白いウサギは人肌に溶ける~執筆中=彼氏持ちレフィーヤ光のNTRストーリー 作:37級犬築士
それでは、本編をどうぞ。
(1) 聖女アミッドの搾精クリニック、ステージⅠ
ディアンケヒトファミリア、治療系のファミリアの中でも大手であるそのお店はメインストリートの真横に幅広に占有している。ファミリアのホームでもあり、客足を寄せる店舗としての店構え、いつ足を運んでも首を上に掲げ、その圧巻ぷりに頷いてしまう。
そして、そんな場所に今僕は
「……あの、麻酔は」
「……ありません」
「…でも、痛いんですよね」
「はい、大の大人が泣き叫ぶぐらいには」
「…なら、せめて痛み止めとか」
「そんな都合の良い物があるならもう使ってます。覚悟を」
「……ぐすん」
壮観な店構えのさらに奥、治療院の個室にて今、僕は監禁、もとい絶対安静の外出及び私的な移動の禁止、もはや拘束されてると言った方が簡単だ。
というか、以前に言われた事が、本当に実現してしまった。深層からの脱出、その時の怪我でも僕はこの恐ろしい美人に迫られたのだった。
「……我慢してください、これも治療ですので」
「……うぅ」
「……返事」
「はい……うぅ、ふぁい」
「……はぁ」
目の前で、重くため息を漏らすプラチナヘアーの女性。いつものカウンターで立つときのいで立ちに、今は白衣をその上から纏っている。
オラリオに名高いデア・セイント。評判の悪い(だいたい主神のクズムーブのせいで)ディアンケヒト・ファミリアにおいて清涼剤とも言える紅一点。今回は通院ではなく入院、それも1月近い期間お世話になる事になってしまった。
可憐で気品に満ちた聖女、しかしてその行動と信念には一切の躊躇無し。今もなお、僕の足の傷を消毒しようと、まだ生々しい傷跡にとても痛い塗り薬を塗布しようとしている、そんな彼女こそが
「……あの、アミッドさん」
「……なんですか、ベル・クラネル」
「…せめて、その……そう、夜に寝てる間とかに!」
「………」
「いや、あの、無言で近づけないでください!!!……い、いやだ、うっ、ぬがぁあああぁああああ!!!!!?!?!?」
アミッド・テアサナーレ、とっても美人ですてきな女性だけど、ちょっと怖いそんな彼女こそが、僕の担当のお医者さんだ。
⚪
ちょうど、一週間前になる。ダンジョンで探索中、未知の遭遇が起きた。イレギュラーにおいて、僕ら冒険者は安全のために、原則取るべきは逃走だ。しかし、それをしようにもすでにけが人がいて、名前も知らない他所のファミリアの冒険者だったけど、僕は見逃すわけにはいかなかった。
新種のモンスターと戦った。見たことのない大蛇で、苦戦するもなんとか勝利を得たけど、その戦闘でおった傷、というかがっつり右足を噛まれたわけで、解毒ポーションを飲んでも一向に傷は癒えないことに皆顔が蒼白になった。むしろ、一周回ってシリアスすぎるのが愉快になるぐらいの、そんな混乱する事態に僕は急いで地上に送られ、そしてここで治療を施された。
都市最高の治療使である彼女の魔法で、一応の治療は間に合った。そして、そのまま即入院で数日が経った。
「では、また時間が来ましたら、消毒にきます。患部が痒くて辛いなら呼び鈴をならしてください。軽く消毒と、包帯の交換をしてあげます。では」
「………」
そう言い残し、アミッドさんは部屋を後にした。薬品の清潔な臭いがするベッドの上、僕はすることもなくただ寝転んで天井を見ている。
「…………はぁ」
涙で張らした目をぬぐう。贅沢にも個室をあてがわれ、ふかふかのベッドで過ごす時間は問題ではない。治療の度に。モンスターにやられた部位のこまめな消毒、解毒の意味もあるそれは大変必要な治療であるらしいが、どうにもこれでは精神が持たない。
担当であるアミッドさんが来るのは一日に数回、でもその度に消毒という名の苦行なのだ。
数日して、時計を見る事が嫌になった。
「……」
…コン……コン
「!」
ノックが鳴った。また、あの人が来たのだろう。
「…どうぞ」
戸が開く。窓から来る風が、彼女の髪をなびかせる。
白銀の髪が陽光を照らし、まるで銀の光を束ねたような、そんな美しさを彼女は放っている。
「……失礼します」
「……はい」
なのに、僕はそんなアミッドさんを素直に喜べないでいるのだ。
我ながら、そんな大人げない自分の本心が情けない。
「……傷口、いかがですか」
「……まだ、少し痛みます。」
「そうですか。では、包帯をはがしますね」
慣れた手つきで、てきぱきと太ももの包帯を剥がす。
「…くっ」
傷跡は生々しく、皮膚で肉は覆われているけど、所々ただれたように炎症が起きている。すぐに、傷跡から目を背ける。
「……あら」
「!」
目が合ってしまった。いそいで、反対側に背ける。
「…聞いた通り、純情なお方ですね。……あら、治りが遅いですね。少し、多めにクスリを塗ります。消毒しますので、動かないでくださいね」
「……」
「…クラネルさん、聞いてますか」
「……はい」
「……では、しますね」
そう告げると、アミッドは用意した道具の中から清潔な布と透明な液体の入った瓶を取り出す。ベルの前で、濡らしたガーゼを、傷口へ
「……ッ!?」
「……動かないでください、患部がこすれると傷がつきます」
「…うぅ」
また、この時間がやってきた。
傷口が痛いのは当たり前だ。骨にはヒビが、肉に食い込んだ毒牙で傷は深く広い。だから、この痛みは仕方ないことだと最初に説明された。
耐えて、耐え続ければ、この痛みとはおさらばできる。そう考えてはいるけど、でも、そんな気力は次第に消え失せた。
「……いつっ、あぁ、ぎぃ……ッ!」
アミッドさんは優しい。今だって、てきぱきとこなす様は無慈悲に見えて治療を早く終わらせようとしているからだ。この痛みが少しでも短く済むようにと、そうここの団員の人や、別室の患者さんが教えてくれた。
ただ、それでも
「…終わりました。包帯を巻いてますが、絶対触れないように。かゆいからといって、かきむしるのもダメです」
「…………ッ」
「…聞いてますか?大事な事ですよ、なおしたいなら、ちゃんと「聞いてますよ……だから、だいじょうぶです…から」
「?」
つい、意地になって、僕は食い気味にそう答えた。
「……から、本当に……いつっ!」
「…まったく、何片意地はってるんですか」
呆れたように、僕の抵抗というか、不満の当てつけは一蹴された。
「……ッ」
当てつけのような振る舞い、やった自分がより情けない。傷の痛みではらす涙に、今別の感情が上乗せされる。
「……ベル・クラネル」
「……すみません、少し、苛立って」
「少し、ですか?」
「……ええ」
固く、拳を握っている。人目がなければ、このまま手すりに叩きつけている事だろう。
戦いで負う傷はは問題ない。でも、どうしてか、こうしてベッドの上ではどうしようもなく、痛みは僕の弱さを露呈する。
恥ずかしい、いっぱしに成人として扱われる身であるのに、こんな弱い姿をさらす事に胸が裂かれる。
「…ッ」
涙が、寸前で止まっていたそれはどっと溢れかえる。
「!?」
服の裾で拭う。
拭っても拭っても、その涙はかれる事がない。
「……」
「ごめ…なさい……こんなの、すぐに…ッ!」
「……クラネル」
「……ッ」
「……落ち着いてください。」
言葉をかけられた。けど、その位置はさっきとは違う。
ずっと近く、声が届くと同時に、届くはずのないアミッドさんの体温が顔に触れる。
突然のこと、理解が追い付かなかったけど、ようやく事態を把握した。
僕は今、アミッドさんの胸の中で抱きしめられている。
「……胸、暖かいですか?」
「……ぁ」
抱きしめられた。胸の中に、僕の顔が収まっている。優しく、頭を撫でられ、まるで幼子をあやすように、その手つきはどこまでも優しいモノだった。
「……ッ!」
良い匂いがする。病院のシーツや枕と同じ、とても清潔な匂いだ。
「…ベル・クラネル……いえ、ベル」
「……」
「……お辛いなら、そう言ってください。」
より深く、僕の顔が胸に沈む。思いの外大きいそれに包まれて、嫌が応にも荒れた気持ちが沈んでいく。
抵抗して、振り払う気力も、僕にはない。
「…でも、そんなのって……僕、僕は」
「一人前、大人だから……そう、言いたいなら、私はこう言います。無理はいけません。」
「…ッ」
理解が出来なかった。
だから、煩わしいと、この気持ちをそんな簡単にはらしてたまるかと、そんな意固地な自分が根っこにあるのを感じてしまう。
「…でも、痛みで泣くなんて……冒険者なのに、情けない、ですよね」
せめてもの抵抗と、僕はそんな強がりをぼやいてしまう。今もなお、胸の柔らかさに気を落ち着かせているのに、しまりがない。
「…まったく、そのように考えておられたのですね。」
そんな情けない強がりも、笑うことなくただ受け止めてくれる。
「確かに、貴方は冒険者で、傷を負う事も痛みを感じるのも避けられない立場です。なれば、強がるのも、苦しみを表にしないのも、それは必要なことと理解します。」
あぁ、そうだ。だから、こうして必死に耐えて
「ですが、ここはただの治療院の個室で、あなたはただの一患者です。」
「……ッ」
「痛みを恥じる事はありません。今の貴方は患者で、そしてただの14の少年です。誰もここで、そのような無理を強いる事はしません。ですから」
「!」
顔から、ぬくもりが離れた。代わりに、僕の目の前に、アミッドさんの顔が映る。その目は、優しく僕を捉えている。
「……苦しくて、お辛いなら、我慢はしなくて良いですから。だから、私に頼ってください。」
「!!?!」
優しくかけられた言葉、けど、僕にはそんな事よりも、ずっと大きな事が今起こってしまった。
「…ご褒美です。一応、私はアナタよりもお姉さんですから」
言葉を語るその口、色素の薄い、ピンク色で艶のある唇が、僕の額に触れたのだ。
「…ッ、てっ……あぁ」
痛みなんてとうに忘れて、僕はアミッドさんの事で頭が茹で上がってしまいそうだ。
きっと、今の僕の顔はとても滑稽に、すごく紅く染まっている事だろう。だって、目の前で、僕の顔を見ながらアミッドさんがはにかんでいる。
「……ふふ、少しからかいすぎましたか」
「……ッ」
精緻な人形のような美少女、そう証される彼女の表情はいつも冷たく、ひんやりとした印象だ。
初めて見たかも知れない笑顔が、僕の中で深く刻まれた。
「…もう、大丈夫のようですね。」
「…えっ」
「では、失礼します。……くれぐれも、安静に」
「……ッ」
最後にと、アミッドさんはその場で立ち、去ろうとする間際、少しだけ僕の頭を撫でた。柔和に笑みを浮かべ、静かな足取りで部屋を後にした。
「……」
残された僕は部屋に一人、時間が止まったように呆然と、僕は誰もいない出口を見続けている。
頬に残る暖かみ、額に触れたしっとりとした感触、窓からそよぐ風に流されそうで、僕は急いで横になり掛け布団に潜った。
傷口から伝う鈍い痛みなんか、とうに気にならなくなっている。むしろ、またアミッドさんが来る時間を、僕は願うようになってしまった。
その日から、僕は時計を見るのが嫌いじゃなくなった。
今回はここまでで、まだ優しいアミッドさんでした。