Target:"1" 作:ニョ
オートリペアが効いてきたらしく、オレのメモリーは徐々に忌々しい記憶を取り戻したみてえだ。一時期手を結んだアーカビルと、それとチャムリーの二人にしてやられてたんだったな。
クソ、メガトロンの奴が一部の極東アジアと密約を結んでからロクでもねえ事ばっかりだぜ。こんな小さい島国への先遣隊だと? オレのする任務じゃねえや。
しかもあの肉ケラ共に捕らえられて、こんな奴に助けられる羽目になるなんてな……畜生っ!
「おい人間! ここにチャムリーの野郎がいるってのは本当だろうなア?」
空は暗闇に満ちているが、目下の都市は明るいようだった。このシンジュクの明暗はセイバートロン星に似ているが、あまりにも騒々しい場所だぜ。
「はい。そこのマンションの……そう、正面のビルにいるはずです。そこの屋上へ一旦碇を下ろすとしましょう」
オレがサンダークラッカーだったら、『ヒューズがトんじまいそうだぜ』とでも呟いているんだろうな。今に見てろ人間め、貴様ら全員このオレ様の奴隷にしてくれる……!
*
バンブルは人寰を身軽に走り抜けた。ビークルモードが失われてもなお、勇気と速度は衰えなかった。そんな彼の腕に抱かれながら、イチは泣きじゃくっていた。
「うっ、うえっぐ、ひぐ」
「大丈夫? 名前はなんていうんだい? あ、オイラはバンブルっていうんだ。正義のサイバトロンだよ」
半ば拘引する形でこの赤子の顔をした青年を連れてきてしまったが、情報員に後悔はなかった。尤も、己に命ぜられた任務については少々焦りを覚えていたようだが。
「う、うん……あ、僕、バンブルの事知ってるよ……」
「! 本当かい?」
「小学生の時、オモチャ持ってたから」
城石一という青年は、歪んた体験の連続が原因となって過去を忘却させられていた。その健忘──解離性健忘の渦に腕を突っ込んだのはバンブルの存在であった。
「バンブル君、を見てたら、昔の……小さい時の気持ちを思い出したような、気が、」
呼吸を乱しながら、イチは着実に失われた記憶が自身のトラウマであるのを感じる。
「あっ…………やめてよ、スタースクリームが、あ…………」
「えっ? 今なんて──」
記憶が齎そうとしているのは、『殺し屋』の彼であった。『イチ』は通常の青年としての発達に、再び失敗する。
*
『オーイ城石。オマエ、学校にバンブル持ってきてるんだろ? 知ってるぜ』
『あっ、吉岡君。あ、これは、バンブルが居ると落ち着くから……』
『いけないんだゾ。学校にトランスフォーマー持ってきちゃ……あ、見っけ』
『! や、やめてよ、僕のバンブルだぞっ』
『オレ、サイバトロン嫌いなんだよ。やっぱりデストロンのスタースクリームだよな。ホラ』
『か、返してよ……! ねえ! こないだ買ってもらったばっかりなんだから』
『おらっ。スタースクリーム様のナルビームだっ! ドゥクシドゥクシ! どうだ参ったかバンブル! バキッバキッ!』
『あ……ああ~~っ』
『あ、ヤベ……バンブルの腕、折っちまった。オ、オレ知らねーっ!』
*
鋼鉄の巨人の腕のなかで、殺し屋の瞳孔は開かれた。同時に、涙と鼻水が滝みたく口の周りに垂れる。
「ワッ……どうしたの? そんなに泣いてばっかりいて、」
「泣いてないもん!!!!」
「!」
バンブルは驚きのあまり転んでしまった。手放されたイチは道路にごろごろと投げ出されたが、スッと立ち上がり、その威勢とは対照的に、冷静に『クツ』を履いた。
「ご、ごめんね。オイラ驚いちゃって。ケガはない? もうだいぶ遠くまで逃げたと思うけど」
「ヒドイよ……吉岡君……うえっ……どうして……ひくっ……バンブルを、返してよ……」
イチは虚空を見つめていた。路面に彼の体液が滴る。バンブルは、自分が彼を譴責してしまったのかと思ったが、その様子を見るや考えを改めた。そして、自分には判断がつかないという結論に帰着した。
「ね、ねえどうしたの? 痛かったかな?」
だから尋ねる他なかった。しかし、今の城石一は、現実の世界を認識していない。
「バンブルも……なんで……吉岡君なんかに、盗られたの……僕のそばにいてよ、裏切らないでよ……うっ、ひっぐ」
なぜなら、完全に『殺し屋』と化した城石一は、腐った現実のみを見ていたのだから。
「やっつけてやる。ひっぐ」
つづく……
久しぶりに読み返してたら急に書く気分になったので投稿です
カップヌードル食べたい