※この作品はR-18です。

鉄の空   作:伊土 讃阿

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第五精魔法 2

 

 

 

 掃除や洗濯など、養護室の仕事を片付けるなり、わたしはその周も先生のところへ駆けつけました。新薬開発室は相も変わらずひとけがなく、機材や実験器具が使われた様子もありません。食欲を誘うかぐわしい匂いがかすかに漂っています。わたしは奥の部屋の戸を叩き、開けました。

 

 台所にミルテさんが立っていました。その傍らには先生がいて、訪問者に気づくと、掴んでいたミルテさんの服の裾をぱっと離しました。

 

「ぁ……おはよ、タルト」

「……おはようございます、先生、ミルテさん」

 

 先生はさっと顔を伏せ、腕を隠しました。短くなった髪は乱れていて、その首筋にはかすかに朱が差しています。しとねは濡れていました。脇机には注射器がありました。新薬開発室とこの部屋は、薬品を取り扱う関係で室温安定のために師管経路が床下を通っているので、第四象限に裸で過ごせるほどには寒くなく、先生は薄着でした。見たところ、先生は今周が新月でした。

 

 心を覆う冷たい鉄が、軋みを上げます。

 

 この部屋に、わたしの名前はありません。元猟民の眼を欺いて、どこかに名前を刻むなど到底不可能な所業に違いありませんから。ここでなにがあったのか、わたしに知るすべはありません。

 

「おはようございます、タルト。今から食事にするところだったのですよ。あなたも、いかがですか」

「……いただきます」

 

 わたしも用意を手伝って、三人で食卓に着きます。

 

 献立は、仔羊の蒸し煮と挽肉の包み揚げでした。蒸し煮は舌だけで肉がたやすく融けるほど、ほろほろの煮込み具合。包み揚げのほうはというと、皮はかりっとして香ばしく、同時に熱い肉汁がじゅわっと溢れでてきて、ついつい頬張ってしまいます。

 

「どうでしょう、おくちにあいますか?」

「……おいしい、です。猟民は、みんな料理が得意なものなんでしょうか」

「得意かどうかは別として、料理に不慣れな猟民はいないでしょう。膨大な熱量を必要とするため、猟民は基本的には健啖ですし、自分で一度に大量につくったほうが安上がりで手間がかかりませんからね。それに、塔外では自分で調達した食料をどうにか調理して食べられるものにしなければならないので、わたしもよく創意工夫していたものです」

 

 ですが、とミルテさんは目を細めました。

 

「わたしの場合、教えていただいた方がとても上手だったのですよ。もっとも、そのひとは猟民ではありませんでしたが」

 

 食事を終え、後片付けをしてお茶を飲みつつ一息入れていると、肘掛椅子に座っていた先生が太ももを擦り合わせながら上目づかいでミルテさんを見つめ、おずおずと、ささめくみたいに切り出しました。

 

「……おねえ、ちゃん……おくすり、打ってほしい……」

 

 わたしが聞いた限りでは今周で通算二言目の先生の言葉が、わたしの肩をわずかに震わせ、呼吸を乱します。

 

 冷たい鉄が、軋みを上げます。

 

 先生がこの部屋に移ってから早一五周、重くなった症状のせいか、あるいは注射が効きすぎているのか、普段の先生は口数をめっきり減らしました。以前はいい意味でこどものように溌剌としたひとだったのに、ここしばらくはずっとうつむいていて、気だるげで、どこか夢見がちで、いつもミルテさんの顔色を窺っているような感じ。いつの間にかミルテさんの傍に寄り添っていて、わたしが気づくとミルテさんと繋いでいた手を慌てて離すようなことが何度もありました。

 

 同時に、新月の期間が長くなっていました。一方で、新月の間隔は短くなっていました。ミルテさん曰く、薬の影響で月が狂っているそうですが、健康を損ねるものではないとのことです。

 

「そうですね、そろそろ治療をはじめましょうか。タルト、手伝っていただけますか?」

「……はい」

 

 抗菌作用があるので治療の前は必ず服むように、と一五周前に説明されていた粉薬を指示されるまでもなく、準備します。

 

 ひとつまみ分を鼻から一気に吸い込むと、甘苦い匂いを伴って頭がすぅーっと冷えていき、清涼感が訪れたのち、臓器が急激に発熱し、頭がぐらぐらしてきます。心拍数は五倍、一〇倍、一〇〇倍――交尾の寸前のごとき手の付けられない昂揚状態。初めてミルテさんに抗体を注入されたときのようです。

 

 相性の問題なのか、純度の問題なのか、興奮しこそすれ、わたしには先生ほど効果がないようですが、わたしはこの薬が、四月ほど前、ミルテさんが解熱剤だと言って先生に使用した猟民の薬とほとんど同一のものであると推測していました。そして、ミルテさんに飲まされたあの炭酸水にも、おなじ薬が混ぜられていたとも、考えています。もはや確かめる術はありませんが。

 

「はぁぁぁぁあぁあああぁぁ……♥♥ んぉぉおぉおぉぉぉ……♥♥」

 

 熱い、熱い吐息。ミルテさんが先生の腕から針を抜き、注射痕に唾液を刷り込みました。先生の瞳孔は針のように細くなり、口角からは唾液がぼたぼた垂れています。

 

 わたしやミルテさんのことさえすっかり忘れ去り、こころの芯から薬物による至福を味わっているような面持ち。

 

 まぶしい――あまりにも。

 

「ではニッカ、こちらの用意ができるまで、準備運動をしていてください」

「ふぇ……ぼく、ひとりで、すりゅのぉ……?」

「もうおとななのですから、ひとりでもできるでしょう。ただし、わたしの許可なく気をやってはいけませんよ」

「うぅぅ……わかっらぁ……」

 

 ミルテさんに言い含められて渋々といった様子な先生は、汚さないよう布を敷いた椅子の上で服をお腹までたくし上げ、脚を広げました。下着を身に着けていないので、遮光幕から漏れる陽光のもとに露わになった秘部は、すでに蜜をたっぷり分泌させていて、白濁した液体を滴らせていました――まるで、つい先ほど胎内に仕込まれた胤が逆流してきたみたいに。

 

 先生は己の陰唇に右の中指を挿し込み、左手で陰核をこねくりまわすと、甘い声を漏らしはじめました。

 

「ん……ッ、ふっ、……ふぅっ、んっ、んっ、んっ」

 

 わたしやミルテさんの視線に気づいても、かわいらしく照れ笑いをこぼしつつ手を休める気配はありません。ぞくりと名状しがたき昏い衝動に襲われます。

 

 まぶしい――幻惑される。

 

「ふぅっ……、あ……っ、……えへっ、ぼくっ、んっ、ちゃんと……っ、っ、できてるっ、かなあ……?」

「お上手ですよ。さすがニッカ、おりこうさんですね」

「え、えへへ……や、ったぁ……んっ、はぁ……っ、っふ……」

 

 おだてられ、可憐にはにかみながら喜ぶ先生。

 

 たしか、代謝を高めるためだとか、薬を活性温度まで上げるためだとか、なんとか。準備運動をする理由は、そんな建前だったと思います。

 

 五回目からはもうミルテさんが何をしようと理由は訊かなくなりましたし、あからさまな口実をうそぶかれることもなくなりました。どれだけもっともらしく受け入れがたい陳弁をされようと、わたしには反論する勇気など持ち合わせていませんし、なら参加するなと断られれば、先生はきっとあっさりそれに従うだろうということは自明であったからです。

 

 なにも考えてはならない――先生の、傍にいたければ。

 

「さて、タルト。今周も、清めていただけますね?」

「……はい」

 

 先生に背を向け、服を脱ぎ、寝台に腰を下ろしたミルテさんの前で、膝を折ります。ミルテさんのそれは割礼されているため、わたしのものと形状はよく似ていましたが、大きさは比べるまでもありません。屹立する前でも、滾りきったわたしのものより遥かに長大で、顔を寄せると威圧感さえありました。

 

 教えられたとおり軽く接吻してから、唾液を乗せた舌を這わせはじめます。甘ったるい香水の匂いのなかにまだ生々しい性交の臭気、そして痺れる苦さ――舐め慣れた先生の愛液とミルテさんの子種の混合物、不義の証。

 

「んむっ、……ぇおっ、はむ……っ」

 

 薬か、口淫のせいでか、眩暈にも似たぐらつきに見舞われます。匂いを嗅ぎ、熱い陽根に舌を押し付けるそのたび、条件反射で子宮が心臓よろしく激しく脈動し、おしりがじりじり疼きます。先生の前で肛門性交された、あのめくるめくような体験を、身体が思い起こしているのでした。

 

「ぁむ……っ、ん……っ、んんん――ッ! んむっ、んっ」

 

 それはミルテさんにも悟られたのか、すっと伸びてきた腕が、わたしの乳房をやわやわと揉みほぐし、硬く尖りきった乳首をきゅっと摘まんで、疼きをさらに助長してきます。わたしはたまらなくなって、次第に張りつめてきた陽根を咥えこみました。といっても、ミルテさんの怒張は顎が外れそうなほどに大きい代物ですから、先生のように根元までは飲み込めません。

 

 おくちのなかで陽根が硬度を得ていくのを感じながら、匂いを染み込ませるみたいにその先端を頬の内側や口蓋に擦りつけます。徐々に濃くなりつつある味がわたしに酩酊をもたらし、同時に被虐的な欲望を刷り込んでいきます。

 

 この巨大な存在に服従したくなる――支配されたくなる。いえ、もう支配されてるのかもしれません。これから、わたしのつがい相手を犯そうとする者の陽根に、奉仕させられているだなんて。これほどみじめで憫然としたシシは、わたしをおいてほかにいないでしょう。その認識がまた、わたしの陽根にも伝播し、熱く、みじめったらしくいきり立たせていきます。

 

「もう結構ですよ、タルト」

 

 肉茎を離させ、立ち上がろうとするミルテさんを、わたしは押しとどめました。

 

「あの……先にわたしに、抗体を入れてもらえませんか」

「わたしは構いませんが――このところ、毎周ですね。ひょっとして、気に入りましたか?」

「……かもしれない、です」

 

 屈辱的な指摘を、わたしは先生に聞こえないぐらい小さな声で受け入れておきます。

 

 いくら元猟民のミルテさんにだって、体力の限界はあります。ゆえに、わたしが積極的にかしずき身体を差し出すことでミルテさんが満足できれば、それだけわたしの地平線が乱される回数を減らせるはず。

 

 どんな理由だっていい。どれだけ自分の魂を貶めてもいい。先生を守ることさえ、できるなら。

 

「わかりました。ではタルトから処置しましょう」

「ぇ……おねえちゃ……ぼくは、ぁっ、しなくて、いいの……?」

 

 おあずけを食ったみたいに、ひどく落胆した様子の先生。

 

「そんなに、先にしてほしいのですか、ニッカ?」

「ぁ――、ちっ、ちがくて……、んっ、タルトは、まだ、こどもだし……あんまり、むり、ぁっ、しないであげて、ほしくて……ふっ」

 

 熱に惑わされようと、先生もおなじように、わたしをかばってくれているのを知って、先生とのこころの繋がりを感じます。いささか取り繕うような口ぶりに聞こえたのは、気のせいに違いありません。だいじょうぶ、わたしと先生は、まだだいじょうぶ――。

 

 冷たい鉄が、軋みを上げます。

 

 お尻を向けるよう言いつけられ、体勢を変えると、先生と目が合いました。が、焦点はわたしに合っていないような気がします。薬のせいでしょう。

 

 温めた丁子油を肛門に塗布されて、肉杭に穿たれます。陽根を受け入れ慣れたわたしのそこは、特に抵抗もなくやすやすとミルテさんの侵入を許しました。

 

「ぅはあぁぁぁあぁ……っ、ふぅぅううぅうぅぅ……ッ」

 

 体内で輻射される高熱が、わたしの肺から空気を押し出します。またも、先生の目の前で肛門性交させられ屈服させられている――そんな感傷に浸る間もなく、ミルテさんに腰を掴まれて、前後に身体を揺すられます。

 

「お……ッ、お……ッ、おっ、んぉぉ……ッ」

 

 ミルテさんの滾りが腸内を往復する都度、臓器がひとつずつほぐれてとろけて甘い甘い痺れを放ちます。ミルテさんへの奉仕で昂ぶっていたこともあり、お腹のなか全部が、ぞくぞく、ふわふわ、どうしようもなく心地よくて、しあわせで、挿入して間もないにもかかわらず、甘美な絶頂がすぐそこまで忍び寄っているのを悟ります。

 

「くっふぅぅ――ッ、っ、っ、っ、ふうぅぅ――っ! ――ッ! ――ッ! ――ッ!」

 

 床に唾液と精液がぼたぼたと零れ落ちます。わたしは絶頂に対して身構えたりせず、まともに受け入れていました。意識が恍惚に白みますが――だいじょうぶ、まだ気力はある。

 

 昨周までのわたしは、なるべく達しないことが肝要なのだと勝手に決めつけていました。達することは、こころを許し、相手に服従させられることなのだから、一度でも気をやってはならないと、懸命に耐え忍ぼうとしていました。

 

 結論から言うと、愚かな試みでした。どれだけわたしが耐えようと尽力しようとも、ミルテさんの技倆を前にしては結局は強制的に頂へ押し上げられてしまい、しかも我慢すればするほど倍旧に強烈な悦楽がわたしを襲い、意識を手放させ、その間に先生が治療されてしまう――猟民の忍耐力を、わたしごときがしのげるわけがなかったのです。

 

 だから、今周からは方針を一八〇度変更しました。昇天しそうになったら、さっさとしてしまって、快楽を体内に溜めずに細かく発散することで、息継ぎの時間をつくったのです。

 

「ふーっ、っ、ふーっ、あっ♥ んっ、ん……っ、ふーっ」

 

 だいじょうぶ、うまくいっている。昨周ほど、きもちよくはない。この調子なら、まだまだ、何十回だってやりすごせる。

 

 三〇分経つまでは、そう思っていました。

 

「んぉおおおぉおッ! ――ッ! おぉおっ! っ! ――っ、――っ!」

 

 視界がぼやけます。頭に靄がかかります。一瞬、自分がどこにいてなにをしているのかさえ忘却して、睡魔に引きずり込まれそうになりますが、かろうじて残っていた気力で踏みとどまります。手足の感覚はもうありません。内臓がすべてすり潰され、いっしょくたにされて煮込まれたみたいに、なにもかもがとろとろでした。

 

 いったい、いつまで耐えれば――。

 

「今周は、ずいぶん感じているのですね」

 

 頭の上から降ってくるミルテさんの声は、最初、先生のことを言っているのだと勘違いしていました。先生はミルテさんに命令された通り準備運動ならぬ自慰を続け、お尻に敷いた布をどろどろに汚してしまっていましたから。

 

 ですが、ミルテさんはわたしのことを指摘していたのでした。

 

「今ので、五度目ですよ。昨周は一度きりでしたのに」

「は……っ、は……っ、かんじて、にゃんか……にゃい、れふ……」

 

 舌がもつれて、自分でもなにを言っているのかわかりません。

 

「否定する必要はありませんよ。己の欲望に素直になるのはよいことです。そうやって――つがい相手に対して遠慮せず、快楽をむさぼっているほうが、どこかの誰かさんのようでかわいらしいですよ。そう思いませんか、ニッカ?」

 

 幾度となく迎えかけたであろう絶頂を禁じられまま、ひたすら自分を慰めていた先生は、全身汗みずくで、涙と鼻水で童顔をぐしゃぐしゃにしていました。気を紛らわせて頂に至るのを回避するためか、先生はいやらしく腰をくねらせていますが、真っ赤になった陰唇を弄ぶ手を止める術も持ちあわせていないようでした。

 

「も゙お゙ぉ゙ぉぉお゙……っ、やだぁあぁ……っ、ぐすっ、はや゙くっ、おわってよぉおぉぉ……タルトっ、ばっかりぃぃ……、ずるいっ、よぉぉお……っ」

 

 ぞっとしました。どす黒い猜疑心が沸き起こるのがわかりました。よもや、今、熱と薬の作用で理性を剥ぎ取られた先生の淀んだエメラルドには――わたしは、ご褒美を横取りした邪魔者としてしか映っていないのでは、と。

 

 冷たい鉄が、軋みを上げます。

 

 背中に体温を感じました。ミルテさんがわたしに覆いかぶさり、耳朶に息がかかる距離まで顔を寄せてきたのでした。甘い匂いのなかにかすかに香ってくる、鉄の匂い。血の匂い。生温い、月が満ちる匂い。

 

 こころなしか、嘲りを含んだ声色でささめきました。

 

「快感を分散させるのはなかなかよい戦略ですね、と褒めてあげたいところですが……ひとつ忠告しておきましょう。イキ癖というものは、一度身体に染みつくと抜けないものなのですよ。――先生のように」

「ど、どうひ、て……」

 

 すっかり動転したわたしに、さらなる追い打ち。

 

「見通しもですが、詰めも甘かったようです。弱点に当たらないよう、やや角度をずらしていたようですが、いかんせん露骨すぎましたね。さて、そろそろあなたの穴も飽きてきたので、もう堕ちてくださいな」

 

 そっと額に触れられます。しろがね色の角を握りしめられます。たったそれだけで、魂ごと掌握され、征服された気分。

 

「ぁ――」

 

 そして、あまりに精確な一突き。

 

「んお゙ォ゙ォ゙おおおおおおぉ――ッ!?」

 

 一発でかつてないほど深く落とされます。これまでの絶頂が、ただのじゃれあいに感じられるほどの鮮烈な至高の瞬間。そのままがつがつとえぐられ、言葉らしい言葉は失われて、ただ泣き叫ぶのみ。

 

「んあ゙ーっ! あ゙ーっ! あ゙ーっ!」

 

 咄嗟にして発汗量が一〇倍になり、弱点をごつごつ狙い撃ちされるごとに失禁したみたいに精液がびちゃびちゃ床へ噴出します。白い液だまりのなかに、ぽつぽつと蒼い滴が垂らされていきます。

 

「んいぃーッ! ひぃーッ! いぃぃぃーッ!」

 

 意識が濁りかける寸前で、陽根が小刻みに脈動し、とどめの一撃と言わんばかりに熱い奔流が粘膜を叩きます。ミルテさんの射精に誘発されて、最後のひと絞りがこぼれます。

 

「――っ! ――っ! ――っ!」

 

 ミルテさんは射精を終えるや、わたしの身体をぞんざいに解放しました。汗と愛液と精液と血液で水浸しになった床の上にべちゃりと放り出され、気絶しかかっていた意識がかろうじて踏みとどまります。

 

「――っ、ま……、まっひぇ……くら、ひゃい……」

 

 腰を上げ、先生のところへ向かわんとするミルテさんの足首を掴みました。その足には、滴る経血が一条の蒼い線を描いています。

 

「ま、ら、まだ、でき、まふ……」

 

 ミルテさんは冷え切った色のトパーズで、体液だらけの床に這いつくばるわたしを見下ろしました。有無を言わせぬ色なき重圧――魔法による名前越しでは嗅ぎ取れなかった、満月のときの気配。まさしく猟民の気迫のようなもの。

 

「その心意気は認めますが、とうに体力の限界を迎えているではありませんか。それに――」

「だめぇええ……っ、だめだよぉお……っ、つぎは、ぼくの……っ、ぼくのばんだもん……っ!」

 

 涙ながらの先生の訴え。それは絶対、ぜえったい、わたしをかばわんとする言葉のはずで――。

 

「というわけです。おとなしくそこで覗いていることですね」

 

 ミルテさんは足でわたしを振り払い、先生の前に立ちました。

 

「さて先生、使える状態になりましたか?」

「も……うっ、じゅんびっ、ばんたんだよぉぉお……はやくぅ、してぇっ、はやくっ、はやくっ、ちりょおっ、してよおっ! なおしてよおっ!」

 

 肘掛椅子の上で、とろけきった陰唇を指で広げて、生殖孔を恥ずかしげもなく見せつけ、切なくてたまらないといったていでおねだりする先生に、ミルテさんはおかしそうに確認しました。

 

「治療、ですか。しかしよろしいのですか? つがい相手がいるのですよ? ともすれば、つまがさねているとも邪推されかねません。いくらタルトでも、誤解するやもしれませんが」

「やっ、だぁあ……っ、やだっ、けどぉ……っ、するぅっ、するもん……ちりょお、したいもん……っ、もぉずっとっ、うずうずっ、しっぱなしだもん……っ! もういれようよぉお……っ、もういれたぁい……っ!」

「そうですか。ですがせめて、許可はもらうべきでしょう。さァ、先生、タルトにたずねてみてくださいな」

 

 エメラルドを涙できらきら輝かせ、先生が期待に満ちた熱い眼差しをわたしに向けました。

 

「いーい……? いれても、いーい……っ? おねえちゃんに……っ、ぱんぱん……っ、ごんごん……っ、してもらっても、いーよね……っ? ぼく……っ、ほしいのっ、おまんこっ、めろめろになっちゃってるの……っ!」

 

 今周、やっとわたしに投げかけてくれた、おはよう以外の言葉。わたし以外のひととの、交尾の許しを請う言葉。

 

 行為のときだけとはいえ、かつての饒舌を取り戻す先生がまぶしくて、先生につらい思いをさせるのが、忍びなくて、わたしはまた――。

 

「おや、お許しが出ましたね。では寝台に移動しましょうか」

「もおっ、ここでいいっ、よぉお……! おなかんなかっ、ぞくぞくしっぱなしでぇ、たてないっ、もん……」

「おおせのままに」

 

 先生が椅子の上で足を抱えて広げ、角ありの交歓を完全に受け入れる体勢になりました。ミルテさんが腰の位置を合わせて、ぬかるんだ陰唇に陽根を沈めていきます。

 

「くっふぅぅぅうぅぅぅ♥♥♥ きたきたきたきたぁあぁぁぁ♥♥♥ んはあぁぁぁああぁぁ♥♥♥」

 

 歓喜の声とともに、ぶるぶるぶるっと先生が全身を震わせました。新たに分泌された愛液が長大な肉茎に押し出され、先生のお尻を濡らします。

 

「もう達したのですか?」

「ら……♥ らってぇ……♥ こんなりっぱなの♥ こんな、すごいの、だれだってぇ……♥」

「誰だって、なんですか?」

「だれだって……♥ むりやり、いうこときかされちゃうもん……♥ いいなりにされちゃうもん……♥ しかたないもん……♥ ぼくのせいじゃ、ないもん……♥」

「おや、ひどい言いがかりですね。では抜きましょうか」

「だぁっ、だめだめだめだめぇえっ!」

 

 陽根を抜きかけるミルテさんの背に手をまわし、がっちりしがみつく先生。

 

「どうしていけないのですか?」

「だってぇ……、ほかのこに、いれちゃうんでしょ……♥ ぜったいぜえったい、だめだもん……♥ わるさしないように、ぼくがこうして、つかまえとくんだもん……♥」

「先生のことですから、にわかには信じがたいお言葉ですね。本当は、治療に仮託して、自分が――」

 

 ミルテさんはおもむろに腰を引き。

 

「独占したいだけなのでしょう」

「んぅやあああっぁぁぁああ♥♥」

 

 どすんとちから強く最奥まで一息に貫き。

 

「挿入しておかなければ」

「あぁぁぁ……♥ ぬけちゃ……♥」

 

 また腰を引き。

 

「奪われると思っているのでしょう」

「お゙ォ゙お゙お゙お゙おぉぉぉおおン♥♥♥」

 

 再び渾身の勢いで奥に叩きつける。その、繰り返し。

 

「んわぁぁあああっ♥♥ はぁぁぁおぉぉほぁぁぁあッ♥♥ ぃいっひいぃぃぃィィっ♥♥♥」

「羊みたいによがっているだけでは、わかりませんよ、先生。ちゃんと答えてくださいね」

「あ♥ あ♥ そおっ、ですううぅぅっ♥ いッ♥ おねえちゃんの♥ ぼくにぴったりのおちんちん♥ いっぱいきもちよくしてくれるおちんちん♥ あ♥ はなしたくないんですうぅぅうっ♥♥」

「そんなおちんちんを譲ってくれたタルトに、言うべき言葉があるのでは?」

「あっはあぁぁっ♥ あーっ♥ あーっ♥ っく♥ ありっ、がとおぉぉっ♥ かわってくれてえっ♥ ありがとおぉおっ♥ あ♥ いくっ♥ イっちゃっ♥ ――っ♥♥♥」

 

 わたしを意識したせいか、過剰なまでに昂揚したのでしょう、がくがく四肢を痙攣させて、先生が一層高く昇りつめました。そんな先生にもお構いなしに、むしろさらに追い詰めんと、ミルテさんは一物を激しく抽送させはじめました。

 

「おねえちゃっ♥ ま゙っでぇえ゙っ♥ イっ♥ いまっ、すごいのっ、きたばっかりっ、だからあっ♥ きついからぁっ♥ びんかんおまんこにっ♥ なっちゃってるからあぁっ♥」

「単に先生がだらしないだけでしょう。ちょっとは我慢できないのですか?」

「だってえぇえ♥ あ♥ またイク♥ できるわけっ♥ ないもんっ♥ おねえちゃんの♥ おちんちんっ、すごすぎるもんっ♥ いっく♥ いくいく♥ はんそくおちんちんだもん♥」

「ではこうしましょう。次に気をやってしまったら今周はもう終わりということで」

「やああっ♥ やだやだやだあぁあっ♥ むりむりむりむりむりいぃぃいいっ♥ ひぃーっ♥ んひぃっ♥ いっひぃぃぃーッ♥」

 

 先生は歯を食いしばり、ミルテさんに抱きついて、暴力めいた快楽を必死に抑え込もうとしていました。ミルテさんにも情交を中断させる気がないのか、規則正しく腰を打ちつけ先生をひっきりなしに絶頂させ続ける動きから、抑揚をつけて相手に性感を認識させ、こころを昂ぶらせる責めに切り替えました。

 

「ふーっ♥ ふぅーっ♥ ふぅーっ♥ あっ♥ いりぐちぃっ♥ ひっかかって♥ んにいいいっ!?♥ みみぃっ♥ かんじちゃうっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ またきた♥ おくきた♥ あ♥ おちんちんぬいちゃ♥ やああん♥」

 

 はじめはただ責めに反応し、身をよじるのみでしたが、急所を意識させたかと思えばすぐにずらして焦らし、冷めさせることなく、しかし絶頂の予感を覚える閾値ぎりぎりのところで感情を盛り上げ続けるミルテさんの巧みな愛撫によって、やがて先生のほうから火照った肢体を押し付け、しなをつくるみたいに身悶えしはじめました。

 

「はーっ♥ はっ♥ はっ♥ はっ♥ おねえちゃ♥ おねえちゃあぁあんっ♥ はああぁっ♥ ねっ♥ ねっ♥ ねえっ♥ ねえったらぁあっ♥」

「どうかしましたか?」

「もおぉぉぉおぉっ♥ いきたっ♥ いきたいッ♥ いきたいいいたいいきたいよおおぉおっ♥ もっ♥ むりいぃっ♥ からだっ♥ ばくはつしそおおっ♥」

 

 ミルテさんは満足げに微笑みを浮かべました。

 

「イキたいなら、勝手にイケばよいではありませんか。実際、先生が自己申告しなければ、達したかどうか、わたしにはわからないのですから」

「やだあぁぁあ……♥ もおやだあぁぁ……♥ いじめっ、ないでよおぉ……っ♥ いじわる……っ、しないでぇええ……♥ イキたくても……っ♥ イケないもん……♥ もうっ、まんぞくできないもん……っ♥ もうじぶんでっ、イキたくないもん……っ♥ しつけられちゃったもん……っ♥」

「では、どうしてほしいのか、はっきり教えてくださいな」

「イカせてほしいのぉおおっ♥ おねえちゃんにいぃぃいいっ♥ イカされたいのおぉおおぉっ♥ めちゃくちゃにしてほしいのぉおおぉおぉっ♥」

 

 こころと身体を完全に支配された角なしの、あられもない願い。

 

 まぶしい――直視できないほど。網膜を灼くほど。

 

「おおせのままに」

 

 勝ち誇った声音で恭しくそう告げると、ミルテさんは再び単純な反復動作をしやすい体勢に。強すぎず弱すぎず、先生の身体が最大に悦ぶ強さで、弱点だけを正確に精密に突きほぐしはじめました。

 

「うはぁァァあああァンッ♥ そこそこそこそこおぉおおっ♥ あーっ♥ あーっ♥ あーっ♥ いいっ♥ いいよぉおおっ♥ ひぃいーっ♥ はひぃいーっ♥ くるっ♥ もうくるううっ♥ すぐくるぅううっ♥ あっ♥ きた♥ きたきたあぁぁあっ♥ すごいのくるっ♥ ばかになるやつくるっ♥ あっ♥ えっ!?♥ あっ♥ やばっ♥ あっ♥ これやばっ♥ あっ♥ ほんとにやばいかもっ♥ あっ♥ やばいのくるっ♥ あっ♥ やだ♥ あっ♥ まってっ♥ あっ♥ おねえちゃ♥ あっ♥ こわいっ♥ あっ♥ こわいよっ♥ たすけっ♥ あっ♥ ま――っ♥」

 

 臓器というもっとも深い性感帯がもたらす、およそその規模さえ計り知れぬ絶頂感に先生は驚愕し、恐怖を訴えるも、脅威そのものが自らの肉体である以上、逃れることなど、かなうはずもなく。

 

「お゙ォ゙お゙お゙お゙ぉ゙お゙お゙お゙ぉおお――ッ♥♥♥」

 

 知性など微塵も残っていない歓喜の咆哮――なにかが取り返しのつかないほど壊された音を、聞いた気がしました。地平線が、なにかに翳らされたかのような、そんな感覚。

 

「おあああ……♥ あああ……♥ あ……♥ ……♥ ……♥ ……♥」

 

 先生は仰け反らせていた身体をだらんと弛緩させました。見開かれたエメラルドは光を失いぐるんとひっくり返り、みっともなくこぼれる唾も気に留まらないようで、無理に絶頂を抑え込めていた反動か、決壊した性感は脳の神経を焼き切るほど苛烈なものだったようです。

 

 と、ミルテさんが怒張を根元まで挿し込んだまま、ぴたりと動きを止めて短く息を吐きました。射精しているのでしょう。

 

 わたしが参加してから、ミルテさんは避妊具を使ったことはありませんでした。今周、先生は新月のようでしたが、ミルテさんは満月です。確かめる術はないものの、子種は精魔法でひとつ残らずくだしてくれているはず――。

 

「つがいの傍でここまで乱れられるなんて、先生の奔放さには逆に感心させられますね」

「あー、う……あー……」

 

 見るからに先生の意識は混濁していて、皮肉も届いていない様子ですが、そんなことにはおかまいなしにミルテさんは続けます。

 

「このままではいつかタルトに見放されてしまうやもしれませんね……そうだ、治療のついでに、先生のそのふしだらな性格も矯正しましょうか」

「ぉ……、……、う……」

「賛成ということですね。そうと決まれば、さっそくタルトに報告いたしましょう」

 

 陽根を引き抜くと、ミルテさんは先生を抱え上げました。床に四つん這いにさせ、わたしと向き合わせました。また挿入しました。抽挿をはじめました。わたしを、嗤いながら。

 

「ほォおおおぉぉあぁ……ッ♥♥」

「先生が淫らなばかりに、不安になることも多々あったでしょう。しかし、もうだいじょうぶです。わたしが――姉として責任を持って厳しく教育していきますから、安心なさってくださいな」

「おォォぉ……♥ ……♥ うぁァぁァァ……♥ あー……♥」

「ほら、先生もきちんと謝ってください。今までごめんなさい、これからはおねえちゃんのおちんちんでしっかりしつけてもらいます、と」

「んおォオおおおぉォッ♥ おぉぉおっほおォオオッ♥♥ おおあアァあああッ♥♥♥」

 

 舌を突き出し、羊じみた悦びの声を上げ、恍惚の表情を浮かべる先生。

 

 手を伸ばせばすぐ届く距離で、わたしは――。

 

「というわけで、これからも温かく見守ってあげてくださいな」

 

 とどめの一撃、とばかりに深く陽根を突き入れました。先生が故障した時計仕掛けの人形みたいにがくがく痙攣しはじめました。膣内で、また胤を受けているのでしょう。

 

「伝え忘れていましたが、実はペケット主任に会う用事があるため、今から少しばかり出かけなければなりません」

 

 ミルテさんは全身を引きつらせる先生をほったらかして、床に伏せていたわたしの前にやってきました。わたしの鼻先に、うなだれた肉茎を突き出しました。命じられるまでもなく、わたしはふたり分の体液を舌で拭いとりはじめました。

 

「かと言って先生をひとりにしておくわけにはいきませんから、タルト、留守番を頼まれてくれますか? その間――好きに使ってくれてかまいませんので」

 

 なにを、とは言われませんでしたし、たずねませんでした。

 

 ミルテさんは陽根のお掃除を終えたわたしの手を取り、なにかを握らせました。羊の盲腸でした。

 

 手際よく純白の衣装を着て身だしなみを整えるなり、ではお願いしますね、とミルテさんはびっこを引きながら部屋をあとにしました。

 

 絶えず手足を小刻みに震わせる先生に、おそるおそる声をかけました。

 

「あの、先生……?」

「ん……っ♥ ん……っ♥ ん……っ♥」

 

 瞼は開いていますが、翠緑の双眸がたたえるのは虚無それのみ。きっとまだ深い深い絶頂のなかに囚われているのでしょう。

 

 ひとまず寝台に寝かせてあげようと、心魔法を発揮して先生を担ぎます。燃えるように熱い身体――宛然、今しがた太陽に灼かれたかのごとき熱さ。

 

 先生を背負ったところまでは順調だったものの、床にまき散らされたわたし自身の体液に足を取られ、先生もろとも寝台に倒れ込みます。

 

 汗でぬめる先生の下敷きになったわたしは抜け出そうともがきますが、すぐにしがみつかれて阻まれます。

 

「えと、先生……? 起きてます……?」

「んんっ♥ ん……っ♥ ん……っ♥ ん……っ♥」

 

 焦点のあっていない瞳からは依然として意思を見出せません。寝台に倒れた衝撃で覚醒したのかとも思いましたが、まだ前後不覚といった有様です。

 

 ただ、なにかに縋りつくか、すり寄ってないと身体はいてもたってもいられないようで、甘えるみたいに顔やお腹をわたしの素肌にやたら擦りつけてきます。体温で濃密さを増した石鹸の香りが漂います。

 

「ん……っ、せん、せ、やめて、くださ……」

 

 そんな先生を相手に欲情するなと言うほうが無理な相談でした。ミルテさんとの交わりでしこたま精を放っていたわたしの陽根に血が集まり、先生の肌を押し返します。

 

 吸い寄せらたかのように、先生はわたしの滾りに顔を寄せてきました。ひとしきり鼻や頬で感触を確かめると、大きく口を開けてくわえこまれました。

 

「うあわっ、せんせえっ!? あっ、あっ、つよっ、いっ!」

 

 粘膜で優しくとろかし、あやすようないつもの口淫とは打って変わって、舌先で尿道口をほじくられながらじゅるじゅるとすすられて、わたしは悶絶します。

 

 唇をすぼめて頬を窪め、あたかもわたしの体液を一滴残らず吸引せんとするかのように貪られ、わたしが察知するよりも早くすみやかに熱が込みあげ、そのまま放出されます。

 

「はあぁああっ、ふっ、うぅう……っ」

 

 わたしの肉竿が口内で跳ねるにあわせて、先生も小さく痙攣しているようでした。まさか、今ので――?

 

「ん……っ♥ ん……っ♥ ふぁ……あぇ、タル、ト、だぁ……んっ♥」

 

 エメラルドの虹彩に徐々に光が宿りはじめます。放心するわたしを尻目に、のろのろと這い寄ってきて、鼻面をわたしの髪や耳や首やらに押し付け、すんすん鼻を鳴らしました。

 

「タルトぉ……♥ んっ♥ タルトぉ♥ ん……っ♥ んっ♥ タルトぉ……っ♥」

「あ、のっ、先生……?」

 

 なかば覚醒はしていますが、先生はそれ以外の単語を廃忘してしまったみたいにわたしの名前だけを呼び、体臭を嗅ぎ、汗を舐め続けていました。先生はなにかを確かめている――やにわに、そんな直感がわたしに訪れました。

 

 そして、鼻と鼻がくっつきそうな距離でわたしの瞳を覗き込むと、先生はぽつりと囁きました。

 

「タルト……まだ……ぼくのこと、すき……?」

 

 不安で不安でどうしようもなくて、今にも泣きだしそうな童顔。心臓がずきずき疼痛を発します。

 

 第二の直感――嫉妬の混じった、懐疑の香り。でもそれは、誰に対して?

 

「もちろん、す――んむっ」

 

 答え終わる前に、接吻で塞がれます。外性器をさすられます。むくむくと劣情が首をもたげます。舌を絡めあったまま、先生が挿入しかけますが、すんでのところで制止します。

 

「ぷぁ……っ、待って、ください、その、ちゃんと着けないと――」

「ぁ……うん……そぉ、だね……」

 

 ひどく傷ついたような顔の先生に見守られながら、そそくさと羊の盲腸をかぶせます。先生は待ちきれないといった風にすぐにまたがってきました。

 

「あ、わ……」

 

 膣内は、どろどろでした。粘膜は避妊具越しでも吸い付くようで、それ自体が意思を持ったみたいにうねり、蠢き、侵入者にむさぼりついて内臓の温かさを伝えてきています。

 

「ふ……っ♥ ぅ……っ♥ んっ♥ ね……タルト、ね……ぼくのこと、すき……?」

 

 お尻を揺すりながら、二度目の問いかけ。針金がぎりぎりと肺を締め付けます。

 

「す――ぅむっ」

 

 開きかけた口に、指が差し込まれます。舌の裏側をくすぐられ、口蓋を撫でられて、ぞくぞくしたものが脊髄のなかを這いずりまわります。

 

「ね……んっ♥ ほんとに、ぼくのこと、すき……? っくぅ……♥ ほんとの、ほんとに、ぼくのこと、すき?」

「ひゅ、き……ぁむっ、ひゅきっ、れふ……ひゅき……ぇろっ」

 

 腰を前後に振るたび問いただしてくる先生の指を舐め、甘噛みしつつ、想いを述懐します。

 

 冷たい鉄が、大きく軋みを上げます。

 

 痛い――痛くて、痛くて、たまらない。ミルテさんにされるどんな行為よりも、先生のその一言が、わたしの奥深くまで響いてきて、こころを苛んでやみません。

 

 あまりにも遠すぎました。以前は、こころだけはいつだってすぐ傍にあったのに。どれだけ離れていても、お仕事でほかのひとに抱かれていたとしても、先生の気持ちが感じられなかったときなんて、一度もなかったのに。

 

 なのに今は、交尾をしている最中だというのに、なにもわからない。なにも、伝わらない。

 

 あるいはただ、わかっていたつもりになっていただけなのかも。本当はこれっぽっちも、通じ合ってなかったのかも。

 

 もういい――もう、やめて。

 

 視界が滲み、目尻から頬へ滴が滑り落ちるのと、達するのはほぼ同時でした。

 

 痛みを伴う、生理的な現象としての、絶頂。多幸感など皆無。充足感など、あったものではありませんでした。

 

 それでも、離れることだけはできませんでした。疎ましく思うこともありませんでした。ただただ先生のことが、愛おしかった――。

 

 唇を熱い水滴が叩きました。先生の涙でした。舌の上に、甘い、あまりにも甘い味が、じんわり広がります。わたしの陽根はすっかり萎えきっていました。続きはできそうもありません。先生がわたしの上から降り、傍らに寝そべりました。手を握ってきました。

 

 無言で見つめあっていました。五分か、一〇分か、一〇時間ぐらい。

 

 部屋の主が戻ってきました。寝台の上で寄り添いあうわたしと先生に一瞥をくれると、ミルテさんは床に脱ぎ捨てていたわたしの服を拾い上げました。わたしは手を離して上体を起こしました。

 

「ずいぶんお待たせして申し訳ありません、タルト」

「いえ……」

 

 ミルテさんはわたしの胸に服を押し付けると、おっとり笑んでみせました。

 

「あとはわたしが看病しますので、もう退出してくださって結構ですよ」

「……はい」

 

 微笑からかすかに覗かせる威圧感に、腋汗が噴き出します。背中に突き刺さる先生の視線を感じながら、わたしは身支度を済ませました。部屋を出ました。扉に耳を押し当てました。鉄扉から冷気が耳を介して脳に流れ込んできます。

 

「あの、ね……、おねえちゃん……また、おちゅーしゃしてほしい……、――ぁ、まって、ちゅーしながら、して――んむっ♥ んっ♥ んちゅっ♥ ぷはっ、はぁああぁあぁぁあぅん……♥ ……えへっ♥ えへへ♥ ええぇ、おちゅーしゃぁ、きもちいーからぁあ、わらっちゃうのはあぁ、しかたないよぉお♥ あっ♥ やぁあん♥ やん♥ やだ♥ もおっ、おねえちゃ♥ そっちのおちゅーしゃ♥ またするのぉっ♥ ぅんっ♥」

 

 笑い声混じりの、愉しげな嬌声。

 

「あんっ♥ まって♥ おねえちゃあんっ♥ ぅはあああァ――っ♥ すごぉいっ♥ おっき♥ すっごいよォおおおっ♥ あーっ♥ あーっ♥ あーっ♥ いく♥ いく♥ いく♥」

 

 ふと、今周はあと何回するのだろうとぼんやり思うと同時に――わたしは、先生が移動してから壁に線を刻んでいなかったことを思い出していました。

 

 懐を漁って、先生がくれた、LCと刻印の入った傷だらけのちっぽけなからくり短刀を取り出しました。剣筆をぱちんと展開させました。辺りを見渡しましたが、部屋の壁には形状記憶ミスリルが薄く引かれていました。わたしは左の手の平に剣筆を押し当てました。一本、二本、三本、四本、五本――水晶の瞳に焼き付けていた、先生がミルテさんと交わる光景をひとつずつ蘇らせていきました。

 

 線は全部で、二〇と一本でした。

 

 冷たい鉄が、軋みを上げます。

 

 

 

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