サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンこと、おじいちゃんの所まで乗り込んだボクは近くに居る祐理をこちらに引き寄せる。
「あ、あの……」
「怖い思いさせてごめんね。でも、もう大丈夫だよ」
「はっ、はい……んんっ!?」
祐理とキスした後、リーゼロッテに預けてボクはそのままおじいちゃんと対峙する。
「その小娘がそうか?」
「そうだよ。ギリシャから連れ去られた」
「ふむ。では貸し出して貰おうか」
「代価は? 王ならそれなりの物を差し出してくれないとね。まあ、渡す気はないけど、条件次第じゃ儀式を手伝ってもいい」
「ほう……」
「でも、今はもう一人のお客様を呼ぼうじゃないか。ねえ、サルバトーレ・ドニ」
ボクの声が響くと、柱の影から金髪の青年が出てこちらに歩いてくる。もう一人のカンピオーネ。剣狂いの戦闘狂。
「全く、招かれざる客が多い事だな」
「はっはっは、何を言ってるんだ爺様。神様と戦うのが僕達の役目だろう?」
「人の物をかすめ取るつもりか、貴様は」
「誰の物でもないよ、まだ現れていない神様はね」
言い合いだす二人は一触即発状態の二人を見ながらため息を吐く。流石は王様達だ。話し合いがなんて凶暴なんだろうか。周りの女の子達が恐怖で塊、失禁してる子まで居るじゃないか。
「はいはい、そこまでだよ。とりあえずさ、時間も無い事だから話し合おうよ。ボクからとっておきの提案があるからさ。二人にメリットがある提案だよ」
「ほう」
「それは気になるね。君もカンピオーネだろう?」
「そうだよ。という訳でおじいちゃん、お茶を出してよ」
「そうだね、客なんだから出してくれてもいいと思うよ」
「貴様ら……ちっ、内容次第で覚えておけよ」
死せる従僕に指示を出して円卓と椅子、お茶を用意させてくれた。おじいちゃんの後ろに死せる従僕がそのまま付き、ボクの後ろにはリーゼロッテが居て、そのさらに後ろに祐理とリリアナが居る。サルバトーレ・ドニの後ろには誰も居ない。まだ彼を支える人は居ないのだろう。
「さて、小娘よ話せ」
「ああ、ボクは男だよ」
「へぇ、それは驚いたね。ああ、知ってる人も居るみたいだけど、僕はサルバトーレ・ドニって言うんだ。よろしく」
「私は知っているだろう?」
「自己紹介は基本だよおじいちゃん」
「そうだね。自意識過剰じゃないかな? というか、僕は知らないしね」
「……無知な貴様らに教えてやる。私はサーシャ・デヤンスタール・ヴォバンだ。300年前からカンピオーネをしている」
「ひゅー、それは凄いね」
なにげに乗ってくれているけど、怒ってるね。まあ、さっさと要件を告げようかな。
「さて、場が程良く心地いい殺気が満ちてきた所でボクの自己紹介だね。ボクは万里谷アスト。アン……こほん。ポセイドンを殺してカンピオーネになった新米だよ。あと、もう一体殺してる」
「そうか、ポセイドンをな……」
「いやはや、殺した神様を教えるんなんて凄いね」
「ボクは基本的に隠し事ができないからね」
面白ければ直ぐにバラしちゃう。切り札は隠しておくけどね。特にもう一体のとか。
「それで、貴様からの提案は何だ? 儀式の時間も差し迫っている」
「そうだね。神様を逃したら大変だ」
「じゃあ、言うね~。ボクが提案するのはカンピオーネによる同盟だよ」
「同盟だと……」
「同盟ね」
二人は全然乗り気じゃない。まあ、そうだろうね。ボク達が群れる事なんてほぼ無いし。
「もちろん、メリットとデメリットがある。デメリットは簡単で、カンピオーネ同士が協力して戦うと相手の神様は従属神を呼び出して強くなる。だけど、パンドラのお母さん達が作り出した術式は一対一を前提にして作れらているので、権能の増加はありえない。そうだよね、おじいちゃん」
「ふん。確かにその通りだ」
「へぇ……それは知らなかったや」
これは改善して欲しい一つだね。まあ、こっちで勝手に利用させて貰うけどね。
「メリットはお互いに邪魔をしない事と、危なくなったら助けて貰えるかも知れない事。それと情報の共有だね。例えば神様が同時に2体も顕現したら一人じゃ辛いしね」
「弱いな。私は一人で問題無い」
「僕も色々と試してみたいからまだいいかな」
「ああ、これはついでだからね。さて、ここからだよ。ボクはリーゼロッテの協力の元、まつろわぬ神招来の儀式を完成させた。そして、同時に暗黒の生誕祭の術式を解析し……ふふふ。それを改造して多人数による戦いであっても権能を奪えるようになった」
「ちょっと待て貴様っ!?」
「ヒュー」
「ふははは、つまり協力できない最大の問題はボクがその場に居る事で解決できる。そして、同時に今、ボク達が居るこの結界……いや、世界、幻燈結界(ファンタズマゴリア)ではありとあらゆる破壊が現実世界では関係なくなる。各国には喜ばれるだろうね。展開できるリーゼロッテは基本的には空間転移ができるしね」
国家予算や魔術協会の予算、だいぶ減るんじゃないかな?
もちろん、お金を貰うけどさ。
「待てと言っている。そのまつろわぬ神招来の儀式の条件はなんだ?」
「簡単だよ。発動させる場所にある神話からランダムに選択するか、神具によるまつろわぬ神の選択も可能だよ」
降霊術を参考に神具にある神気と縁を利用して、特定のまつろわぬ神を呼び出す事が可能だ。
「使用する膨大な呪力もリーゼロッテが居れば問題無い。これがメリットだね。少なくとも1年に1回から月1で戦えるよ」
「素晴らしいな」
「そうだね、確かにそれは凄いメリットだね」
「だが、貴様一人で独占すればいいのではないか?」
「やだよめんどくさい。神具集めるの大変じゃん。それだったらボクは観戦しながら楽しませてもらうよ。楽して強くなれるしね」
「これは何か細工してあるね」
「てへ」
「大方私達が倒した神の権能を奪う時、一部を奪う気だな」
「正解。ボクは楽して権能が貰える。君達は神様と戦える」
権能は見ただけじゃコピーできない。元となるまつろわぬ神の神気がないからだ。なら、手に入れる時に一部貰えばいいんだ。
「それで、どうする?」
「ボクは別に構わないよ」
「私も構わんな。いいだろう、その同盟を受け入れよう。ただし、中での勝負は構わんだろう?」
「いいよ。復活する権能の数でなんラウンド戦うか決めて、幻燈結界(ファンタズマゴリア)の内部で戦えばいいよ。ようはゲームだね」
「確かにそうだね」
「暇つぶしができるならば構わん」
「じゃあ、早速儀式をやろうか。最初はサルバトーレのお兄さんからでいいかな?」
「ああ、いいよ」
「ふむ、まあ良かろう。見学してやる」
「じゃあ、2名様とその他もろもろ御案内~」
「はいはい」
ボクの声に従ってリーゼロッテが手を叩くと空間が代わり、広い場所に移動する。お兄さんはここには居ない。リーゼロッテもだ。
「じゃあ、皆様ご笑覧あれ!」
空に巨大な魔法陣が作成され、幻燈結界(ファンタズマゴリア)の中に巨大な神力が集まってくる。そしてそれはボク達以外誰も居ない街の中心に光の柱が立ち上り、まつろわぬ神が顕現された。
「来たのはジークフリートだね」
「中々の物だな」
「あっちの戦いが終わる前におじいちゃんも始められるけど、殺る?」
「ふん、殺るに決まっておろう。用意しろ」
「わかった。でも、初回だから無料でいいけど神具かお金を貰うからね。流石に準備が色々と要るからね」
「好きにしろ。神具など沢山あるわ」
「なら問題無いや。どれ召喚する?」
「バロールだ」
そう言って渡されたのは封印処理がされた魔眼だった。
「じゃあ、さっそくしようか。リーゼロッテ、おじいちゃんをお兄さんと反対側に飛ばして」
『はいはい』
ボクの目の前からおじいちゃんが消える。空間ごとカンピオーネに触れずに入れ替えて居る為にできる裏技みたいな物だ。
「さて、もう一丁神様をご招来ってね」
バロールをおじいちゃんの所に召喚する。ああ、楽して権能ゲットっていいよね。
「ズルっ子ね」
「っ!?」
後ろから抱きつかれて身体がビックリする。
「悪い子にはお仕置きしちゃうんだぞー?」
「母さんか」
「ママの方がいいかなー」
後ろから抱きついて来たのはパンドラだった。使った瞬間現れるとかないわー。って、これってもしかしなくてももしかするかも?
「さあ、お仕置きの時間よ。ママと楽しい遊びを元気よく楽しも!」
「ははは、やってやるよ!」
立ち上がったボクはパンドラと対峙する。でも、その前にやる事がある。
「リーゼロッテ、場所の移動を……いや、祐理達を幻燈結界(ファンタズマゴリア)から叩き出しておいて」
『了解。武運を祈るわ』
「ありがと」
「ふふ、準備できたかなー?」
「うん、いいよ」
ボクは魔槍を取り出して構える。相手は災厄の女神パンドラ。母にして危険な存在。
「じゃあ、皆さん楽しい楽しいパンドラボックスの時間だよー! 司会進行はいい子も悪い子も関係なくみんなに災厄を撒き散らかす神殺しのママ、パンドラちゃんですよー!」
空間が捻じ曲げられるようにママの手に金色の箱が出現する。いや、背後にももっと拓三ある。いや、それに咥えていつの間にかテレビのセットが出現している。
「今日のゲストは私の息子のズルっ子なイタズラっ子の万里谷アスト君でーす」
「どうも!」
とりあえず挨拶してみる。なんだか、遊んでるみたいだ。
「ではでは、逃げる事も隠れる事もできないパンドラちゃんのゲームスタートです!」
大量の箱が開いてギザギザした牙を持って飛びかかってくる。それを魔槍をひと振りして斬り殺す。それでも数が多いが、なんてことはない。前後左右、上下までミミックが襲いかかってくる。回避しながら軌道を予測して斬って斬って回る。
「ありゃりゃ、流石はアンラちんの魔槍だね。でもでも、まだまだ行くんだよ!」
ミミックの口から大量の砲塔が出現して光線が吐き出される。マジうざい。というか、何故か白菜が混ざっているのが何処ぞのゴパン番組を思い出させる。ママは笑っている。しかも、その白菜がなにげに強い。
「爆弾か!」
斬ると爆発してとても大変だ。巻き散らかされるのは災厄の病気。それも死病の類だ。
「どんどんいっくよー」
ママが手を振るごとに黒い塊が吐き出されて災厄が巻き散らかされる。本当に手がつけられない。
「我が前に立ちふさがりし者共を絶望に沈ませよ、アジ・ダハーカ!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■━━━━!!」
大量の呪力を使用して召喚したアジ・ダハーカが箱と厄災を纏めてブレス吐いて蹴散らす。
「あははやるね! じゃあ、こっちもいっくよー!」
掌をアジ・ダハーカに向けると、黒い奔流が溢れ出してアジ・ダハーカを飲み込んでいく。ボクは飛翔術で飛び上がって避ける。あの黒い奔流は災厄の塊のようでアジ・ダハーカを蝕んでいく。そして、名状しがたきものを解き放つがそれすらも飲み込んでいく。いや、それだけじゃない。
「アジ・ダハーカちゃんを材料にー3秒クッキングー! どんどんぱふぱふー」
「っ!?」
出来上がったのは巨大な黒いミミック。
「いっけえ、エンシェントミミック・パンドラちゃん号!」
100メートルはある巨大なエンシェントミミック。桁が違い過ぎる。これが神々によって作られた人類の災い。全ての贈り物の力。
「プレゼントだよ、受け取ってね!」
口の中から弾丸のように剣やらなんやらの武器が大量に飛び出して雨のように降り注がれる。しかしこれは非常に面倒だがある意味助かる。
「大地と海洋を支配する三叉の槍よ、我が願いを持って天地開闢の奇跡を起こせ」
「おぉ?」
大地を揺らす三叉の矛を使い、大規模な空間を指定してママごとエンシェントミミックを巨大な地割れを出現させる。そこに落として地割れを閉じる。そう、叩き潰してやる。そして、直ぐに槍を準備する。
「あぶなっ!?」
閉じる前に出て来た所を大地を揺らす三叉の矛の細かい能力で上空に作り出した巨大な石柱をママに向かって大量に降らせる。そう、東方の御柱のように。
「うひゃぁっ!?」
大地に突き刺さる石柱によってママを閉じ込めて囲いを作成して逃げられなくする。閉じ込められたママは一度黒い奔流を石柱に叩きつけてから、今度は飛び上がってこちらに向かってくる。それも黒い奔流を手から出して大地を腐らせながら急激に上昇してくる。こちらの呪力で破壊はできないと判断したんだろう。
「穿て、ディメンジョンエンド」
回避の場がない場所に魔槍に呪力を込めて絶対命中の技を発動して突撃する。
「やるねっ! でも、よけられないのはそっちもだよ!」
こちらに黒い奔流を放ってくる。でも、忘れてるようだけどさ、それも始原の暗黒を使えばどうとでもなる。全身を始原の暗黒を使って身を守って闇の奔流を超えてママが見えた。だが、嫌な予感が凄くする。
「ふふ、ぱっくりいっちぇふーちゃん!」
ママが手に持っていた箱をこちらに向けて開くとすごい吸引力が発生する。
「このまま封印されちゃうといいよ!」
「にゃろっ!? リーゼロッテ!」
『任せて』
瞬時にボクの視界が代わり、ママの背後へと現れる。
「またズルっ子だ!」
「勝てば官軍だよ!」
こちらへと振り変える途中のママに魔槍を突き刺す。英雄特性も全て使って徹底的に攻撃力を上げて放つ突きは狙い通り、腕もろとも破壊して持っていた箱に命中して砕く。
「やってくれるね!!」
「我が前に立ち塞がる全ての者に服従の洗礼を与え、その力を奪え」
「んぶっ!?」
ママ……パンドラにキスして体内に直接、始原の闇で作り出した言霊と術式を叩き込む。
「むぐぅぅぅぅぅっ!?」
ポカポカと暴れながら闇の奔流を吐き出すが、次第に動かなくなってボクの体内にパンドラの神力が入ってくる。これで権能ゲットだ。
「ぷふぁっ!? や、やってくれたわね! 今回は私の負けかー仕方無いなー」
身体が消えかかっているママ。神力を結構奪ったから当然だ。
「復活の権能あるしそれで蘇るからいいけど、現世に遊びに出られないじゃない……」
むすーとほっぺを膨らませて怒っている。こんなのがママだと思うとなんだかなと思う。もうパンドラでいいや。
「パンドラ、それでどうするの?」
「ママ。もしくは母さん」
「じゃあ、母さんで」
「まあ、別にどうもしないよ。好きにしたらいいよ。元から1対1でも届かない時があるし、そっちでやってくれるならそれはそれでいいから」
「ならなぜこんな事を?」
「楽しいから! 久しぶりに暴れられたし満足ね」
「そっか」
「それじゃあ、これからもがんばれー! えいえいおーだよ」
「わかった。バイバイ」
消えていく母さんを見送って、改めて外に出る。元の地域は地殻変動により、二つの大きなの地割れができており、中心はエンシェントミミックが母さんが消えた事により消滅し、巨大な空洞が出来た事により崩落を始めた。石柱の上に立って周りを見ると他も派手に暴れているようで僕音とか、細切れになっている宮殿とかが見える。これってまじでとんでもない予算が必要だな。
「あっ、勝ったみたいだね」
「そうみたいね。残るはサルバトーレだけね」
「お疲れ、リーゼロッテ」
「ええ」
隣に転移して来たリーゼロッテを労いながら、新たに増えた権能を確認する。パンドラとバロールの権能。大変美味しいです。