尋常ならざる威圧感を放つ魔神柱オセの名乗りを耳にした私は、その強大な魔力を肌で感じ取ると共に息を飲んだ。
一目見て強者だとわかるこの敵との戦いに援護もなく、戦闘能力もない淫霊として臨まなければならないという絶望的な状況に眩暈を覚える私であったが、先の彼の言葉にちょっとした引っ掛かりを覚えてもいた。
時間稼ぎも兼ねてその疑問をオセへとぶつけることにした私は、出来る限り平静を装った強気な口調で彼へと声をかける。
「魔神柱オセ、あなたが何者であるかなんてことは聞かないわ。多分、私には想像も出来ないような厄介で面倒な裏の事情があるんでしょうからね。ただ、あなたがさっき口にした、私と共にアルカトラズ刑務所の番人になるっていうのはどういう意味? 悪いけど私には、そんなつもりは一切ないわよ」
【理解している。それについても説明はしよう。だが、その前に――】
「きゃっ!?」
ぎょろりと、オセの全身についている無数の目玉が再び私を見やる。
その瞬間、自由を失った私の体が十字架に磔にされたような格好になり、宙へと浮かび始めたではないか。
「な、なに!? 何をしたの!?」
【
「うっっ……!!」
磔の格好のまま宙に浮いた私の体が、反転した後にオセの体へと押し付けられる。
お尻から背中、そして後頭部がお世辞にも美しいとはいえない魔神柱の体に触れた瞬間、私の体がずぶりと軽くその内部へと潜り始めていった。
(これは……吸収しているの!? 私の霊基を……!?)
この状況に直面した私が真っ先に考えたのはそれだった。
オセは私の霊基を体内に取り込み、吸収しようとしているのではないか? という可能性に至った私であったが――
【否定、我は貴様を取り込もうとはしていない。我らは1つとなるのだ、宮本武蔵よ】
「……!?」
口には出していないその考えをオセに否定された私は、思いもしなかった事態に目を見開いて驚愕した。
私が彼の考えを読み取ろうとしたように、彼もまた私の思考を読み取り、ブラフを仕掛けたのか……と考える私へとオセが続けて言う。
【それも否定だ。何度も述べているように、我々は1つの存在になりつつある。故に、我は貴様の思考を読み取れるのだ】
「……どういうこと?」
どうやら、事はそう単純なものではないらしい。
頭の中を覗いたかのように私の考えていることを当ててみせたオセに対して詳しい事情を求めた私は、ここは待ちの一択だと自分に言い聞かせる。
状況がわからないことには動きようがない。まずは私の身に何が起きているのかを理解することが先決だ……と判断した私が拳を握り締める中、オセが私の知りたかったことを解説し始めた。
【我は性杯の魔力を用いたジェームス・A・ジョンストンの『アルカトラズを絶対の法の要塞としたい』という願いによって呼び寄せられた。その願いを叶える方法として、性杯は我をアルカトラズ刑務所と融合させた状態で呼び寄せたのである。そして、更に我とジェームス・A・ジョンストンと共にこのアルカトラズを守護する使い魔としての存在に貴様を選んだのだ、宮本武蔵よ】
「言っている意味が、よくわからないわね……! それがどうしてこの状況に繋がっているのよ?」
【確かに一言では言い表せない難解な状況だ。では、こう言えばどうだろう? 我々は今、アルカトラズ刑務所そのものと融合している……どうだ?】
「それは……ちょっと待って、やっとわかってきたかも……!!」
ここまでの話を全て総括して、ようやく状況が飲み込めてきた。
とても難しく、厄介な事情ではあるが……RPGの迷宮で例えれば少しはわかりやすくなるかもしれない。
簡単に例えるならば、アルカトラズ刑務所がダンジョン。オセはそのボス兼ダンジョンマスター。そして私がダンジョンに生息する魔物だ。
オセはアルカトラズ刑務所の秩序を守る者として、ダンジョンの中に足を踏み入れた勇者こと囚人を管理する。その手助けをする存在として、私というなの使い魔が存在しているということなのだろう。
アルカトラズ刑務所と一体化したオセには、その内部にあるものを自由に操れる能力があるのかもしれない。
だが、恐らくは何もかもを完璧に支配し、操ることというのは出来ないのだろう。
どうしたって細やかな見落としが出てしまったり、手の届かない部分が出現する。
そういった時に出番を与えられるのが、使い魔こと雑用係の私というわけだ。
【そういうことだ。元々、ジェームス・A・ジョンストンは性杯に大量の魔力を注ぎ込み、もっと広範囲に影響を及ぼす状態で私を召喚しようとしたが……その目論見は貴様のせいで叶わなくなってしまった。恐らくこれは、貴様への復讐も兼ねているのだろうな】
「アルカトラズを脱走しようとした私を、囚人たちを取り締まる側の存在として利用することで、留飲を下げようとしてるってことね……まったく、いい趣味してるわ……!」
【……ジェームス・A・ジョンストンの願いは、完全に潰えたわけではない。再びこのアルカトラズにて魔力を溜め込み、我らを成長させることによって、その効果範囲は徐々に増大していくだろう。我が手足として作り出された貴様の分身体をアルカトラズ内に配置し、囚人たちの管理をさせる。もっとも、それを行うのは貴様と我が融合し、完全に1つになってからだ。今はまだ感覚や浅い部分の思考の共有程度で済んでいるが、じきに貴様の意識は融けてなくなり、我と一体化するだろう】
「ぐっ、くぅ……っ!!」
こうして話している間にも、私の体はオセの肉体へと沈み続けている。
このまま彼の体内に完全に取り込まれてしまえば、彼が言う通りの顛末を迎えることになるのだろうと……そう、自分の末路を想像する私へと、オセが無機質な声で言う。
【楽になれ、宮本武蔵。我らは1つとなりて、このアルカトラズ刑務所の番人として君臨する。そして、人類史の歯車を大きく狂わせる要因となるのだ】