三歩進んで二歩下がる 作:夜鐘
※まだrしてません
(よ……よし、行きます……、行きっっっ……ます)
大きく扉の前で深呼吸を繰り返して、目の前の洗面所に続く扉の引き戸に手をかけた。葛藤の末ここまで来ることが出来たのだ。成せばなると三回唱えて、手のひらに『神』という字を書いて飲み込み、縋れるものには縋がった上での、今だった。
(しんとうめっきゃく……!)
火もまた涼し!言葉の意味とも反対に、どちらかと言えば頭に血が上っている状態なのだが、兎にも角にも目の前の扉は、何の抵抗ものなくガラリと音を立てて開いた。洗面所はお風呂場から漏れ出た湯煙で覆われていて、少しばかり蒸し暑い。
「……ん?あれ?玲さん?」
「ひゃ、ひゃい!」
「え?どうしたの?……何かあった?」
お風呂場からは微かに何かのメロディが流れてきており、湯船に浸かりながらなにかをしていたのだろうと言うことだけは辛うじて理解が出来た。えっと、どうしましょう……、ここにきた理由を……りりり、りゆーを!言うのは、ちょっと私には……!どうしたら……!
「ここまで来て情けないですよ、玲!」と楽郎くんとお付き合いする様になってから、口出しが更に多くなった長姉が、頭の中で喝を入れてくる。けれど、この扉を開けるだけでこの先、百年分の勇気を先取りしているわけで!
頭の中でぐるぐると言い訳ばかりが回るが、楽郎くんの不思議そうな声音が、再度私を呼んだのと同時に、勢いに任せて、お風呂場へと続くその扉を押し開いた。ーー押し開いてしまった。
「し、しつれーしましゅっ!」
「……へ?」
湯煙が燻る中、ぽかんとした表情で楽郎が此方を見上げていた。どうにも目が合わせられずに思わず視線を彷徨わせてしまう。SNSでも見ていたのだろうか、手には携帯端末が握られていた。乳白色の湯船からは桜の香りが舞い上がる。ともすれば、入った瞬間には楽郎くんのから、からだ、が見えてしまうのでは、と懸念していたのも杞憂であり、しっかり湯船に浸かっている裸体が目に入ることはなかった。入浴剤がなければ、もしかすると、本当にこの時点でひっくり返っていたかもしれない。
「は、え?れいさん?」
「ふぁい!!あの!えと、お背中お流し、しゃしぇていただくたく!」
「……は、ハイ!?」
***
まてまてまて、ちょっと待て!固まっていた思考が高速で回り出すのを感じると同時に、思わず頭を抱えてしまいそうになった。おーけー、おーけー。まずはクールになろうぜ。話はそれからだ。とりあえず、このイカれた状況を整理しようじゃないか。ーーまず、俺は風呂に入っている。これは分かる。ーーお付き合いしている玲さんが泊まりに来ていた。うん、これも分かる。ーー俺が風呂に入っているのに、バスタオル一枚だけを体に巻きつけた玲さんが乱入してきた。
(……分かるかーーー!え?どうしてこうなった?なんかフラグ踏んだ?)
確かに今日は玲さん、俺が風呂に入るのをやけに勧めてくるな、とは思いはした。でもほら、女性特有の事情があるのかも知れないし、追及するのはよろしくないのではないか、と思った訳で。ああ〜、そういえば、若干ロード時間が長かったかもしれない。いま考えれば予兆はあった訳だ。でも、こんなラブコメ系の漫画みたいなハプニングが起こるなんて流石に予想できない。兎にも角にも、ヤバイ。具体的に何がヤバイのか判断がつきかねるが、ヤバイ事態だ。
……え?まじで、どうすんの?背中?……背中洗ってもらうの?玲さんに?ていうか、半裸とか目じゃない全裸なんだけど……。いやだって、自宅の風呂でタオルは巻かないでしょうよ! 入浴剤入れてなかったら死んでたかもしれない。まあそれは良い。いや、良くはないが、最悪、俺の格好については玲さんに目をつぶって貰い、タオルを装備すればなんとかなる話であるからして。なぜ、現実でも裸装備で悩まないといけないんだ……!
「あ、あの……」
……困った。既に限界まで顔を赤くして、固まってしまっている玲さんにこれ以上、負荷はかけられない。この状態で倒れたらいろんな意味で駄目だ。しかし、負荷はかけられないがこのまま膠着状態でどうすればいいのかも分からないし、最悪、このままでは玲さんに風邪を引かせてしまう。かと言って誰かの入れ知恵だとしても、十中八九入れ知恵だと思われるが……。
「えーと、嫌々とか、事情があって無理やりとかそういう訳ではない、よな?」
「ち、ちちごった!」
「違うた…?あっ、はい」
首を横に振るスピードが速すぎて、ちょっと体を引いてしまう。羞恥なのか、湯煙の熱にやられたのかは定かではないが、玲さんの瞳は、どんどんと涙目になっていて、ひどく悪い事をしてしまった様な気持ちになる。ええっと、この状態で引き返させるのは逆に……。
「ご、ご迷惑、でした?」
「迷惑ではないです」
「〜〜〜〜はう、あ、あの……それは、よかったです?」
つまり、こう状況を整理するに、である。この状況は据え膳食わぬは男の恥、というやつなのでは……?自分よりパニックになっている人がいると落ち着く法則により、なんとか冷静さを保てていると思うが、流石にこれ以上は目に毒な事もありまして。ものすごく心臓がバクバクしてる。お湯に浸かっていることもあって、のぼせてしまいそうだ。現役の男子大学生には大変刺激的な光景が目の前にあって、こうならない方がおかしい。あと本当に申し訳ないが、自分の装備が……!心許なく……!
「玲さん!今から三十秒!いや十五秒でいい!目をつぶって!」
「ひゃ……ひゃい!目を瞑ります!」
「ハイ!いーち!」
「いーち!にーぃ!さーん……?!?!?」
ザバリと音を立てて、体を湯船から出すと、カウントが止まり固まってしまった玲さんの脇を通り抜け、スポーツタオルを奪取して腰に巻き付けた。装備ゲットォ!紙防御でもあるとないは違うんだよ!
「ら、らくろ、らくろーくん、私、今目を開けたら死ぬ気がします」
「死ぬの!?」
「既に意識がちょっと……ですね」
……そのまま玲さんがのぼせて倒れたら、俺が、玲さんを介抱するということで……俺ものぼせて倒れる羽目になってしまうかもしれない。どうしよう。一回、風呂場というデンジャラスな場所から一度離れて仕切り直したい
ここからスタートしてまだrに持っていけないの逆に凄い。