トイレから女が出てきた。
佐守の精気を吸い取ったサキュバスだ。
人間の姿に戻ったサキュバスは、足早に出口のドアに向かう。
次いで、皺だらけのミイラのような姿となった佐守が出てきた。
白目を剥き、酔っぱらったようにフラフラした足取りで歩いている。
佐守が、黒のボディコンを着た気の強そうな女にぶつかった。
「ちょっと、何すんのさ!! ラリってんの?」
女が鋭い口調で咎める。
佐守がそのまま、どこかに行こうとすると、女は肩を掴んだ。
「何とか言えよッ!! 言っとくけど、アタシの彼氏めっちゃ怖いんだから、覚悟しと……」
女の言葉が急に止まった。
佐守がナイフを女の額に突き刺したのだ。
それは、佐守がいつも持ち歩いているコンバットナイフだった。
傷口から鮮血と脳漿が噴き出す。
ナイフは頭蓋骨を突き破り、脳にまで到達していた。
女は血に染まった顔で、苦悶の表情を浮かべながら床に倒れた。
「きゃああああああああああああああああああッ!!」
刺された女の友達と思われる女が悲鳴を上げた。
その、悲鳴を合図にクラブ中が混沌の中に投げ込まれた。
慌てて逃げる者、恐怖のあまり立ち尽くす者、好奇心でスマホで惨状を撮影する者、フロアが悲鳴と怒号で埋め尽くされた。
「やはり人間じゃなかったか……あの金髪の女」
そう呟きながらカウンターにいた九郎が立ち上がった。
そんな中、一人の男が佐守に近づいた。
ドレッドヘアの人相の悪そうな男は、佐守と同じようにバトルジャケットを纏っている。
どうやら、佐守をリーダーとする不良グループ、RABIDのメンバーのようだ。
「おいっ!! 佐守さん、どうしちまったんだよ!? しっかりしてくれよ!」
ドレッドの男が佐守の両肩を掴みながら叫ぶ。
「近づくな! 彼は、すでに死んでいる!! 妖魔が死体を魔力で操ってるんだ」
九郎が叫んだ。
「佐守さんが死んでるってどういう事だよ!! っていうか誰だよ、お前は……」
ドレッドの男が語気を荒げる。
九朗の方に気を取られている隙に、佐守がドレッドの胸元に貫手突きを食らわせた。
その突きの威力は常人の者の力を遥かに凌駕していた。
指の先端が皮膚と筋肉を突き破り、内臓にまで潜り込む。
傷口から大量の血が噴き出す。
「ぎょぼわッ!!」
ドレッドは野生動物の鳴き声のような声を出すと、口から大量の血を吐き出した。
佐守はドレッドの胸部から血まみれの手を引き抜いた。
その手に握られたモノを見てドレッドは戦慄した。
「おっ!! おい、そいつは俺の……心臓じゃねえかあーーーーーーッ!!」
そう、佐守の手には心臓が握られていたのだ。
取り出されたばかりの心臓はまだドクドクと脈打っている。
「そっ……そんなのアリッ!? ぎょぼッ!!グゲゲゲゲゲェ!!!!」
ドレッドは口から鮮血を吐き出しながら床に倒れ、そのまま息絶えた。
九郎が、佐守に接近する。
「ぐおっ? グゥオオオオオーーーーーーーーーーッ!!!」
佐守が獣のようなうめき声を上げ九朗に襲い掛かる。
九郎は、左手を手刀にして、空を切った。
佐守の動きが急に止まった。
そして突然、首元に横一文字の傷口が現れ、血が噴き出した。
「グゴゴゴッ!! グボッ!?」
佐守は苦しみだし自らの首元に手を添えた。
すると、首が背後に傾き、背中をかすりながらゴロリと床に転げ落ちた。
「グゥオオオオオオオオオッ!!」
切り落とされても、佐守の首は凄まじい形相でうめき声を上げている。
そして、頭を失った体は首の断面から、噴水のように血を噴き出しながら暴れまわった。
九郎は佐守の胴体を蹴り飛ばした。
すると、バタリと倒れ動くのを止めた。
次に九郎は呻き声を上げ続ける佐守の首に近づいた。
「気の毒にな……安らかに眠ってくれ」
九郎は静かな声で呟き、床に膝を落とししゃがみ込んだ。
そして、左の拳を固く握ると佐守の頭に叩き込んだ。
頭蓋骨が砕け、血まみれの脳が床に飛び散った。
生ける生首はこれで完全に活動を停止した。