Target:"1" 作:ニョ
チャムリー卿の目には、確かに問わず語りの失墜した科学者が映っていた。熟練のハンターにとって、アーカビルなど些末な存在であったのだが、ひとつの疑問がそれを阻む。
「Dr.アーカビル、その未知の物質はいつ採取したのだ」
物怖じせず尋ねる語調には、逞しさと名声が感じられる。対照的に、汚らしい歯を剥いて答えるアーカビルの表情には、老人らしい癇癖な陰湿さがあった。
「これはな……手にしたわしでさえ俄かに信じがたいのだが、トランスフォーマーとはまた別の、鋼鉄の肌をした異星人の贈り物なのだよ」
「……何?」
揺らめく火を眺めたまま、孤独の科学者は内奥を吐露する。そこにいるチャムリーという老獪な同胞を置き去りにして。
「彼らはわしの科学力を宇宙クラスに昇華するための踏み台なのだ……あのアシュラのような、タコ足のエイリアンを利用してわしは再び……ブツブツ」
チャムリー卿は、久しぶりに他者を哀れむ気持ちを思い出していた。
*
「うえ~~~~~ん」
「うおー……またハデにやったなイチ。へへ」
オレはインキ臭ェマンションの3階から、手摺りの陰でイチを盗み見ていた。階段を降りるのに間に合ってよかったぜ。
「そもそもイチ、お前が悪いんだぞ。お前が聞かん坊でオレは困ったよ」
肉塊になった三郎を前にして、イチは踵を返す。夢中になっていたとは言え、トランスフォーマーが背後に落下してきたらそりゃ気にもなる。
「今のイチには声かけらんねェしな……とにかく様子見だな」
オレは、電流に侵された挙句路上に横たわる図体のでかいスタースクリームに目を移す。
*
イチへの魔酔から醒めたと自覚する垣原は、蹌踉と立ち上がろうとするスタースクリームの足元に歩み寄った。
金子は組長の無言と目前の巨人に困惑したが、とりあえずトカレフを構えるのはやめなかった。その照準はどこに向かっているのかは本人も知らない。
「おい、オマエ、デストロンだよな。クレムジークを作りやがったのも確かテメエらだったよな」
スタースクリームは柔らかく、金属の頬を顰めた。各回路の著しい故障で、彼の電子の意識は朦朧としている。
「め、メガトロン、様……助けて……」
「メガトロン? デストロンのリーダーの名前か?」
垣原は慣れない名称に少しだけ苛ついたが、現前の玩具に注意を集中した。
「よくわからねェが──オレはこのチビ怪獣のせいで、」
「! お、お前までクレムジークを」
「顔に泥を塗られたんでな。オトシマエ、つけてもらうゾ」
人間の手によって改良されたクレムジークは、容易に垣原の手に収まっていた。……垣原は、東京にこの『チビ怪獣』が襲来した時の凶事を回顧していた。
「13年前……テメエらがこんなモノさえ持ち込まなければなぁ~~」
彼の回顧、否、反芻はその精彩を欠かなかった。安生がテレビ番組に影響され、垣原に電気椅子によるプレイを余興として強要していた丁度その時に、クレムジークは日本にやってきた。
「楽しみにしてたんだよ俺は。二週間もガマンしたんだぜ。勃ちっぱなしでナニが腐っちまうかと思ったが……」
垣原は腕を天に伸ばす。その掌の中には、従順な電撃が迸る。
「……テメエらのせいで、よおッ!」
スタースクリームの頭部目掛けて、弾ける黄色のそれは投じられた。航空参謀の彼は、ついに死というものが自分の認識に這入り込んでくるのを悟る。
「ウ、ワアアアアアアッッ!!」
「目ン玉割るよりも、コイツらにはこっちのが効くんだな……」
再び、その翼は路面を打った。垣原はその一対の主翼を、邪魔くさいので切除したいと考えたが、現実的ではないと心の奥底で断じる。
「ウウ、ア……く、き、き、」
それよりも、垣原の黒い瞳は、このデストロンの一員の向こう側に、殺し屋が血塗れになって立ち尽くしているのを見逃さなかった。
「やっぱりな……三郎の声がしないと思ったが……」
「き、き──きしょう…………」
他方、スタースクリームは自分でも驚くほど情けない慟哭を洩らしていた。
つづく……
ウルトラマグナスほんと好き(無関係)