放課後の屋上。
日が沈みかけて茜色の陽光が辺りをぼんやりと照らしている。
そして一人、立つ少年。
俺、池守智一は今人生において最大の瞬間を迎えようとしている。
俺は幼馴染である秋山達郎。
その姉である秋山凜子が好きだ!
長い間一緒に過ごしてきて、清廉潔白で優しい性格が好きなのである。
そして俺自身も手ごたえを感じている。
先日だって一緒に達郎へのプレゼントを買いに行ったりと一緒に出掛けている。
嫌いな奴とオフで出かけるわけないのできっと脈ありだ!
笑顔とか向けてくれるし!!
というわけで2つ日間かえてなんとか勇気を出して、呼び出しの手紙を靴箱に置いたのだ。
彼女のファンクラブなるものが存在しており、ラブレターなどは凜子姉の目に入る前に処分されるらしいが.....
どうだろうか....?
所定の時間まで秒刻みになる。
すると目の前のドアノブが動き、ドアが開く。
「待たせた....おや、どうして智一がここにいる?」
凜子姉は俺を視認するとこちらに歩み寄り、笑顔で首を傾げる。
よしっ!やっぱり対応が柔らかいし、脈があるな!!
これでダメだったら死んでもいいと言えるくらいの確信が俺の中で渦巻いている。
「その手紙を置いたの、俺なんだ凜子姉。俺、伝えたいことがあって.....。」
今から告白する。
それを思うと息が上がる。
胸の心拍数が一気に上がって、苦しくなる。
「伝えたいこと.....?」
凜子姉は不思議そうな表情で俺を見つめる。
胸が痛み、言葉が上手く出ない。
しかし、言わなくては!!
弟分みたいな扱いを受けるからこそ、弟分から卒業して恋人になるんだ!
勇気を振り絞れ!智和!!
「お、俺、俺ッ!凜子姉のことが好きだ!!俺と....付き合ってくれ!!」
言った。
遂に言った。
自分の思いを言葉にした。
告白したのだ。
「え、えぇ!す、好きって...付き合ってくれって.......」
見ると凜子はどことなく戸惑っているように見える。
当然だ。
いきなり呼び出されて弟分からこのような告白を受けたのだから。
しかしどこかまんざらでもないように感じるぞ!
どことなく頬とか赤い気がするし、目が泳いでるし!!
これは....これはいけるんじゃないか!?
悪いな問川。
達郎に続いて俺も非リアから一抜けだ.....。
これからは一人で深夜アニメとエロゲを嗜んでくれよな!!
これからの生活と捨ててしまう友人のことを思い浮かべて早くも悦に浸る。
そして凜子姉はゆっくりと口を開く。
いいぞ.....来い!
次の瞬間が....俺の幸せ絶頂の瞬間だッ!!!
祝え!!!
「すまない....智一。君とは付き合えない。幼馴染のお前になら良いか.....実は私、弟の達郎が好きなんだ。」
伏し目がちで照れながらも凜子姉はそういう言った。
弟が好きだと.....?
そんな弟が居るアイドルや声優が言いそうな言葉では誤魔化されないゾ!!
「そんな冗談....」
「冗談じゃ...ない!私は本当に異性として達郎を愛してるんだ!!!」
冗談と言ったとたん今までの和やかな感じはどこへやら。
凄い勢いで詰め寄ってくる。
....うん、多分冗談じゃないわ。
顔が恋する乙女そのものだもの。
えー、えっとぉなに?じゃあワイが好きになった人はそういう近親願望ありの人だったってこと。
てかまた達郎かよ。
お前ゆきかぜと付き合ってるんじゃねぇのかよ。
「気持ち...悪いよな......すまない。急にこんなこと言い出して。」
凜子姉は苦笑する。
しかしその目はどこか諦観を湛えていた。
俺は慌てて言葉を紡ぐ。
「い、いや!お兄ちゃんでも愛さえあれば関係ないよねとかあるし、弟が相手でもおかしいことじゃないですよ!俺、応援します!!」
いやおかしいことだろ。
近親の....しかも彼女持ちを好きだと言っているんだぞ。
「ほ、本当か......?」
「はい!あっ.....でもゆきかぜと付き合ってましたよね。達郎。どうするんですか?」
秋山達郎とゆきかぜは付き合っている。
となると凜子姉は叶わない恋をしているということになるのだ。
凜子姉はゆきかぜを応援していたからな。
だからこそ俺に鞍替えしてくれよな~頼むよ~
「そ、その.....ゆきかぜはほら。許してくれるだろうっていうか......」
照れ笑いでとんでもないことを言い出したぞ。コイツ。
許してくれるわけないだろ。どんだけチョロいと思われてんだよアイツ。
俺が凜子姉の発言に引いていると彼女は腕時計を見た。
「!すまない。私はこれから用がある。....告白ありがとう。嬉しかったよ。」
そしてその言葉だけを残して、屋上を出てしまった。
俺はフラれたのだ。
しかも弟に負けて。
....あれ、目の前が歪んで.........。
胸がさっきとは違った感じで痛い。
俺のめのまえはまっくらになった。
とある一軒家の一室。
薄暗く、フィギュアが所せましと並んでいる部屋。
その部屋の主に俺は抱き着いた。
「デブえもぉぉ~~ん!!!俺、凜子姉に振られちゃったよ~~~!!!!!」
「あの~人がエロゲやっている時に後ろから抱き着くのやめてほしいでぶ。こちとらエロゲで抜こうとしているのに野郎に抱き着かれたら抜こうにも抜けないんだが。」
デブは抱き着いて泣いている俺を見ても、ただ自慰が出来ないことの不満を述べる。
このデブは問川毅。
俺の友人だ。
「良いから聞けやぁぁぁ!!フラれ....凜子姉にフラれ.........」
「可哀想だけどさ、残当じゃね?凜子氏はヒエラルキーが高くて、僕らは腐れオタクじゃないか。天と地ほどの差がありますねぇ!その差を幼馴染くらいの要素で埋められるわけがないから多少はね?」
哀れみの目を向けながらも、慰めることはない問川。
この野郎、まだエロゲのこと考えてやがんな......
「しかも!フラれた理由が弟が異性として好きだからだぞ!冗談かと思ったらマジっぽいし、応援するって言っちゃったわ!!」
「ウッソだろおいwwwww冗談でしょwwwwwwww」
半笑いで俺の言葉を聞く問川。
しかし俺が暫く黙って奴を見つめると問川は段々と笑いが小さくなっていき、そして......
「マジ?」
「マジだ。ゆきかぜなら許してくれるとか言ってた。」
すると驚いているのか問川は椅子の背もたれに身を預ける。
「はえ~....メッチャびっくりした。これファンクラブの人が知ったら発狂するんじゃね?レズ疑惑立っているし。」
「えっ、そんな疑惑立ってるの?」
「うん。ほらいつもゆきかぜ氏と一緒にいるじゃん。」
....あ、確かに。
だから女子から熱い目線を向けられているのか。
それにしても......。
「よくよく考えたら一緒にデートしたから脈ありって思ってたけど....俺って達郎が喜ぶプレゼント買う為に連れてこられてた.....?」
「うはっwwめっちゃカワイソスwwwww」
俺は泣き崩れて膝を付く。
そんな俺を見て流石にこのままにしておくわけにはいかないと思ったのか。
問川は溜息を吐くと俺の肩に手を置く。
きたねぇ....。
「まぁ....正直残当としか言えないけど.......まぁドンマイ!」
「ドンマイじゃねぇよ....俺も幼馴染だったのに.....あんなに一緒だったのに......いつのまにか3人で....いづれ3pとかやりだすんだ!死ねよ!!」
「なんかSEEDの歌詞みたいでぶね。」
馬鹿な事言いやがってぶっ〇すぞ。
「まぁ....正直、おっぱいが狙いだったんでしょ?確か達郎がゆきかぜと付き合ったって聞いてから見る目が変わったように僕には見えたンゴwww」
「は、はぁ....?そんなわけないんだが?ただそもそも女二人と男一人が居るからまるでギャルゲの主人公みたいだな俺って思っただけだし!達郎がゆきかぜに行ったから凜子姉ルートかぁ!って思っただけだし!!」
正直、図星をつかれた。
俺自身、ゆきかぜも好きだったのは事実だ。
あの子なんか怖いけどお尻デカいし、エロいのは事実なんだよなぁ.....
まぁでも?達郎が行ったから凛子姉に行ったわけじゃないよ。
人柄に惹かれたからだ本当だよ?
「実際はただのモブだったわけですね。わかります。」
デブは一人で納得してやがる。
あー、もう俺これからどう暮らしていけばいいんだよ!
正直、幼馴染の姉が弟の事好きとか弟にも顔合わせづらいわ!!
「....とりあえず忘れたら?一緒にガンダムやりましょうぞ。」
そう言ってゲーム機をタンスから出してくる問川。
....どうやら彼は彼なりに俺を励まそうとしているようだ。
俺は服で目元の涙を拭って、鼻をティッシュで噛むと頷く。
「覚悟しろよ....今日の俺は阿修羅すら凌駕する存在だ........」
俺がそう言うと、問川はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「面白い....見せてみろ....お前の可能性を!!」
そうして俺と問川はゲームに打ち込んだ。
正直俺はゲームは下手なので問川に普通に負けまくったのだが、何回か勝つことが出来たのが嬉しかった。
家から帰宅しろとメールが来た。
時刻を見るとかなり経っている。
「あっ、俺もう帰らないといけないわ。」
「はえ~もうちょっとギッチョンしたかったんですがそれは.....」
「格闘機で人虐めんのやめろ。」
問川に文句を言いつつ、学生鞄を手に取る。
そして部屋を出る前に振り返った。
「....今日はありがとな。お前のおかげで気を持ち直した。」
そう言うと、問川はしたり顔になる。
「ふふっ.....お礼ならセアブラマシマシラードギトギト肉マシもやしマシで頼みますぞ。」
「なんだそのこの世の終わりみたいな食べ物は.....。じゃあな、また明日な。」
そう言って部屋を出て、母親に長期間居たことを詫びて問川家を出る。
問川の家は普通の一軒家だ。
そして俺の家もそう。
ゆきかぜのような大きな屋敷でもなければ、凜子姉みたいに家柄が良いわけでもない。
平々凡々。
あのデブの言葉を借りればモブキャラだ。
幼馴染だというだけで付き合いがあったんだ。
冷静になって考えてみればそもそも望みなんてなかったのかもな。
問川との対戦で気が落ち着いた俺は暗い夜道を歩いている。
虫の音が心地よく、風は俺の頬を撫でる。
よく考えてみれば最近は幼馴染とはいえ、達郎とはあまり話す機会もなくなっていっていた。
それは彼に彼女が出来たの要因の一つであるが、どちらかと言えば俺が話しづらかった。
アイツは温厚で誰にでも優しい。
それがまぶしかった的な感じだ。
それが原因で問川と俺、達郎に分かれてしまった。
そもそも問川は達郎のことは友達の友達と言っていて、俺の幼馴染で俺がよく話すから話していたような物らしい。
ある日一度言われたことがある。
『達郎氏って正直陽キャじゃね?』
それは俺も思う。
確かに気弱だが、イケてる部類に入ってる彼と俺らでは次元が違うのだ。
だって実の姉ですら堕とすような奴だよ?
どこのギャルゲ、エロゲ主人公だよ。
ドン引きだわ。
たらたらとそんなことを思いながら歩いていると、目の前で一人の人がこちらに向かって歩いてくるのが見える。
誰だろう?
目を凝らすとそこには俺の幼馴染の一人、水城ゆきかぜがであった。
そして近くまで来ると俺に訝し気に俺を見る。
「...何見てんの?」
「いや、向こうから人が来たから誰だろうと思って。」
「ふーん。」
それだけ言うと、俺の横を通り過ぎている。
なんだコイツ。
見てるだけで怪しまれてもコッチは困るんですがそれは.....
ゆきかぜからは昔から侮蔑されている気がする。
とにかく馬が合わないのだ。
....まぁとにもかくにも家に早く帰らないと。
俺が駆け出そうとしたその時、
「ねぇアンタ。」
後ろから声を掛けられる。
振り返るとゆきかぜが立ち止まっていた。
なんだ?
見るとゆきかぜはなんだか神妙な顔をしていた。
「もし私達に何かあったら...達郎の事、頼んだわ。」
「は?何が?」
「...ハァ。何でもない。」
呆れ顔で溜息を吐くと、そのまま歩いて行った。
なんだったんだ?
....まぁ考えていても仕方がないか。
とにかく早く家に帰らないと....マッマに叱られちゃう!!
俺はゆきかぜが急に言い出した意味不明な言葉を頭の隅に置いて、家へと駆けだした。
朝、ギラギラと輝く太陽が出始め、周囲はゆっくりと温まっている。
今日も元気が良いなぁ.....クソみてぇな朝だよ。
フラれて泣いて、一日経つと急に気怠さが身体を支配した。
正直家で寝ていたい。
学校に行くと達郎や凜子にも会わないといけないと思うと気まずくて足が進まない。
それに凜子とゆきかぜは切っても離れぬくらいの仲の良さだ。
もし話が伝わっていればあのメスガキ、人のことを馬鹿にするに違いない。
はっきりと口に出して煽って来るならまだいい。
アイツが俺を馬鹿にするときは遠巻きから鼻で笑うのだ。
クッソ腹立つぞアレ。
ゆきかぜは可愛いのに俺に対しての態度は心イタイイタイなんだから......あーあ、どうにかしてゆきかぜのワイへの態度をやさしくて気持ちいものにしてもらえないかな~、ん?
達郎が歩いているのが見える。
彼はどこか誇らしげな表情である。
そしてなによりも目に付くのはゆきかぜも姉である凜子も連れていないことだ。
本来なら話しかけてなぜ二人が居ないのか聞くのもやぶさかではない。
でも今日は達郎と話したくない。
だから見なかった振りして一人で登校した。
教室に入ると、窓際に腰かけて鞄を置く。
そして問川の方へ行く。
すると問川は俺を見ると手を挙げる。
「おはようでござる。良い朝ですな。」
「そうだな。お前の中ではな。」
俺がそう言うと問川は呆れた顔で俺を見る。
「まだ引き摺ってるん?」
「まだ?一日で立ち直れる奴とか人間じゃねぇだろ。」
「それもそうですな。ま、僕はイリヤタソのバニーフィギュア手に入るから元気なんだけどwwww」
「またケツに入れるのか?」
「あんなの邪道でござるよ!!しないでぶ!!!」
コイツ俺がキツイのに楽しそうにしやがって......フィギュアぶっ壊してやろうか。
俺と問川が二人で下らない話をしているとふと、女生徒の会話が耳に入る。
「えっ、凜子先輩暫く会えないの~」
「そーなの。なんか水城さんと一緒に任務なんだって。」
「私達と同じ学生なのにもう任務なんてやっぱ凜子お姉さま憧れちゃうな~。水城さんも強いし。」
「既に二人とも異名があるからね。やっぱ期待されてるだけあるよね~」
任務?二人がか。
だから今日達郎は一人で登校していたのか。
しかしまだ学生の身分であるにも関わらず任務を任されるだなんて早すぎる気がするが....。
次世代の対魔忍のエースなのだから当たり前か。
凛子姉は逸刀流の使い手で空遁が使える。
そしてゆきかぜは雷遁が凄い。
.....あれ?改めて確認すると滅茶苦茶強くね?
やっぱり俺みたいなモブとは根本からして違うんすねぇ~。
幼馴染であること自体奇跡みたいな物に感じて来たゾ。
「よかったですなww会わずに済んで。」
問川が笑いながら肩を叩く。
まぁ俺自身問川の言う通り会うの気まずかったし、任務に救われたか。
「まったくだ。助かったよ。」
その言葉と共に、予鈴が鳴ったので俺は席に着いた。
しかしどんな任務なのだろう。
そして凜子姉は何をしているのだろうか。
フラれたというにも関わらず女生徒の話を聞いてから、俺はそれが一番気にかかっていた。
とある巨大な水路。
その前に二人の少女と一人の醜悪な男が居た。
二人は凜子とゆきかぜ。
任務でヨミハラへと潜入しようとしているのだ。
「この先にヨミハラが.....」
「本当でしょうね?嘘だったら.....」
暗くて先が見えない水路を見つめる凜子と傍にいる男に睨みを利かすゆきかぜ。
男はおどおどとした様子で頷く。
「う、嘘なんてとんでもない!俺だって命が惜しい!こんな状況で嘘なんかつきませんぜ!」
そう言う男を見てそれもそうかと納得する。
この男、奴隷商人のゾクトは小物だ。
私達に歯向かうほどの器量もない。
だからこそこの男を潜入捜査に利用するのだから。
「それでは...行くぞ。」
凜子とゆきかぜが足を一歩進めたその時、男は必死で止める。
「待った!待った!まさかそのまま行くつもりじゃねぇでしょうねぇ!?」
「なによ。なにかまずいの?」
ゆきかぜが聞くと、ゾクトは溜息を吐く。
「失礼、お二人とも普通に歩いていやすが、これからヨミハラで売りさばこうっていう奴隷がなんの拘束もなく歩いてちゃおかしいと思いやせんか?」
ゾクトがそう言うと、二人は考え込む。
確かに自分は娼婦の振りをしては潜入する為、奴隷のように装わなければいけない。
確かにゾクトの言う事は一理ある。
「それもそうね。」
「だが...我々にはその奴隷に相応しい拘束がなにか分からないぞ。」
二人が言うとゾクトは媚びへつらった仕草でへり下る。
「そうでしょう、そうでしょうよぉ!ですからその点、俺はそのことに関するプロ、俺に協力させてくだせぇ!」
「分かったわ。」
「頼んだ。」
餅は餅屋と言ったようにその道のプロの協力があった方がバレる可能性は低くなるだろう。
その点、ゾクトは奴隷商人。
奴隷に対する拘束などではこの場で彼以上に精通している物はいまい。
二人はゾクトの言葉に甘えて、彼に任せることにしたのだ。
そして.....しばらくした後、二人はゾクトの手によって奴隷に相応しい姿に拘束されていた。
「じゃあ俺が誘導するんで待っていてくだせぇねぇ....」
そう言うゾクトの口元には歪んだ笑みが浮かんでいた。