これはマズい。実にマズい状況だ。
このままでは性杯を回収どころか、魔神柱オセの一部として人類史の破滅に携わる大悪党になってしまう。
どうにかしてこの危機を乗り越えたいところなのだが……残念なことに、今の私にはその手段が全く思い浮かばないでいる。
謎の強制力によって体は動かないし、当然ながら武器はないし、この空間に味方はいないし……助かる手立てが何一つとして見当たらないではないか。
【その通りだ。故に、貴様には我と同化する以外の道はない。諦めろ、そして楽になれ】
こっちの思考を読まれるというほぼほぼ詰みな悪条件も追加。これもう本当にどうすりゃいいってのよ?
オセの言うには、既に彼と私は大半の思考や感覚を共有しているわけで、その状況で一発逆転の策を思い付いたとしても、向こうがそれに対してなんの手立てを打たないわけがないではないか。
つまりは、この状況から私が脱するためには、この動かない体で誰の手も借りずにオセが対抗策を打つことが出来ない完璧な作戦を彼と同化するまでに思い付く必要があるわけで……そんなの無理に決まってるじゃん! って感じだ。
っていうか、ここまで必死に頑張って性杯を回収する一歩手前まできたってのに、最後の最後で魔神柱だなんて馬鹿げた敵を呼び出すなんてズルでしょ!?
なによ、アルカトラズ刑務所と一体化した上で、私とも同化するって? そんなことが出来る奴に対抗するだなんて、そんなの無理に決まって――
(……あれ? 待てよ……確かさっき、オセは――)
――それは正しく、天啓だった。
ここまでのオセとの会話で得た情報が私の頭の中を駆け巡り、その中で特に重要だと思わしき部分がピックアップされるかのように大きな声となって響き渡る。
【我々は今、アルカトラズ刑務所そのものと融合している……】
【我が手足として作り出された貴様の分身体をアルカトラズ内に配置し、囚人たちの管理をさせる……】
【今はまだ感覚や浅い部分の思考の共有程度で済んでいるが、じきに貴様の意識は融けてなくなり、我と一体化するだろう】
「………」
それらの情報とオセの能力。それだけならば、きっとどうすることも出来なかった。
だが、だが……そこにとある要素を加えることが出来れば、逆転の一手が生み出せる。
僅かに胸の奥が滾り始めたことを感じながら、深く息を吸って、吐いた私は、その考えが実現可能であるかどうかを確かめるためにオセへと質問を投げかけた。
「……ねえ、ちょっと聞いてもいい? 今、私たちって、もう半分近く融合しちゃってるのよね? 私の考えてることとか、感じてるものが、あなたにも伝わってくる状況なんでしょう?」
【肯定。我々の同化は進んでいる。そう時間を置かずして、我々は1つの存在へと生まれ変わるだろう】
「そうなった後、あなたは私の分身を多数生み出して、アルカトラズ刑務所の管理にあたらせるつもりなのよね? 今、それをしない理由は、私に抵抗されるからってことであってる?」
【肯定。今現在、生み出した分身体の意思はそのベースとなった者のそれが優先される。我の魔力を利用すれば、大量の宮本武蔵の分身が用意出来るが、魔神柱である我自身の分身を生み出すことはまだ不可能。故に、同化が進んでいない今現在の状況で貴様の分身を作り出すわけにはいかない】
「ふ~ん、なるほどねぇ……」
【……行動予測。次に貴様は、我の能力を利用してアルカトラズ刑務所に多数の自身の分身を生み出そうとする。しかし、無意味だ。我との同化が進んでいる以上、その行動意思には我の思考も反映される。多数の分身でジェームス・A・ジョンストンを襲おうとしても無意味であるし、仮にそれが叶ったとしても最早奴の手に性杯はない。この状況を覆すことは、不可能】
「わかってる、わかってる! 私がこの窮地を脱するためには、あなたと融合する前にあなたをどうにかしなきゃいけないんでしょう?」
【肯定。だが、それはそんな手段を用いても不可能だ。ここまで進んでしまえば、どんな英霊でも脱出は不可能。そう結論が出ている】
……ああ、危ないところだった。ホント、
私が元の
だが、しかし……彼らは大事なことを忘れている。
今の私は剣士の英霊ではない。
先に挙げた要素と、今の私自身の力を組み合わせれば、この状況を脱する一発逆転の作戦が実行出来る。
本当に馬鹿げていて、下らなくて、人に聞かせれば唖然とされる手段だろうが、今の私にはこれしかない。
生きるために、勝つために、やることをやる……覚悟を決めた私はにんまりとした笑みを浮かべると、オセへと不敵な声で言った。
「先に言っておくわよ、オセ。怨むんなら、私じゃなくてジェームス所長を恨んでよね?」
【……? 何を考えている? 抵抗は無意、グオオオッッ!?】
私に訝し気な問いを投げかけていたオセの声が、唐突に悲鳴に変わった。
呻きとも、悶えとも取れるその声を耳にした私は、自分の策が上手くいっていることに浮かべていた笑みを強める。
【み、宮本武蔵、貴様……何をしたっ!?】
「ふ、ふふふ……♡♡♡ 何って、決まってるじゃない♡ 私がやれることなんて、たった1つだけよ♡」
不敵に、大胆に、熱に浮かれた声でオセに答えながら、私は微笑む。
そうして瞳を閉じた私は、ここではない別の場所へと意識を飛ばし、そこで行われている決戦の様子を探り始めた。
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
――同時刻、アルカトラズ刑務所内。
性杯を用いて最後の足掻きを見せたジェームス所長を制圧、拘束し、姿が見えなくなった武蔵を探していた囚人たちは、信じられないものを目にしていた。
それは自分たちの住処である独房の壁であったり、小便器の中であったり、あるいは食堂や運動場や娯楽室といった刑務所内のありとあらゆる場所に唐突に出現し、それを発見した者たちを大いに驚かせている。
丸々と肥えた柔らかく大きな2つの山脈と、その割れ目に鎮座する淫靡な雌の穴。
ぱっくりと開いている性器からは甘い匂いと共に愛液がどろどろと溢れ、もう1つの穴である肛門は卑猥にひくひくと蠢き続けている。
看守たちも、囚人たちも、もう幾度となく目にして、抱いて、弄んできたそれがなんであるかは理解していた。
自分たちの欲望を受け止め、発散する手助けをしてくれる大きな桃のようなそれに刻まれた数字が、その考えを肯定してくれている。
自分たちの性処理役として、淫猥な役目をずっと担ってきた彼女が持つ囚人番号と同じ634の数字……ずっと見続けてきた、見ない日はなかった、そんな既視感を超えた確信を覚えると共に彼らは同じような結論に至る。
これは、アルカトラズ刑務所内の壁に至る所から生えているこれの正体は……囚人番号634番、淫霊宮本武蔵の尻だ、と……。