※この作品はR-18です。

鉄の空   作:伊土 讃阿

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第四心魔法 2

 

 

 

「――申し訳ありません、先生。この組み合わせの回路も、残念ながら整合性に欠けるようです……これでは血液が逆流してしまいますね」

「まァまァ、こういうこともあるよっ。まだ、はじめたばかりなんだし、気にしない気にしない!」

 

 ばつが悪そうなミルテさんを、黒板に展開した図面の一部を消しながら先生が励ましました。

 

「ほら、ぼくも、ここまではかなり妥当な線いってると思うし……この第三から第五予備心臓の間とか、まだ解読できてない部分がありそうだし。ね?」

 

 第六天が記されているというエメラルド板の解読も、中盤に差し掛かりました。各要素の機能がおおかた判明してきたため、全体像を掴む段階へと移行したのです。

 

 ここからは先生よりも回路に暁達しているミルテさんが研究を主導することになったのですが、なかなかどうして捗々しくない按配。ミルテさんはこめかみを指で押さえ、らしからぬ重い溜息さえ見せています。

 

「いえ、すみません、こんな初歩的な間違いを犯すなど、やはり浅はかすぎました。もう少し慎重に思慮していれば、先生の計算が徒労に終わることは――」

「はい、はい。だーかーら、気にしないのっ。どうしたの? 今周のきみ、なんかおかしいよ?」

 

 先生の指摘通り、ミルテさんはこころなしか気迫がなく、一向に集中できていないように見えます。一方で先生は、今周はすこぶる調子がよろしいようで、わたしも食事当番ではありません。つまり、講義の法則からは外れる周です。

 

 にも関わらず、窃視の悪徳を積み重ねるのは、もはや悪徳がわたしの一部となってしまっているからでしょう。そもそも法則を見つけられたのも、こうして毎回、ふたりのやりとりを覗いている成果でもあります。そう自分に言い聞かせ、わたしは先生に教えてもらった魔法を穢し続けているのでした。

 

 今周はもう終わり、とばかりに先生は眼鏡を外し、散乱させた羊皮紙を片付けはじめました。ミルテさんは素直に打ち明けました。

 

「……すみません、恥ずかしながら、今周は体調が万全ではないのです」

「えっ!? 怪我……ならすぐ治しちゃうよね。なんかの病気? もしかして、ぼくのがうつった、とか? だいじょうぶなの?」

 

 たたみかけるように質問し、本気で心配している先生。ミルテさんは誰かに聞かれやしないか警戒しているかのように声を落として吐露しました。

 

「実は……今周は、新月なのです。これまではなるたけ薬で抑えていたのですが、手持ちも切らしてしまっていて、もう猟民ではありませんので新たに処方していただくわけにもいかず――」

 

 シシは、己の魂に根付いた月が新月になると、魔法の出力が著しく衰退します。なかには、ほとんど魔法が制御できないほど重い新月のシシもいます。それは、高出力を誇る角ありでさえご多分に漏れません。

 

 ゆえに、猟民は新月を薬で軽減するのが常となっています。己の魔法のちからだけで過酷な塔外を生き抜く猟民にとって、新月であること以上に危険な状態はありません。

 

 長い間、純粋な新月をまともに体験していなかったミルテさんは、戸惑いと不安を隠せないようでした。

 

「申し訳ありません。今周は失礼します」

「えッ? もう帰っちゃうの?」

「ええ……、こんな状態ではご迷惑ですし、自室で養生したいと思います。先生もお休みになってくださいな」

 

 吐息とともに、ミルテさんがそう告げると、先生は落胆したような面持ちに。そして、帰り支度を整え、いざ退出しようとしたミルテさんをちょっと待って、と引き留めると、どうしてだか黒板に貼りつけていたわたしの羊皮紙をひっくり返し、先生がぼそぼそと消え入るような声で提案しました。

 

「――たげよっか」

「……はい?」

「だから、その――つらいなら、鎮め、たげよっか」

 

 わたしはわが耳を疑いました。それはミルテさんも同様で、面食らったような表情でたずねかえしました。

 

「どういう、意味でしょうか」

「すっきりすれば、研究、まだ続けられるんじゃないかな、って……」

「いえ、あの、そこまでしていただかなくとも、研究ならまた今度――」

「ああもう、いいから座る! で、服も脱ぐ! わかった!?」

 

 まごつくミルテさんを強引に寝台へと押し戻すと、先生は黒板のほうを一瞥して何かを確認し、ミルテさんの前で膝をつきました。ミルテさんの下着をずり下ろすと、萎びたままの陽根をつまんで持ち上げ、その下の陰唇を覗き込みました。そこはしとどに濡れて、かすかに息づいています。

 

 先生は人差し指でこぼれる体液を掬い、円を描くみたいに陰部の入口をくるくるとなぞりました。くすぐったがりのミルテさんにはたまらないのでしょう、わずかに身じろぎして短く息を漏らしました。

 

 性器の周囲をすっかりべとべとにすると、先生は中指をゆっくり膣内へと沈めはじめました。

 

「確か……この辺、だった、よね」

「んッ、っくぅ……ふッ、ふッ……」

「どお? ちゃんと、できてる?」

「は、いッ、とても、んッ、きもちがよい、です……ッ」

「んー、でもなんかまだ、余裕ありそうだね――これでどおだっ」

「ニッカ……ッ!? そッ、そっち、は――ッ」

 

 愛液を掻きだすように粘膜をほじくりつつ、先生が割礼されたミルテさんの陽根をぱくりと口に含みました。唾液をたっぷり含み熱くとろけているであろう口内でもごもごとねぶりまわされ、ミルテさんの声は切羽詰まったものへと様変わりします。

 

 ミルテさんの反応は無理もありません。わたしが新月を迎えたときも、先生は今とおなじ愛撫をしてくれるのですが、三分ともったためしがないのです。

 

「んむっ、ぷはっ、んっふふ、すっごい膨らんできたね……♥」

「ニッ、カ……これいじょ、は、いけまっ、せん……っ」

「だぁいじょうぶ♥ 安心して♥ 今、ぼくが楽にしたげるから……♥ やさしくしたげる♥ あやしたげる♥ 甘やかしたげる――っ♥」

 

 艶めかしく笑むと、先生はすっかり張りつめた怒張をくわえなおしました。ねっとり柔らかい舌と粘膜、体温と唾液で陽根を優しくとろかしながら、膣に挿し込んだ指で腺の裏側をずりずり擦りあげこりこり揉み解しているのを見て、破裂せんばかりにわたしの心臓が悸ちました。意識を名前に移している状態でも、己の太ももがじっとり湿り、昏い滾りが目覚めるのを感じます。

 

「はあっ、ニッカ……ッ、そんっ、なに、されたら……っ、果てて、しまいま――ッ!」

 

 ミルテさんが早くも限界を訴えるやいなや、先生はエメラルドの虹彩をきらきら輝かせると、唇がミルテさんの下腹部にくっつくほど陽根を飲み込みました。ミルテさんはぶるぶるっと腹筋を波打たせて寝台の縁を掴みました。

 

「くぁ……っ、ふッ、ニッカっ、いま、されては……っ、とまら、なく……っ」

 

 ミルテさんが達しようとも、先生は陽根への吸い付きと分泌腺への愛撫の手を休めることはありませんでした。ミルテさんは身体の外と内の両方で交互に、甘く緩やかで強制的な絶頂を味わっているようでした。喉をこくり、またこくりと動かし、体液を絞り上げ続ける先生はどこか嬉しげで、満ち足りたような顔で、歯を噛みしめて声を殺すミルテさんを見守っていて――。

 

「んむ……っ、んくっ、……ふぅー、んふふ、いっぱいイッちゃったね……♥」

「すみません、抑えがきかなくて――」

「たっくさん出さなきゃ、意味ないでしょ。んー……、でもまだ、すっきりしてないよね」

「あの……、はい」

「だと思った。んじゃ、次は――」

 

 くすりと小さく、そして妖しく笑うと、先生はミルテさんを寝台に押し倒し、その上にまたがりました。そのまま衣装をお腹までたくし上げ、下着に包まれた秘部を陽根に押し付けると、腰を前後させつつ、ミルテさんの陰唇を片手でいじりはじめました。それは見る角度が違えば、挿入し、交わっているようにしか見えなかったことでしょう。

 

 不意に、わたしの肉体が大きく揺さぶられ、壁の名前のなかに沈んでいた意識が無理やり浮上させられます。ハートでした。

 

「今周は食事当番ではありませんのに、仮眠が長いんですのね」

 

 サファイアの双眸がやたら煌々とぎらついています。こころなしか厭味ったらしくも聞こえるのは、窃視の悪行を妨害された、八つ当たりじみたわたしのこころの狭さゆえんでしょう。今さっきまで網膜の裏側に投影されていた光景が、眼球を通して垣間見られそうで、わたしは起き上がると、顔をそむけました。

 

「昨周、寝付けなくて」

 

 ハートは押し黙ったまま、わたしの横顔をじいっとねめつけています。

 

 ――いつからでしょうか。タルトに、親友に、大切な家族に、嘘を吐くことをためらわなくなったのは。目を合わさなければ、嘘を吐くのが少し楽になると気づいたのは。

 

 いつまでも続くかと思われた重い沈黙を破ったのは、ハートの、悲痛に絞り出されたみたいな問いでした。

 

「――なんとも、思わないのかしら?」

「……なにが、ですか」

 

 もしやと、やはりとも思いつつ、しらを切るわたし。ハートは、今や双子よりも大きく膨らんだ胸の前で拳を握りしめ、苦々しげに吐き捨てました。

 

「――大切なひとが、自分以外のひとと交わっているのを見て、なんとも思わないのかしら?」

「……知ってたん、ですね」

「二月以上前から、知ってましたわ」

 

 ハートは鼻を鳴らしました。ミルテさんが養護室に足を運ぶたび、わたしは必ず仮眠をとっていましたから、同居者であり聡いハートになにかを悟られるのは時間の問題だとは思っていましたが、まさかほとんど最初からだったとは――。

 

 しかし深く考えなくとも、そもそも先生と双子の情事を覗かせたのはハートなのですから、それは自明のことでもありました。ハートもまた、あの壁のどこかにその名を刻んでいて、先生の部屋を覗き見していたのでしょう。

 

「……治療や講義のことは、わたしも、先生も、承知の上、ですので」

「治療ッ!? 講義ッ!? ふざけるのも、大概にしてくださるッ!?」

 

 突然、声を張り上げるハートに度肝を抜かれます。初めて見るハートの猛烈な剣幕に、わたしは気圧されてしまっていました。

 

「あのひとは――あのひとはッ! 今ッ、発作も起きてなければッ、薬も使ってないではありませんのッ! 自ら望んで、不貞を働いているではありませんのッ!」

「――ッ!」

 

 考えまいとしていた事実を突き付けられ、わたしは脳天を強打されたような眩暈を覚えていました。ハートはさらなる追い打ちをかけました。

 

「あのひとは! あなたを、裏切り続けているんですのよッ! それを、承知の上ですって!? あなた、たちは! どうか、してますわ! それともッ! その程度なんですの!? あなたたちは、その程度にしか、互いを想っていないんですの!?」

「……っ、そんな、こと、ないです。先生は、わたしにとって、地平線にも等しい存在、ですから」

「ならばどうして!? 一番、一番犯されざるもののはずですわ! 一番守らなければならないもののはずですわ! それをただ、指をくわえて見ているだけだなんて! 覗いているだけだなんて!」

「……ハートには、なにもわかりっこありません」

「理解できるはずが、ありませんわ! わかりッ、たくもッ、ない……ッ!」

「……」

 

 瞋恚、厭忌、それに惨痛さが等しく混合された様相。

 

「――あのひとも! あなたも! あなたたちは、きっとこころが、魂が壊れているんですわ……! 心臓が、ふたつずつあるに違いないですわ……ひとりを想うだけで! 死ぬほど辛いのに!」

「……そうかもしれません」

 

 わたしはタルトのほうを直視できないまま、自嘲気味に笑いました。

 

 本心ではありませんでした。わたしはわかっていました。こころがふたつあったわけじゃない――こころが、ふたつに引きちぎられただけ。きっとある意味で、先生と出会ったことを契機に、わたしたちのこころはわかたれてしまっていたのです。

 

「なら――もう片方は、あたしがもらってもかまいませんわね」

 

 だしぬけに顎に手を添えられ、唇をふさがれました。薄く、柔らかく、瑞々しい皮膚の感触。くちづけの感触。

 

「……ハート、どうして――?」

 

 わたしは呆然として言葉をつづけられず、耳まで真っ赤に染めたハートをただ見つめました。

 

「本当は覗きたくて覗いているわけじゃないのに、本当は傷ついていて、苦しくて苦しくて仕方ないのに、そんななんでもないような態度をとるあなたが、親友として、気に入らないだけですの! だから……だから、もう片方のあなたが、覗かなくて済むようにして、差し上げますわ」

 

 ハートがわたしの下半身に手を伸ばしました。服をまくりあげ、下着を剥ぎ取ろうとするハートを、わたしは押しとどめました。

 

「ハ、ハート、あの」

「あなたはじっとしてればいいんですの、――ッ!?」

 

 陽光のもとに暴かれた、わたしの硬く張りつめた陽根を間近で目にしてハートが言葉を詰まらせました。わたしも月の近い子にあられもない状態の生殖器を目撃されたことによる羞恥から、身もだえしたくなります。

 

「これはまた……実に、武骨で――、ッ、熱いんですのね……」

 

 緊張からか、震える手でハートがこわごわと鉄杭さながらに屹立したわたしの陽根にそっと触れました。ハートの手のひらは、ひんやりすべすべしていて――わたしの穢れた熱が洗われるかのよう。

 

 ハートはそのまま真剣な眼差しを一物へと注ぎながら、ぎこちなくも努めて優しい手つきで扱きはじめました。つい五秒前までハートを押しのけようとしていたわたしは、一切の身動きが取れなくなり、ただ息をかすかにこぼすだけとなりました。

 

「く……ハー、ト……」

「痛み、ますの?」

「いえ、……いい、ですけど」

 

 ハートは逡巡してから、顔をますます真っ赤にして訊きました。

 

「ぉ、おくちでするほうが……いいの、かしら?」

「えと、そう、ですけ――ひゃっ!?」

 

 唐突に、尋常ならざる熱さの舌が陽根に押し付けられました。薄い舌を懸命に動かして、先端の敏感な粘膜に粘度の高い唾液がまぶされていきます。

 

 先生よりもずっと体温が高いせいか、あるいはほかの要因か、ハートの唾液が塗られたところがやたらとびりびり痺れ、わたしに腰を引き気味にさせます。

 

 性器に舌を這わせているうちに次第に緊張がほぐれてきたのか、ハートの目じりがとろんと下がってきました。

 

「はぁ……すごい、……におい、ですわね……くらくら、してきましたわ……」

 

 そう呟きつつも、すんすん鼻を鳴らし、新しい玩具に夢中になるこどもよろしく、舐めることだけはやめないハート。ところがその一方で、わたしの反応を逐一うかがいながら、舌で雁首を軽く弾くみたいに弄んだり、尿道口をちろちろとくすぐったり、いろんな刺激を試してくる辺りは、さすがまじめっ子と言ったところでしょうか。

 

「はっ、はあっ、そこっ、あっ、そこもっ、いっ、いいっ、です……っ」

 

 わたしが多様な愛撫に対して明確に反応すると、ハートは笑みをこぼし、だんだん余裕を見せはじめました。

 

「もう、タルトは弱点ばっかりですのね。あっちがいい、こっちがいいと言われましても、そんなに舌はありませんわよ」

「あっ、はあっ、だ、だってっ、ハート、すっごく、上手、で」

「こんなこと褒められたって、嬉しくありませんったら……」

 

 ますます顔を赤らめて、ハートが恥じらいます。そして照れ隠しのつもりか、大きく口を開けて、かわいい八重歯を覗かせて。

 

「なら、これはどうかしら――あむっ」

「わひゃあっ!?」

 

 肉茎が、柔い柔い粘膜に包み込みます。こどもの狭く熱く、先生とはまったく違った口内――まるで局部だけ、熱湯に浸かっているみたいでした。くわえこまれているだけで、避けようのないぴりぴりじわじわした快楽が腰を登ってきます。

 

「んむ……ぇお……んじゅ……っ」

 

 ハートはみなぎったわたしを頬張ったまま、舌を使い粘液を染み込ませんばかりに塗りつけてきました。たまさかに歯が当たり、ちくりと痛みが走りますが、それを差し引いても初めてにしてはずいぶん巧みで、かつ、月下の角なしの子に口淫させているという事実が、わたしを急速に昂ぶらせていきます。

 

「んぷっ、は、なんだか、味が、きつくなってきましたわね……」

 

 ――かてて加えて、ハートはこの辺りの階層でも、いっとうきれいな子でした。先生のようにあどけなさを残しつつも、ミルテさんのような整った容貌。一見して、艶やかな黒髪に凛とした印象を受けつつも、まばゆい白い肌が華奢さをもうかがわせ、長いまつげに縁どられた澄んだサファイアの可憐さにはぞくぞくさせられるものが秘められています。発育もはなはだ順調で、こどもでありながらこどもを産めるかたちをした、すなわちおとなとこどもがまぜこぜになった、奇妙に蟲惑的な肢体には、自然と視線が吸い寄せられます。つっけんどんでしかつめらしくとっつきにくい性格でなければ、きっと多数のシシから好意を寄せられていたことでしょう。

 

 ハートはわたしにとって親友で、同居者で、家族でしたから、普段から劣情と繋げることだけはできるだけ避けていましたが、いざそういう事態になってみると、窃視で極限まで高められていたわたしの情欲は、自制が効かぬほど煽られていました。

 

 わたしが腰を引くと、ハートは怪訝そうに顔を上げました。わたしはすかさず、その無防備な唇をふさぎました。

 

「んむッ!? んーっ、んっ」

 

 唇を重ねたまま押し倒すと、経験のないハートには予期できなかったのでしょう、いささか抵抗するような素振りを見せます。が、薄い唇を舌で断ち割り、歯茎の裏をねっとり撫でると、くたっとちからを抜きました。

 

 寝台の上で惚けるハートの上下する胸に、目を奪われます。わたしの乳房よりふたまわりも豊かなハートのそれは、おとなと遜色ない確かな存在感をわたしに与え、無意識に触れさせたものの、胴着の上からでもはっきりわかる、そのあまりの柔らかさにわたしは驚き、ぱっと手を離してしまいました。

 

 ハートは顔をそむけ、間近でもかろうじて聞き取れる声量でささめきました。

 

「すきに……さわっても、かまいません、わよ。大きさには、ちょっぴり、自信あります、から……」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 許可をもらったことをいいことに、わたしは本能の赴くままにハートの胸をむにゅむにゅ揉みしだきました。先生の胸部は一切の起伏がありませんでしたし、そもそも一度たりとも触れさせてはくれませんでしたので、わたしは発展途上の脂肪の柔らかさにすっかり魅了されます。

 

 しかし乳房を堪能するのも束の間、わたしはハートがわずかに身体を強張らせていることを発見しました。まだ心中には、恐れの成分のほうが多く占められているのだと推しはかれます。

 

 そこでほとんど撫でくすぐるような愛撫に切り替えると、徐々にですがハートは肩を震わせ息を荒げはじめました。時折指先が胸の先端をかすめると、喉奥から声を漏らしています。

 

 布越しに伝わってくるハートの火照りをもっと感じたくて、服の下に手を滑りこませました。すべすべとしてなめらかで薄く、角質層が形成されていないので熱伝導率が高いこどもの皮膚は、わたしに手の境界を見失わせるほどここちよい手触りをもたらします。

 

「んっ、んっ……、ふぅン……ッ、くっふ……っ」

 

 乳首を優しく指の腹で転がしてやると、ハートは自分の指を噛んで必死に声を押し殺しました。ハートがわたしの愛撫にいちいち戸惑いつつも、快楽を見出しはじめていることは明白で、肌はかすかに汗ばみ、乳首をかちかちに充血させ、お腹をわたしに押し付けてきます。ハートの初々しく愛らしい反応はわたしには新鮮で、燃え上がった嗜虐心へさらに油を注ぎます。

 

 服をはだけさせ、下のほうにも触れようと下着に手をかけると、ハートは慌てて太ももを閉じ、わたしの腕を掴みました。ハートはサファイアを潤ませ訴えました。

 

「ぁぅ……そッ、そっち、は――」

 

 やりすぎたかと一瞬反省しますが、無性にいじめたおしたくさせるハートの泣き顔を目にして、理性は再びいずこかへ。

 

「やさしく、しますから」

「……そういう、問題じゃ、ありません」

 

 唇を噛み、太ももをもじもじと擦りあわせていたハートは、やがてなにかにこころを折られ、許しを請うみたいに囁きました。

 

「なにを見ても、ぜったい、ぜったいに……黙っていて、くださる、かしら……?」

「誰にも言わないと、約束します」

 

 濡れたサファイアをひたと見据えてそう誓うと、ハートはのろのろと下着を脱ぎました。わたしの時は止まりました。ハートの薄い陰毛に飾られた未熟な秘唇の上に、小さな孔を備え、ひきつった、古い傷痕のようなものがあったのです。さながら、なにかを削り落としたか、切除したかのような、痕が。

 

 二の句が継げられないまま凝視していると、ハートはさっと手で股を覆いかくし、涙ぐみながら、か細い声で告げました。

 

「……あのひととか、メグ先生が言うには――生まれたときは、あった、そうですの」

 

 よもや――ハートが、角ありだったなんて。わたしは予想だにしなかった真実に、かつてない衝撃を受けると同時に、腑に落ちるものを感じていました。ハートの並みならぬ魔法の才覚、猟民への強い憧憬。それらはすべて、ハートが器官を喪ったことを背景としていたのです。

 

 その痕を他人に曝け出すことが、自尊心の強いハートにとっていかに屈辱的で、どれほどの覚悟を要したことか、わたしには到底はかり知ることができません。ですが、それだけわたしのことを信頼してくれている証左でもあります。

 

 自虐的にハートが言いました。

 

「ぶさいく、です、わよね……」

「――そんなこと、ありません」

 

 ハートのことが、愛おしくてたまらなくなります。いとけないその身もこころも、魂を形成するいかずちとほむらの一粒まで、本当にわたしのものにしたい、支配したいというきもちが、急速に増大してきます。

 

 ハートの頬を伝う涙を舌で掬いました。まだ血漿が成熟しきってないからでしょうか、舌に絡みつくほど甘ったるい先生の涙とは対照的に、やけに塩辛い味が喉を滑り落ちていきます。

 

 瞼、額、鼻梁、頬、首筋と口づけを繰り返します。ハートが再び鼻にかかった声を出しはじめます。股間を押さえるハートの手のひらの下に、指を潜り込ませます。今度は拒まれませんでした。

 

「ん……っ、うぅん……ッ、ふっ、く……っ」

 

 性器の入口をつっつき、割れ目をなぞります。はじめはぴっちり閉ざされていた秘肉ですが、すでに興奮状態にあったことと、執拗な責めに、やがては発熱し、なかから粘液を滲ませ、割れ目が綻んできます。

 

 指をゆっくり挿し込むと、ざらついた粘膜にぎゅうぎゅう締め付られ、外へ押し出されてしまいました。入り口で指をくるくるまわして、肉をほぐしていきます。

 

「んっ、んっ、ん……っ、は……っ、はふ……っ、タル、ト……っ、タルッ、トぉ……っ、んぅっ」

 

 陰唇をかきまわしつつ、切なげにわたしの名を紡ぐ唇に吸い付きます。ハートの舌を甘噛みし、口蓋をねぶるにつれ、下のほうも指の動きに合わせて柔らかく粘膜も形を変えるようになり、どろどろに分泌された煮えたぎらんばかりに熱くねばつく愛液でわたしの指を濡らしました。

 

 息継ぎのために顔を離すと、赤面症のハートはもはや顔だけにとどまらず乳房まで、強烈に情欲を催させる鮮やかな朱で彩っていることを見つけました。あのハートがわたしの指で、きっと初めての性感を味わい、はしたない姿を見せていることがうれしくなって、幼い内臓の感触を確かめるようにますます滑りがよくなった体内を弄びながら、かわいらしい耳をかじり、蠱惑的な黒髪を鼻先で掻き分け頭皮の匂いを嗅ぎました。石鹸と汗と、こどもの肌の甘い匂いがじんわり脳みそに浸透します。

 

「ぅ、はっ、はっ、はっ、あっ、つっ、あっつ……っ」

 

 気づけばハートは息を切らし、全身汗みずくになり、すっかり虚脱していました。べっとり張り付いた服を脱がそうとしても、わたしにされるがままです。

 

 ハートの白い素肌に浮かんだ汗が、陽光で硝子玉さながらにきらきら輝きます。ハートの肢体は肉付きがかなりよく、出るところは出ている一方で、きちんと引き締まってもいるのは壁登りの成果でしょう。めちゃくちゃにしたいという浅ましく破壊的な衝動で心臓が張り裂けそうになりながら、絶対に触れてはならぬあらたかな偶像を前にしているかのような神妙な気分にさせられます。思わず見惚れていると、ハートが心細げにわたしの服の裾を引っ張りました。

 

「……し、しません、の……?」

「いいん、ですか?」

「ばかタルト……いまさら……なに言ってますの」

「あ、でも、羊の盲腸が――」

「……病気でも新月でもありませんし――ふたりで精魔法を使えば、きっとだいじょうぶですわ」

 

 ちょっぴり拗ねたハートのくちぶり。気恥ずかしさが、勝ってきたのでしょう。わたしは頷いて手早く自分の服を脱ぎ捨てると、いきり立った陽根を痕の下にあてがいました。

 

 いささかの抵抗を残しつつも、よくほぐし、濡らしておいたおかげでしょう、ずるりと根元まで剛直が収まります。幼膣のもたらす窮屈さもさることながら、その体温の高さにはもっとも驚かされました。一瞬、間違って溶鉱炉のなかに陽根を突っ込んでしまったのではないかと誤解するほど。

 

 ハートのほうはというと、ぎゅっと眉に硬そうな皺を寄せていました。

 

「痛い、ですか?」

「っく、おもってたより……っ、へいきっ、ですわ……すきに、うごいて、かまいません、わよ」

 

 言葉とは裏腹に、ハートはあまり余裕がなさそうです。かと言って行為を中断しようものなら怒りだすに違いありませんから、わたしはハートを労わりながらゆっくり抽送をはじめました。

 

「ふうぅッ、……ぅくッ、ひぅ……っ、か、ふ……っ」

 

 苦悶の成分も含まれた、悩ましげな声――ハートの体内を堪能するのもそこそこに、陽根で粘膜を撹拌し、ハートの声音が一番甘くなったところを探り当てるや、集中的に小突きました。

 

「んッ!? んッ、んッ、んッ、タ、タルト……っ、そこぉっ、そこばっか、り――っ」

「どう、ですか?」

「なんだかっ、もどかしくって……っ、むずむずっ、します、わ……っ」

 

 どうやら悪くはない感触です。そのままそこをじっくりねっとりしつこくえぐっていると、本当に火傷させられるのではないかと怖くなるほど、ハートの体温が上昇してきました。

 

 交わっているときの先生とも比較にならないほどの熱――それは、わたしの不灼を灼いてすすぐような、純粋な熱量そのものでした。

 

 息苦しい――息苦しくてたまらない。ハートを抱いている高揚と背徳感が、わたしをひっきりなしに苛みます。

 

「はっ、はっ、はあっ、はあああっ、あっ、あっ、タルっ、トっ、タルトッ、タルトぉッ」

 

 ハートはいつしかせわしなく喘ぎ、わたしの名前を連呼するようになっていました。わたしの身体の下であますところなく乳色の未熟な肌をさらし、陽根を絶えず幼孔に抜き差しされ、翻弄されるその様を目にして、近頃、否、先生では一度たりとも得ることのなかった優越感と充足感に、わたしは自制もままならず、腰の動きを加速させてしまいます。

 

 一五〇月にも満たぬこどもが、角ありの蹂躙を淫蕩な表情で受け入れる構図――昂ぶらぬ道理がありません。

 

「んぁッ! あんッ! ぅううんンッ! ふぅーッ、ふぅーッ、んっふうぅッ! んっ、んちゅっ!」

 

 ハートももう痛みは感じていないようで、せわしなく喘いでいたかと思うと、おもむろにわたしの首にかじりついて唇を重ねてきました。舌を引きずり出され、強く吸引されます。汗ばんだ素肌が密着し、わたしの慎ましい乳房がハートの豊かな乳房で押しつぶされます。硬い肉襞がわなないて、さらなる摩擦を生み出します。普段は毫も見せない淫靡で貪欲なハートの行動に、腰の奥で溜めこんでいた昏い滾りが暴発します。

 

「んんんッ!? んっ、む――ッ、あ、つ――ッ」

 

 行き止まりに先端を擦りつけ、いたいけな子宮に精を注ぎ込みます。まばゆい閃光のごとき悦びが、脳天から爪先まで駆け抜けます。かつて体験したことのない、凄絶な射精感――息が詰まり、ハートの矮躯をきつく抱擁していなければ、四肢がばらばらになってしまいそうなほど。そしてその絶頂と解放は果てがなく、わたしはしばしの間、意識を飛ばしてしまっていました。

 

 長い長い、あまりにも長い頂からようやく降りてくると、焦点の怪しいサファイアと目が合いました。甘い倦怠感のなか、わたしたちは自然に顔を寄せあい、舌を絡めあっていました。口を離すと、ハートはわたしの唇の唾液を指で拭き取りました。

 

「……満足、できましたの?」

「……はい。ハートは、どうでし――ひゃわっ」

「ぶすいなひとですわねっ」

「ひゅみまひぇん」

 

 強めに頬をつねられます。ハートがむくれてみせました。

 

「――悪くはありませんでしたけど。正直言って、あなたが手馴れてることが、腹立たしいことこの上ないですわ」

「……すみません」

「ちょっとは……、気晴らしになったのかしら?」

「かなり、楽になりました」

「……そう」

 

 なにか言いたげな瞳で、つねっていたわたしの頬を軽くひと撫ですると、ハートは立ち上がり、衣服を身に着けはじめました。

 

「――身体を洗ってきますから、ごゆっくり」

 

 ハートが部屋を出ていくなり、わたしは識魔法を励起させました。先生の寝室――寝台に仲睦まじく、つがい然として並んで横たわる、先生とミルテさんが網膜の裏側に浮かび上がります。

 

 先生は着衣も髪も乱れておらず、交配をした雰囲気はありません。わたしはほっと胸を撫で下ろしました。

 

 ――悪い月の処理をしただけ。わたしが先生にお願いした通り、ミルテさんのちからになってあげただけ。わたしは何度もそう唱えました。

 

「――髪、伸びてきたね。梳いたげよっか」

 

 ミルテさんの腕のなかで、やや癖っ毛気味でふわふわした金髪をもてあそびながら、先生がたずねました。

 

「魅力的な提案ですが、遠慮させていただきます。角ごと切り落とされては、困りますからね」

「ちょっとおっ! そこまでぶきっちょじゃないぞっ!」

 

 ぷりぷりする先生に、おかしそうに笑いながらミルテさんが先生の頬の輪郭を指でなぞりました。そのままおとがい、首筋を降りて、喉元の鎖を通した白金の指輪を揺らしました。

 

「指輪、まだ持っていたのですね」

 

 先生は表情を翳らせました。

 

「……こどもたちのお腹が鳴るたびに、今度こそ売ってやるぞ! って、思ってたんだけどね。もう、入らなくなっちゃったし」

「ニッカは、今のほうが、きれいですよ。お尻もこんなに育って――」

「こーらっ、どこ触ろうとしてるのっ」

 

 軽く叱られ、ミルテさんは下半身に這い寄らせようとしていた手をあっさり引っ込めると、先生の長髪を指で梳かしました。

 

「ニッカこそ、切らないのですか? 以前も言いましたが、短いほうがかわいいですよ」

「えェ、そおかな……ほんとは、さ――、きみみたいにしたくて、伸ばしてたんだけど……うーん、きみがそんなに言うなら、切っても、いい、かなァ……?」

 

 では、さっそく――ミルテさんがてきぱきと散髪の用意をはじめ、先生の髪の毛にはさみが入ると同時、わたしは魔法を中断させました。ひどい動悸に苛まれ、そのまま覗いているのが、恐ろしくてたまらなくなったからです。その代わり、ミルテさんが帰るなり、わたしはただちに先生の部屋に足を運びました。

 

 わたしは、先生の長くきれいな髪が、好きでした。ですが、ミルテさんの、言った通りでした。わが水晶の双眸にあざやいだのは、かがようばかりのあえかな地平線――顎の辺りの長さで切り落とされた金糸は、軽くなったためか、さらさらとよく揺れ踊っていました。

 

 比べるまでもなく、短いほうが、似合っていました。言葉を失ったわたしに、もしかして長いほうがよかった? と先生はあたふたしました。見惚れるぐらい今のほうがずっときれいです、そう伝えると、先生は愛らしくはにかみました。

 

 先生がお手洗いに立っている隙に、わたしはちり箱を漁りました。束になった金糸を拾い上げました。鼻を押し付け、精一杯息を吸い込みました。

 

 肺を焼くは――甘い甘い、香水の香りばかり。

 

 

 

 

 

 

 わたしの壊れたこころは、ハートに手を出した周を境に、はっきりとわかたれました。相変わらず先生と交わるかたわらで、あたかも水硝子の沼にはまりこんだみたいにずぶずぶとハートとの許されざる関係に溺れてしまったのです。

 

 月下で、いかなる穢れも知らなかったハートと及ぶ交尾は、先生とまぐわうのとはまったく別種の、支配的な快楽をわたしに啓蒙しました。わたしはそれがいかに安っぽい優越感であるか、あますところなく理解していましたが、今まで誰にも見せたことも触れさせたこともなかった清らかで無垢な肌を、昏い欲望が溶けこんだ体液で汚し、淫猥な行為で熱をもつよう開発するような、まさしくわたしの穢れで染める悪業がなす恍惚は、わたしのちっぽけな矜持をいともたやすく満足させ、火遊びに目覚めさせてしまいました。

 

 なにより、瑞々しく張りのある幼い肌に舌を這わせているときだけは、先生のことを考えなくてよかった――化粧の匂いの混じっていない、こどもの甘い匂いだけで肺を満たしているときだけは、先生がミルテさんとつまがさねる姿を思い浮かべなくてよかった。わたしがハートの身体に没頭するに、それで十分でありました。

 

 ハートとの身体の相性は、ばっちりでした。おそらく、わたしと先生以上に。五度目からは達する感覚もわかったようで、ハートもまた、性交にのめり込み、積極的にせがんでくるようになりました。なにかの反動のように、何度も何度も。

 

 理由を、問うたことはありました。

 

「どうして、そこまでするのか、ですって?」

 

 行為のあと――乱れた黒髪に櫛を通しながら、ハートは呆れかえった面持ちをしてこれ見よがしに大息をついてみせました。

 

「ほんとにぶすいなひとですわね」

「じゃァ――」

「告白か服従かはしませんわよっ」

「なんでわかったんですか」

「タルトの言うことなんて、お見通しですわ」

 

 むっつり顔をぷいとそむけて、ハートは鏡をじっと見つめました。

 

「……理由は色々ありますけど、悔しいことにあなたの血は、優秀ですもの。猟民になる目標は諦めていませんけど、塔の計画は絶対ですから、いずれ繁殖計画に組み込まれたときのために、唾をつけとくだけですわ。……素性のわからない弱い血なんか、孵したくないもの」

 

 繁殖計画――第一〇〇九塔、すなわち聖母の塔にはない組合の制度であるため、詳しいことまでは把握していませんが、役職のないおとなの角なしは、ある一定の月までに必ずシシをひとりは産まねばならない、というものだそうです。

 

 どんな血でも角ありが産まれる可能性はあっても、蓋然性は低いのですから、つがいだけがこどもを成すのではシシの数は減り続けてしまいます。

 

 ゆえに、つがう相手や、つがうことを誓い合った相手がいないものは、組合に提供された不特定多数の角ありの胤を受け、その血を孵す決まりになっています。

 

 これは、塔の生産性とシシの多様性を維持するための、必然です。いかな優秀な血と言えど、おなじ精魔法をもった血ばかりでは、シシ全体の魂の重力が歪んでしまい、いつか進化した細菌に打ち負けてしまいます。

 

 また、血統がわかってしまえば無用な責任も生じますし、勢力をつくる輩も出てくる懸念もありました。シシにとってもっとも重要なのは個の強さではなく、塔の建設――そのための繁殖計画は、第一級の指令でした。

 

 今や組合に角なしとして認識されてしまっているハートも、つがいを見つけぬ限りその道をたどらねばなりません。ハート自身はその前に猟民となるべく周々研鑽を積み重ねていますが、なれなかったときの覚悟もしているようでした。

 

「――いいですよ」

「なにが、いいんですの」

「血――ハートになら、あげてもいいです」

 

 ハートは真っ赤になってうつむきました。

 

「……あたしが、もらってあげるんですわ」

 

 妙にしおらしいハートを見ていると、くたくたになっていたはずの陽根が硬度を取り戻してきました。

 

「……なんだか、またもよおしてきちゃったんですけど」

「はあ? 五回も出したじゃありませんの――お風呂のあとに、とっときなさいな」

 

 ハートは、勉強熱心で、利発な子でした。飲み込みが早く、教えたことはなんでも実践できました。交尾に魔法を利用することもすぐに思いつきました。影魔法で感度を上げたり、心魔法で血行をよくしてわたしの陽根を一割増しに大きくしたりして、工夫を凝らしてきました。

 

 ハートと先生は折り合いが悪いようでしたが、似通ったところがありました。世話焼きで、情が深く、奉仕したがるところです。わたしの身体で、ハートが味を知らない部分はないでしょう。そして、それは逆もまた然り――先生は交尾の際に服を脱ぎたがりませんので、わたしは先生以上にハートの肌の味を知っていることになります。

 

 堕落していました。生活は、ひどく爛れたものに変貌しました。見境など、あったものではありませんでした。ハートもわたしの求めを拒むことはありませんでしたので、同室をいいことに、時間を選ばず、どちらかが少しでも発情すれば、微塵もはばかることなく肌を重ねていました。相性がよすぎるせいか、気づいたときにはすでに交わっているような按配で、ときには繋がったまま眠り、繋がったまま起きることもありました。

 

 一度ばかりは本当に危なかったことがあります。

 

 ある周、ふと目覚めてみると――なにやら股間が生温かく、心地よいもので包まれているではありませんか。寝具を剥ぐと、そこにはわたしの屹立した陽根をくわえこむ、ハートの姿が。

 

「もごっ、ぇむっ、はぶっ、んじゅっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ」

「えェっと……ハー、ト? おはよう、ございます……?」

 

 目が合い、声をかけられても、ハートは口淫を止めたりせず、上目遣いでわたしを見つめたまま、奥深くまで一物を飲み込みました。狭くつるつるした肉で先端がきゅうっと絞られると同時に、陽根の根元を舌先でくすぐられ、射精欲がむくむく肥大します。覚醒しきってない意識には、ひとたまりもない性感です。

 

 きっとずいぶん長い間、舐められていたのでしょう。限界はすぐそこまで迫っていました。寝ぼけ眼のまま、絶頂に身構えようとした途端、はちきれそうになった肉茎がひんやりした大気にさらされました。

 

 ハートはわたしから口を離し、妖しく唇を舐めました。

 

「今、出しかけたでしょう。昨周、一〇回も出したのに――元気すぎですわ。底なしにも、ほどがあるんじゃないかしら」

 

 先生とは、これまででもっとも興奮したときでさえ、五回が限界でした。ハート相手だと、何回出しても肉竿は萎びず、胤は尽きませんでした。ふたりとも猟民となるために鍛錬には余念がなかったものですから、こどもにしてはなまじ体力がある分、一度始まればやめどきを見つけるのに大層苦労させられました。

 

「あの……どうして、こんなことに、なってるんですか」

「寝顔があんまり気持ちよさそうで、無防備でしたから、思わず襲ってしまいましたわ」

 

 ここ一月で、ハートは大胆になりました。性行為に対して恥じらいや照れは残しつつも、躊躇することはなくなっていました。ほかならぬわたしが、そうさせたのでした。

 

「ハート……あの――」

「どうかしたのかしら?」

「……わかってるくせに」

 

 ハートはくすくすと愛くるしい笑みをこぼし、下着をしゅるりと脱ぎ捨てると、わたしにまたがり、すでに準備の整った陰唇を擦りつけてきた、まさにそのとき。

 

「おーい、寝ぼすけさんたち、ごはん、できたよー?」

 

 こんこんこんと鉄扉が叩かれました。声の主は、よりによって先生でした。

 

 しまった――窓の外の陽輪を読めば、確かにごはんの時間です。わたしとハートは顔を見合わせたまま、凍りつきました。扉の持ち手ががちゃりと下がり――。

 

「んー? まだ寝てるー? 入るよー?」

「まッ、待ってくださッ! ちらかって、ますからッ!」

「なんだ、起きてたんだ。先生のつくったごはんを食べたくないばっかりに、寝たふりしてるのかと思っちゃった」

「あ、あはは……あの、着替えたら、すぐ行きますから、戻っててください」

 

 持ち手が元の位置に戻ります。ひとまず押し入ってくる気配はなさそうです。が、安堵できたのも刹那の間、なんとハートが陽根に手を添え、陰唇との角度を調節し、腰を下ろしてきたのです。

 

「ぅん――ッ!? ハート、やめ……ッ!?」

 

 声量を抑えたわたしの抗議の言葉は、しかし陽根とともに煮えたぎる膣内に飲み込まれました。一部の隙もなくぴっちり収まり、すぐそこにつがいを約束した相手がいるというのに、無上の快楽に流され、浸ってしまいます。

 

 数時間前にもわたしが占拠し、蹂躙しつくしていたその粘膜は、未だほかのなにものにも侵入を許していないためか、すっかりわたしに適したかたちに成形されてしまっていました。羊の盲腸を使ったことがないのも、理由のひとつかもしれません。

 

 ハートとは、避妊具は一切使用しませんでした。事後の処分に困るし、下手を打てばわたしたちの関係が露呈してしまうからです。ふたりとも都合のいいことに新月の時期に差異がありましたし、ちゃんと精魔法が使えるので、ずっと粘膜同士を直に擦りつけ合い、胤を生熟れの子宮にそのまま吐き出していました。

 

「――ハートは……起きてる?」

 

 扉越しに、やや遠慮がちな調子で先生がたずねました。もしや勘付かれたのでは、と心臓が激しく暴れます。

 

 ハートは腰を揺すりながら、ふるふるとかぶりを振りました。

 

「……実は、まだ、寝てます……でも、すぐに起こして、連れてきますから」

「そ、か。珍しいね、あの子が寝坊するなんて」

 

 どこかほっとしたような、でも少し寂しげな声色。

 

「えと、遅くまで、魔法の練習を、してたので――」

 

 大嘘でした。昨周は、第四象限前のごはんを済ませたあと、お風呂に入ってから、どうやって終わったのかも記憶にないほど、第一象限の中頃までひっきりなしにまぐわっていました。

 

 先生と言葉を交わすたび、わたしを扱きあげる動きが速まります。体熱が際限なく高まり、締め付けがきつくなります。まるで、会話を妨害するみたいに。

 

「きみたち、ほんとまじめだなー」

「ふたりで、すると、すごく、はかどる、ので、熱中、しちゃうん、です」

「先生感心しちゃう、って言いたいとこだけど、きみもあの子もまだこどもなんだから、ちゃんと寝ないとおっきくなれないよ? 勉強も、ほどほどにするよーに」

 

 鉄扉を隔てた先生の声に、湿り気も混じります。

 

「……でも、ありがと。タルトが来てから一〇月以上経つけど――あの子、すっごく明るくなったし、積極的になったって、メグも言ってたんだ。きみはほんとに、あの子にいい影響を与えてくれてるんだと思う。ぼくとは未だに話してくれる気ないみたいだけど……あの子がしあわせなら、それが一番いいから」

 

 悄然とした先生の述懐――わたしは、直感しました。ハートに対する先生の引け目は、ハートの喪われた器官に由来しているのではないか、と。ハートがいくら問いただしてもけむに巻かれ、詳細を聞き出すことは叶わなかったそうですが、ハートに角が生えなくなった原因を知っているのは、先生と室長先生だけなのだそうです。

 

 不意に、ハートがぎゅっと抱き着き、胸を押し付けてきました。体重をかけ、わたしの耳に鼻先を擦りつけ、熱い吐息を吹きかけながら、にゅるにゅると舌を這わせてきました。体内はたっぷり蜜を含み、どろどろでぐずぐずで、ぎゅうぎゅう。そして、ぞわぞわ蠢いて絡みついてきます。白い熱がせりあがってきます。このままでは、あと一〇秒と耐えられないでしょう。

 

 このときほど、早く先生が立ち去ってくれないかと、願ったことはありません。

 

「って、ぼく、なに言ってるんだろ……ごめんね、なんか変な話しちゃって」

 

 先生は咳をひとつ、元の調子を取り戻しました。

 

「――じゃ、お料理冷めちゃわないうちに来てね?」

「は、い……、っくふ――ッ! んひゅっ」

 

 欲望が決壊し、ハートのなかに体液を迸らせるや、くちをふさがれ、舌を吸い出されました。視界がばちばち明滅して意識が白みます。高い高い絶頂感――先生と話しながら、先生を裏切っていたせいでしょうか。

 

 ひとしきり精液を吐き出すと、ハートが甘ったるく囁きました。

 

「――いつもより、大きくなってましたわよ」

 

 その後の先生のごはんの味は、さっぱりわかりませんでした。一秒でも早く食事を済ませ、部屋に戻り、またぞろハートと体液を交換することしか頭にありませんでしたから。

 

 ハートとの過ちを犯すのは当初、先生が講義をしているときだけのつもりでした。ですが、やがては先生の輝きを保つために――より自分が穢れるためにと、理由をつけてハートの求めに応じるようになりました。自ら、不義を重ね続けました。

 

 そう――先生の輝きを保ち、わたしの精神の平衡を保つには、わたしの裏切りは必要なことでありました。

 

 地平線が穢れたなら――自分もまた、穢れればいい。

 

 先生の不義を帳消しにするためには、わたしもまたハートと交わり、不義をかぶるほかなかったのです。罪を洗うことで穢し、穢すことで洗い流すのです。

 

 自分が汚く、低俗であればあるほど、先生の輝きが増していくような気がして――わたしはハートと繋がり続けたのです。

 

 わたしが先生の部屋を覗くことをやめる契機となった、あの周まで、でしたが。

 

 

 

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