白いウサギは人肌に溶ける~執筆中=彼氏持ちレフィーヤ光のNTRストーリー 作:37級犬築士
「………」
目が覚めて。まず気づいたのは枕の冷たさだった。
「…………んっ」
意識は覚める。しかし、体は思うように動いてくれない。
…確か、強化種のモンスターと戦って、そして
誰かにあった。その人物は僕を抱えて、でもそこからの記憶がない。
…確か、僕は……
考える。けれども思考が纏まらない。体の中を巡る熱がずっと昂ったまま、身動きがままならないのに不快感がずっと重なっていく。
…だめだ。これ、もう……気持ち悪い
ぴたっ…
「!」
額に何かが触れる。それは体がビックリするぐらいにひんやりしていて、僕の気持ち悪い気分を全部吸いとってくれるようで
「ーーーー」
「?」
誰かが喋っている。聞き取れないけど、それは確かに自分にたいして向けられているものだった。
「……ぁ」
まぶたを上げる。重くにごった感覚でまともに機能しないはずだったけど、この冷たさのおかげで少しだけ感覚が戻ってきている。
ゆっくりと上げる。ぼやけた視界が少しずつ明確に、はっきりとしたものに変わっていく。
「………」
暗い部屋、蝋燭で照らされる光を反射するそれはどこか扇情的で、朱色の輝きと影の模様とで人の形をなしている。その人の形をした何かは僕の方に近づき、二つの影が視界を覆うように近づいて、そして
「!」
両の頬を包み込む冷ややかな感触。少し湿ったそれはベルの中の余分な熱を根っこから吸い出してくれるようで、気がつけば喉元まで登っていた不快感も次第に消え失せてくる。
「……」
……誰、だろう?こんなに、でも……なんだか、懐かしい。
以前にも、もっとずっと昔のことだと思う。こんな風に、誰かが付きっきりで側にいてくれて
「…………っ」
目を凝らす。ぼやけた焦点を重ねて、ちゃんと目の前にいる誰かを見定めるように
「……ぁ」
「!」
ショートの黒髪、光を灯す肌は艶やかな褐色で、その姿には見覚えがある。
というよりその記憶はついさっきから、意識が消えかけるなか、僕はその顔を見続けていた。
「……ティオナ、さん」
「……!」
振り絞るように出した声、ライムグリーンの瞳が見開き、驚いた顔はすぐに柔和な表情に変わる。
「……よかった。起きたんだね、アルゴノゥトくん」
「……ぁ」
「だめ、まだ動いたら。病み上がりに無茶したらめっ!だよ。、」
「……っ」
「うん、いいこいいこ」
そういい、ティオナさんは僕の頭をそっと撫でる。子供をあやすように、どこか甘すぎる扱いが今は何よりも染み渡る。
自分の体を蝕むこれが何か、戦いで負った毒のせいなのか、けれどもそんなことがどうでもよくなるぐらい、今はこの看病される時間が堪らない。
………看病?
思い返す。ベルが冒険者になってから、こうして誰かに世話をされるというのはほぼ無いに等しい。タフな冒険者故に、風邪を患うなどそう無いことだし、怪我で休んでいてもそう誰かにずっと付き添われるなんて無い。子供扱いをしないでと僕が強がるから、かもしれないけど
「………っ」
だから、こうして静かに、誰かに世話をされる時間は、本当に幼い頃以来なのだろう。
………ティオナさん、
「……っ……ぁっ……!」
「ん?………どうしたのアルゴノゥトくん、まだ無理はしちゃダメだよ」
「………ぁ」
何か話しかけようと、声を出そうとするけどうまく動かない。
……声でない、それに
口の中が乾いて張り付く不快感、口内に感覚を意識してようやく僕は喉の乾きに気づく。
「ぁ………か」
「?」
水を、その一言がうまく発せられない。
「ねえ、もしかして何か言いたいの」
「………ぅ」
………水が、水が欲しい
「ねぇ、アルゴノゥトくん?」
「………」
気だるい。意識だけがはっきりとしているのに、体がついていかない。そのくせ不快感だけはずっと粘りついて離れないのだ。
………これ、嫌だな………助けて欲しいのに
「ぅ………ぃぅ………んっ」
「………もしかしてさ」
視界に映るティオナが消える。無論消えたわけではなく、すぐ側に移動し、僕の背中に腕が差し込まれる。
「……起こすね」
「……ぁ」
背中から抱き抱えられ、その場に座らせられる。浮わついてどこか落ち着かない感覚。自分の体の重さがひどく煩わしい、神経に鉛を詰められたような鬱屈感をいやに感じさせられる。
「ほら、あたしが飲ませて上げるから……お口」
「……!」
……水、飲みたい
唇にあたるひんやりとした感覚、ゆっくりと傾けられるそれは次第に口の中に、けれど
「はふっ………あぁ」
「あっ、だめだめ!………うん、飲めないみたいだね。」
「……けふっ……うぅ」
閉じきらない口の端から水がこぼれる。僅かに入った水は乾きを潤しきれず、むしろ乾きを余計に感じさせる。
「……仕方ないなぁ」
「……てぃお………めん………ぃ」
「いいよいいよ、気にしなくて。病人なんだから仕方ないって。それより」
「…」
「次はちゃんと飲ませるから、じっとしててね」
「?」
「………恥ずかしいからさ、目は閉じてて」
「………?」
言われたまま、僕はなにも考えず目を閉じた。なにも考えられなかったという方が正しいかもしれないが、とにかく僕は言われるままに目を閉じて、何かを待った。
そして、それはすぐに僕の中に入ってきた。
……じわ
「……!」
口に何がが触れる塗るっとして生暖かい感触が滑り込んで、そこからゆっくりとひんやりとしたものが流れ込んでくる。
「……こく……ん」
……水、ほしかった水が……やっと
カラカラに乾いた喉を湿らす心地が少しくすぐったい、けれど死にかけたからだが息を吹き返すように、内側に詰まった濁りが徐々に澄んだものに変わっていく。
「……ん、んく……ぷは」
……あれ? でも僕…どうやって水を
水が体に入り冴えた頭で、僕は目の前の視界に意識を向ける。閉じてと言われた言葉を忘れ、目の前の光景をかいま見る。
「………えっ?」
「ダメって言ったじゃん、もう」
頬を赤らめて、なんとも気恥ずかしそうに視線を逸らしている彼女はとても近いところにいた。それも、まるで男女が口づけをするときのような距離感で。
「水、もしかして」
「……嫌、だった?」
「………」
思考が回る。先ほど自分の口に触れたのは紛れもなくその唇で、奥にある舌で上手く飲めない僕に口移しで飲ませたのだろう。
……じゃあ、僕は今、この人と
形とはいえ、それはまぎれもない。その事実を時間をかけてついに僕は理解した。そして、理解した上で…彼女の言葉に対する返答に……僕は
「……欲しい、もっと」
「!!」
目に見えて、褐色の肌が薄紅色に染まっていくのを確認した。目を見開き、少し思い詰めた後で、ティオナさんはまたコップの中の水を口に含む。
唇を閉じ、少し膨らんだ顔で彼女は僕の顔に近づく。
「……ん」
恥じらいながらも、その目は僕の方をずっと見つめていて、また口を開くようにと促してきた。
「……はい」
口を開き、ひな鳥が餌付けを待つように僕はその時を待った。少し間を置き、意を決して唇をそっと這わせたティオナさんはまたさっきと同じ方法でゆっくりと水を流し込む。
「……ん、んく……ちゅぅ」
「!」
水を飲む。さっきは与えられるままに受け入れていたけど、今は僕の方から彼女の水を吸うように飲み干していた。
「……んく、んっ……じゅる、んうちゅ」
「ぷふ、んっ…んんっ!」
唇を這わす、舌先から伝う水を欲した僕は自分の舌を彼女の口に入れ込む。口移しの作業が、いつしか唇を絡め、舌を吸い、冷たい水と一緒に彼女の唾液をすするように僕は無我夢中だった。
口と口、粘膜の薄い敏感な部分がふれあう、それは弱った体でも感じるぐらいに、むしろ弱ったときであるからこそそのどこか官能的な刺激がたまらなく体に染み渡る。
……ティオナ、さん…もっと、欲しい
「んっ……ッ!?」
「!?」
突然のことで、大きな力で僕の体ははね除けられる。勢いに飛ばされた体はベッドを転げ落ち、気がつけば背中にあったのは固い木の床だった。
「もう!……なにを、って……あっ、ごめん!!」
「…ぁ」
脇から抱えられベッドに座らされる。中腰で見下ろす彼女とされるがままになっている、そんな風にされているせいか、自分の中のティオナと言う人物の大きさが変わる。
……確か、僕より三つ上だったよね。
天真爛漫で、どこか貞操観念が、主に裸に対して抵抗ない彼女との関係は友達ぐらいの距離感で、けれどこうして彼女の優しさに触れてまた別の面を、ティオナ・ヒリュテという女性の根っこに触れて、どこか違う目で僕は彼女を見ている気がする。
「……僕、その」
「…………突き飛ばしたのは、ごめんだけど。…でも、急に舌なんか入れるとびっくりするじゃん!」
「……ごめん、なさい」
「まあ、いいけど……ほら、横にするよ。まだ元気じゃないんだから」
「ぁ、そうでしたね……すみません」
「……ねぇ、あのさ」
ベッドに寝かせ、僕の体に手を置いてそっと語り出す。
「…もしかしてさ、君」
「……」
「いや、やっぱり違う。今、不安だから……だからあたしなんかに」
「?」
「……ちゅーしたいのは、本当は違う娘なんでしょ」
「…!?」
「……水、もうコップで飲めるでしょ。だから、それだけ…」
「……なんで」
シンプルに疑問だった。今この場で、別の人の話を挙げられる事に、どうしても僕は違和感を抱いて仕方がなかった。
「……なんで、そんなこと言うんですか。ティオナさん」
「……だって」
………ぎゅ
「!」
「手、握ってくれましたよね。ずっと」
胸に置かれた手を掴む。その感覚は初めてではない、今になって思い出したのだ。僕がうなされてまだ意識が暗いそこにあるなか、僕の手を取ってくれたのは間違いなくこの手だ。
「……あまり、いい手じゃないでしょ。レフィやリヴェリアの方がずっと柔らかいし、だから……無理しないでよ」
そう、自嘲気味に、どこか逃げるようにそんな突き放す言葉を残す。けれども、彼女がなんと言おうと、僕にとってこの手は、彼女は
「…ティオナさん」
「……」
「手を、握ってくれませんか?」
「!?」
少し無骨で、でも死から強さの中にある細くて小さい手の感触と、この伝わってくる少し高めの体温も全て
「……好きです。優しいティオナさんが、僕は……本当に」
「…………」
「ティオナさん?」
顔背けたまま、ティオナさんは早足で部屋を去る。バタンッ!と勢いよく戸を閉めて、そこで音は途切れて静かになる。
「……?」
すぐに追いかけようとしたけど、そこに来て体の疲労がピークになっていることに気づき、思うように足腰に力が入らない。
「……はぁ」
それ以上、考える力が保たなかった僕はまた消え入るように眠りに落ちる。
深く溶け落ちていく思考の中、さっきのティオナさんの後ろ姿だけが鮮明に浮かび上がる。顔を背け、表情を見せないままに部屋を去った彼女だけど
けれども、その両耳だけはまるで茹で上がったように真っ赤な色で紅潮していたことを、僕は消えゆく意識の中で思い返していた。
○
「………ッ!!?!?」
……なんで、こんなに
壁に背を持たれてしゃがみ込む。酷く耳障りな雑音が消えてくれない。
「……ぅ」
内側から破裂せんとするほどに高鳴るそれは自分の心臓だと気づく。けれども、気づいてなおそれがどうしてか理解できない。
………あたし、なんで……なんで!?
「……なんで、わからない……でも」
あの言葉がどういう意味を持つのか、頭の悪い自分でもその意味は分かるし、何だったら自分から積極的に使ってきたほどだ。以前にも好きだよと言った、ティオナにとってそれは紛れもなく本音だった。行為がある、ならそれを表現するなら好き以外の何があるだろうか。
けれども、そのたった二文字の言葉には一冊の書物に収まりきらないほどの意味を抱えてなお収まりきらない。
…アルゴノゥトくんは好きだけど、でも、なんで
初めて、異性のひとから言われたその一言。もしかしたら寝ぼけただけか、それとも
「……本気だったら、どうなんだろう……わっかんないよ」
誰も教えてくれない。いや、むしろ知ろうとしなかったせいなのか
たった二文字、好きと言う言葉だけで、なぜ自分はこうもおかしくなっているのか?
「……アルゴノゥトくん」
ふと、唇に指をそっと当てる。潤ったそれはしわのない、しっとりと張り付くような質感だ。
そして、ついさっきまでその唇に、彼の
「……ちゅー、したんだ。男の人と」
なんでもない、理由があって口移しでやっただけで、そう意味は一切込めていなかった。けれども、彼には、ベル・クラネルにはそれが耐えられない、全く違った、いやむしろ本来の意味でとらえられたのか
「…あたしのバカ、なんであんなこと」
蹲り、曲げた足を抱えて三角座りになり、ティオナはただじっと顔を埋めて静まるしかできない。
手と手が触れて、唇を這わしたそれらの行為、見識がないとは言え流石のティオナにも理解できてしまう。きっかけは自分の無神経とはいえ、それでもその行為は成立してしまったのだ。
「……ッ!」
……わっかんない。こんなの、あたしじゃわからないよ……!
次回に続く
今回はここまでです。口移しがどう受け取ってもらえるか、まあ水ならそんなに嫌悪感無いですよね、と思いたい。