八雲と法子は淫らな治療を終えた後、それぞれ担当医から例の塗り薬とアダルトグッズをいくつか渡される。
「もしどうしても快感が欲しい時には、コレを使ってね。八雲さん」
「法子さんの乱れ方は激しいだろうけど、徐々に免疫がついて興奮することは少なくなるから」
奥寺と村林は親切を装い、二人に丁寧に使い方を説明した。
「奥寺先生がそう言うのならば、使います」
「いつも気を使っていただき、ありがとうございます。村林先生」
純粋な厚意と思っている二人は、戸惑いながらも受け入れる。
そして患者達が帰ると、診療所に残った奥寺と村林は顔を見合わせてクスッと笑う。
「想像以上に、素直な女で良かったわ。淫乱になる呪文もよく効いているようだし、これならシャドウの呪いなんか無効化するでしょうね」
「うふふっ♪ 私達が楽しみながらも二人を治療するなんて、良いことづくめね。流石はナ……ごっほん! 『奥寺先生』だわ」
「う~ん……。でも完全回復したら、次はどうしようかしら?」
「まだ手放したくはないわよぉ。いじり足りないもの」
「それは私も同じよ。――それじゃあ次の手を考えなくちゃね」
「ヤッタ♪ これでもっとあの二人と遊べるわね」
怪しげな企みを立てる二人の影は、人間とは言えない異形の形で蠢いている。
〔浮かび上がる闇の真相〕
八雲は奥寺ことナグに、法子は村林ことイェグの治療を受け続けて、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
二人は身体の調子が良くなりつつあることから勝手な行動を起こさなくなり、組織の信頼も取り戻しかけている。
「八雲さん、お疲れさま。もうすぐ一ヶ月の期間が終わるのと同時に、治療も終了となるわ」
「奥寺先生、ホントですか?」
「今まで本当によく頑張ってきたわね、法子さん。最近の調子はどう?」
「すっかり良くなっています。村林先生のおかげです」
二人はいつものように深夜に診療室へ訪れて治療を受けた後、担当医とこれからのことについて話をしていた。
「それでね、八雲さん。次の治療の日なんだけど、悪いけど二日後に来てくれる?」
「割と早いですね。まあ私は構いませんが……」
「その日で最後の治療になるのよ。だから間を置かずに済ませた方が、法子さん達にも良いと思って」
「分かりました。では何時頃、来ればいいですか?」
奥寺と村林はスッと目を細めると、同時に口を開く。
「「二日後の午前一時に、S公園へ来て」」
日時と場所を指定されて、八雲と法子は目を丸くする。
「随分と遅いんですね」
「しかも場所が公園って……何かあるんですか?」
二人の疑問に、奥寺と村林はただニッコリ微笑むだけ。
「それはまあ、来てからのお楽しみってことで」
「待っているからね」
「「はあ……」」
八雲と法子はどこか釈然としないまま、それでも診療室を後にした。
更衣室で検査着から私服に着替えている途中で、法子は上着のポケットに入れてあった携帯電話に着信が入っていることに気付く。
「実家から電話が……」
「法子、そろそろ帰るわよ」
「あっ、はい! 急がなくちゃ」
法子は手に持っていた携帯電話を鞄の中に軽く投げ入れて、慌てて着替えを済ませる。
「お待たせしました! 行きましょうか、八雲先輩」
――しかし鞄を勢い良く持ち上げたせいで、携帯電話は床に落ちてしまう。
それでも待たせている八雲の元へ行く為に、気が急いていた法子は気付かぬまま――。
携帯電話は診療所に残されることになった。
その夜、法子は機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、風呂に入っている。
「あの治療をはじめてから、例の忌まわしい出来事を夢に見ることはだんだんと減ってきたし、興奮がおさまらない身体を持て余すこともなくなってきたわ。この先、あの記憶を全く思い出すことは無いとは言い切れないけど……、それでも身体の中に溜まっていた穢れが浄化されていくことによって、大分気分も落ち着いてきたわね」
ほぅっと安堵のため息を吐いた時、家の電話が鳴っていることに気付く。
「こんな時間に誰かしら?」
まだ深夜という時間ではないが、夜も更けている。こういう時に電話をかけてくるのは身近な人だろうと思い、慌てて法子はバスタブから出た。
バスタオルを軽く身体に巻いた後、法子はようやく電話に出る。
「はい、九条院です。あっ……」
電話をかけてきた相手は、母だった。
何でも携帯電話に何度もかけても出なかったので、法子の家の電話の方にかけてきたようだ。
法子は母と親子の会話を十分ほどした後、改めて寝間着を着てから鞄の中を探す。
「アレ? やっぱり入っていない……。どこで落としたのかな?」
診療所を出る前まではあった携帯電話は、今現在、鞄の中には入っていなかった。
「う~ん。……とりあえず、明日組織で探してもらうことにしましょう」
翌朝、神器省に出勤した法子は、偶然にも八雲と会う。
「おはよう、法子。今日はどうしたの?」
「八雲先輩、実は私の携帯電話が……」
法子は昨夜診療所を出た後から、携帯電話を見ていないことを話した。
「帰り際、ちょっとバタバタしていたので、その時に診療所に落としたと思うんですけど……。神器省で携帯電話を追跡してもらおうと思って、来たんです」
退魔師は突然の呼び出しにも応じられるように、携帯電話を持たせられている。
その為、追跡機能がこの神器省のコンピュータと繋がっているので、例え充電が切れていてもどこにあるのか分かるようになっていた。
「ああ、昨日の帰りは私が急がせたからね。探すの付き合うわ。私の用事は済んだから」
「すみません。お願いします」
二人は事務室へ行くと、法子の携帯電話の現在位置を割り出してもらう。
「……ああ、やっぱりあの診療所ですね」
「それじゃあ行ってみましょうか。今日は平日だし、昼間でも開いているでしょうしね」
そして二人は診療所へ向かった――。
「アレ? ……診療所、開いていないんでしょうか?」
法子は診療所が静かなことを察して、首を傾げる。
八雲は建物の前にある診療日時が書かれた看板を見て、不思議そうに眉を寄せた。
「今日は休みの日じゃないし、診療時間内のはずだけど……開いていないわね」
正面玄関の鍵はしまっており、ガラス戸の向こうを見ても誰もいない。蛍光灯もついておらず、診療所内は暗かった。
「――法子、裏口に回ってみましょう」
「はっはい……」
胸騒ぎがした八雲は真剣な顔付きで、法子と共に慎重に裏口へ回る。ところが裏口のドアの鍵はかかっておらず、簡単にドアノブは動いた。
八雲は法子より先に中へ入って気配を探ったが、何の気配も感じ無い。
「……気を張りすぎたかしら? 淫魔は昼間には活動しないし、ただ単に出勤しても診療所を開けていないだけなのかも……」
低く呟きながらも、ゆっくりと診療所内に足を踏み入れた。
「法子、いつもの診療室へ行って見て。私も奥寺先生の診療室へ行くから、何かあったら大声を出すのよ」
「分かりました」
法子も緊張した面持ちで、通い慣れた村林の診療室へ行く。
「村林先生……、いらっしゃいますか?」
引き戸をゆっくりと静かに開けるも、中には誰の姿もない。
「変ね……。裏口の鍵を閉め忘れて、今日はまだ出勤していないのかな?」
不安げに法子は、診療室をキョロキョロと見回す。すると部屋の奥の隅に、一通の封筒が落ちているのが眼に映った。
「ここの先生の落し物かな?」
法子は封筒を拾い上げて見ると、消印が二年前の郵便物であることを知る。何となく気になった法子は中の手紙を取り出して、読んで見た。
そこに書かれた内容を見て、慌てて手紙を握り締めたまま八雲の元へ走って行く。
「やっ八雲先輩! この手紙、読んでみてください!」
「どうしたの? そんなに慌てて」
無人の診療室を調べていた八雲は法子の剣幕に驚きながらも、手に握らされた手紙を開いて読む。
「……なっ!? コレ、どういうことなの?」
手紙に書かれていたのは、二人にとって衝撃的な内容だった――。
手紙を送ってきたのはこの診療所に長年通院していた老人女性からで、送った相手は医院長らしい。
老人女性は医院長からこの診療所を閉めることを言われた為、長年の礼としてこの手紙を書いて送ったのだ。
しかし手紙には、この診療所のことについても詳しく書かれてある。
元々この診療所は、代々医者の一家が経営をしていた。
そして二年前まで医院長だった年老いた男性医師が、医大を卒業した一人息子が跡を継ぐと思い、この診療所を改装したらしい。
しかし息子は大学でしていた研究が世界に認められて、医者ではなく研究者になることを決めた。
医院長は残念がったがそれでも息子の功績を喜び、この診療所を終わらせることを決めたらしい。
なので老人女性は長年世話になったことの礼を、丁寧に手紙に書き綴っていた。
「……多分ですけど、その医院長はこの手紙を読んだ後、昨夜の私と同じで診療所に置き忘れてしまったんでしょう。部屋の隅の方にありましたから……」
いつも治療を受ける時には視界が届かない場所にあったということは、その可能性は非常に高い。
「そう……。でもそのおかげで、知りたくないことを知ることができたわ」
八雲は手紙を封筒に入れると、診療室の周囲を改めて見回す。
「私達は奥寺先生と村林先生から、『この診療所の関係者が神器省と関わりがあって、夜間にだけ特別に貸してもらっている』という説明を受けていたわね?」
「はい……。でも本当は違ったんですね」
既に法子も気付きつつある。
診療室は、綺麗過ぎたのだ。普通の診療室ならば置いてあるはずの医療道具が、ほとんど見当たらない。八雲と法子に不信感を抱かせない程度の物しか、置いてないのだ。
机の引き出しを開けて見ても、中は空。本棚にも何も入ってなく、医薬品も勿論置いてない。
「『診療所は綺麗で清潔な所』という思い込みと、『追い詰められていた精神状態で、深夜に治療を受けている』ことで、判断能力が鈍っていたのね。……退魔師として、情けないわ」
「やっ八雲先輩、では私達に治療をしていた二人は……何だったんでしょう?」
法子の顔に、怯えが浮かぶ。最早人間を表す『誰』とは言えず、頭の中が混乱してくる。
八雲は顔をしかめながらも、法子の腕を掴んで診療室を出た。
「とりあえず、法子の携帯電話を見つけるわよ。そしたら神器省に連絡をして、ここを調べてもらいましょう」
「そっそうですね」
二人は更衣室に入ると、床に法子の携帯電話が落ちているのを見つける。
「やっぱりここにありました! ……でもこの更衣室、白衣の二人なら必ず入ってきて、落ちている携帯電話に気付くはず……ですよね?」
携帯電話を拾い上げた法子は、震える声を出す。
八雲は悔しそうに、前髪をぐしゃり……と手で乱暴にかき上げた。
「……悪い予感ほど、当たりやすいものなのよ。――そう、『アイツ』らは更衣室なんて使う必要がなかったのね」
その後、二人は神器省に連絡をして、すぐに調査員達が診療所に訪れる。
そして半日が経過すると、分かったことがいくつかあった。
近所の人に聞き込みをしたところ、やはり診療所は二年前に閉院したそうだ。医院長は妻と共にアメリカにいる息子の所へ行ったらしく、残った診療所は売り出されたようだが、いつの間にかその看板が外れていた。
近所の不動産に連絡を取って、診療所の見取り図を手に入れる。それから診療所内をくまなく探すと、地下の物置部屋への扉が隠されていたことに気付く。
カモフラージュとしてか空の本棚が置かれており、それを避けると扉が現れた。扉を開けると、中から激しい腐臭が漂ってくる。
調査員と共に、八雲と法子は鼻と口をハンカチで塞ぎながら地下階段を降りると、たどり着いた物置部屋から死後一ヶ月は経過している腐乱した二体の遺体が発見された。
身に着けている物や床に乱暴に置かれた私物を調べてみたところ、奥寺と村林の『本人』であることが判明する――。
【新たな淫魔との対戦】
次の日の夜、八雲と法子は戦闘体勢を整えて、指定された時間にS公園へ訪れた。
公園と言っても遊具は少なく、広い敷地内には木や植物が多い。そのせいか怪しげな気配を持つモノがいても、気付きにくい。
だが完全回復とまでは言えないまでも、充分に休息をした八雲と法子は異様な気配の元へ真っ直ぐに歩いて行ける。
「アラ、二人共、どうしてそんな格好をしてきたの?」
「もしかして今夜は、深夜パトロールの当番なのかしら?」
奥寺と村林の姿をしたモノは、二人の姿を見て眼を丸くした。
「ふざけるなっ!」
険しい八雲の声が、はじまりの合図となる。
八雲と法子は霊刀を引き抜くと、奥寺と村林に向かって斬りつけた。しかし二人は身軽にヒョイっと避けると、後ろに飛び下がって距離を取る。
「いきなり斬りつけるなんて、どうしたの? 八雲さん」
「法子さんったら、今夜はせっかく最後の治療の日なのに……」
「あんな治療方法と新薬は開発されていないと、神器省に確認を取った!」
「よくも騙したわねっ!」
二人は退魔師として、そして一人の人間の女としてのプライドを傷付けられて、恥ずかしさと情けなさから顔を真っ赤に染めていた。霊刀を握る手もブルブルと震え、怒り心頭であることが見て分かる。
奥寺と村林に変身していた二人は互いの顔を見合わせると、大きく息を吐く。
「……後もう一歩だったのにね」
「やっぱり場所を変えたのが、ダメだったのかなぁ?」
甲高い少女の声が二人の口から出た瞬間、その姿は全身黒く染まり、ぐにゃり……と歪む。
眼を見張る八雲と法子の前で、徐々にその姿は同じ顔をした二人の美少女へと変わっていく。
「でもどうしてバレたの?」
奥寺に変身していたナグは、不思議そうに首を傾げながら問いかける。
「二日前の治療の後、法子が診療所内に携帯電話を置き忘れたんだ。場所は更衣室、見つけなかったのがお前達の失敗だったな。おかげで昼間に診療所へ行って診療室の異常さに気づけたし、二人の遺体も発見できた」
八雲が苦々しく答えると、ナグは肩を竦めて頭をゆっくり横へ振る。
「更衣室なんて最初にあの診療所へ来た時以外、入らなかったわよ。まさか忘れ物をされるなんて、ね」
「案外ドジっ娘なんだねぇ~♪ 法子ちゃん」
イェグにクスクスと笑われて、法子は怒りで頭の中がカッと熱くなるのを感じた。
「黙れっ! よくも私達を弄んだ挙句、仲間を殺したわね!」
「ああ、あのオバサン二人組のこと?」
「イェグ達が変身するのに、ちょうど良かったんだよね~」
罪悪感が全くない二体の淫魔は、ケロッとしている。
八雲は霊刀の切っ先を二人へ向けながら、眼を細めた。
「どうしてこんな回りくどいことをした?」
「最初は『シャドウを倒した退魔師』としてしか、興味は持っていなかったわ。それとまあ『割と戦える人間のメス』ぐらいの認識ね」
「でも見続けているうちに、イェグ達好みに調教したくなっちゃったんだよ♪ でもあんな治療方法、普通あるわけないじゃん。気付かないなんて、よーっぽどお疲れだったんだね」
ナグとイェグは意味ありげに笑う。
八雲と法子はあの淫らな治療を思い出して、悔しそうに唇を噛む。
冷静に考えてみれば、確かにあんな治療方法が存在するはずがない。――今はそう思えるのだが、一ヶ月前までの自分達はそれすら気付けないほどに弱っていたのだ。
「でも私達がしてあげた治療のおかげで、シャドウが残した傷は癒えたでしょう?」
「随分と無謀なことをし続けているから、何とかしてあげたくなっちゃったんだよね」
双子の淫魔はあくまでも、自分達がしたことは親切であるとでも言うように語る。
耐え切れなくなった法子は、八雲より一歩前に進み出た。
「ふざけないで! そもそも今夜、ここに私達を呼び出したのは何故なの?」
「そりゃあ、ねぇ。ここまで仲良くなったんだから」
「せっかくだしぃ、イェグ達のおウチに招待してあげても良いかなって」
それはつまり、二人を捕らえるつもりだったのだろう。
八雲と法子は厳しい表情で、改めて霊刀を握り締める。
「生憎と、屈辱の日々はもう飽きたのでな」
「ここでお前達を倒して、あの治療と称した陵辱のことを乗り越える!」
「ふふっ、可愛らしいほど勇ましいわね」
「今なら全力で戦えるだろうし、頑張って♪」
ナグとイェグはまるで、他人事のように嘲笑う。
それが余計に、八雲と法子の怒りに火をつけることを分かりながら――。
「舐めるなよ! 淫魔め!」
「ここで決着をつける!」
そして闇色に包まれた世界で、戦いの火花が散った。
これはbc8c3zがあらすじ・設定を作り、それを元にある方に書いてもらった綾守竜樹先生著・魔斬姫伝の2次創作です。
綾守竜樹先生のファンの方に読んでいただければ、それに勝る喜びはありません。
一瞬でも先生がいなくなったことの皆さんの孔を埋めれれば幸いです。
感想があれば励みになりますのでお書きください。
またアンケートだけでもいただけたら今後の参考になりますので入れてください。
綾守竜樹ファンサイト(更新も一度の分量も多いです)も作りましたのでそちらもご覧いただければ幸いです。
https://ben1986.sakura.ne.jp/ben1986.sakura.ne.jp/
よろしくお願いします。