Target:"1" 作:ニョ
「死ねえええッ!」
「!」
このクソガキに『オレ』が殺されたのかと思うと腸が煮えくり返る。……いや、一郎を殺った時から、オリジナルにならねーといけなかったんだ。今に始まった話じゃねェ。
「わ──何するんだよっ」
イチはこのオレのドスを事もなげに躱しやがった。クソッ、ナメやがって……! 不服だが、コイツの躊躇いのない身のこなしは間違いなく達人じゃ利かねえ。筋肉量も相応なものの、それ以上の潜在があるに違いねェ。
「テメェさえいなければ!! テメェさえ、」
「もォ~~~~~うるさいなぁ~~~~~」
奴は踵を誇らしげにオレの頭頂目掛けて掲げた。隙を晒したな。
「勝ったッ」
こうなったらコイツのチンコごと脚を両断して──
「え?」
視界が一瞬で潰え、最後に目にしたイチの柱のような脚が脳裡に焼き付いた。少し遅れて、空気が破裂したみたいな音がオレの鼓膜を何度も打つ。
「あ……?」
「オマエのせいでバンブルがいなくなっちゃったじゃないかぁ!!! このお邪魔虫!!」
幼い罵声を浴びせられ、オレの意識は薄くなっていく。
*
コンビニの前でサイバトロンの偵察員が、小刀を持った男の頭部が真横にみじん切りにされるのを目撃した。
「もうこちらの追跡は諦めたようだぜ、あの『殺し屋』は」
店内の照明が鈍い色のアスファルトと、そこにいるもう一人のトランスフォーマーに光沢を与える。
「ハァ、助かったよハウンド。君にホログラムを作り出す力がなかったら今頃オイラ、」
「あぁリサイクルできないくらい、加工されてしまったろうな。だが驚いたよ。人間たちは一体いつから脚を武器にし始めたんだ」
「さぁね。オイラにもサッパリだ。それより、なんでこっちの位置がわかったのさ」
バンブルが眼をさすり、センサーの異常をまた確かめる。狂乱したイチの標的が偽の自分に入れ替わらなかったら、リペアは不可能だったろう。
ハウンドはそんな負傷した彼を気遣うよう、また殺し屋に見つからないように小さく優しい声で話す。
「俺の自慢のセンサーで嗅ぎつけた、って所さ。どうもこの国じゃハナが効きにくいが──ああ、それと君から定時連絡がなかったのと、それとちょっとした問題が発覚したんだ」
「ああ、すっかり忘れてたや……それより問題って?」
コンビニの店員が物珍しそうに視線を送ったが、当の彼らは気にも留めない。
「EDCの情報が漏洩した。デストロンの仕業か、反トランスフォーマーの連中の仕業かは分からないが、もしかすると俺たちの通信も傍受されていると判断して現地に来たのさ。とにかく、作戦は中止」
作戦を第三者に知られてはいけなかった。バンブルの排気のニオイ程度なら追えるであろう彼の抜擢は自然なものだった。
「そりゃ大変だ! 定時連絡の催促が来なかったのもそれが理由だったんだな」
「ハッハッハッ! それでもバンブルはズボラだって事に変わりはないがね。さて、エアーボット部隊がトウキョウ湾に来ている、護送されながら土産話をしてくれよ」
「オッケー、分かった。トランスフォーム!」
日本では少々目立つ深緑のジープとドイツ製の小型自動車は、傍目に異様さをばら撒きながら帰還の路へと発進した。
「それにしても、すごい光景だったなぁ。あのカタナの使い手が音速に近いなら、あのヒットマンの脚と反射速度は亜光速の領域に迫っていたぜ」
*
アーカビルの臨時研究所では、クレムジークの鎮圧に成功したらしい二人の影が土壁に作られていた。
「まったく、天才科学者がこの体たらくか。絶縁体くらい用意すべきだろうに」
大きな白髭と夥しい皺、そして鷹のように鋭い目を持つ老人がそう洩らす。アーカビルの客人に向ける目は厳しくも、しかし悔しげでもあった。
「いちいち小言を吐くなこの老いぼれ! 貴様は黙って人間の女を攫えばよいのだ!」
科学者の鋼鉄の手には、クレムジークが収まっていた。
「フン、まあよい。しかしDr.アーカビルよ、なぜ人間の雌が必要か? 吾輩のハンティングテクノロジーはそんな些末な事のために──」
「貴様には到底理解できぬわ。……この未知のエネルギー、アンゴルモアには物質を増殖させたり、再生成させるような働きがあるのだ。それ以外にもポテンシャルを秘めている、それも、相当邪悪に──オホン。本来、トランスフォーマー共でもモルモットにしてやりたい所だが、万が一があっては対策ができぬ。奴らは力が強いのでな」
「それで? あの連中におびえて人間の、それも女を択んだ、と?」
ハンターの目を光らせ、チャムリー卿は飽きた感情を言葉に添えた。
「バカめ。理由はそれだけではないわ。数か月前、グンマで攫った女にアンゴルモアエネルギーを注入したら変異を起こしたのだ。これは他の生き物にはない反応だったのでな。だから、この間はシンジュクという地域の若い女を仕入れたのだよ。これで同じ結果が出れば……フフフ」
やがてチャムリー卿は、熱っぽく語るアーカビルを前にしながら、自分のポリシーについて考えるのを優先した。
つづく……
スーパーのお弁当が半額だったのでたらふく食いました。