ティファレトの言葉に偽りはなかった。
組合は腐敗しきっている。腐臭に満ちている。経済は破綻している。富は一方的に流動している。だからこそ組合は成り立っている。正常に歪曲している。
瓦礫の塔は崩れやすいが、積みやすい。瓦礫の塔を積むものは、都合の良い礫と都合の悪い礫を、好きなときに入れ換えることができる。
汚らわしい。組合は不潔だ。私欲がそこかしこから滲み出ている。悪臭が鼻をつく。
だが、ニッカは喜んでいる。組合では本しかない地下室に幽閉されることはない。好きに外に出られる。片割れ以外のシシと話したり、遊んだりできる。ニッカの望んでいたものすべてがある。自由がある。
塔から離れづらくなる。今塔を出れば、ニッカから再びすべてを奪うことになる。ニッカには恨まれるだろう。それだけは避けたい。
上層部は接触してこない。視線は感じない。違和感はない。常に警戒は怠っていない。上層部は、まだ自分たちに気づいていないのかもしれない。
ティファレトたちの任務は聖母のエーテルだった。聖母のエーテルはシシを羊に変える。極秘中の極秘、禁句中の禁句だろう。上層部のなかでも、知るものは限られているだろう。
ひょっとすると――四猟士が全滅したことで、自分たちを見失ってしまったのではないか。失態を隠蔽するために、情報を揉み消したのではないか。聖母のエーテル奪取計画は立ち消えたのではないか。
ありうる――組合ならば。
様子を見よう。もう少し、ここにいよう。ニッカがしあわせならそれでいい。
ニッカの求めるものがあるところにいよう。適応しよう。組合のシシになろう。廃棄処分なったシシも食らってみせよう。
腐敗を飲み込もう。ニッカが欲する腐敗なら、それは甘美に違いない。
ニッカには、第四二塔は組合の襲撃にあったと説明していた。自分たちは末端にすぎないので、組合の労働力になることで受け入れられた、とも。
四猟士になにをされたのか、ニッカは覚えていなかった。攫われたことさえ記憶していなかった。都合がいい。
思案を巡らせる――後々の影響を考えよう。やがてニッカが普通の暮らしに順応したときのことを考えよう。すべてマルギトに押しつけよう。
聖母から迎合の提案を受けたことを打ち明けた。血負けでとっくの昔に産親が死んでいたことを打ち明けた。ニッカが聖母とマルギトに廃棄処理されかかったことを打ち明けた。
陰謀を創作した。眼球を抉りだし、乳房を切り落としたのは、聖母とマルギトということにした。組合に悪感情が向かないようにした。
ニッカは納得した。マルギトはたびたび離塔を訪れてはニッカを犯していた。
マルギトは毎回身体を変えていたらしい。ニッカは同一のシシに犯されていた認識を持っていなかったが、聖母のシシに犯されていたことは疑いようがない事実だった。
ニッカは、胸が軽くなっちゃったと笑ってみせた。これで肩が凝らなくていいやと冗談を言った。
臍の穴や、縫合痕は残ってしまった。猟民なら難なく消せたが、ニッカは角さえなかった。ニッカは肌が透けない黒い服を着るようになった。眼球が完全に合っていないのか、本を読むときは眼鏡をかけるようになった。自分への恨めしさばかりが募った。
第二一八塔に来てからも、ニッカは魔法の勉強をしたがった。教室に通うようになった。すぐにノート室長の手伝いとして、教室で魔法の講義をすることになった。並みの講師で教えられることは、とっくに知悉していた。
ニッカは聡い子だった。教えるのもうまかった。ノート室長も講義内容について相談するほどだった。先生と呼ばれるようになった。
だが――以前よりも鈍っている気がする。切れがない気がする。衰えた気がする。あんなことがあったので、仕方ないのかもしれない。
こどもたちに魔法を教えるのは、やりがいを感じるらしい。先生と呼ばれるのは気恥ずかしいらしい。
ニッカはずっと生き生きとしていた。輝いていた。まぶしかった。地平線然としていた。
第二一八塔に移って、二月ほどが経った。
第二一八塔は目まぐるしかった。息苦しく、みな塔建設のためにきびきび立ち働いていた。時間の流れが早く感じた。
ニッカとともに、成月していた。評価試験が終わった。手応えは感じていた。ニッカは自信がなさそうだった。緊張していたのかもしれない。
さて、さて――。
狩猟室にはすでに接触していた。力量を示していた。
二本角に、炎の回路――ちょっとした話題になったらしい。根の国でもっともいと高きものに近いと噂されているらしい。
是非来てくれと言われた。試験の結果に関わらず、席を用意すると約束された。幾人もの猟長に声をかけられた。
ニッカが目覚めた以上、養護室の存続を考慮する必要はなかったが、ほかにできることもない。猟民になるしかない。根回しもせねばならない。
古参の猟長に、最新の魔法の研究をしたければどこの部屋がいいのか、と相談した。
猟長が顎をさする。「先端魔法開発室か、検閲室だろうな。前者は猟民張りの激務だし、後者は本当の天才にしか席は用意されないらしいが。無論、実力で勝負すれば、の話だが」
ひきこもりだったニッカに体力はない。先端魔法開発室は無理だろう。
「知人が、検閲室に興味を持っているのですが」
察した表情。「ほう。名前は?」
「ニッカ・ネツァクといいます」
「任せておけ。あすこの次長が知り合いでな。その代わり――」
頷く。「必ずや、あなたの下でお役に立って見せましょう」
下卑た笑みを浮かべる。「頼もしい限りだな」下心丸出し。
どこの塔でも猟民は目立ちたがった。成果を上げたがった。第二一八塔では特に顕著だった。
第二一八塔では、猟民の報酬と権限は過剰なまでに多大だった。遊牧民と直接やりとりし、接待するのも猟民の仕事のひとつだった。塔建設を引き延ばす手段のひとつだった。
火の回路はうってつけだった。見栄えがよかった。なにより簡潔だった。誰にでも、おなじ理解を与えられた。火を見るほどに明らかだった。
異動広報の配布周を迎える。
ニッカが講義に行ったのを見計らって出かける。
鍛冶室に足を運ぶ。荷物を受け取る。預けていた猟杖と、猟杖に合わせてつくらせた鞘に、投擲用の短刀、甲冑、火浣布の外套、それにもっとも大事な革の小袋――すべて経費で落とす。
鞘も短刀も手甲も比重と機構にあれこれややこしい注文を付けた特別製――アルベドとの戦闘では学ぶべきことが多々あった。すべて取り入れてみた。鍛冶室の主任には嫌な顔をされた。
下層の遊牧民と猟民向けの市場にも寄る。酒精室の店を覗く。香水を物色する。
小一時間かけて見つける――甘ったるい、シャンディからの贈呈品とおなじもの。
なかなかに値が張る。葡萄酒も合わせると相当な額になる。猟杖をちらつかせる。どちらもつけにしてもらう。
香水はあれ以来つける気にはなれなかった。きっとシャンディを思い出すから。あの光景を思い出すから。製造室での匂いは、鼻孔の奥にこびりついていた。
だがニッカにつけていてほしいとせがまれた。安心するらしい。おねえちゃんの匂いらしい。
久しぶりにつけてみる。特に何の感慨も湧かない。頭痛もなし。ほっとする。
養護室に戻る。食欲をそそる香り。メグが豆と腸詰の煮込みをつくっている。今周の食事当番。
「ただいま戻りました。おいしそうですね」
「ぁ……おかえり、なさい」澄んだ大きなアメジストの虹彩は相変わらず怯えているように見える。
メグはノート室長のひとり娘だった。ノート室長につがいはいない。今も昔も。メグは繁殖計画で生まれたシシだった。
繁殖計画で生まれたシシは、往々にして内向的になるらしい。血を半分しか知らないかららしい。繁殖計画で与えられる胤は、誰も特定できないようになっているらしい。
「ニッカは戻ってきていますか?」
「まだ……図書室だと、思う……」
都合がいい。荷物を置きにニッカとの相部屋に向かいかける。
消え入りそうな声に呼び止められる。「あの……味見して、くれない……?」
どこか自信なさげ。珍しい。メグは料理や裁縫だけは手慣れていた。
首をかしげる。「……? かまいませんが――」一口いただく。「いつもどおり、おいしいですよ」
メグが視線を逸らす。「……あの子は、こういうの、好き……?」眼鏡の位置を直す。
メグはわかりやすい。メグはニッカに好意を持っている。自分とは口をききたがらないが、ニッカとよく講義の内容について意見交換しているのを見かける。
「そうですね、あれで酒好きですから、もう少し濃いほうが口に合うかもしれません」ほかにもあれこれと助言してやる。「――もしお節介でなければ、また今度、故郷の料理をお教えしましょうか。ニッカが好きなもの、とか」
「ほんと?」期待に満ちたアメジスト。
微笑む。約束してやる。
メグはしおらしい。扱いやすく、御しやすい。きっとニッカを喜ばせてくれるだろう。協力してもらおう。メグも本望だろう。角がないなら、きっと害はない。都合がいい。
次第にみなが戻ってくる。ニッカも帰ってくる。食事の時間になる。食卓に着く。全員が揃う。
食事の前に重大発表があると、ノート室長が言う。広報を大仰に読み上げる。
自分の名前が呼ばれる――配属先、狩猟室。
こどもたちが騒ぎ立てる。称賛の声が上がる。畏敬の視線を向けてくる。気恥ずかしい。
ニッカの名前が呼ばれる――配属先、養護室。
こどもたちが囃し立てる。歓迎の声に包まれる。ニッカを小突いている。かまびすしい。
呆然とニッカを見つめる。ニッカは面映そうにしている。嬉しそうにしている。
まさか――いや、それしかありえない。
ニッカは自ら検閲室を辞退した。
こどもたちが寝静まる。相部屋で葡萄酒を開ける。
ニッカが杯を傾ける。「うんうん、こっちの葡萄酒もなかなかいけるねッ」ニッカが満足げに頷く。「でも葡萄酒って、ここじゃ、かなーり高いんでしょ?」
第二一八塔では肉以外の食材が高い。とくに糖分を含むものは異様に高騰している。
おそらく脳の成長を阻害し、萎縮させ、末端のシシから思考能力を奪う魂胆――組合らしい。
「猟民であると言ったら、つけにしてもらえました」
「えェ……、おねえちゃん、猟民になるのは、明周からじゃないの?」咎めるような眼差し。
おどけてみせる。「おや、すっかり失念していました」
ニッカが寝台の上で笑い転げる。すぐに案じる顔になる。「……おねえちゃん、ほんとに、よかったの? 狩りは好きじゃないって、いっつも言ってたよね」
「ほかに貢献できるすべを知りませんから」杯を乾す。「ニッカこそ――ほかの部屋からお誘いはなかったのですか」さりげなさを装う。
「んー……」ニッカが困ったような面持ちになる。「実はさ……、検閲室から、声がかかってたんだ」
「それは素晴らしい」努めて自然に振舞う。
「きっとさ、なんかの間違いだったんだよ。んーん、絶対、ぜえったい、そう」
「まさか」かぶりを振って否定する。「ニッカには、学問の才があります。魔法に関しては誰よりも堪能です。実力が認められたのですよ」
ニッカは酒精でやや紅潮している。「そりゃァ、嬉しかったよ? なんせ検閲室だもん。最新の魔法技術や、まだ誰も知らない文化に触れられて、いっぱい研究できるんだもん。すっごい、すっごい名誉なことだってのは、わかってる。でもさ、ぼくがやりたかったのは、そういうんじゃないんだ」
「と、いうと?」
ニッカが葡萄酒をちびちび舐める。「あっちで、おねえちゃんに魔法を教えてたでしょ。すっごく、楽しかったんだ。そのときから、先生になれたらいいなって、ずっと思ってたんだ。で、こっちにきて、こどもたちに魔法を教えてみて、やっぱりこれだ、って思ったの。予算が少ないからいろいろ苦労が絶えなくて誰もやりたがらないし、なんせ教育なんだから責任重大だし、でも、だからこそ、やりたいって思うひとがやるべきなんだと思う。ぼくは、先生をやりたいんだ。ナイン先生にも、恩返ししなくちゃだし」
エメラルドの双眸からは確固たる意志を汲み取れる。
まぶしい――。
参った、参った――余計なことをしたらしい。危うくニッカの夢を潰してしまうところだったらしい。
薄々感じていた。ニッカは前を向いている。自分の道を見つけて歩んでいる。自立しつつある。
ここは第四二塔とは違う。血の銘による庇護はない。ニッカは組合に適応しつつある。自分とは、べつのかたちで。
どこまでも愛おしい。
杯を置く。「……ニッカ」居住まいを正す。
「んー?」
翠緑の虹彩を見つめる。「好きです」
おかしそうに。「えェ、急に、どしたの、おねえちゃん? 酔ってるの?」
「本気です。愛してます。根の国で一番。誰よりも、愛してます」
「あ、わ……、う……」ますます赤くなるニッカ。「ぼくも……おねえちゃんのことは、すき……です、けどォ……?」うつむきがちに、くすぐったそうに髪をいじる。
ニッカの杯を奪う。「目を瞑ってくださいな」左手を取る。懐の小袋から取り出したものをはめてやる。「もういいですよ」
ニッカが言葉を失う。「……これって――」
甲のその外側から二番目、薬指にはめられているのは、慎ましやかな白金の煌めき。
その指輪、その証、その関係。
想いを告げる。「ニッカ、わたしの、妹ではなく、つがいになってもらえますか」
ニッカはうろたえている。「でも……でも――」
無理もない。組合ではつがいになる前に血液を成分分析されるらしい。血が近すぎると、つがいになることは認められないらしい。
別の血の銘でありながら、絶対ひとつになれない――組合に来て、唯一肩透かしを食らった点。ここでなら、ただのつがいになれると期待を寄せていたのに。ここでも半端者にしかなれない。
「組合の正式な認可がある契りではありません。しかし、けじめをつけたかったのです。わたしたちはもう、血の銘のくびきからは解き放たれました。古めかしく忌まわしいしきたりに従う必要はありません。だからこそ、第四二塔からの関係性に流されるのではなく、第二一八塔で生きていくふたりのシシとして、今の、そしてこれからの互いの気持ちと立場を、明確にしたいのです――ニッカ、わたしと、つがいになって、ずっと一緒に、いてくれませんか」
ニッカの頬は濡れている。「おねえちゃんこそ……ぼくで、いいの? ほんとに、ぼくなんかで、いいの? おねえちゃんなら、きっと、もっといいひと、見つかるんじゃ、ないの……?」
首を振る。「ニッカ以外、考えられませんから。さ、返事を、聞かせてもらえますか」
ニッカが告げる。微笑をもって。「――はい、喜んで。おねえちゃん」
手を握る。握り返される。顔を寄せる。そっと。
ニッカの唇は涙の味がする。甘ったるい味がする。それは以前、塩辛かった気がする。
語らう――とりとめもないことを。本当のつがいのように。寄り添い合って。
やがて、第四象限から第一象限へ。
室内でも肌寒い時間帯。大気は凍てついている。葡萄酒の瓶は空いている。少しの酩酊と、果つることなき充足が冷気を感じさせない。
床に就く支度をする。油灯を消そうとする。
「ね、おねえちゃん」ニッカがおずおずと持ちかける。「一緒に、寝ていい?」
「……かまいませんが――」
「やたっ」
ニッカが化粧着を脱いで寝床に潜り込んでくる。酒精で火照った身体を押し付けてくる。すんすん鼻を鳴らして、匂いを嗅いでくる。「んふー、おねえちゃんの匂いだぁ……」
浮かれている。満ち足りた表情をしている。今この瞬間ほど至福のときはないと言わんばかり。
温かく、柔らかい。石鹸の匂いがする。
まずい――下半身に血が集まってくる。
酒もまわっている。強烈に催してくる。
一旦意識すると歯止めが利かなくなる。心魔法で抑え込もうとする。集中できない。勃起する。
猟民は月薬で常に満月が近い。第二一八塔に来てからというもの、肉欲に負けて花を買おうかと幾度となく下層に足を運びかけた。
およそ二月間、誰とも交わっていなかった――おそらく猟民の新記録。どうやら自分は我慢強いらしい。
耐えるしかない。第二象限まで、あと六時間。
ニッカの頭を撫でてやりながら、体勢を変えようとする。かえって押し付けるかたちになる。
「ん……」ニッカがぴくりと肩を震わせる。「ね……、おねえ、ちゃん……」
発汗する。心臓が張り裂けそうになる。
「なんか、お腹に、硬いの、当たってるんだけど……」
「……すみません」情けなくて死にそうになる。身体を離そうとする。
ニッカに服の裾を掴まれる。「ね、おねえちゃん……つらいん、だよね」ニッカが上目遣いで覗き込んでくる。「ぼくが、したげよっか」
「なにを、言って――」
「だいじょうぶ、だよ。ぼく、ちゃんと、できるよ?」下着のなかに手を忍び込ませてくる。「おばあちゃんには黙っていろって言われてたけど、おねえちゃんとつがいになったら、こうするようにって、教えられてたから……いろんなひとで、練習させられてたから……だから、任せて?」
「……ッ」胸が軋む。いたたまれない。
汗ばんだ手の平が屹立を包み込む。たったそれだけで身じろぎひとつとれなくなる。
暗闇のなかでニッカがささめく。「熱い、ね……それに、すっごくかちかちだ……」撫でるようにさすられる。
「ふぅっ、ん……」
「どお……? いたく、ない……?」こわごわ。不安げ。自信なさげ。
ぞくぞくする。「きもち、いいです……」流れに身を委ねてしまう。
心底ほっとしたみたいに。「……えへ」ニッカが気の抜けた笑みを浮かべる。「ちょっと腰、浮かせてね」
下着を脱がされる。剛直が外気にさらされる。優しく扱きあげられる。反応を確かめながらの控えめな刺激。切なさが募る。もどかしさに疼く。硬度と直径と体熱を増す。
「わ、わ、まだおっきくなるんだ……」感心した風に、ニッカが陽根を眺めている。「それに、こんなに、反り返って……」
そのまま顔を近づけてくる。匂いを嗅いでくる。おそるおそる舌を伸ばしてくる。
舌先が先端に触れる。その熱さに驚いたかのように一瞬舌を引っ込める。すぐに舌を押し付けてくる。ぴちゃぴちゃ舐めまわしてくる。ひりつく快楽が走るのを幻覚する。
刺激自体は弱く、絶頂を迎えるような性感ではないが、その視覚効果はこれ以上ないほど功を奏している。かつてない昂ぶりを覚える。
ニッカは肉茎全体に唾液をまぶすと、今度は大きく開けた口で包み込んでくる。口蓋や内頬の粘膜に先端を擦りつけながら、舌を絡めてくる。
「んぶ……んぐっ、れろ……っ、あむ……っ、ぉぶっ」
定常作業のごとき淀みない動作――手馴れている。手順を把握した上でやっている。祖母の、あるいはマルギトの教育の賜物。
腹立たしい――そして憤りながらも、その口淫を享受している自分がより忌々しい。劣情と嫌悪感でどうにかなりそうになる。
同時に――ニッカの表情が硬いことに気づく。緊張と言うより怯えているように見える。恐怖している。
はっとする。ニッカは、交尾が恐ろしいに違いない。それは常に苦痛を伴っていたに違いない。
ニッカの肩に手を置く。「……ニッカ、もう、いいですよ」
「え……」ニッカが傷ついたように訊く。「よく、なかった……? ぼく、だめ、だった……?」
「いえ――違うのです。こうなってしまったのは、ニッカにさせたいわけではなく、ニッカと一緒に、よくなりたいからなのです」
ニッカがきょとんとする。「ぼくも……? で、でも、ぼくには、その……おちんちん、生えて、ないし――」
的外れな答えに一瞬当惑する。すぐに理解する――ニッカは交尾に対する知識を、あまりに歪められている。
憤怒が沸き起こる。やるせなさに転移する。
マルギトと祖母は、何十月も前からニッカを穢していた。歪みはきっと、ニッカのこころの奥深くまで到達しているだろう。価値観は形成されきっている。今さら矯正はできない。癪に障る血の置き土産。
今になってようやく認識する。
ニッカを傷つけたくなかった――それは、自分が傷つきたくないだけだった。
だからニッカを求めきれなかった。だからなにもかもから遠ざけようとした。
ニッカに腐敗は似合わない。きれいなままでいてほしいと願う。ずっと、まぶしいままでいてほしい。
自分にとってだたひとつの地平線だから。
穢れをみそぐには、手を取って導いてやるしかない。ひとつずつ取り除いてやるしかない。
ニッカを抱き寄せる。「ここでは、第四二塔のような交わりはしないものなのです。わたしが、教えてあげますね」ニッカの唇にくちづける。
はじめは唇で皮膚をなぞり、あやすごとく。やがてついばみ、吸い付くように。
「ん……、ふ……、んむ……」当初は受け身だったニッカも、次第に接吻の心地よさがわかってきたのか、こちらの唇を食んでくる。
頃合いを見計らって、舌を挿し込んでみる。ニッカが驚いて身をすくませる。口蓋や舌をくすぐったり突っついたりしてみる。
ニッカの吐息が漏れる。「ふうぅっん……っ、んっ、ん……っ、んふっ」華奢な肢体が弛緩する。こちらに体重を預けはじめる。
息継ぎさせる。「どうですか?」
ニッカのエメラルドはとろけている。「き、きもち、いいかも……」耳まで真っ赤になっている。
次は舌を絡めてみる。特に抵抗はない。ニッカからも絡めてくる。
ニッカの体温が上昇してくる。はだえに汗が滲んでいる。ニッカは汗っかきらしい。
胴着を脱がそうとする。即座に手を掴まれる。ニッカがくちづけを中断する。
「ぷはっ、な、なに、するの、おねえちゃん」
「服を脱がなければ、汚してしまいますから」
ニッカが唇を尖らせる。「……やだ」
「わたしも脱ぎますよ」手早く脱ぎ捨てる。「これで恥ずかしくないでしょう」
ニッカが見惚れる。「わ、おねえちゃん……きれー……」涙目になる。「ううぅ……もっとやだぁ……しにたくなってきたぁ……」
「大げさな――」
はっとする。胸の痕に引け目を感じているのか。自分が先に裸になったのは逆効果でしかない。
「……肌を重ねていれば、わかりませんから。ほら――」くちづけを交えつつ促す。判断力を奪っていく。
「うぅ……わか、った……」ニッカが渋々といったていでのろのろ脱衣する。顔をそむける。すぐに胸を手で押さえる。
手を握る。抱き寄せる。素肌をぴったり密着させる。ぞくぞくする。
「う、はぁ……」ニッカが甘い吐息をこぼす。
「どうですか? 裸で抱き合うのは、気持ちよくありませんか?」
「いい……って、いう、か、よすぎ、る……けど……やっぱり……」まだ羞恥が半分ほどといった様子。
「では、恥じらいなど、わからなくなってしまいましょう。わたしも、ニッカも」
唇を重ねる。舌を吸う。舌を吸い合う。汗ばんだ肌同士を擦り合わせる。
抱き合いながら、足を絡める。肩や背中、腋、脇腹を引っ掻き、指を這わせる。尻を揉みほぐす。全身で全身を愛撫する。心臓の鼓動が唇を叩く。
腹部に滾りきった肉茎を押し付ける。裏筋を滑らかな皮膚が舐める。
薄い胸を通して早い鼓動が伝わる。自分の鼓動まで釣られてせわしなくなる。
もつれ合う。絡みつき合う。ひとつになろうとするように。ひとつに還元されようとするように。
ニッカが必死にしがみついてくる。「は……っ、は……っ、は……っ、おねぇ、ちゃ、おねえちゃぁあん……っ」甘ったるく呼ばわる。「おねえ、ちゃ……、どきどき、しすぎて……は……っ、は……っ、おかしくなりそおぉ……っ」
ニッカの太ももがぬめっている。汗以外の液体でびしょびしょになっている。熱く濡らした股間を太ももに押し付けてきている。そっと触れる。
「ふやあぁんっ!?」
陰裂は柔らかく、たっぷり水分を含んでいる。指先を挿し入れてみる。
「っくぅんっ!」
熱い。肉は、少し硬い。ほぐしてやる。ちからをこめず、ねっとりと、執拗にいじりまわす。
体内の感覚に集中しているのか、ニッカは瞼を閉じて息を荒げている。「あ……っ、あ……っ、あ……っ、なんかっ、すごい……っ!」切羽詰まったように喘ぎだす。
初々しい反応――感度良好。今まで前戯などされたことがないに違いない。
痛みを感じているようには見えない。指を動かし続ける。
「どうすごいのですか?」
「あっ、あつくっ、てぇ……っ、おなかっ、ぞわぞわって……っ、むずむずって……っ、あっ、あっ、あっ、せっ、せつなくってぇ……っ、んっ、んっ、んぅう……っ!」鼻にかかった甘い声。「やぁあん……っ、はず、かし……っ! へんなっ、こえ、でちゃうぅ……っ!」
指にニッカの粘膜がまとわりつきはじめる。奥から奥から愛液が溢れてくる。
指を根元まで挿入する。愛液を掻きだすようにして、腹側の粘膜を刺激する。同時に手のひらの腹で陰核を押圧する。
「んああっ! うわぁあんっ! あーっ! あっ! あっ!」ニッカが腰を浮かす。「おねえちゃっ! おねえちゃぁあんっ! とけちゃうぅっ! とんじゃうぅっ! おちちゃうぅっ! あっ! あっ! だめっ! あっ! あ――、――っ! ――っ! ――っ!」全身をがくがく震わせる。指をぎちぎち締め上げてくる。「はー……っ、はー……っ、はー……っ」呆けている。「な、に、いま、のぉ……」
小さな達成感。「達したのでしょう。気持ちよくありませんか?」顔を覗き込む。
エメラルドの瞳は焦点が合っていない。「わかん、な……ぜんぶ、まっしろに、なっちゃって……」短い金髪が汗で額に張り付いている。
「嫌ですか?」
「いや、ってわけじゃ、ないかも……だけど――あっ!? あぁんっ! まっ! またするのぉっ!?」
「よくわからなかったのなら、もうちょっと確かめてみましょう」
「んひいぃっ! もっ、もおいいっ! もおいいよぉっ! んむっ、んんーっ! んじゅ……っ!」
指で膣肉を掻き分ける。舌を吸う。神経が過敏になっているので、激しくはしない。
ゆっくり時間をかけて高めてやる。性感の味を教え込む。何度か絶頂に導く。
ニッカが気をやるたびに、褒めてやる。抵抗感と嫌悪感を希釈してやる。馴らせてやる。自然に絶頂を受け入れられるように。
ニッカが耳元でよがる。「は……っ♥ は……っ♥ んっ、はぁ……っ♥ はぁあん……っ♥ おねえちゃ……っ♥ おねえ、ちゃぁあん……っ♥」吐息が耳朶にかかる。熱い。「ま、またぁ……♥ とんじゃうぅ……っ♥」ニッカは汗みずくで、いやに白かった肌は鮮やかな赤に染まっている。
沸き立つ加虐心を抑え込む。「そういうときは、なんと言うのでしたか?」陰核を押し潰して、絶頂へ押し上げる動きに。
「っくふうぅん……っ♥ イッく……♥ イッちゃうぅ……っ♥ イッちゃいますぅ……っ♥ っくぅ♥ あ♥ あ♥ あ♥ イ――ッ♥」
迎える寸前で指を抜く。その瞬間を予期し、身構えていたニッカが身をよじる。
昂揚が醒める前に、また性器をほじくりかえす。高まってくる。最後まで追い詰める指使いに変える。達しかけると見るや、手を離す。
それを繰り返す。二度、三度、四度、五度――。
「はーっ♥♥ はーっ♥♥ はーっ♥♥ おねえちゃぁあんっ♥♥ もおっ♥♥ ゆるしてえぇっ♥♥ ぼくのからだでぇっ♥♥ あそばないでよぉおっ♥♥」ニッカがぐずぐず泣きながら抗議する。
ぞくぞくする。「わたしは至って真面目にやっているつもりですが」
「うそだよぉっ♥♥ わざとやってるでしょぉおっ♥♥ もお、むりぃぃいっ♥♥ たすけてよぉおっ♥♥ イカせてよおぉ……っ♥♥」あられもない懇願。
ぞくぞくする。「では、そろそろ、ひとつになりましょうか」ニッカの手に、臨戦態勢の肉柱を握らせる。
「あ、わ、あ、あつ……すご……」いささか不安げ。
「まだ怖い、ですか?」
「ん……、ちょ、ちょっと、だけ……」
微笑みかける。「だいじょうぶですよ。わたしとなら、きっとよくなれますから」
とろんとした瞳にほんの少し、期待が混じる。「うん……信じてる、から」ニッカが背を向ける。大きめの尻を差し出す。陰唇はすっかり濡れそぼっている。ひくついている。
どきりとするも、当惑する。「……あの、顔を見ながら、したいのですが」
「へ……? そういうやり方も、あるんだ」
後背位しか経験がなかったらしい。マルギトらしい。苦々しい。
正面に向きなおったニッカが目を逸らす。「……でもなんか、めちゃくちゃ、はずかしーかも……」照れ笑いしながら、手で顔を隠す。紅潮した縫合痕の浮いた胸が上下している。
その白い肌がまぶしい。恥らう姿がまぶしい。
愛おしい。「入れますね」こちらも我慢できそうにない。
「ぁ……は、い♥ ぼくを……おねえちゃんのものに、してください……♥」
陽根を陰唇に押し当てる。熱い。
「ぁ……」ニッカが身をすくませる。口元を覆っていた手を取って握る。唇を重ねる。「んっ、んむ……っ♥」
舌をねぶって気を紛らわせてやりながら、腰を押し進める。「んんんッ!? んっ♥ んっ♥ んっ♥」
にゅるりと柔らかい粘膜が先端を包み込む。そこはどろどろにとろけている。どんなものよりぬかるんでいる。
肉襞がうごめき、竿に巻きつく。長い時間をかけて根元まで挿入する。そうでなければ、すぐに果ててしまいそうだったから。
かつて交合した誰よりも勝る密着感。はまるべくしてはまったような感覚。
「痛く、ありませんか」
「おなか……いっぱい、だけど……ぜんぜん……へっちゃら……、ぅはぁ……っ♥」ニッカは陶然としている。「はあぁあ……♥ おねえちゃん、だから、かな……♥ いつもは、痛いだけ、だったのに……♥ ぽかぽかして、ふわふわして……♥ 満たされるっていうか、おねえちゃんが、ほかのひとの身体じゃない、感じだよう……♥ あ、あれ……へん、だな……なんか……うれし、すぎて――えへ♥」ぼろぼろ大粒の涙をこぼしはじめる。
甘ったるいそれを舌で掬い取る。「わたしも……わたしも、ようやくニッカと繋がれて、嬉しい――」愛おしくてたまらなくなる。「動き、ますよ?」
「うん……いいよ――あっ♥ あっ♥ あっ♥ すっご♥ あはっ♥ おっ♥ ねえちゃん、のっ♥ ほんとに、おっきっ♥ ねっ♥」
膣の感触を味わうように、緩慢に抜き差しする。
「んはあぁぁ……♥ そ、れぇえ……♥ ゆっくり、するのぉ……♥」
「気に入りましたか?」
「うんっ♥ うんっ♥ これぇ、おねえちゃんの、かたちっ、わかって……♥ ひっかかってくのぉ……っ♥ えぐられちゃう……っ♥ ひきずりだされちゃう……っ♥ すきぃ……っ♥」
押し込めば柔らかい粘膜を侵略する快感に包まれる。最奥ではざらついた箇所が出迎えている。剛直の先端の上部をぞりぞりと摩擦する。
引き抜けば名残惜しげに入口がしゃぶりつく。極上の吸着感をもたらす。
自分のためだけに、あつらえたよう。無性に腰を打ち付けたくなる情動に駆られる。なんとか抑え込む。
ニッカの開発に専念する。交尾による性感を引き出してやる。挿入行為が快楽であることを刷り込む。逐一反応をうかがう。念入りに責め立てていく。
首にかじりついてくる。「あっ♥ あっ♥ すごぉいっ♥ すごいよぉっ、おねえちゃぁあんっ♥♥」すっかり余裕のない嬌声。
「さっきから、すごいか、おねえちゃんしか言ってないですよ」我知らず随喜の笑みがこぼれる。「どうですか? もう、怖くないでしょう? きもち、いいでしょう?」
めろめろになっている。「いいっ♥ いいよぉっ♥ あっ♥ いひぃっ♥ いっ♥ あっ♥ うそっ♥ うそぉっ♥ くっ、くるかもっ♥ さっきよりっ♥ すごいのくるかもぉおっ♥」かなりいい兆候。
ニッカの腰が浮いてくる。尻を抱え込む。一番感じる箇所を擦りあげる。
「んわぁあんっ♥ そこっ♥ そこっ♥ そこっ♥ おぉっ♥ イっく♥ いく♥ いっ、お――っ♥ ――っ♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥♥」
ニッカが下から腰を突き上げてくる。直後に入口が締め付けてくる。さらにより深く収縮する。蜜が大量に分泌される。奥へ奥へ誘い込むように襞が蠢動する。石鹸と汗の酸い匂いがする。
ニッカが今まででもっとも鮮烈で深い恍惚に至っているのがわかる。本当に信頼し合い、愛し合ったもの同士が獲得できる多幸感に浸っているのがわかる。
感極まる。曰く形容しがたい穏やかな熱の充溢。なにかを証明したような気がする。確かな実感――ようやく、ニッカが自分のものであり、自分がニッカのものになったかのような。
「は……っ♥ ぁ……っ♥ うぁ……っ♥ はー……っ♥」こころここに非ずのニッカ。「からだ……ばらばらに、なっちゃうかと……おもった……♥」うっとりした呟き。
「疲れてませんか? 今周はもう、やめます?」
「ん……へーき、だよ……おねえちゃんは、まだすっきりしてない、よね? それに――」うつむきがちに。「もうちょっと……してほしーかも……」はにかみながらのおねだり。
感慨深い。当初の怯えは露ほどもない。
「では、お言葉に甘えて」腰をゆすりはじめる。
「ぴゃあっ♥ わっ♥ あっ♥ なんかっ♥ さっきよりっ、おっきいよお……っ♥」嬉しげ――性行為に愉しみを見出しはじめている。
「ニッカの、なかが、せまく、なってるの、ですよ」こちらの気分まで乗ってくる。抽送が自然と速まる。欲望が漏れ出てくる。
「ぅくぁっ♥ まっ♥ またっ♥ そこばっかりっ♥ まってっ♥ はげしっ♥ はやいよぉっ♥」
「いや、ですか?」
「やじゃないっ、けどぉっ♥ ぼくばっかり♥ きもちよく、なっちゃうぅっ♥ すぐっ♥ イッちゃうぅっ♥ あっ♥」
「たくさんイッて、いいのですよ。そのほうが、わたしも、きもちいい、ですから」
「そおっ、なのっ?♥ あっ♥ んっ♥ んっ♥ わか、ったぁっ♥ イク、ね?♥ いっぱい、イクね?♥ んうぅうっ♥ んっ♥ んぅっ♥ っくぅうんっ♥ っく♥ いっく♥ い――っ♥♥」ニッカの肢体が小刻みに痙攣する。
先ほどよりは浅そうな絶頂。だが感覚が掴めてきた分、快楽を享受している。角なしらしく交尾を受け入れている。
込みあげてくる。熱がせり上がってくる。
「わたし、も、出ます――ッ」追い込みをかける。
ニッカがしがみついてくる。「――っ♥♥ ――っ♥♥♥ って♥ イって♥ だしてっ♥ おねえちゃんっ♥ おねえちゃんっ♥ すきっ♥ すきっ♥ だいすきぃっ♥」耳元で甘ったるく求愛される。
「っく――ッ」
最奥に押し付ける。精魔法を励起。精液を放つ。すさまじい勢いで噴き出す。
腹の底から突き抜ける壮絶な射精感。身体中の血液が尿道から噴出しているのではないかと錯覚する。
「はああぁぁっ♥♥ あっついの♥ ばしゃばしゃ♥ あ♥ あ♥ うそ♥ またイっちゃ♥ ――っ♥ ――っ♥」
再びニッカが軽く達する。脈動する外性器を、蠕動する粘膜が絞り上げる。精を飲まんとすすり上げる。その動きに焚きつけられる。
「はーっ♥ はーっ♥ はーっ♥ あッ!?♥ あっ♥ おねえちゃっ♥ すごぉいっ♥ まだっ♥ がちがちっ♥ げんき、すぎぃっ♥」
あれだけ出したのに疲労感は一切なし――むしろ射精欲だけが倍旧に増幅している。未知の情動。
止まらない。止められそうにない。「すみ、ませ、もう一回、いいです、か」
「あっ♥ いーの?っ♥ そんなに、よかったのっ?♥」
理性が削ぎ落されている。語彙が消失する。「さいこう、です……っ、もっとっ、もっと、ニッカが、ほしい、です……っ」ただただニッカの身体を貪りたい。
「――っ♥♥♥ ……いーよっ♥ いっぱいっ♥ だしてっ♥ ぼくでっ♥ いくらでもっ♥ きもちよくなってっ♥ おねえちゃんのっ♥ いーっぱいっ♥ ちょーだいっ♥ んむっ♥ すきっ♥ すきっ♥ すきぃっ♥ ちゅぅっ♥」
唇を吸い合う。舌を絡め合う。唾液と吐息を交換する。どちらともなく、ひたすら腰を振り続ける。性器同士をぶつけ合い続ける。
達しまくる。どちらが達しているのかわからなくなる。徐々に絶頂の間隔が短くなってくる。尋常ではないほど。なにも思考できなくなる。
気をやればやるほど、ニッカの粘膜が柔らかくなる。より絡みつき、肉茎を溶かそうとしてくる。
射精すればするほど、外性器が硬度を得る。より奥深くまで侵入せんと伸長し、体奥に食い込む。
全身が互いの粘液でべとついている。皮膚同士が張り付く。血肉が溶け合う。自分とニッカの区別がつかなくなる。ひとつになっている。魂が融合している。
「はっ♥ はっ♥ おねーちゃっ♥ ――っ♥♥ どーしよっ♥ ――っ♥ からだっ♥ おかしく、なっちゃったっ♥♥ ――っ♥♥♥」くちづけの合間に、ニッカが変調を訴える。「イッってるのにっ♥ ――っ♥ またいくっ♥♥ ――っ♥ まだいくっ♥ ――っ♥ すごいいくっ♥ ――っ♥♥ いっぱいいくっ♥ ――っ♥♥♥」
度重なる強烈で温柔な大小の性感に打ちのめされ、神経が開き切ってしまったのだろう。
的確で精密で最適な愛撫による肉体の絶頂と、限界以上に昂揚した思慕による感情の絶頂が、絶妙な均衡で混合され、並のシシでは一生かけても到達できない尋常ならざる領域の恍惚状態を惹起させている。
「はああぁあぁ――っ♥♥♥ っくぅうぅううん――っ♥ うんっ♥ うんっ♥ んんぅう――っ♥♥」ニッカの腰が跳ねる。股間から透明な体液を迸らせる。膣肉が蠢きまくる。子宮口が先端に張り付く。尿道に吸い付く。
すさまじい痴態――何月もかけて開発されたシシのような気のやりよう。
まぶしい――。
もともと素質があるのだろう。なにより相性だろう。
まさかここまで相性がいいとは思わなかった。血が繋がっているからか、半身だからか。何度抱いても飽きることなく貪りまくれた。
もはや身体の相性という次元ではなかった。魂の相性がよかった。魂まで融け合い、還元し合うようなまぐわいだった。半分ずつだったなにかが、ようやく満たされた気がしていた。
本当に、つがいになるために産まれてきたふたりなのだと身に染みていた。もう、ほかの相手など考えられなかった。
理性はすでになく、意識は朦朧としていたが、確信があった――これから一生、自分たちは、離れ離れになることはないだろう。ふたりの間を邪魔するものは二度と現れないだろう――。
ただただ幸福だった。やっと掴めた安寧だった。