Target:"1" 作:ニョ
剥き出しになったロボット生命体の断面から、オイルと冷却水が散る。地に落ちた翼をイチは踏む。
「ヒッグ……エッ……エッ……」
金子は、自分が色を失った相貌をしているだろうと仮説を立てた。秘めた情実と現実が争っている証左であった。
──今からアイツを、城石を撃つ。
「早くしろ。金子」
「!」
弟分の『城石』に対して、エラステースとして在るよりも、鉄砲玉の矜持を択んだ金子は吶喊をあげる。
「うわああああっ!!」
歯を食いしばった。頬を顰めた。太い眉を険しくし、目を細めた。
そこまで、したのに。
「え? えっ? あっ……」
そこに憐憫すべき鉄砲玉の姿があった。何度トリガーに触れても、銃口はトカレフ弾を射出しない。手順にミスはないはずだ、と敷衍して訴えるみたいにして金子はむなしく動作を繰り返したが、自動拳銃は応じなかった。
「た、弾詰まり……」
「あ、ああ~~っ。また僕を撃とうとしてる~~っ!! この~~~」
対峙するイチには、モデルガンを携えた同級生にイジめられた過去──妄想──が絡みついていた。金子の震える手に収まる7.62mm口径のそれが、彼を睨んだからである。
ジジイの慧眼は、どんなに離れていてもイチの心境を見逃さなかった。
「これは確実にイったな」
空気が暴れる感覚を与えられた金子は、それを緊張感による心身の異常だと判断していた。
「な……」
「バカーーッ!!!」
言うが早いか、若いヤクザの命は過去になった。生き物だった金子という名の肉塊は、スタースクリームと同じように体液を撒き散らしながら道端に転がる。
「お、スゲ……」
垣原の黒い股間は、その昂りと比例して怒張している。カウパー液がズボンをより黒くした。そんな興奮の坩堝のなか、彼は奇妙な冷静さを頭の片隅に保っていた。
イチへの期待と失望を繰り返し、最終的に垣原は因習的な己の教義を見直さなくてはならなくなった。
「やっと来ちまったか。受け容れてやるよ、イチ……」
武者震いしながら、垣原は誰よりも真っ直ぐにイチに視線を注ぐ。
──俺は絶望を求めていたんじゃない。『絶望に希望を持っていた』んだ。
「エグ、エグ……エッ……」
イチという絶望に、垣原は一度は失望していた。しかし、絶望に失望するというのは誤謬であるのに違いない。
「イチ。オマエも裏切られたんだろ。そのブザマな感情は、何かに失望しきったカオだ。でもな」
告解室にいる聖職者であるかのように、垣原は訥々と語る。語りながら、ニードルをイチ目掛けてヒュン、と投擲する。
「い、いだあああああ~~~っ!!」
右肩に刺さった鉄針を掴み、イチは苦痛に喘いだ。しかし、悶えながら明瞭な追憶が脳内でなされていた。
『城石マンション建築計画を開始いたしま~~~す』
『や、やだよ……シャー芯なんて刺さないでよ』
『あぁ? テメエ被虐ぶってんじゃねーゾ、オラッ』
『まずはビス打ちだな。一発目行きまーす』
『いっ──!』
腕から指先へと滴る流血を眺め、金子を殺して発散されたイチのストレスが再び限界に達した。
「ブッ殺してやる!!!」
刃を仕込んだ踵を深い夜空に掲げ、頭を引き数メートル跳躍しながら、イチは精密に、確実に『滝原君』にフォーカスをあてる。
理不尽、不条理、悪運、偶然、……必然。垣原は至高の経験に包まれ、イチの『無知なる暴力』が、相互性を消失させているのだと漸く判断する。
それは、愛憎の有無、美醜の有無といった課題を難なく消化してしまっていた。
「わあああああああっ!!!」
宿命論を超えて、イチは必ず果たす。彼に条件というものはない。
「イチ、テメエは最高の──」
垣原は意識を失う寸前、真の絶望こそ、飽き足りた日常にあったのだと悟った。
*
ラチェットによって機械の身体を修復されたバンブルは、サイバトロン基地を懐かしんだ。
「なんだかオイラ、気の遠くなる時間、ニッポンにいた気がするよ」
「おおげさな。さて、リペアは済んだが異常はないかね? そろそろ君の見てきたものを報告してもらいたいものだが」
軍医の静かな声色には、その最奥にニヒルを感じさせる。仲間たちはその声を耳にし、センサーを研ぎ澄ました。
「そうだぜバンブル。一体何があったってのさ。ハウンドが心配していたが」
アイアンハイドが促すと、バンブルは益々気弱にならないでもなかったが、状況としては告白をより求められている。
「ああ……気持ちに整理がつかなくてね。さっきまではうまく話せなかったけど。……オイラ、ニッポンのとある男の子に嫌われちゃってね。友達になれそうだったんだけど、オイラのせいで……なんていうか、彼、おかしくなってしまったんだ」
サイバトロンたちは首を傾げた。ラチェットは腕を組み、アイアンハイドは頭を掻き、シルバーボルトは目を逸らした。誰もが、黄色くて無害な彼を傷つけた人間について知りたいのだ。
「それで、君は彼に攻撃をされたってワケかい?」
途中から司令室に入って来たインフェルノが水を注す。
「そうじゃないんだ。彼は何も悪くなくて、オイラの怪我は重要じゃないんだ。ただ、危険な人間もいるってのはわかったけどね。でも、」
一拍置いて、注目を集めてバンブルは懺悔する。
「ひょっとしたら、オイラあの男の子の人生を壊しちゃったのかも」
つづく……
自転車が二週間に一回はダメになるんですけど……