井川アサギなど教職員にゆきかぜと凛子の現状を報告しにいった二人。
もはや陽は沈み、夜になっていた。
虫の鳴き声が辺りを鳴り響いている。
二人の足取りはどこか重い。
「....よかったでござるな。救助隊組んでもらえるみたいで。」
「あれもいつになるかわかったもんじゃないけどな。」
問川は汗だくではぁはぁと荒い息遣いで歩いていて、一方智一はどこかの自販機で買ったのか炭酸飲料を飲みながら歩ている。
二人はどこか暗い顔で夜道をとぼとぼと歩いていた。
当然だ。
ゆきかぜや凛子の現状が分かったのは映像によるもの。
それも未成年が見てはいけないような部類の物であり、加えて深層ウェブから適当に探し出した物だ。
注意がない訳がない。
二人の家に当然連絡が行っている。
叱られることは間違いないのだ。
家に帰りたくない。
それにアサギは忙しいと言った理由で紫先生に伝える形になった。
そして時間がかかるかもしれないが、と前置きがあったのだ。
時間が経てば経つほど調教は進んでいく。
そう考えるともどかしく思う。
すると問川が声を出す。
「そういえば達郎氏が不登校だから様子を見てくるように言われてましたな。どうする?」
問川の言葉を聞いて暫く考え込むと智一は溜息を吐いて、
「どうせ家に帰りたくないんだし、先に済ませるか。行こうぜ。」
「そうでござるな。....もしかしたらエロゲ全部壊されてるかも.....、軽くグロ画像なんだが。」
問川は帰ってきた時の自分のコレクションの惨状を想像して軽く嗚咽しつつ賛同する。
正直俺も憂鬱だ。
そういう意味では少しでも外に入れるなら引きこもりの調査くらいなんでもしてやるよ。
もしかしたら凛子さんのパンティーとかあるかも.....。
いや別に深い意味はない。取ろうとか思ってない。
そんなこと思っている奴が居たら人間の屑だってそれ一番言われてるからな。
そう思いつつ、秋山家に歩みを進めていく。
インターフォンを鳴らす。
....反応がない。
まだ父親が帰っていないのだろうか?
「いやでも達郎は居るはずだしな。」
「引きこもりは外と接触を持たないから引きこもりなんですぞ。そりゃあインターフォンに反応するわけないwww」
確かにそれもそうか。
しかし困ったなぁ。
そうなるとこのまま家に直帰しなくてはいけなくなる。
少しでも時間を稼ぎたい。
すると上から光と共に微かに音が聞こえるのが分かる。
人の声だ。
上を見ると窓が開いていた。
「.....あそこから入るってのはどうだ?」
「あそこ?....えっマジ?侵入になるんだけど。」
問川が俺の発言に半歩退く。
だが正直登れない壁でもない。
昇ろうと思えば登れるものだ。
「マジだぞ。俺が冗談なんて言ったことないよなぁ?」
「普通にあるんですがそれは......」
「ねぇんだ。ない。」
空気読めやデブが。
心の中でそう悪態吐きつつ、家の壁に手を掛ける。
「拙者知らないでござるよ!拙者は悪くないでござる。」
「薄情だなお前。まぁいいやそれでも。」
壁を上る。
ちょいちょい窪みがあるので普通の壁よりも昇りやすい!!
窓の近くまで来ると外に漏れていた音がはっきりと聞こえるようになる。
『あっ♡あんっ♡りゃ、りゃめっぇ!!こんな、大きいのはいら....ほぎょぉ♡♡』
AVじゃねぇか。
あの野郎AVなんか見やがって。
彼女持ちがAVなんか見てんじゃねぇよォ!!!(暴論)
「何引きこもってAV見てんだオォン!!??焼き入れてやるから来いオラ!!」
「えっ、うわあああああ!!!!」
窓を勢いよく開ける。
達郎は驚いたのかPCごとひっくり返る。
そしてPCのモニターが見えた。
そこには男たちに好き放題嬲られている凛子とゆきかぜ。
「....ッ!!ち、違う!これは俺じゃなくて!!」
「.....なんでお前がその映像を持っているんだ。」
「.....えっ?」
その映像はちょうど自分がさっきまで問川に見せられていた動画と同じだった。
◇
「お茶......」
「あっ、ありがとナス!いやー暑かったからお茶上手いですなぁ~」
二人はリビングにて達郎にお茶を出されていた。
あの後、事情を説明した智一は中に問川を入れるように要求し、達郎もそれを了承した。
達郎は目元に深い隈が出来ていて、何日間か風呂に入っていないのかどこか臭いもきつく、目が死んでいた。
まぁ当然だ。
彼女のSNSから彼女が嬲られている映像のURLが送られているんだから。
「.....さ、災難でしたな。お気の毒に思いますぞ達郎氏。」
問川はどこか気を遣っている。
しかし達郎は答えることはない。
そんな達郎を見兼ねて智一は口を開いた。
「まぁ救助隊が出るみたいだし、そこまで落ち込まなくても今生の別れってわけでもないだろ。.....まぁ遅くなればなるほどゆきかぜや凛子姉の調教は進んでいくだろうが。」
「ちょっ、おまっ空気嫁www頭湧いてるんか!!一言余計じゃい!!」
隣に座る問川が俺の発言を咎める。
すると達郎が口を開く。
「あんなゆきかぜの顔....初めてだったんだ。」
「そりゃあんな物みたいに扱うことなんか彼氏だったらないしな。当然だろ。」
「そういう話じゃない希ガス。」
智一の発言に呆れたようにジト目を向ける問川。
そして達郎は頭を抱える。
「僕の彼女が、姉が物みたいに扱われていて......それで僕は興奮してるんだ。僕は.....。」
達郎の言葉を聞いて智一は達郎に詰め寄る。
「はぁ!?お前もしかして凛子さんがやられてるの見て興奮したんか!!?実の姉やぞお前ェ!!!」
詰め寄る智一に対して冷めた目で達郎は見て口を開いた。
「いや姉さんは単純に可哀想だなって。ゆきかぜが抜けた。抜けてしまった。」
「あっそうなんだ。」
(....よかったぁ。)
達郎が凛子に発情しているわけではないと言う事を知って安心する智一。
そんな智一に相も変わらずジト目を向ける問川。
(達郎氏が凛子氏に気がなくても達郎氏に凛子氏が気がある時点で詰んでる気がするんですが.....)
しかし言葉には出さない問川。
「....情けない。俺は見ているだけならずそんなゆきかぜで抜いてしまった。智一だって俺の事をそう思っているはずだ。合わせる顔がない。」
達郎は俯く。
そしてそんな達郎の言葉に首を傾げる智一。
「えっ?いや俺別にそんなこと思ってないぞ。まぁエロいもんはエロいだろ。それになんで俺に合わせる顔がないとか言ってんの?ちょっと怖いよ。」
少し智一は引いていた。
すると達郎は顔を挙げる。
「当然だろ!!僕が君からゆきかぜを奪ったから、君はあまり僕とは話さなくなったんだろ!!!」
「えっっ!!そうだったんでござるか!!!??」
達郎がとんでもないことをいきなり口にする。
そしてそれを真に受けたのか問川は驚く。
は?俺から奪った?
どういうこと?
......コイツもしかして。
「えっ、俺がゆきかぜ好きだった的な感じのニュアンスで奪ったって言ってるの?」
「そ、そうだよ。それ以外何があるの。今だってそうじゃないの?」
達郎に尋ねると彼は素直に頷いた。
は?
「はぁぁああああああ!!!???」
テーブルを叩いて声を上げる智一。
問川は急にテーブルを叩いてことで驚いて少し飛び上がった。
「なんでそうなるんだよ!確かに昔はゆきかぜいいなぁ~って思ってた時期はあるよ?でもね。正直望み薄い事だってわかってたし、別に未練なんか毛ほどもないんだよ!」
「本当にござるかぁ~wwww」
「お前ちょっとうぜぇから黙ってろ。」
ムカつく顔で笑う問川を睨むと落ち着て椅子に座る。
達郎は納得できない顔してた。
「じゃあなんで僕がゆきかぜと付き合うって言った時あんなに取り乱していたんだ!」
取り乱す?
俺がいつ取り乱して.......
『僕、ゆきかぜと付き合うことになったんだ!』
『あ、あっふーん。ま、ま、まぁ良いんじゃね?よかったんやんけ。(うわぁ~達郎に先越されたんだが。マジかぁ~)』
あっ、これかぁ!!
いや別にただ一歩先に達郎が彼女持ちになったから嫉妬しただけなんだが。
でも確かに傍から見たらまるで好きだった人を友人に取られた的に見えなくもないぞ。
それに途中から彼女持ちって思うとリア充=悪に見えてしまって話すこともなくなったから殊更他人にはそう見えるだろ。
えー、今まで誤解されていたって思うとちょっとキツイですね。
俺が好きなのはお前の姉なんだよ!いい加減にしろっ!!
「あっ、いやアレは先に彼女持ちになってことで嫉妬しただけだぞ。」
「えっ、じゃあ今まで話しかけてこなかったのも......」
「全部嫉妬ですよ。」
そう言うと隣の問川が嘲笑する。
「うわぁぁ~wwちっちぇ~wwww」
「いやお前も『達郎氏ってリア充ですよねwww』みたいな感じのこと言ってたじゃん。」
「それを口にするのはやめてくれ。」
煽ってきた問川に問川も嫉妬していた事実を少し口に出す。
すると問川が頭を下げる。
そしてそんな俺たちを見て達郎は何とも言えない顔で。
「いやなんというか....みんな案外器が小さいんだね。」
器が小さい?
器が小さいだと?
それは違う。
「それは違うな。お前は彼女持ちだから分からないんだ。彼女が居るという事はもはや勝ち組だということが決定しているということだぞ。」
「そうでござるよ。勝ち組は流石言う事が違いますなぁ?」
「君たちやっぱり仲がいいね。.....はぁまぁ僕の勘違いってことは分かったよ。悩んでることが馬鹿らしくなってきたよ.....。」
溜息を吐きつつ、達郎は顔を上げる。
「まぁ取り敢えず先生たちも心配してたし学校には来いよ。」
「.....まぁ確かにそろそろ学校に行かないとね。....それと先生たちに言ってくれてありがとう。」
達郎は笑う。
そんな彼を見て智一は首を傾げた。
「え?なにが。」
「ほら。二人の現状について報告してくれたんだろ?それがあったから救助隊が編成されることになった。だから.....有難う。」
そう言う達郎の笑顔は草臥れたものではあったものの、どこか陽だまりのような明るさがあった。
今まで嫉妬やらなにやらでいつの間にか話すことがなくなった幼馴染だったが、別に彼が悪い男ではないということがわかる。
小さいと言われていたが、その通りだ。
全部俺のせいだ。
だから俺はその謝辞にまとも受けることが出来なくて......
「あ、あぁ.......まぁ気にすんなよ。じゃ。また明日学校でな。」
目を逸らして玄関へ歩いて行く。
そんな彼等を見て問川は何となく思ったことを口にする。
「なんか乙女ゲーの絡みでこんなの見たことあるゾ。....それじゃ失礼しました。」
問川も智一の後に続くように秋山家を後にした。
二人は自分の家へと真っ直ぐ帰路に就く。
そして智一は夜が明けるまでたっぷりと両親に絞られるのだった。
布団の中。
....明日達郎の家まで迎えに行ってやるか。
そう決意を固めるのだった。
◇
「....どうしようかお姉ちゃん。」
暗い部屋の中、名簿を開きながらさくらが姉であるアサギに聞く。
アサギは考え込むと口を開いた。
「現状適正を考慮しても人手不足だわ。.....ただ生徒を入れれば。」
「え~、でもそれって大丈夫?」
さくらが首を傾げるとアサギは笑みを彼女に見せる。
「....私は信じたいの。新しい世代を。」
そう言って凛子とゆきかぜの救助部隊に名前を書き込んでいく。
その中には池守智一の名前もあった。