伊丹耀司
特地へと出撃するために俺達はゲートがあるドームの前でセレモニーを行っている。総理大臣が前に立ち、演説を行っているが……そんな事よりも総理の近くの後ろにある椅子に座っている連中の方がやばい。
その椅子には我が国の支配者であり、王であるピンクの魔王万里谷アスト。彼女……いや、彼は椅子に座りながら暇そうに足をぶらぶらさせている。長い髪の毛は三つ編みにして、タンクトップに紫のパーカー。前は開いてお腹は出している。下はズボンだが、どう見ても美少女にしか見えない。そんな彼は俺の視線に気づいて手を振ってくれる。一応、振り返す。後が怖いから。アイツは理性って物が蒸発しているからな。というか、よくよく見たらどう見ても、少し前に発売されたFATEの小説に出てくるアストルフォなんだよな。名前的にもそんな感じだし。今、真似をされたのかな?まあ、こちらはまだいい。暇そうにしているが、一応聞いている。問題は隣だ。
隣には黒色の猫耳帽子を被った銀髪の美少女が、演説とか完全に無視してイヤホンをつけながら携帯ゲーム機で遊んでいる。巫女さんがどうにか止めようとしているけど、聞いちゃいない。他の人は完全に無視だ。何せ、相手は今や日本を守護している正真正銘の女神様、守護神アテナだからな。
巫女さんはアストの妻の万里谷祐里。彼女がかの一行の唯一の良心だろう。世間知らずのお姫様ではあるが。そんな三人の後ろには黒い鎧姿の銀髪美少女騎士が立っている。彼女はセイバー・オルタに似ている。というか、それを元に
「特地の事について彼等にも協力を依頼しました。あちらでお願いしたのは拠点確保と……」
「飽きた」
「え?」
「なが~い~!」
「いや、しかし……」
「いいから代わる!」
「は、はい」
どうやら、待つのに限界が来たようだ。マイクを奪い取って前に出て来るアストに、全員が息を飲む。この場に居る奴なんて、機嫌を損ねたら数秒後にはあの世行きだからな。
「みんな~元気~? あれ、元気がないぞ~! ほら、もう一度っ。みんな、元気かな~?」
「「「元気です!」」」
全力で叫ぶ。何故なら、アストの背後に黒い影が現れて大きな牙が生え揃った口を見たからだ。
「よろしい。さて、茶番はこれくらいにして……ボクが皆に言う事はあちらをもう一度見ましょう」
そう言って、指さした方向には献花が捧げられた机がある。あの事件で発生した犠牲者のだ。そこには遺族も居て、見覚えのある小さな女の子が居る。
「ボクが守護する日本は侵略者に攻め込まれ、少なくない犠牲者が出たよね。アテナ、この場合、どうすればいいかな?」
「本来なら、羽虫如きに構いはしない。だけど、害虫は駆除しないと鬱陶しい」
「うん、そうだね。流石は女神様。とっても傲慢で素敵だよ。さて、戦争だと思っている人も居るけど、それは勘違いだよ。戦争じゃない。これから行うのはただの駆除だ。思い上がった蛆虫共に、ボク達に喧嘩を売った事を後悔させてやるだけだ。だから、皆にお願いするのは一つ。敵は容赦なく、完膚なきまでに殺して♪その後は死者の軍勢として永遠の労働力にしてあげる」
うわぁ、怒ってる。怒ってやがる。結構ガチでキレてるのか?いや、ただ狂気に染まってるだけか?
「さぁ、皆!元気よく殺された人の仇を討って、領土を広げに行っちゃうぞー!あ、日本の守備はボクの妻のカンピオーネともう一人にお願いしてあるから大丈夫だからね!」
とんでもない号令がかかり、俺達は特地へと派遣された。その先頭は終始、ニコニコ顔で物騒な事をいう魔王様だ。女神様は相変わらずゲームをしている。
ゲートを抜けると丘に着いた。数キロ先には敵軍が見える。どうやら、第二の軍隊を送り込む気だったようだ。
「伊丹、これどうするの?」
「えっと、それはですね……」
女神様に攻略方を教えていく。俺はいつの間にか先頭に連れて行かれて、王様達の隣に居る。一佐の命令だ。趣味が合う俺は彼等の話し相手に選ばれたのだ。はっきり言って給料も
「ねぇねぇ、伊丹。なんか、前に出て来たよ?」
戦車の砲塔の上に胡坐をかいて座っている魔王様が、そんな事を言ってきたので前を向くと、確かに三騎の馬が前に出てきている。なんか、偉そうだ。
「あ~あれでしょう。ほら、昔の戦争では最初に舌戦を行ったそうですから。ほら、アルスラーン戦記とかであった」
「お~アレか! よ~し、ボクも行こう! やっぱり、あ~ちゃんで行ったらいいかな?」
「ちょっ、アジ=ダハーカは不味いですって。アレ、ダメージ受けると汚染がやばすぎるんで止めてください」
「ちぇ~。じゃあ、戦車でいいや。出発進行~」
「そのまま行くんですか!」
「うん♪」
「せめて、馬でいきません?」
「馬か~。じゃあ、リリアナ、馬になってよ」
「はっ」
「それも駄目ですって! 大将! 大将なんですから威厳がいりますって!」
「え~あ~ちゃんが駄目なのに……」
「アンタ、ピポグリフでもグリフォンでも呼び出せるでしょうが……」
「うん、出せるよ」
「おい、貴様。マスターに向って無礼だぞ」
「あ~すいません。でも、一応許可は出ているんで」
「うん。全然いいよ。よし、こうしよう。歩いていこう! ピクニックだ!」
うわぁ、ナチュラルにえげつない選択を選びやがった。しかも、そのままてててと歩いていく。巫女さんが慌ててついていった。苦労してそうだ。
少しして、相手方は馬の上から声をかけてきた。降りもしないので、隣の騎士さんからの殺気が半端ない。女神様は気にせずゲームしている。
「我は帝国軍、第二師団長ギレーヌ・ゾラスである!」
偉そうに現地の言葉で宣言している。そう、現地の言葉で。俺は話相手の言葉から他言語を短期間で習得する千の言語という魔術を込められたアイテムを貰って、勉強した。お蔭で色んな言語がペラペラだ。今回、特地に派遣される奴は全員がこのアイテムで勉強している。
「ここは我が領地である。大人しく降伏すれば命までは取らぬ。そちらの美しい娘は奴隷として可愛がってやろう」
あっ、これは死んだな。相手の言葉に巫女さんがアストに抱き着いている。相手はにやにやしているが、これって必死に巫女さんが止めているんだよな。
「どう思いますか?」
「興味ない」
「祐里が現状で相手を殺すはマナー違反であろうから、マスターを止めているのだろう。さもなければ既に死んでいる」
「でしょうねえ……」
改めて視線を向ける。しかし、直ぐに裾が引っ張られた。
「これ、わからない」
「ここはこっちの仕掛けを動かして、聖杯に水を入れて……」
「わかった」
少し教えるだけでどんどん解いていく。というか、知恵の女神なんだから、わかると思うのだが……。
「昨日、散々犯されて力を奪われた。だるくてぼーとする」
「そ、そうですか……」
ナチュラルに心の中を読んでくる。流石は女神様。
「今日はどちらかというと、メディの方が強いようですね」
「確か、娘さんと女神様が一つになっているんでしたっけ」
「ええ。だからこそ、時たまどちらかに入れ替わるのです」
こんな話をしていると、向こうでも変化があった。
「何か、せ~だいに勘違いしているようだけど、君達にできるのは降伏して死ぬか、何も出来ずに虐殺されるか、自害して詫びるか、餌になるかだよ」
「貴様っ!」
「旦那様っ!」
「王様に無礼を働いたら、当然、極刑が当たり前だよ」
「王だと!?」
「ボクが君達が愚かにも侵攻して来た国の支配者だ」
「このような餓鬼が……」
「ほら、さっさとそのていのーな頭で選んでよ。ボクは可愛い妻達とイチャイチャするのに忙しいんだ。あっ、お勧めは自害だよ。ボク達も無駄な力を蛆虫ごときに使わなくて済むし」
「ふざけるなっ!後悔させてくれる!」
男が去っていく。王様はこっちに不思議そうな顔をして戻ってきた。
「なんでかな~?慈悲をたっぷりあげたのに、断られちゃった」
「当たり前ですよ」
「え~。って、どうしよう!」
「どうしたんです?」
「選んでもらうの忘れてた!」
「いや、選ばないですって」
「じゃあ、仕方ない。ダイスでき~めよっと」
六面ダイスを握るアスト。
「自害を減らして、1から3だね4、5、6は全部! えい♪」
楽しそうにダイスを振るが、明らかに死しかない上に全部の確率が高い。ダイスは当然……4,5,6が出ると思ったら2が出た。
「2ですね」
「何も出来ずにか~。よし、全軍撃てっ!」
戦場全体に響く、不思議な声によって指示が出されると皆が砲撃を開始する。戦車砲や機関銃。ロケット弾まで容赦なく放たれる。
「伊丹、伊丹!」
「なんですか」
「人がゴミのようだよ! ゴミだけど!」
「ああ、そうですね」
けらけらと笑うアスト。
「マスター、先程の無礼な者の首を取って来てよろしいですか?」
「あ、駄目だよ。もっと苦しませるんだから。出来たら生かして捕らえて来て。磔にして曝してやるから♪」
「御意」
物騒な事を命令するアスト。命令された方は銃弾と砲弾の中を平気で突き進んで敵陣に突撃する。
「攻撃を止めますか?」
「いいよ、この程度じゃリリアナに傷一つつけられないしね」
「そうですね」
本当にこの連中はおかしい。その後、敵は一掃されてアストによってこの地に要塞が一瞬で築きあげられた。無数の大きな壁に囲まれた要塞だ。その周りにはアテナ様によって木々が生えさせられ、無数のフクロウが放たれた。この森に入れば絶対に死ぬ事間違いなしだ。そして、連中はその森の前に磔にされて曝された。