Target:"1" 作:ニョ
ケースの奥のテレビから、玩具の喧伝がけたたましく響く。展示品のそれは、大音量で『ビーストウォーズ』の名を叫ぶ。バンブルはそれをちらと見、目の前の地球人二人と話題を共有しようとした。友好を示すために。
「……ア! ねえ観てアレ。あのオモチャ、ボクたちの仲間なんだ。って言っても、あのプラスチックの彼らは、ボクたちが持ってる『契約の書』って本を元にしたキャラクターで──」
「そんな事ぁ聞いちゃいねェ。オマエ、トランスフォーマーなんだろ? 日本の失踪事件はオマエらが一枚噛んでるって噂だゾ」
垣原はポケットに手を突っ込んだまま、胸を張って話す。声色は単に煙草の匂いに噎せているような穏やかさだが、肚裡にある機械生命体に対する釈然としない気持ちを押し殺していた。
三郎は小さい巨人に心底興味を持っていないようだが、垣原は毅然とした態度でバンブルの足元まで歩いた。
「それは多分、デストロンの仕業さ。安心して! オイラは正義のサイバトロンだよ!」
「…………」
バンブルが姿勢を低くし機械仕掛けの親指を立てると、その親指の関節部に鉄製のニードルがメコリと音を立てて差し込まれる。……『ピアスのマー坊』の手によって。
「あ、あ痛ててえっ!」
「ほーお。痛みは分かるんだな、コイツ……」
裂けた口角を上げながら、感心しているような、或いは合点がいったかのような首肯きをする。垣原の瞳には、苦悶の表情を浮かべる機械生命体の顔が映り、ひとつの疑問が生まれる。
──なぜロボットに痛覚が要る?
「オ、オイ……なんだよアレ」
「トランスフォーマーと、ヤクザか?」
他方、聴衆はより殷賑を強めた。あまりにも光景は好奇にあった。これが料理なら、舌鼓を打つ者が続出したに違いない。
「なにするのさ! ヒドイなぁもう!」
「あんまりオレたちを舐めんじゃねーぞ。テメエ、我が物顔でジュクを歩くんじゃねーよ」
垣原は吸血鬼みたく歯を剥き、蛇のように口を開き見せつける。そこへ眉の太い男が駆けてきた。
「
痩身の彼がそう報告すると、垣原はまた目の色を変える。
「本当か!?」
「はい……新宿御苑に入って行くのを、藤原と目撃しました。それから、」
「この時間に……?」
「西北西の方角へと、トランスフォーマーと思われる戦闘機らしきものが御苑から発進するのも見ました」
「!?」
垣原は反射的に背後を振り向く。バンブルは居心地悪そうにして、親指を眺める。衆愚は野次馬を辞めず、気が付いたら動きづらい環境になっていた。だが、ここから西北西に位置する長野に、反トランスフォーマー組織があるとの情報を忘れてはいなかった。
「ジジイ~~~~~~~~」
ジジイは、垣原が憎むには十二分の要素を携えていた。しかし垣原はジジイの真意も、ジジイがトランスフォーマーと協力関係なわけではない事実も、知る由がない。
「オイ、テメエバンブルとか言ったな」
「そ、そうだけど」
「乗せろ。オマエどうせ飛んでった戦闘機を知ってるんだろ」
「知ってると思うけど、民間人を巻き込むのはさすがにちょっとなぁ」
垣原は低く舌打ちし、煮え切らない表情でいる三郎を視界に入れる。それに感づいた三郎は、細い目を少し開く。
「三郎、」
言うが早いか、三郎の腕は短刀の鞘を引き、体は弾丸のように跳躍した。
「わっ──」
空間を断つ音と共に、炸裂音がこだました。
「退屈させんじゃねえゾ……このデカブツがよぉ」
三郎は歯を食いしばり怒りを噛み殺しながら、この時を待っていたのだ。バンブルは刹那ののち、自分の足部の異常を察知する。
「アアッ! オイラのタイヤが!!」
タイヤは切り刻まれ、交換を余儀なくされたのは誰の目から見ても明らかだ。
「三郎テメエ~~~~、まだヤっていいとは言ってねーだろ。何勘違いしてやがんだ、オイ」
「スンマセン、アニキ。でもこいつ、鬱陶しかったんで……」
「……気持ちはわかるが、オマエももうガキじゃねェんだ、大人しくする事を覚えろ」
少しは気が晴れたのか、三郎は腰の低い剽軽な口調で諂う。
「スンマセン」
「ったく。これじゃ乗れないだろうが……」
バンブルは、小さいとばかり思っていた人間の『超人性』を垣間見、初めて友好の懸け橋に亀裂を感じた。
「オイラ、ちょっと後悔してる、かも……」
つづく……
契約の書って、なんかビーストウォーズで結構いきなり出てきましたよね。