんだっけ、おかわり頂戴」
「はい、ただいま」
紅茶のおかわりを貰って味わう。
「それにキスもしたみたいだし」
「だからどこまで知ってんだよ!!」
「お兄ちゃんとエリカさん達を観察して予測すればわかるよ」
しばらく放置していると、お兄ちゃんがエリカさんの胸に視線が行っている。それも何度も。脂肪めっ、切り取ってやろうか。
「(少しだけ……)っ!? あぶねっ!?」
「ちっ、外したか」
ソファに座るお兄ちゃんとエリカさんの間にフォークが突き刺さっている。お兄ちゃんの数本の髪の毛と共に。
「殺す気かっ!?」
「それぐらいでお兄ちゃんは死なないって。それに死んだら解体して晒してあげるよ」
「怖いわっ!?」
「凄い妹さんね……」
「ああ、数年前に海外に留学してからなんだが、凄く賢くなってるんだよな……」
「そうなのね……」
「あっ、そろそろ出ないとまずいから私は行くね。それとエリカさん、あんまり不法侵入してるとその脂肪、切り取るから」
私は鞄を掴んでさっさと外に出て万理谷家に向かう。
護堂
学校から出て朝の事を思い出す。静花が投げたフォークは直撃コースだったが、なんだかギリギリ避けられた。なんだか不思議な感覚だったな。それにエリカが転校してきて、掻き回してくれた。お陰で万理谷の手を握ってしまった。その時、思いっきり平手うちを食らった上に青ざめた万理谷に泣かれたのだが。
「いきなりあのような事をしてしまって申し訳ございません」
その万理谷が校門を出た所で待っていた。
「いや、俺も悪かったから……それより歩きながらでいいか?」
「はい……」
「急に叩かれて泣かれたのは驚いたけど……」
「申し訳ございません。私は男性恐怖症ですので、夫以外の男性に触れられると……」
「そうなんだ……夫ぉっ!? 夫がいるのかっ!?」
「はっ、はい。結婚はしてませんが婚約だけはしております」
「そうなんだ……」
こんな美少女を妻にするとか、凄いな。というか、万理谷だからもしかしなくてももう1人のカンピオーネってアストじゃないか? その可能性が大きいな。
「本当に申し訳ございませんでした。どうかお許しくださいますようお願い申し上げます」
「いや、その……」
「荒ぶる魔王たる御身のお怒りは私など殺めた所で収まるところではないと承知ではないと思いますが、どうか、どうかお許しくださいますようお願い申し上げます」
「いや、別にいいから……」
「どうやらこの王は我々の王とは違うようですね」
声に振り向くと、男性が居た。
「初めまして草薙護堂様。私は日本の魔術を取り仕切る正史編纂委員会の甘粕と申します。お怒りはごもっともなのですが、そちらの方には手を出さないで頂くようお願い申し上げます。できましたらお金で解決させてください。祐理さんの夫は貴方と同じカンピオーネであり、我々のトップの方なので」
「日本にもカンピオーネが居るのかよ!?」
「はい。現在、日本にはお二人のカンピオーネの方がいらっしゃいます。その方も祐理さんと同じでもう一人の方の婚約者ですので、お二人のカンピオーネを同時に相手をする事になりますので、はっきり言ってオススメはしません」
2人かよ。いや、それ以前にここは日本だぞ!
「いや、怒ってないですから。俺も悪かったですし……」
「良かったですね」
「はっ、はい……日本が滅びなくて良かったです……」
「おい、ちょっと待て。他のカンピオーネってそれほど危険なのか?」
「ええ、危険ですよ。なんせ島を浮上させたり日本列島を沈めたりできる権能をお持ちですし」
「おの方は力を振るう事になんの躊躇もございませんから……」
「独占欲も強いのでとっても危険ですね」
「そ、そうか……」
「とりあえず、色々とご説明しますのでどうか一緒に来てください」
「わかった」
それから神社に連れて行かれ、色々と日本の事を説明された。
「まま~待って~」
「メディ、気を付けてくださいね。お待たせしました」
メディと呼ばれた小学生高学年くらいの女の子が万理谷の事をママといいながらお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「む、娘?」
「はい。この子は私の子供です」
「ん~~」
猫耳帽子を被った銀髪の女の子の頭を慈しみながら撫でる万理谷。綺麗で絵になる。
「さて、草薙さんにエリカ・ブランデッリに付いてお教えしましょう。彼女は紅き悪魔(ディアヴォロ・ロッソ)と呼ばれ……」
それからエリカの事を教えられて帰った。
ベッドで悩んでいたら、いつの間にか隣にエリカが居た。
「不法侵入だぞ」
「ちゃんと妹さんに言ったわ。あの目は本気だったから」
それからエリカの目的を問いただすと、一日だけ付き合ってくれと言われ、承諾したらイタリアに連れて来られた。イタリアにあるコロッセオ前でエリカを待っていると神の気配がした。
「あなたが神殺しか。異邦人か。妾と同じだな」
「お前は神か」
背後に振り返ると既に居ない。
「どうする?」
直ぐ後ろから声が聞こえて振り返ると、今度は少し離れた位置にある建物の上に居た。そいつの姿は銀髪に猫耳帽子。シャツにセーターといった姿だった。その顔や姿はついこないだ見た女の子と非常に良く似ていた。雰囲気は別物だが。
「今の妾には蛇を取り戻すという目的がある。故に貴方と戦う必然性は感じていない。だが、貴方にその意思があるのなら、妾は全力で応戦するだろう」
「悪いが俺にその気はない。他のカンピオーネの事は知らないがな」
「無聊だ。気配を隠しておるが他にも神殺しが来ているようだ。そやつも戦う気はなさそうだな」
「え?」
「了解した。妾はとく去る事にしよう。しかし、神殺しよ。貴方は嘘つきだ。我らとの決戦を楽しまぬ者が神殺しになるはずがない」
フクロウをけしかけられた後、直ぐに姿が消えた。それから3人の魔術師とあってエリカと戦う事になった。牡牛、鳳、猪の権能を使って勝利した。それからエリカの本心を聞いた。甘粕さんから聞いた言葉を思い出す。
「見て」
「なんだこれ?」
エリカの手には丸いメダルのような石でできた物で、表には顔があり髪の毛が蛇として描かれ、周りを埋め尽くしていた。
「お土産よ」
「お土産か、ならばそれを渡して貰おうか」
「「っ!?」」
底冷えするような冷たい声が入口から聞こえ、そちらを向くとこちらに歩いてくる人形のような美少女の姿が見えた。彼女は青みのかかった銀髪をポニーテールにして、身体を黒いワンピースドレスに身を包んでいた。
「リリィ?」
「久しいな、エリカ」
「ええ、そうね。それで、親交を温めたいのだけれど先程の言葉を問いたださないといけないようね」
「問い質す必要もなかろう。私はそのゴルゴネイオンを渡せと言っているだけだ。それは我が王が数年前から探索しておられる代物だ。渡さないのであれば例え、エリカだろうとも殺してでも奪い取るぞ。無駄に死ぬ事になる友に忠告してやる」
「言ってくれるわね。やれるもんならやってみなさい」
リリィと呼ばれた少女が漆黒の剣を呼び出して引き抜いた時、確信した。
「エリカ、待て」
「護堂? どうしたの?」
「おい、お前はこれが欲しいんだな?」
「ああ」
俺はエリカの手からメダルを取り上げる。
「くれてやるからさっさと帰れ」
「ちょっと、護堂っ!?」
「エリカ、よくあいつを見ろ。あいつは本当に人間なのか? 俺には神に類似する存在のような気がするんだが」
「え? っ!? ちょっと待ちなさいっ!! なんでリリィが神獣になっているのよっ!」
「王の求めるままに人間を捨てた。ただそれだけだ。もはやエリカ、貴方では私の敵にはならない。そして、如何にカンピオーネとはいえ、先程権能を使った貴方では私には勝てないだろう」
「そうだな……」
白馬は使用可能か。安全に逃げる為にも使うべきだな。
「エリカ、逃げるぞ」
「仕方ないわね……」
「ほらよ」
俺はメダルを少女の方に投げる。少女は飛び上がってそれを取ろうとする。同時にフクロウも飛び出してくるが、少女の剣が振られて瞬時に切り裂かれる。
「我が元に来れ、勝利の為に! 不死の太陽よ、我が為に輝ける駿馬を遣わし――」
東の方角から光がさし、超高熱の太陽の炎を呼び寄せてメダルごと消滅させようとするが――
「がはっ!?」
「護堂っ!?」
――背後から背中を蹴り飛ばされて、白馬が消えてしまう。
「くっ!?」
「引かないと殺す」
「エリカ……」
「わかったわ」
背中に乗られて身動きが取れない。しかも、首筋にナイフをあてられている。それに乗っている奴からカンピオーネの気配があった。それから奴は俺の意識を刈り取ってエリカに渡したそうだ。そのお陰で俺達は助かったが、あのメダルは奪われた。