※この作品はR-18です。

鉄の空   作:伊土 讃阿

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第五精魔法 1

 

 

 

 遠心分離機から取り出した試験管に薬液を滴下させると、ミルテさんは指先に火を灯して試験管を温めました。白金の耳飾りが、きらきらとまたたきます。ミルテさんは眉を曇らせました。

 

「――残念ながら、既存の毒素はないようですね」

「どうして、残念なんですか?」

「病理が既存の細菌ではないので、根絶する方法は現時点ではなにもわからないということです。やはりラジエイション――月毒やもしれません」

 

 新薬開発室も、ようやく気管工事が終わりました。臨時講義室として利用されていた折には、ただっ広い部屋に黒板、あとは机と椅子ぐらいしかありませんでしたが、今では様々な実験器具が運び込まれ、所狭しとひしめき合っています。

 

 居室にまだ人員は配置されておらず、わたしとミルテさん、それに先生しかいませんので、やけに閑散と感じられます。この部屋に入ってから、お喋りな先生らしからず、先生は一言も発していませんので、余計に――。

 

 先生は椅子に腰かけたまま、ぼうっと天井を眺め、心地よさそうに表情を緩ませていました。今周は例の発作が起きたので、注射を打ったのでした。いえ、今周どころか、最近ではずっと発作が起きっぱなしでした。

 

 当然、エメラルド板の解析どころではありませんでした。研究を一時中断して治療に専念しましょう、とミルテさんが提案したのは、昨周のことでした。

 

「自然に排出されるのではと踏んでいたのですが、見立てが甘かったようですね……対処療法もあまり効果がないようですし、月毒の解明を最優先としましょう」

「……つまり、どういうことでしょうか」

「先生には今周から完治の目途が立つまで、環境の整ったここに滞在してもらいます」

「そん……な」

「不安に思う気持ちはよくわかります。もちろん、毎周でもお見舞いに来てくださってかまいませんよ。あなたにとって先生は――将来を誓った相手、でしたものね」

「――ッ」

 

 またあの、観察者の目――ミルテさんはわたしが覗いていることを知っています。そして、その事実をわたしが知っているということもまた、ミルテさんには勘付かれているはずだと、わたしの直感は告げていました。

 

 先生との交尾が姦通であることを知っていて、姦通が知られていることも知っていてなお、行為に及ぶ、それすなわち、わたしなどまったく眼中にないという意味にほかなりません。真っ正面から、疑いようのない略奪する意志――否、取り戻そうとする意志を突き付けられ、わたしはひるんでしまいます。

 

 ミルテさんは今も変わらず先生を愛している――単なる家族としてではなく、つがう相手として。

 

「おや、そういえば……すっかり失念していました。ノート室長に、養護室の修正運営案に署名をしてくれないかと依頼されていたのです。提出期限は明周だったと記憶していますので、タルト、今からノート室長にのところへお使いに行っていただけませんか?」

「え……」

 

 封印をした筒をわたしに差し出しながら、おっとりとした微笑。

 

「このところ、どうも忘れっぽくて。エメラルド板解析が終わったあとの養護室の存続に関わる重要な書類ですから、直接お渡ししたいのはやまやまですが、わたしではどこかへ紛失してしまわないかと憂慮しているのです。頼まれてくれませんか、タルト?」

 

 仰々しすぎるも、拒否など許されない、わたしにも理解できるよう十分に配慮された脅迫の示唆。無尽蔵な大義名分――地位の差。ちからの差。

 

 第三象限の強烈な熱気に当てられ汗だくになりながら、わたしは筒を抱えて養護室まで走りました。

 

 こどもたちはみな遊びに出かけているのか、養護室はしんと静まり返っています。ハートもたしか、今周は図書室に本を借りに行くと言っていました。

 

「――ね、ナキュラちゃん、知ってる? 最近さ、ミルテさんとタルト、ニッカせんせを取り合ってるらしいって噂」

 

 ゆえに、そのスキュラの声は、室長先生の私室の前にたどり着いたわたしの耳にも届きました。声の出所は、室内から。鉄扉を叩きかけたわたしの腕が、大気分子に縫い付けられたみたいに空中で静止します。

 

 ぎしぎしと寝台が軋む音とともに、ナキュラの同意。

 

「あー知ってる。でもタルト、勝ち目ないでしょ」

「だよねェ、悪い子じゃないんだけどねー、相手が悪すぎるよね」

 

 ぐらつき――まさか双子まで。

 

「でもあの子さァ……ちょっと変わってるよね、正直なに考えてんのか、わかんないっていうか」

「あーわかる。ってかわかんないね。中身は明らかにこどもなんだけど、裏がありそうっていうか、なんか抱えてそうで、ちょっと気味悪かったり」

「あ、やっぱりィ?」

 

 身体の火照りが急速に凍てついていきます。心臓が倍の大きさに膨張し、脈動します。

 

「それに引き替え、ミルテさんは裏表なさそうだし」

「すっごい優しいし」

「しっかりしたおとなだし」

「料理もうまいし」

「きれいだし」

「優秀な元猟民だし」

「地位もあるし」

「ぶっちゃけお似合いなんだよねェ、あのふたり。……思えばニッカせんせって、今まで養護室のために自分を殺してきたんだもんねェ。急にあんないいひとに言い寄られてちやほやされたら、普通は揺らぐって。なんだかんだ言って、まだまだ若いんだし」

「あ、でもでも、これも噂なんだけど。ミルテさんって、ニッカせんせの最初のひとなんでしょ――メグせんせ?」

「……そっ、う、だけ……ど……」

 

 つっかえつっかえ、どこか息苦しそうに室長先生がいらえます。

 

「それほんと? じゃ、ミルテさんから色々教え込まれたってわけかァ。なるほどどーりでうまいわけだァ」

「猟民は体力あるからねー、付き合ってた頃はそりゃもう一周中はめまくりに決まってんじゃん」

「でもさー、なんで別れちゃったんだろ。知ってる、メグせんせ?」

「ん……ッ、しらなっ、い、わ……っくぅ……」

「またまたァ。冗談で、しょッ!」

「んっひいぃぃいッ!? ――ッ、――ッ、――ッ」

 

 やにわに、ひときわ盛大に寝台が軋むや、初めて耳にする、室長先生の大きな声。

 

 もしや、と脳裏にある構図が浮かび上がります。室長先生にまで、そんな想像をするなんて。あまりに下種の勘繰りじみた妄想――他人の交配を覗き見しすぎて、自分の頭がおかしくなったのではないかという疑念さえ湧きますが、その構図はみるみるうちに鮮明になり、着色され、現実味を帯びていきます。

 

「ほん……んッ、とう、に……しら、な……い、んッ、んッ、の……っ」

「ふゥん。ま、いいけど」

「順当に考えたら、猟民の任務で離れざるを得なかったからー、とかじゃない? ミルテさん、なんかすっごい重要で危ない任務とか任されてただろうし」

「その辺だろうねェ……できる猟民のつらいとこだよ」

「能力があるってのは悲劇だねェ」

「あんまし笑えないけどね、それ。ミルテさんも気の毒だよ? 猟民をやめなきゃなんないほどの一生癒えない怪我を負って、危険な任務からようやく戻ってきてみたら、愛するひとがこどもなんかに取られてただなんて」

「わァー、つら……ニッカせんせは、どう思ってんだろ?」

「ニッカせんせ、まじめだけど押しに弱いってか、股緩いしなー」

「ずっと身体売ってりゃ、貞操観念もおかしくなるよ。ま、ちゅーだけはだめとか未だに笑えるけど」

「今までお世話になった先生にはしあわせになってほしいし、ミルテさんが勝ってくんないかなー」

「さんざ都合よくはめまくっといてよく言うよ」

「でもほんっと悔しいじゃん。タルトのせいで使えなくなったからなー、あの穴。最初からミルテさん相手なら、すっぱり諦めもつくんだけど」

「ちょっとうるさくて面倒なとこあったし、メグせんせみたいに生でやらせてくんなかったけど、きゃんきゃん文句言ってて結局流されてやらせてくれるし、具合だけはよかったからねェ」

「……思えば、あの穴で今まで食わせてもらってたみたいなもんだなー、って」

「そこ、しみじみ思っちゃう?」

「は……っ! ふ……ッ! っくぅ……っ!」

「はあ……、メグせんせぇさァ、ひとりでイクのはいいけど、もっと気合い入れて締めてくんない?」

「醒めるんだよねー」

「っ、ごめ、……なさ……っ」

「やる気ないならさァ、新しいのに乗り換えてもいいんだよー?」

「そうそう、新しいのと言えば、思ってたんだけど、おちび、育ってきたよね」

「――ッ!? だっ、だめ……あっ、ハートに、は、あっ、手を出さな、いで……」

「あーわかる。急に色っぽくなった。わたしらよりおっぱいおっきくなっちゃったし」

「うまく言葉にできないけど、なんていうか、先生に似たやらしさあるよね。すっごいいじめたくなる」

「正直めちゃくちゃやりたいよね」

「どっちが先に落とせるか勝負する?」

「おっ、いいねー」

「おねっ、が……んっ、ほんとう、に……、やめっ、てっ、んっ……ちゃん、と、やるか、ら……んッ、んッ、んッ」

 

 わたしはそっとその場を離れ、双子が室長先生の部屋から出てくるまで、食堂で待ち続けました。

 

 

 

/鉄の空

/第一部 不灼の鹿々

/第五精魔法

/past the aurora of iron

 

 

 

 書類を室長先生に渡すと、養護室から逃げるようにしてまた新薬開発室に引き返しました。先生とミルテさんの姿はありませんでした。奥の私室から、かすかに声が聞こえます。耳をそばだてました。

 

「くっふうぅうううんンっ♥ ふーっ♥ ふーっ♥ はっ♥ はっ♥ はっ♥ おねえちゃっ♥ ちょっと♥ やすませて♥ もっ♥ もおッ♥ イキすぎてぇ♥ わけわかんないぃぃぃ♥」

「またそんなわがままを。わたしは一度も達してないのですよ。ニッカだけ、ひとりで勝手に気持ちよくなって不公平な言い分だとは思わないのですか」

「らってぇえ♥ おねえちゃんの……♥ きもちいいとこ……っ♥ ずっとあたりっぱなしだからぁぁ……♥ きもちよすぎるんだもん……♥ いっぱいイッちゃうよおぉ……♥」

「ようやく昔の形に戻ってきたみたいですからね。これからますます気持ちよくなれますよ」

「えぇぇ……♥ そんなのこわいよぉ……♥ あっ♥ あんっ♥ まだうごいちゃ……ッ♥」

「おや、戻ってきていたのですか――タルト」

 

 心臓が爆発しそうになります。気配で勘付かれたのでしょうか。猟民の知覚範囲の広さに薄ら寒いものを感じます。

 

 部屋のなかに入りました。寝台の上で、先生とミルテさんは全裸になって正常位で繋がっていました。脇机には使用済みの注射器があります。むっとするほどの甘い熱気が立ち込めています。わたしに気づいた先生がうろたえます。

 

「えッ!? タルト――あっ♥ まっ♥ おねえちゃ♥ やっ♥ やめっ♥ あっ♥ あっ♥ まって♥ あっ♥ ちがっ♥ ちがうのっ♥ あっ♥ これは――ひっぐううぅうン♥♥」

 

 ミルテさんの下から逃れようとするも奥深く穿たれ、先生は仰け反りました。軽く達しているのです。

 

「こらこら、暴れてはいけませんよ、ニッカ。触診ができないではありませんか」

 

 腰を動かしつつ意味ありげにわたしに目配せして、ふてぶてしくミルテさんが言いました。

 

「ちょうど今、先生の内臓の様子を調べていたのですよ。身体の外から触れただけではわかりませんが、こうやって、内側から刺激を与えると」

「あ゙ッ♥ だめっ♥ おねえちゃっ♥ そこだめ♥ だめっ♥ だめっ♥ だめっ♥ ――っ♥♥♥」

「その反応で、臓器の機能を確認できるのです」

 

 先生がまた身震いし、ぐったりしました。醜い縫合痕が走った薄い胸がせわしなく上下しています。

 

「はー……っ♥ はー……っ♥ はー……っ♥ おね……ちゃ……♥ いまは……だめ……♥ ほんとに……、むり、だから……♥」

「どうしてですか? なにか不都合なことが?」

「だ、って……みられ、てるぅう……♥ タルトがぁ……みて、るんだもん……♥」

「なるほど。見方によっては、不貞行為ともとられませんね。しかし困りました。見られていては治療できないというならば、タルトには退室してもらうほかありませんね」

「――ッ!? 待ってください!」

 

 わたしは声を張り上げました。

 

「いさせて、ください! それだけは……お願い、します……!」

「では、これは断じて不貞行為ではないと、そう信じてくださるわけですね」

「え……? あ――、え……? は、い……?」

 

 動揺して、わけのわからないまま肯定してしまうわたしに、ミルテさんはにこやかな微笑みを向けました。

 

「それは助かります。聞いていましたか、ニッカ。お許しが出ましたよ。これで存分に、治療できますね」

「そっ、そんなぁ……あ゙♥ あ゙ッ♥ ふぁあっ♥ あんっ♥」

「あ――、あぁぁ……」

 

 わたしが見ている前で、がつがつとした腰振りが再開されます。足がかくかく震えます。かつてない動悸に眩暈がします。

 

「んあーッ♥ あーっ♥ いっひぃいいッ♥ ひっ♥ いッ♥ きひぃいっ♥ ――あッ!?♥ お゙ォ゙ッ♥ んお゙ォ゙ッ♥ そこっ♥ なにいぃいぃ♥♥ なにっ、してるのおおぉおっ♥♥ そこっ、ひゃ、めええぇっ♥ ぞわぞわっ♥ するううぅうっ♥♥」

 

 突然、怒張を抽挿されていた先生の様子が変化しました。性交の悦楽に屈服し、流されるまま快感を享受するものから、なにかに恐れおののくものへ。

 

「ここ、ですか」

「あぎぃい――ッ!? ――っ、――っ、――っ♥」

 

 ごちゅり、とミルテさんの狙い澄ませた一突きに、先生が目を見開いて上体を反らせました。ぱくぱく口を動かしていますが、どれだけ待っても言葉が紡がれることはありませんでした。先生の脳が自覚できぬままに、肉体だけが一瞬にして高みに押し上げられたのでしょう。

 

「たしかに、こりこりとしたものがありますね。ちょっとほぐしてみましょうか」

「――ッ!? ――ッ♥ ――ッ♥♥ ――ッ♥♥♥」

 

 そのまま突きほぐすように胎内のある一点をえぐられて、先生は悶絶しました。ミルテさんに待ったをかけるみたいに、腕をちからなく叩いていました。

 

「お゙ほッ♥ ま゙っで♥ い゙っぐ♥ お゙ッ♥ おがッ♥ おがぢくなりゅっ♥ お゙ッほ♥ い゙ぐい゙ぐ♥ ごわれるっ♥ お゙ッ♥ おまんこごわれるうぅうううっ♥♥」

 

 気をやってしまうことなど慣れたはずの先生でさえ恐怖するほどの絶頂の嵐に揉まれ、全身は滑稽なほど痙攣しています。

 

「――っ、ニッカ……出します、よ」

「――ッ♥♥♥ ――ッ♥♥♥ ――ッ♥♥♥」

 

 機械的に打ち付けていた腰を押し付け、ミルテさんが動きを止めました。ほんのわずかに肩をわななかせていて、先生のなかで達しているのが察せられます。

 

 ミルテさんが依然として硬さを保ったままの陽根を引き抜きました。よく見れば、避妊具はつけていませんでした。わたしとミルテさんの目が合いました。ミルテさんは肩をすくめてみせました。仕方がなかった、とでも言いたげに。

 

「……患部に、抗体を塗り付けておきました。どうやら内臓も炎症を起こしてしまっているようですね。あァ、胤は精魔法で処理していますから、ご安心を」

 

 そううそぶくと、ミルテさんは先生を揺すり起こしました。

 

「ほら、ニッカ、呆けてないで、きれいにしてくださいな」

「ふぇ……ふぁいぃ……」

 

 先生はのそのそとミルテさんの股間に這いより、ふたりの体液でどろどろになった外性器を熱心に舐めはじめました。白く濁った液体を溢れさせるほころびきった陰唇を、わたしに恥ずかしげもなく晒して。

 

「タルトも、試してみますか」

 

 やおらミルテさんが、呆然としていたわたしに声をかけました。

 

「え――」

「触診ですよ。ただ見ているだけというのも、おもしろくないでしょう。せっかくですから、これからはタルトにも治療を手伝っていただきたいですし」

「は、い……」

 

 先生に陽根をしゃぶらせながら、ミルテさんはわたしに羊の盲腸を手渡しました――あなたはまだこどもなので、精魔法を仕損じる可能性もありますから、と。

 

 手が震えていたせいでもたつきつつ避妊具を取りつけます。無防備で、そして誘うように揺れていた先生の豊満なお尻を捕まえ、陽根をねじ込みました。

 

「んむううッ!? ん……っ♥ ぁむっ、んちゅっ、じゅる……♥」

 

 先生は挿入した瞬間はびくりと腰を跳ねさせましたが、よっぽど口淫に集中したいのか、すぐに気を取り直してミルテさんの陽根を喉奥まで飲み込みました。

 

 ミルテさんの股の間で揺れ動く先生の後頭部を見つめながら、わたしは腰を振りたてます。強く、必死に、可能な限り奥深くまで一物を突き入れます。

 

「ちゅっ、ぇろっ、ぷは……っ♥ んっ♥ はあぁ……♥ また、かちかちになってきたぁあ……♥ んっ♥」

 

 息苦しくなってきたのか、先生は口を離すと、愛おしげに頬ずりしました。

 

「……っ、ニッカが、上手すぎる、せいです」

「んふ♥ んっ♥ おねえちゃんもぉ、ぼくと、おなじこといってるぅ……♥ んっ♥」

 

 しゃかりきになって、どれだけ激しく出し入れしようとも、先生はかすかに甘い息を漏らすにとどまり、中断させるには至りません。そのくせ、とろけきった粘膜だけは意思を持ったみたいに、かつ無慈悲にわたしに絡みついては精をねだるがごときうねり、絞り上げ、着実にわたしを追い詰めていきます。

 

 ミルテさんは目を細め、優しい手つきで先生の頭を撫でました。

 

「……おねえちゃんですから、当然です」

「……えへ♥」

 

 先生は嬉しそうに笑うと、ミルテさんの手を取りました。指を絡めあいました。ミルテさんを頬張り直し、はしたない水音を立てはじめました。

 

 あまりにも遠すぎる――ミルテさんも先生も、わたしの存在などすっかり忘れ去っているみたいでした。

 

 先生と交尾している最中だというのに、名前越しに覗いていたときよりも、ずっとずうっと遠くに感じます。

 

 先生の気を引きたいがために果敢に振りたくるも無視され続け、わたしのほうが闖入者かなにかのような気にさせられます。

 

 はっきり言って、異常でした。きっと頭がどうにかなってしまったに違いありません。こんな状況、誰がどう考えたっておかしいのだから、わたしはミルテさんを引っぱたいてやめさせてもよかったはずです。

 

 なのに、止まらない。昂ぶりも、腰も。この刹那的で退廃的な快楽を取り上げられたくなくて、そしてなにより、嫉妬で、わたしの陽根はかつてなく猛り狂っていました。

 

 先生への想いを根源としない、単純に利己的な快感への渇望だけで、引き返せないところまで催してくるのがわかります。次に腰を突き出せば確実に達する、その直前、ミルテさんが面を上げてわたしを一瞥しました。やにわに身を乗り出し、わたしを突き飛ばしました。想定外の行動にわたしは受け身もとれず寝台から転げ落ちます。

 

「もう結構です。ここからはわたしがやりましょう」

「え――」

 

 呆然とするわたしの目の前で、ミルテさんが先生を押し倒しました。

 

「あ、わっ、な、なに、おねえちゃん……?」

「挿れますよ」

「ふぇ――っはあああぁぁぁああんッ♥♥」

 

 一息に陽根を挿入するや、まるでそれまでのわたしの動きを模倣するみたいなミルテさんらしからぬ落ち着きのなさで、激しい抽挿が開始されます。

 

「あッ♥ あッ♥ あッ♥ ま゙っ♥ はげしっ♥ あッ♥ おねえちゃっ♥ あッ♥ まっ♥ しゃべれなっ♥ あッ♥ あッ♥ おぉおッ♥♥ ――っ♥♥♥」

 

 わたしのときとは打って変わった悦びようを見せつけられ、射精寸前で先生から引き剥がされたことも忘れて食い入るようにふたりを凝視します。

 

「あ゙ッ!?♥ あ゙ッ♥ あ゙ッ♥ あ゙ッ♥ あ゙ッ♥ そこッ♥ あ゙ッ♥ あ゙ッ♥ だめなとこッ♥ あ゙ッ♥ あ゙ッ♥ やだッ♥ やだッ♥ やだッ♥ だめッ♥ だめッ♥ だめッ♥ ――ッ♥♥♥」

 

 先ほど先生が感じていたところを、集中的に狙い撃ちしているのだと察せられます。あの強烈すぎる絶頂体験に先生はまた恐怖を覚えているのか、じたばたともがきはじめます。

 

「おとなしくしてくださいな」

「あ゙ッ♥ そこッ♥ あ゙ッ♥ そこやばいッ♥ やばいのッ♥ あ゙ッ♥ こわっ♥ こわいいぃいっ♥ あ゙ッ♥ なんなのおぉおっ♥ あ゙ッ♥ なにしてるのおぉおっ♥♥」

「子宮で感じているのですよ。ずいぶんほぐれてきたみたいですし、きもちよくて脳がとろけそうでしょう」

「とけるうぅうっ♥♥ とけるのおおぉっ♥ とけるのこわいぃぃっ♥♥ いぃいッ♥♥ あ♥ やばッ♥ あ♥ やだっ♥ あ♥ ほんとにきちゃうっ♥♥ きちゃうからあっ♥♥」

「仕方ありませんね。では、克服してもらうためにも子宮イキに慣れてもらいましょうか。これに慣れると、たいてい交尾依存症になってしまうそうですが――ニッカならきっとだいじょうぶでしょう、先生ですものね」

 

 先生の拒絶も意に留めず、ミルテさんはひたすらに子宮を揺さぶり続けました。やがて――。

 

「んおおぉおっ♥♥ おぉお゙ーっ♥♥ お゙ッ♥ お゙ッ♥ い゙っぐっ♥ い゙っぐっ♥ い――っ、ぎ――っ♥♥♥ ――っ♥♥♥」

 

 極限まで背中を反らし、白い喉を晒して、先生は絶頂しました。先生が達するところは幾度となく目にしてきましたが、一目にして今までで一番高いところまで押し上げられていることが理解できます。

 

 二、三分ほどでしょうか、ミルテさんはしばらくじっと先生を眺めていましたが、長い長い絶頂からようやく降りかかるとみるや、再度子宮をえぐりはじめました。

 

「んいいぃぃい……♥ お゙っ♥ ねえ、ちゃっ♥ まだ……っ♥ むりいいいぃい……っ♥ まだっ、いっへるうぅうう……♥」

「慣れてもらうと言ったはずですが」

「これえぇぇ……♥ あだま……っ♥ おかじくなりゅうぅうう……っ♥ いぐの……♥ おわんないぃいぃ……♥ ほんどにぃい……っ、ごわれるぅうう……♥ ばかになっちゃうぅう……♥」

「多少壊れても、わたしは気にしませんよ」

「お゙ッ!?♥♥ お゙ォ゙オ゙ォ゙お゙お゙ッ♥♥ お゙っほお゙ぉ゙お゙お゙ォ゙オ゙っ♥♥」

 

 品のない声を上げ、またもや先生は深すぎる恍惚に沈められていきます。

 

 それで本当に慣れてしまったのか――先生は頂を重ねるその都度にどんどん過敏になり、冗談のような頻度と長さで、恍惚の極地に到達し続けました。もはや絶頂を極めていない時間のほうが短くなり、そのうち性感が狂ってしまったのか、髪を撫でられ、くちづけされただけでも容易に気をやりました。

 

 ミルテさんが先生を自らにまたがらせたのは、確か第四象限を周った頃でした。元猟民の偉躯の上で先生は無防備に、そして絶え間なく至高の瞬間を迎え続け、自制できないといったていで更なる高みを求めて自分から腰を振っていました。

 

 ミルテさんも何度も射精していました。すべて先生の膣内で、直接。

 

 ミルテさんは二、三回ほど先生のなかで果てると、決まって休憩を取りました。数えきれないほど気をやり、朦朧としている先生を起こし、ふたりの体液にまみれた怒張にお口で奉仕させました。あたかも、このめくるめく多幸感をもたらす相手が何であるのか自覚させ、服従させるみたいに。

 

 ひとしきり綺麗にすると、先生は陶然とした面持ちでミルテさんの腕枕に頬を摺り寄せ、甘えていました。血潮のせせらぎに耳を傾けていました。わたしには聞こえない声量で睦言を交わし、ふたりしてくすくすと笑いあっていました。そして一〇分も経つと、ミルテさんはまた長大な陽根をみなぎらせて、交合を続行するのでした。

 

 いつしか、わたしのことも、治療と言う名目さえも忘れ去ってしまったのか――ふたりの口が紡ぐ言葉は、みっつだけになりました。

 

 ふたりが好きと囁き合うたび、わたしの心臓が麻痺していくのがわかりました。

 

 ふたりが愛していると囁き合うたび、痺れた心臓が鉄に覆われていくのがわかりました。

 

 ふたりが互いの呼び名を囁き合うたび、冷たい鉄が血を凍てつかせていくのがわかりました。

 

 外がすっかり明るくなるまで、ふたりは舌を絡め合い、舌を吸い合い、肌を重ね、汗を混じらせ、全身で体液を交換しつづけました。わたしは一言も発しませんでした。

 

 ずっと、見ていました。

 

 懸命に、嗚咽を噛み殺しながら。かつてない――かつてなく陽物をいきり立たせながら。

 

 

 

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