くちづけよわが狐と空賊は言った 空賊版 未編集ファイル 作:伊土 讃阿
覚醒したとき、ひどい頭痛がこめかみの裏側に巣食っていることに、ナリアは気が付いた。
寝過ぎというわけではなさそうだし、二日酔いという感覚もない。ただ、とてつもない疲労感が全身にこびりついており、それを頭痛と関連付けるのは至極当然のことだった。
――きのう、何かしたっけ?
霞がかった意識でぼんやりとそう考えつつ瞼を開くと、ナリアは自分の寝顔を覗き込んでいるものを発見した。
派手さはないが、整った顔立ちの狐態LMO――目を引く切れ長の紅い瞳。
そのLMOの腕枕で眠っていたナリアは、すべてを鮮明に想起していた。
――まひる、おねえちゃん。
相手が誰であるか意識した途端、腹の奥底に温かく湿っぽいものが広がるのがわかった。妙に気恥ずかしくなって、表情を隠すように、顔をまひるの豊満な乳房にうずめた。
鼻孔をバニラの香りが満たし、肺のなかを甘ったるくさせる。「……絶対、勝ったと思ったのに」
「NEMESISとか薬を使ったり、ナリアちゃんみたいなのはいっぱいいるから、そういう訓練は積んでるのよ」ナリアの髪を指で梳く。「まぁ、あんなにたっぷり普通のえっちさせてくれるのって久々だったから、おねえちゃんも乗っちゃったけど。昨日のは、人生で四二番目ぐらいには、気持ちよかったかな」
「四二番目かァ……」悔しげなナリアのため息に、まひるはおかしそうに笑った。「……でもどうして、あたしのこと、知ってたの。当時は報道規制かかってたし、経歴とか、家元に全部抹消されてたと思ったのに」
「外交官という立場を利用して同盟スフィアの領主の娘と不倫したあげくヤクで廃人にしちゃって、イナリ家から破門、爵位永久剥奪されてスフィア・マットーからも追放されたこととか?」
「ゔ……よくご存じで……。当時、パパがもみ消しにかなり奔走してたはずなんだけどなァ……」
「うちのスタッフは、とっても優秀なの。もっと危ないひとも狙ってくることもあるから、リサーチには特に気を配ってるのよ。それに――あっちこっちでちょっとした噂になってたしね。キャストのヒモになろうとする悪い狐ちゃんがいるって」
「……もしかして、ブログも知ってたりする?」ナリアはおそるおそる見上げる。
「実は会員だったりもするかしら」まひるはわずかに口角を釣り上げて見せた。「最近、何人かやめちゃって困ってたの。だから、いろいろと情報提供してあげたり、偽造屋を紹介してあげたりした、というわけ。まさか、某アイドルのお姉さんだったとは、CPを解析するまで思いもよらなかったけど」
「……はァ」
――なんだ、なにもかも、誘導、されてたんだ……。
種を明かされ、ナリアの胸中を占めていた思いは、諦念と――安堵だった。
どうしようもなく、手を出した相手が悪かったのだ。今しがた、軽くまひるから聞いた話や、ゆうひと呼ばれたセクサロイドの存在だけでも、相当な数の連邦法をないがしろにしていることが察せられる。自分のような遊び好きの小悪党とはわけが違う。おそらく本物の空賊がバックにいる。
――ていうかむしろ、まひるおねえちゃん自体……いや、考えるのやめよ。
逃れられる道理は、きっとない。ないからこそ、かえって諦めがつき、むしろその背景の大きさを最大限に利用して、恩恵にあずかってやろう――そういうしたたかさが、ナリアにはあった。
――結果的にまひるおねえちゃんともまたえっちできるのは変わんないし、ま、いつものよーに、なるようになるでしょ!
もっとも、ナリア自身は楽観主義なのだと認識していたが、それがまぎれもなくただの破滅型思考であるということは疑問の余地もなかったのだが。
「……まひるおねえちゃん、あたし、お客さんとらされるの?」
「最初はとりあえず訓練ね。これから一週間は、えっちなことで失神と覚醒を繰り返して発狂するのがお仕事かな。ここで廃人になると、問答無用でセクサロイドにするから頑張ってね」
ナリアは視線を逸らせた。「う……怖くなってきたんですけど」太ももを擦り合わせた。「や、やっぱ、あたし――あんっ♥」不意に股ぐらに伸びてきたまひるの手に、ナリアは高い声を上げた。
「むらむらしてきたの間違いじゃなくて?」
「や……っ♥ ぁ……っ♥」久しく外気にすら触れてなかったインタポーザの接合痕を妖しく指先でくすぐられ、ナリアは尻をくねらせる。一晩で身体に染みついた甘美な体験が蘇りはじめていた。
まひるはナリアの耳朶をかじった。「ジェネレータ持ちは貴重だから、うんとハードなこともされちゃうけど……おねえちゃんのためにたっぷり稼いでね、あざみちゃん♥」
「ぅ……はい♥」
「うふっ♥ じゃあ、おねえちゃんの、ここに――」
終わりです