「つまり――治療に立ち会いたいと、そういうことですか」
「……うん。だめ、かな……、おねえちゃん?」
「理由を、うかがってもいいですか」
ひどくかすれた声で、ミルテさんがたずねました。膝の上で、関節が白くなるまでぎゅっと握りしめられた震える拳を、わたしは見過ごしませんでした。
先生はきっぱりと断言しました。
「タルトは、ぼくのつがいになるひとだから」
「……」
ミルテさんは静かに深呼吸しました。拳の震えは止まりました。困り果てた顔で確認しました。
「……弱りましたね。先生の病気は、発症機序がわかっていません。どんな菌なのかわからない以上、予防も対策もできません。抗体の弱いものから当然やられます。わたしは精魔法で特殊な抗体を作っているので不良は検知され次第、補償されますが」
ほとんど予想された反応。先生は食い下がります。
「その精魔法を、タルトに教えられない、かな?」
「率直に言って、まだ無理でしょう。並みの猟民ほどの知識量と技術量が最低条件です」
ミルテさんはこちらをちらりとも見ずに、ばっさり切り捨てました。あたかも、先生の傍にいる資格がないとでも言われた気分に陥ります。
「なんとか、ならないの?」
「……まァ、ひとつだけ、方法が――あるといえばあります。あまりお勧めはしませんが――」
「どんな?」
ミルテさんは言い渋りますが、先生に諦める気配はありません。ミルテさんは観念したみたいに打ち明けました。
「わたしが体内で生成した抗体を、注入するのです」
どうやって? という先生の疑問には、ミルテさんは、もっとも安全な方法を考えておきます、と返しました。
そして――先生とふたりで結晶検疫室に出向くよう言伝があったのは、数周後のことでした。
その周は、食事を摂らないようにとミルテさんは指示しました。なんでも、蛋白質や酵素が抗体の浸透を阻害してしまうからだそうです。胃も腸も完全に空っぽにしたからか、久しく忘れていた空腹感にいささかのふらつきを覚えつつ、付添いの先生と結晶検疫室を訪れます。わたしの手を引く先生の手はかすかに汗ばんでいて、逆算すれば、たしか今周辺りが先生の新月でした。
初めてミルテさんに出会った周に招かれた際、結晶検疫室はまだ準備中といった体でしたが、今ではすっかり整備され、本格稼働しており、気管工事もまもなく終わるそうでした。
あれはそう、たしか、まだ五月前のこと――いろいろなことがありすぎて、もう一〇〇〇月も前のような感覚です。
出迎えてくれたのは、ミルテさんでした。そのまま結晶検疫室で処置をしてもらえるのかと思いきや、隣の新薬開発室――臨時講義室として利用している部屋に案内されました。
普段講義を開いている部屋から、さらにその奥の部屋に通されます。ぴかぴかの調度品、壁の本棚を埋め尽くす大量の書物、おとなが優に三人は横になれそうな面積の寝台に、炊事場まで――そこは生活環境が整っており、小奇麗にされていながら生活感があります。勝手がわかっているらしいこと、それにミルテさんとおなじ甘ったるい匂いがすることから、どうやらミルテさんの私室なのだと推測。
「さっそく処置をはじめたいところですが、その前に殺菌せねばなりません。そちらが浴室になっていますので、タルトはまず湯浴みをなさってください」
言われた通り身体を洗い、殺菌剤を隅々まで塗り付けます。用意されていた薄手でゆったりした衣服をかぶるや、更衣室の戸が叩かれました。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「あ……、はい、どうぞ」
片手に杯をもったミルテさんが現れました。
「喉が渇いたでしょう。お飲みになってくださいな」
「……いただきます」
手渡された杯に満たされていたのは、水面をぱちぱち弾けさせる炭酸水です。口に含むと爽やかな香りがここちよく吹き抜けます。思わずごくごくと喉を鳴らして一息に飲み干してしまいます。
「おいしい……」
「檸檬を少し絞っているのですよ」
果実なのだそうですが、聞き覚えのない名前です。きっと大層高価な果実なのでしょう。
ミルテさんは空になった杯を受け取り、おっとり笑みました。その微笑は、わたしのちくちくした抵抗感と猜疑心とを柔らかく包み込み、どこかへ拐かさんもので、同時にミルテさんの思考を覆い隠してしまっています。
あんなことがあっても、わたしが覗き見していることを知っていながらも、ミルテさんは一片たりとも厚意を欠かさず、その振る舞いに変化はありません。ミルテさんに揺らぎはありません。なにも間違ったことなどしていない、そんな確信を抱いた風なミルテさんの落ち着きが、わたしが考えを整理する障害となっていました。わたしに自信を失わせて、判断を鈍らせていました。ひょっとすると、わたしは単に卑屈になり、劣等感に取り憑かれているだけなのでは、と――。
はたして、甘ったるい香の焚かれた部屋に戻ったわたしは、安楽椅子に深く腰掛け虚ろな目をした先生を発見して、ようやく痛切に思い知らされました。
だらんと投げ出された腕には注射痕、脇の机には使用済みの注射器があり、なにがあったのかは一目瞭然でした。
「わたしは必要ないと言ったのですが――どうしても薬がほしいと先生にせがまれたので、投与しておきました」
こちらに向けられたトパーズの虹彩の奥で、ほんの一瞬、観照し、見透かすような光。激しい悔恨の念が結晶化して心臓に流れ込み、こころを内側からずたずたに引き裂きます。
やられた――うかつだった。やはり、このひとは――でも、どうして今、先生に?
答えはすぐにわかりました。
「さて、さっそく処置をはじめましょうか。先生、タルトの準備をしてあげてください」
「あぇ……? じゅん、びぃ……?」
「そう、準備です。手伝っていただけるのでしょう?」
「ぁ……そー、だった……うん、てつだ、うぅ……」
「では、タルトの肛門をほぐしてあげてください」
「ふぇ……、おっ、おし、り、ってぇ……ちゅーしゃ、とかじゃ、だめなの……?」
突拍子もないミルテさんの発言は、わたしを呆けさせるには十分すぎました。なかば正体をなくしつつも戸惑う先生に、ミルテさんは淡々と並べたてました。
「角が析出しきってないこどものうちに、血中に他者の体液を直接解かすのは、魂が危険にさらされます。抗体の構造は非常に微妙なので、消化液に壊されてしまうために経口摂取もできませんし、腸の粘膜から定着させる方法がもっとも確実で安全なのです。これはタルトのため、なのですよ」
「タルトの……ため……タルトの、ため……」
それしか耳に入ってなかったみたいに、わたしのため、とぼんやり繰り返す先生。ミルテさんに、ではお願いしますよ、とお湯で温めていたらしい丁子油の小瓶を押し付けられ、先生はゆっくり首を縦に振り、のろのろと立ち上がりました。
「じゃ……タルト、そこのぉ……、寝台でぇ、よつんばいに、なってぇ――」
「……せ、先生、ほんき、ですか」
わたしの喉はからからになっていました。お香の香りでくらくらします。今の先生には明らかに、ミルテさんの論旨を慮り、解するちからがありません。平常の判断力を維持できていません。
かと言ってわたしにミルテさんを否定できるような材料もありませんでした。双子ならいざ知らず、ミルテさんは品を欠いた諧謔を弄するひとではありません。ゆえにどうあっても敢行する――そんな思惑すら感じさせられます。
先生に体重を預けられ、押し倒されるようにしてミルテさんの寝台に横たわります。石鹸の匂いと、甘い匂い――最近の先生の寝台と、おなじ匂いが鼻孔にまとわりついてきます。
先生のじっとり湿った体温と柔らかな肉質に、心臓が跳ねまわりました。
「だい、じょうぶ、だよぉ……ぼく、ちゃんと、できるからぁ……」
新月であることも相まってか、間延びした声で甘えられて、その異様な色香でたちどころにびりびり頭が痺れ、抗う気が霧散します。前回よりも、薬がよく効いているようです。思えば、投薬直後の先生を間近で見るのは初めてでした。むくむくと名状しがたい本能がこうべをもたげ、わたしを従順にさせました。
熱い――ぐらぐらする。つい三〇秒前まで、努めて冷静でいなければと決心していたはずなのに、わたしまでもう交尾の寸前のごとき手の付けられない昂揚状態でした。なにかが、おかしい……でも、なにが、どうして、いつのまに――。
先生に促されて、わたしは重い身体を動かし四つん這いになりました。服をはだけられ、臀部が丸出しになります。陰部に視線を感じ、羞恥のせいでしょうか、じんわり熱と湿り気を帯びてくるのが実感できます。
「ひゃう――っ!?」
と、肛門をにゅるりと油をまとわせた先生の生温かい指がひと撫でし、初めての感覚にわたしは情けない声を上げてしまいます。穴を突っつかれたり、くるくると周りをなぞられたりして、掻痒感を極限まで煮詰めたようなぞくぞくが脊髄を駆け抜けました。
「んっ、ふぁ……っ、ふっ、はっ、はぁ……っ」
「んっふふ……、どぉしたのぉ、タルト?」
愉しげな調子の先生。行為の最中、わたしを責めているときの声。
「なんっ、でも、ない……ですっ」
「もお、やらしーこと、してるわけじゃ、ないんだからぁ、そんなえっちな声、だしちゃ、だぁめ♥ ……って、あえ? なに、してたっけ……? まぁ、いいや……ゆび、いれちゃうよぉ……♥」
「んぉっぉお……ッ!」
先生のほっそりした指が、にゅるんと体内に侵入します。ゆっっっくりゆぅぅぅっっっくり掻きまわされて、膣への挿入感とは違う、猛烈な異物感が、括約筋とともにほどけていくようでした。先ほどまでわたしのこころをむしばんでいたわだかまりさえも、そっくり融解していきます。
「すっごぉい……♥ もうねもとまで、はいっちゃった……♥」
「ぅーっ、ふぅー……っ! ぅー……っ、んぅうぅぅうう……ッ」
「んふ♥ おしりふりふりして、おつゆもとろとろにあふれちゃってるし……もしかしてぇ……タルトはぁ、おしりのほうが、すきなの、かなあ?」
「はーっ、はーっ、そっ、はーっ、そんなっ、ことっ、ないっ、ですぅう……っ」
「えェ……ほんとかなァ……じゃーあー、どっちがいいか、ためして、みよっか……♥ えいっ♥」
「んにぃぃいっ、いっひぃッ」
肛門の指はそのままに、秘唇のほうにも指を挿入されます。前と後ろを同時に抜き差しされたり、交互にほじくりかえされたり、膣と直腸の間の肉をぐにぐに揉み解されたり――そして。
「ぅはああぁああぁあッ!? あッ! あッ! あ゙ッ! しょ、れぇえッ!」
お尻のなかの、ある場所に触れられたとき、お腹の芯でじゅわっと熱が滲み、じーんと余韻が髪の毛一本一本にまで染み渡りました。涎が次から次へとこぼれて、舌がもつれます。それはわたしが認識できる快楽の、最大量なのだと、本能的に察せられます。腕だけでは上体を支えきれず、お尻を浮かせたまま寝台に突っ伏し、甘い匂いが染みついた枕に顔をうずめます。
「んふ♥ みーっけ、角ありの子が、いっちばん、よわっちくなっちゃうとこ……♥」
「お゙、ぉ゙、ぉ……ッ! しょ……こ……! や……です……やあ゙ぁ゙ぁ゙あ゙……!」
「だぁめ♥ ぜったい、ぜえったい、にがさないんだから……♥ そぉら、うりっ、うり……っ♥」
先生は童心に帰ったみたいに、茶目っ気たっぷりにわたしをいじめ、言葉通り、決してそこから指を離そうとせず、こねこねくりくりずりずりくちゅくちゅぐりぐりとお尻のなかをえぐり続けました。わたしはたった指一本相手に、鉄杭で全身を縫いとめられたかのごとく身動きひとつとれなくなってしまいました。
「んお゙お゙……ッ! ぉお゙ゔ……ッ! っぐうぅッ! い゙ッ、ぎぃ゙……ッ!」
「あは♥ すっごいね……♥ おまんこからぁ……、しろいのどっろどろでてきてるし……♥ おちんちんはぁ……、とうめいなの、びゅるびゅるふきだしてるし……♥ きもちよさそー……♥」
「い゙ぃぃい゙ッ! ひぃイ゙ィ゙ぃい゙ッ! ぅわぁ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ッ! あ゙ーッ! あ゙ーッ!」
「んっふふ……♥ じぶんじゃ、わかってないかもだけど……、きっと、いっぱいいっぱい、イッちゃってるんだね……♥ おなかんなか、どっちもきゅんきゅん、うねうねさせちゃって……、よわいとこ、ひっしにぼくのゆびにこすりつけてきて……♥ はあぁぁ♥ かわいすぎるよぉ……♥♥」
先生がうっとりした口調でなにか言っているようでしたが、わたしの耳にはこれっぽっちも入ってきませんでした。ばらばらになってしまわないようにと、自分の身体を掻き抱くので精一杯でしたから――そうでなければ、自我を保てませんでしたから。否、わたしは自我を保っていたとは到底思えない咆哮を上げ、ひっきりなしに絶頂を超えた絶頂を極めていました。
「もう、よさそうですね」
不意に、指が引き抜かれました。わたしはようやく一息つく時間を与えられました。
「ふぇ……えっ、おねえちゃん……? も、もしかして――それ、いれるの……?」
「今なら、難なく入るでしょう」
「そっ、そおじゃ、なくて……っ、そんなの……っ、ねっ、ねっ、じょうだん、だよ、ね……っ?」
「膣でもできるでしょうが、吸収比は非常に悪いのですよ。ゆえに、複数回に渡って処置をする必要があります。先生がそれでもよいのならば、わたしは一向に構いませんが」
「そん、な……、そんなぁ……」
酸素不足が解消され、次第に知覚がはっきりしてきます。なんとか首だけを巡らせて背後をうかがってみれば、どういうことでしょう、ミルテさんが自らの硬く屹立した陽根に丁子油を塗り付け、粉薬をふりかけているではありませんか。白く滑らかな大腿部には一条の青ざめた筋――経血が。
意識が飛んでいたわたしは状況が飲み込めず、なにがなにやらさっぱりです。
「では、先生が選んでください」
「え――」
「どちらでするか、ですよ。前と後ろ、どちらでも構いませんが、先生が選んでください――タルトの、ために」
「うぅぅぅ……」
涙をたっぷり溜めたエメラルドは考えあぐねている様子ですが、薬効もあってか、惑乱の色相を呈しています。そしてその色のまま、先生は声を潜めて、すこぶる自信なさげに決断を下しました。
「……ぅ、うしろで、してあげて」
「では、そのように」
ほんの少しの間、わたしと先生の視線が絡み合った気がしましたが、わたしの背後に立ったミルテさんに阻まれ、すぐに解けてしまいます。
ぐったりうつ伏せになったままのわたしは、お尻を掴まれ、焼けた鋼鉄がごとき熱を輻射する外性器を押し付けられた段になって、いよいよミルテさんがなにをしようとしているのか悟り、ひっと息を呑みました。先生が慌てた調子で静止の声を上げました。
「やッ、やっぱりま――ッ」
「んぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙い゙い゙――ッ!?」
が、お腹を断ち割る灼熱で、先生のことは意識から跡形もなく吹き飛びます。
「くぁ――、は――ッ」
息ができない――腸も胃も心臓も肺も、なにもかも、その鋼鉄で圧し拉がれ、破壊しつくされてしまったみたいに、わたしの感覚のすべてがとてつもない圧迫感と高熱に占められていました。
「先生がよくほぐしたからでしょう、なかなかよい具合に仕上がっていますね」
「い――ッ、ひィィ――ッ!」
ずるりずるりと長大な陽根が引き抜かれ、内臓を擦りあげられるにあわせて、喉奥からひとりでに奇怪なうめき声が絞り出されました。同時に襲い来る喪失感が、切なく体内をひくつかせます。
やっと終わってくれた――苦痛から解放されつつあることで一瞬そう思ったわたしですが、こころ安まる時間は二秒ともたず、再度ごちゅりと臓器を貫かれます。
「んおお゙お゙お゙ぉッ!? お゙ッ!? お゙ぉ゙ーッ! ぉっひぃッ、ぎッ、――ッ! ――ッ!」
「ここ、ですか」
二度目は、息苦しさはありませんでした。それどころか、息苦しさとは程遠い、明確で莫大な快感が、わたしの意識を震撼させていました。ミルテさんの陽根の先端が、先生にいじめられていたところを正確に捉えていたからです。
先生の指よりも強く深く押圧されて、何十倍にも膨れ上がった退廃的な悦びが脳になだれこんで揺すぶります。視界はばちばち明滅、太ももはぶるぶる痙攣し、お尻を浮かしていることすらできなくなって、完全に寝台に倒れ込みます。
「おっと、体勢を変えましょうか」
わたしを押しつぶさまいとしたミルテさんに、繋がったまま身体を抱え上げられます。今度はミルテさんが寝台に仰向けになり、わたしがその上に、背中を向けてまたがるかたちに。
腰を掴まれて前後に揺すられ、弱点を狙い撃ちにされるとともに、閉じていた肉が強引にかきわけられていき、身体の内側から臓器という臓器を蹂躙され、支配され、掌握されていきます。
「お゙ォお――ッ! お゙ッ! お゙ッ! んおぉぉッ!」
その往復運動につられて、がちがちに凝り固まったわたしの陽根も透明な腺液をだらだらこぼしながらぶらぶらと揺れ動いています。
「あああぁぁぁ……ごめん……ごめんね……」
そんなわたしを、絶望した翠緑の虹彩で見守り、むせび泣く先生。先生の童顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて、そして、その手もまた自らの股間をまさぐり、愛液で濡れそぼっていました。
その姿が、いつかのわたしと重なります。
覗かれる側と覗く側――不貞をなす側と、不貞をなさせる側。今まさに、先生とわたしの立場は逆転していたのです。奇しくも、相手をおなじくして。
先生とおなじように、ミルテさんに犯されて、それを自慰しながら見届けられ――。
「い゙い゙ィッ! んあ゙ッ! あ゙ーッ! あ゙ーッ!」
その事実を悟るや、かつてミルテさんと愛し合っていた先生の光景がまざまざと網膜の裏側で蘇り、その快楽を追想し、投影してしまいます。わたしの脳が勝手に再現し、体験させる、まがいもののあのときの先生の愉悦が、心臓をねじくりかえします。
いつわりと、かりそめの追体験――魔法のよう。
これでやっと、先生に近づけたんだ――そのまったき恍惚の、果つることなき歪曲ゆえなる甘美さの、なんとわたしを充足せしめることか――こころに、どす黒く虚無らしき多幸感が染み渡っていきます。
「――ッ! ――ッ! ――ッ!」
ゆえにあっさりと、決壊しました。お腹の奥底から昏い熱が込みあげ、尿道のなかをびゅるびゅると迸ります。精液は存外に勢いよく飛び、先生の顔にまで降り注ぎ、鼻や頬を汚します。
「あ……、あ……」
唇をわなわなと震わせ、先生が目を見開きました。陰核をこねくりまわしていた手はぴたりと止まっています。
登りつめている間も、ミルテさんはわたしを穿ち続け、ひと突きごとに腺の裏側から押し出された白濁した体液が噴き出します。射精のたび、その量は減りつつありましたが、次の絶頂の予感はすぐに訪れました。
「は――ッ! あ――ッ! ま、た――ッ!」
「っく……そろそろ、出します、よ」
粘膜でぎゅうぎゅうと締め上げていたミルテさんの肉茎が膨らみ、びくびくしはじめます。ほどなくして、予告通り、熱い奔流が体内で弾けました。
「ふぁあああぁああッ!? あッ! あ゙ッ! あ、つ――ッ! またッ、でちゃ――ッ!」
直腸内に吐き出される熱に誘発されるかたちで、わたしも二度目の頂を極める、寸前。
「えッ!? あッ! せんせ――ッ! ふっぎゅぅうぅううう――ッ!」
呆然としていた先生が唐突に、断続的に精を放っていたわたしの陽根にむしゃぶりつきました。エメラルドからはすっかり理性が抜け落ちて、今やただただ必に胤を絞り上げることだけが頭を占めているよう。じゅるじゅると吸引され、ただでさえ激しい迸りが加速度的に増大します。
「あーッ! あーッ! あーッ!」
後ろから押し出され、前から吸いあげられ、精液どころか全身の水分や魂までもが陽根を介して放出されていく感覚。そして、柔らかで温かな身体に抱擁され、最高の瞬間を迎える、比類なき幸福感。
「おや、いけませんね、先生。まだ抗体が定着してないうちから、接触してしまっては――これではもう一度、注入しなければなりません」
怖気の走るミルテさんの言葉に、しかし先生は耳を貸す気はないらしく、わたしの体液を残らず飲み干さんばかりにごくごく嚥下しています。
ミルテさんも続けざまに腰を動かし、再度わたしの弱点を小突き――空腹もあってか、意識が絶頂に揉まれ、次第に遠のいていきました。最初に先生におくちでしてもらったときみたいだと、思いながら。
絶頂があまりに苛烈だったせいでしょうか、失神している間はおろか、覚醒してもなお、わたしの総身には悦楽の痺れが尾を引いていました。指は寝具に溶接されたみたいにぴくりとも動かせず、舌は下顎に縫い付けられているかのように微動だにしません。
感度が過大に増幅され、全身の皮膚が角にでもなった気分です。寝台が揺れるだけでも、わたしは小さく達してしまいます。そして、わたしは何度も何度も達し続けていました。寝台は、揺れ続けていましたから。
「お゙ッ♥ お゙ッ♥ い゙っぐ♥ い゙っぐ♥ い゙ぐぅうっ♥ うああぁぁあんッ♥♥」
肉を打ちつけ合う湿った音を背後に、色っぽさをとうに通り越し、けたたましいほどの喘ぎ声が、わたしの真横で発せられます。瞼をこじ開ければ視野いっぱいに、長大な陽根に繰り返し貫かれる、熟れきった陰唇が。陰唇から溢れ出る愛液と、陽根の持ち主が滴らせている経血で寝具は蒼く斑になった染みが出来ています。
「羊のような盛り方ですね、先生。そんなに大きな声を出されては、タルトが起きてしまいますよ」
「いひぃーッ♥ いっ、いいがら゙あ゙っ♥ もっどほじっでえぇっ♥ もっどはめでぇっ♥ ずこずこ♥ してええッ♥」
「本当に、どうしようもなく、色事がお好きなのですね。こんなおとなに教育を受けたとあっては、養護室のこどもたちも爛れてしまうのではないかと、組合の未来を想うものとしては心配ですよ」
徐々に視界が鮮明になってくると、注射器やら、白い粉末やらがあちこちに散乱しているのが目に留まります。
どうやらわたしは寝台の隅に追いやられ、その間に治療が行われていた模様です。
「だってっ、だってええ♥ きもちいいんだもんッ♥ おねえちゃんッ♥ こーびじょーずなんだもんっ♥ すきなんだもんッ♥ だいすきだもんっ♥♥」
「なにが、すきなんですか?」
「っっっはああああああぁぁぁぁああッッッ♥♥ それそれそれそれえぇぇえッ♥♥ おくっ♥ おくっ、つくのっ♥ おねえちゃんのっ、ぶっとくて、ながいのでえっ♥ おくつくのおっ♥ すきなとこっ、とどくのっ♥ いちばんいいとこっ、とどくのおぉッ♥♥」
「今周、先生が新月であることを差し引いても、いつになく、とてつもない乱れようですね――もしや、今まではタルトに見られていたから、遠慮していたのではないですか?」
「――ッ♥♥ ちっ、ちがうもんっ♥ タルトはあぁっ、かんけいっ♥ ないもんっ♥ いつもどおりっ、だもん♥」
「本当ですか? ……未通な幼い教え子で想いびとのお尻を、浮気相手である姉に犯させ、自慰していたくせに?」
「――ッ!?♥♥ っ♥ っ♥ っ♥ っ♥」
「そのうえ、タルトが気絶するなり、新月とはいえ、発作も起きていないのに治療を求めてくるだなんて。ふしだらにもほどがあると思いませんか? わたしのような立場の角ありを、ただの性欲処理に使うのは先生ぐらいなものですよ」
「っ♥♥ っ♥♥ っ♥♥ っ♥♥」
「先生ほど倒錯したかたは、今までお目にかかったことがありませんね。繁殖だけしてこどもを産む価値しかない肌羊のほうが、まだかわいらしいぐらいでしょう」
「っ♥♥♥ っ♥♥♥ っ♥♥♥ っ♥♥♥」
「っ、締めすぎ、です、先生……だします、よ」
「――ッ♥♥ あづっ――♥♥ んっ♥ おなかのなかっ♥ ばしゃばしゃ♥ んっ♥ んっ♥ おねえちゃ♥ ひにんぐっ♥♥ つけてない、のおっ?♥ あかちゃっ♥ できちゃ♥♥」
「どうかしましたか? なにか問題があるなら、もうやめておきましょうか」
「んっ♥ んっ♥ ん……っ♥ ――なんでもっ♥ ないっ♥ なんでもないのっ♥♥ ん♥ つづけてっ♥ あ♥ もっとっ、してえっ♥♥♥ おねえちゃぁんっ♥♥♥」
「おおせのままに」
けだるいまどろみのなか、わたし以外のひとに媚び、まぐわいをおねだりする先生の嬌声に耳を傾けながら、ミルテさんの腰が上下するのに合わせて、わたしは細かく達し続けるのでした。
第五精魔法へ