※この作品はR-18です。

鉄の空   作:伊土 讃阿

30 / 34
第三部
第七陽魔法 1


 

 

 

 エーテルは光を放つ。エーテルは熱を作る。エーテルは血を生む。

 エーテルは魂を放射する。魂はエーテルに伝導される。伝染される。砂漠で細菌を殺す。

 炎はエーテルを放射する。ミツヴァを照らす。

 

 エーテルは大気に含まれる。エーテルは血肉に含まれる。エーテルは星に含まれる。そこで、エーテルは魂を放射する。

 エーテルは水中には含まれない。水棲生物はエーテルを持たない。

 水はエーテルを放射しない。

 

 水中に炎はない。それは、水中では、文化の検閲が許されないことを意味する。

 炎は試料に文化を通す。知を放射する。水中に文化はない。魂はない。

 

 水中においてなお絶えない炎があるとすれば、それは悪魔の炎しかない。

 悪魔の炎は、砂漠で細菌を殺す。魂を食む。文化に巣食う。

 水中で細菌を放射する。ミツヴァを殺す。

 悪魔のエーテルを放射する。根を焼く。

 

 

       『カウンターエーテル/エーテルバランス』より

 

 

 

 

 

 

ミルテ・マルギト・アーリィライト    ……結晶検疫室・室長 "第六天使い"

ニッカ・ネツァク            ……養護室・室員

ハート                 ……養護室・室員

メグ・ノート              ……養護室・室長

スキュラ                ……養護室・孤児

ナキュラ                ……養護室・孤児 スキュラの双子の姉

タルト・マーキュラ・エアライデン    ……養護室・室員

フラスカ                ……精肉室・室員

キューリィ・アンシィ・ペケット     ……結晶検疫室・主任

 

ティファレト・ネツァク         ……髑髏聖母の守護者 ミルテの半身

クルーエル・ノエイル・テイル      ……黙示録の四猟士・ルベド

ライラ・ズィー・クォール        ……黙示録の四猟士・アルベド

ニグレド                ……黙示録の四猟士・ニグレド

マーキュラ・バルタ・エアライデン    ……髑髏聖母 タルトの産親

(シャンディ・イェソド・エルカイ)

 

ヘルマ                 ……ミルテの世話係

リベット                ……猟民 ミルテの幼馴染

エルギン                ……猟民

ファークラス              ……猟民 ミルテの師匠

サニー                 ……時計室室長 エルギンの産親

マルギト・メルキオール・アーリィライト ……第四二塔総猟 ミルテの胤親

イェソド・バルタザール・エルカイ    ……髑髏聖母 シャンディの産親

ルベド                 ……黙示録の四猟士・前任のルベド

スクナ・ヒダ              ……黙示録の四猟士・前任のアルベド

 

 

 

 

 

 

/鉄の空

/第三部 めしいた太陽

/第七陽魔法

/falling the sun of iron

 

 

 

 

 1/9

 

 

「あのひとを――廃棄処分にしますわ」

 

 深い、あまりにも深いサファイアの双眸で、ハートはそう告げました。ハートにすべてを聞かれていたという衝撃、そして、重すぎると同時に剣呑すぎるその宣言が、わたしから言葉を奪っていました。

 

 ハートは室長先生をかつてなく鋭利な眼光でねめつけ、わたしの手を取ると、わたしを相部屋まで引っ張っていきました。

 

「協力してもらえるかしら」

 

 声音は抑え気味ですが、語気は強く、昏い情動を輻射しています。いえ、その感情の名はまぎれもなく――憎悪でしょう。わたしはなかば気圧されながら、ハートを宥めようとしました。

 

「は、廃棄処分って、なにもそこまで――、ッ!?」

 

 突然、ハートはわたしの両肩を掴み、揺さぶりはじめました。

 

「あのひとは……ッ! あたしから角を奪い……ッ! あたしを踏みにじり……ッ! ――お母さんをおかしくしたッ! あのひとがいなければ……ッ! あのひとたちさえいなければ……ッ! あたしも、お母さんも……ッ!」

 

 激しい慷慨のなかには、今まで押し隠されてきた先生の想いも点綴していました。

 

 ハートは頬を紅潮させ、涙を浮かべ、汗ばみ、熱がありそうでした。言動も平時のハートからは逸脱したものです。おそらく、薬の影響でしょう。

 

 今まできっと誰にも明かしたことのなかった、本音の本音。それが濁流となって暴走しているのがわかります。

 

 わたしはハートを冷静にさせるために、あえて話に乗っかることにしました。

 

「でも、どうやってやるんですか。相手は元とはいえ、猟民です。怪我も負わせられないし、毒とかも絶対へっちゃらです」

「……有用性評価証。あれがありますわ」

 

 ハートは唇を噛み、五秒も黙りこくったかと思うと、重々しくそう告げました。わたしははっとさせられました。

 

 たしかにそれなら、いかな猟民で肉体が頑健であろうと関係ありません。有用性評価証は、まだ先生の部屋にあるはずです。ハートの無謀な考えが、わたしのなかで急速に現実味を帯びていきました。

 

 一旦、ふたりで先生の部屋を探ることになりました。勝手に先生の部屋を物色することにはじめは抵抗感を示しましたが、あえなくハートには黙殺され、やむを得ず手伝うことに。

 

 はたして件の金属板は、机の引き出しのなかに保管されていました。有用性評価証は、ミルテさんの進退どころか、生命にすら関わる書類です。さしもの先生でも丁重に扱っているだろうという推測は、ありがたいことに的中していました。

 

 ハートが寝台の下を漁っているのを横目で確認すると、わたしは評価証を手に取り、ハートから隠すように背を向け、机の奥深くを確認している風にしゃがみ込みました。念のため、評価証に識魔法用の名前が刻み込まれてないか、矯めつ眇めつ確認したのち、じっくりと評価証の記載内容を眺めました。

 

 評価管理者――ニッカ・ネツァク。

 

 評価対象者――ミルテ・マルギト・アーリィライト。

 

 その名をこころのなかで読み上げるたびに、胸がざわつき、いわく形容しがたい負の感情が沸き起こります。

 

 わたしから愛する先生を奪い、傷つけ、挙句の果てに親友にさえ手を出したひと。そしてその親友の胤親でもあるひと。事態はますます混迷を極めてきました。

 

 たしかにミルテさんは許されざる相手です。ミルテさんを先生から遠ざけ、そして弾劾したい気持ちは揺るぎません。でも廃棄処分となると、過剰な対処と思わざるを得ないのでした。

 

 ミルテさんの一連の行動には一貫性がありません。が、なにか目的のようなものは感じます。せめてその目的を突き止めてから、という思いが、わたしにはありました。単に好奇心によるものではなく、それを知っておかないと、なにか取り返しのつかないことになるような、そんな予感があるのです。

 

 一度評価証を元の場所に戻しかけたところで、ふと、引き出しの引手の窪みのなかに掘られた、ごく小さな文字を発見しました。

 

 ハート・■■■■。

 

 ハートの名と、そのすぐ後ろの焼きつぶされた痕。うっすらとですが、先生と同じ血銘――ネツァクであることが読み取れます。

 

 なるほどここなら壁と違って何かに阻害される心配も見つかる危険も少ないでしょう。

 

 ハートは初潮が早い子でした。ずっとずっと前に、悪戯で刻んだのでしょう。ここから、覗いていたのでしょう。そして軋轢は、そのときから――。

 

 普段、ハートは署名のときに継ぎ名はおろか、血銘まで書きません。わたしは、血銘がないのは孤児だからだと思っていました。

 

 名前は魂を意識するためのものです。とくに角ありの名前は、自分と、胤親と、血族の、三位一体を表しているのだそうです。

 

 ハートが継ぎ名、すなわちミルテさんの名前を持っていないのは、先生がハートに教えたくなかった気持ちがあったのでしょう。血銘のほうは、ハートは自らの血の銘を否定して生きてきたので、今は記す必要がないのだと思われます。ただ――最初から持ってないのとあったものを否定するのでは事情はまるきり異なります。

 

 魔法を使うことは自己の全肯定です。血銘を書かないということは、自己を否定しながら自己を肯定しなければならないということです。それは、シシという枠組みから外れることも意味しています。

 

 それがどんな孤独か――ハートは、今までどれほどの孤独を味わってきたのか。こどもとは到底思えない覚悟です。角を失ってなお、猟民になろうとする強い意志を持つハートだからこそできたのでしょう。

 

 やはりハートは、本当に優秀なシシでした。角さえあればきっとミルテさんにも及ぶはず――。

 

「――タルト? そっちはどうですの?」

 

 やにわに声をかけられ、わたしは飛び上がりそうになり、くちを滑らせてしまいます。

 

「ひゃッ!? はいッ! あ、ありました、けど……――あ」

「……? 見つけたなら見つけたと、すぐに教えてくださる?」

 

 ほこりまみれでいぶかしげなハート。

 

 本当にこれを提出するのか――そう憂えた矢先、閃光のようなひらめきがわたしのなかを駆け巡りました。

 

「いえ、……その、ちょっと考えてて。これ、どうやって提出するんですか?」

「どうやって、って、管理室に――」

「そうじゃなくて、わたしたちが提出しても、これは偽物で、冗談かなにかと間違われるんじゃないかと思ったんです」

「あ――」

 

 ハートがしまったという顔になります。

 

「盲点、でしたわね。たしかにそうですわ。代理でおとなに出してもらおうにも、そんなひといませんし――」

 

 室長先生はもう信用なりません。先生は、あの状態で、常にミルテさんの監視の目があります。

 

「……賭け、ですけど。ひとりだけ、頼りになるかもしれないひとがいます」

「誰ですの?」

「フラスカ、です」

 

 

 

 

 

 

 サイマトで会って相談したいことあると伝えると、フラスカはふたつ返事で了承してくれました。翌周、ひと目に付きにくい下層のフラスカの部屋で会うことになりました。

 

 フラスカは相変わらず、気だるげなような悠然としているような穏やかな笑顔で出迎えてくれました。

 

「やあ、小さな候補ちゃん、おちびちゃん」

 

 塔の中心に近い区画の一室。小ぢんまりとして陽光が届かないため、薄暗くじめっとしており、油の匂いが漂っています。動力や蒸気を経由させている師管が壁の裏側を通っているのか、ごんごんぷしゅぷしゅ、ひどい騒音です。生活するには難ありですが、盗み聞きされる心配はまずないでしょう。

 

 部屋に寝台はふたつあり、フラスカは精肉室室員の先輩と共同で住んでいました。椅子がなかったので、フラスカはわたしとハートに自分の寝台を勧め、フラスカ自身は出払っている先輩の寝台に腰を落ち着けました。

 

「相談したいことって、なんだい? ずいぶん深刻そうな雰囲気だったけど」

 

 このままふたりだけで事を進めるのはよくない――そう判断したわたしは、フラスカの意見を参考しようとしたのでした。フラスカはまだ若いですが、第二一八塔に残された、信頼できる最後のおとなです。すべてを打ち明ける相手として、ハートも納得してくれました。

 

 わたしたちがこれからしようとしている企てがいかに恐ろしく、危険で向こう見ずな行為なのか――フラスカの言葉を通してなら、きっとハートも理解し、冷静さを取り戻すはずです。

 

 わたしは、フラスカに会うまでに頭を捻って整理していた内容を語りました。すなわち、今まで起こった出来事と、室長先生とミルテさんの癒着、わたしたちの計画について。

 

 フラスカは幾度となく衝撃を受けたように目を丸めましたが、口を差し挟むことなく、耳を傾けていてくれました。最後まで聞き終わると、フラスカはこころを落ち着けんとばかりに深呼吸をひとつ。

 

「……まったく、にわかには信じがたいね。メグ先生は、たしかにどこか危ういひとだったけど、まさか……まったく、信じがたいね……」

 

 頭を掻き、心底困ったような面持ちになるフラスカ。

 

「それにしたって……とんでもないことを考えるね。どんな事情があるにしろ、相手がどれだけ悪いシシであるにしろ、それは正しい行いとは言えないよ」

「……正しいシシに、なりたいわけじゃ、ないですわ」

 

 毅然とした姿勢で、ハートは絞り出すように言い切りました。珠のような汗がその首筋を滑り落ち、鎖骨を乗り越え、緩められた襟元のなかに潜り込んでいくのを、わたしは目で追いかけていました。

 

「簡単に実現できるとも、思ってませんわ。ただ、やれるだけはやってみないと――この憎しみに、折り合いをつけないと、どうにかなりそうですの……そのうち自分でも、なにをしでかすか、わからないんですの」

 

 わたしは、かつてこれほど――静かでいながら、昏く、熱く、深い感情を抱いたシシに居合わせたことがありませんでした。

 

 ハートは、そのうちどころか、今にでもなにをしでかすかわかりません。目に見えそうなほどにハートが全身から立ち上らせているその憎悪は、わたしを萎縮させ、異論を唱える余地を与えないのでした。

 

 フラスカは目を細めてたずねました。

 

「メグ先生は、このことを?」

「メグ先生がいるときに、その、口走ってしまったので、知っていますわ。誰かに漏らしたら風紀室に行くと、戒めはしましたけど」

 

 ハートが失態を恥じ入り、悔いるように床を見つめます。

 

「これは仮定の話だけどさ、もし、その室長さんを廃棄処分にできたとして、この先、養護室はどうするつもりだい? わたしがいたときより、予算は削られたって聞いたけど……結晶検疫室、だっけ? そこの研究依頼を受けて手当をもらってるんだよね?」

「食べるだけなら、薬や酒を買わなければ、なんとかなるらしいですわ」

「元猟民の室長が廃棄処分になるほど評価を下げる事態、なんてのは本当に稀でさ。それって新事業でよっぽど損失を出したんだって、普通は思われるんじゃないかな。ということは、その事業に絡んでた部署も、道連れに評価を落とすかもって考えるのは、自然だよね。養護室への風当たりは、この先もっともっと厳しくなるかもしれないよ」

「……っ、最悪、あたしが、花でも何でも、売ってやりますわ」

 

 フラスカは、極めて冷静で、客観的な見解をもたらしてくれました。フラスカとハートの問答は、巨大すぎる存在を相手に、いかにわたしたちが捨て鉢になりかけていたかを浮き彫りにさせました。

 

 やはり、ミルテさんを廃棄処分するなど現実的な話ではなかった――改めてそう痛感させられたところで、フラスカは、わかったよ、と頷きました。

 

「覚悟はあるみたいだね――協力、するよ」

「え――」

 

 我が耳を疑うわたしをよそに、フラスカは続けます。

 

「ニッカ先生には、恩義があるからね。その室長さんがなにを考えているのかはわからないけど、ニッカ先生をいいようにされているのは我慢ならない。わたしも、できるだけのことはする」

「本当、ですの……?」

「ただ、ひとつだけ問題が残ってる。その有用性評価証、評価管理者はニッカ先生になってるんじゃないかい? 代筆は、たとえおとなでもただの室員の署名じゃ効力を持たないんだ。すまないけど、わたしじゃ提出できない」

「でも――メグ先生は、もう、信用できないですわ」

「うん、だから、もうひとり巻き込む必要がある。室長さんを廃棄処分にしたがってて、それなりにいい席に座っているひとで」

「そんなひと……当てはありますの?」

「実はひとりいるんだ――キューリィ・アンシィ・ペケット候補殿。主任級でもたぶん代筆はできないけど……遊牧民としてのペケット候補殿なら、室長さんを確実に廃棄処分にできる」

 

 フラスカがサイマトで連絡を取って一時間後――かくしてわたしとハートは、フラスカの紹介でペケット候補殿と早すぎる再会を果たすこととなりました。

 

 フラスカの部屋でわたしとハートの顔を認めたペケット候補殿は、大層面白いものを見つけたと言わんばかりの表情をつくりました。

 

「あら……、あらあらあら。珍しくフラスカの方から呼び出してくれたから、何事かと思ったら――身代わりを見つけてきたってわけ」

 

 嗜虐性を滲ませながら舌舐めずりするペケット候補殿に、フラスカは慌てて弁明します。

 

「ち、違います、ご主人さま。実はわけあって、ご主人さまにお願いしたいことが――」

 

 フラスカは養護室の事情はぼかしつつも、ミルテさんを廃棄処分にしたい旨、有用性評価証によってそれが可能であることを説明してくれました。ペケット候補殿は、ルビーの虹彩でわたしを見据えました。

 

「発案者は、あんたね」

「え……?」

 

 突然焦点を定められて、わたしは呆気にとられてしまいます。フラスカも首をかしげました。

 

「どうしてタルトだと思うんですか」

「動機は、復讐なんでしょ? 親の仇うち。違うの?」

「ご主人さま、おっしゃってる意味が――」

「この子、もともと聖母の塔の子なのよ。室長――ミルテは、元猟民で、とくに聖母の塔を潰してまわってたの。ミルテは、この子の塔、つまり聖母の総本山を陥落させて、英雄になった一方で、その時の怪我が原因で猟民をやめたのよ。ま、ミルテから直接聞いたわけじゃないけど、遊牧民の間では有名だったし、時期的には、一致してるはずだわ。この子の塔を潰したのは、間違いなくミルテよ」

「タルトのこと、知ってたんですか」

「第一〇〇九塔から生け捕りにしてきたシシは多すぎていちいち確認しやしなかったし、本人も申告しなかったから、まさか角ありだったなんて思わなくて、あのときはわからなかったけど……あたしが採掘室にいたときに、この子が奴隷としてやってきたの。で、ニッカ先生が、この子を買ってった。あんた、タルト、だっけ? たしか、何月か前にミルテが結晶検疫室にあんたを連れてきたことがあったわよね。昨周、農場でニッカ先生もいるのを見て、やっと思い出したわ」

 

 同意を求めるようなペケット候補殿の視線を受けながら、わたしは完全に固まってしまっていました。

 

 そんなこと、思いつきもしなかった――まさか、わたしの故郷を奪ったのがミルテさんだっただなんて。

 

 しかし指摘されてみて、よくよく考えてみれば当然のことでもあり、そこまで思い至らなかったのが恥ずかしいほどでした。

 

「……その通り、ですわ」

 

 わたしが黙り込んでいると、隣に座っていたハートがおもむろに口を開き、憎悪をくゆらせました。

 

「だから、どうしても計画を成功させたいんですの。農場に忍び込んだことは、謝罪いたしますわ。なにか、弱みを握ろうとしてのことだったんですの」

 

 明らかな誘導の意思――こどもがやったことだから仕方ないでしょう? という言外の主張が強調されます。

 

 ペケット候補殿は満足げにふんぞり返りました。

 

「あたしも室長には思うところあったのよね。聖母の塔を潰されたことで、実家の商売の一部が芳しくなくなったり、室長のくせに全然仕事してなかったり、ニッカ先生を取られたり――正直、かなり頭にきてたの。農場で作った貸しも返してもらわなくちゃだし、いいわ、提出したげようじゃない、有用性評価証。復讐完了、おめでとう。よかったわね、タルト?」

 

 

 

 

 

 

 ペケット候補殿と反目し、通報される危険も考慮すると評価証はみだりに持ち歩けるものではありませんでした。フラスカたちに断って、一度養護室まで取りに戻ることになりました。

 

 本棚の後ろに隠しておいた評価証を引っ張り出し、ふと物思いにふけりつつそれを見つめいると、ハートがぽつりと切り出しました。

 

「さっきは、悪かったですわね。その……、勝手にあなたの事情を利用して」

「……いえ、あのほうが、円滑に進みそうでしたし」

 

 ハートはいたたまれず、もてあましている様態でした。わたしは独白するように、吐露しはじめました。

 

「確信は、あるんです。ミルテさんはきっと、わたしの故郷を破壊した張本人です。そのせいで、母も命を落としました。でも、なんだか実感がなくて――第一〇〇九塔では、わたしは偶像のように扱われてて、ここで先生が受けさせくれたみたいな、ちゃんとした教育もしてもらってなくて、起きてる間はただ血液をエメラルド板で清めることだけ命じられてて、母ともほとんど話したこともなくて――不自由はしなかったですけど、振り返ってみると、なんだか生きてるって気もしなかったんです」

「故郷を壊されたほうが、よかったということですの?」

「そういうことじゃ、ないですけど。でも、ミルテさんが第一〇〇九塔を潰してしまったことに対して、復讐とか、そういう気持ちはありません。あの頃の環境にも、わたし自身にも未練はありませんけど、かといって思い入れがあれば復讐になるかといえば、そうではない気がします。ミルテさんも、組合の指令でやったことでしょうし。ああいう方便を使ったことは全然気にしてないですけど、なんとなく、ハートには、わかっておいてほしくて」

「……わかってました、わよ」

 

 ぶすっとした表情でハートはぼそぼそと呟いたかと思うと、こほんと咳払いをひとつ。

 

「さ、評価証を渡しに行きますわよ――っと、と」

 

 ふらついたハートを、すんでのところで抱き留めます。その華奢な肢体のあまりの熱さに一瞬、火傷してしまうかと思ったほどです。

 

「だ、だいじょうぶですか? すごい熱ですけど――」

「……へいき、ですわ。それより、評価証を……」

「待ってください。届けるぐらいなら、わたしひとりで行ってきますから。ハートは休んでないと、だめです」

 

 自分に鞭打ち外出しようとするハートを、強引に寝台に連れて行きます。抵抗されるかと思いきや、ハートは素直に横になってくれました。

 

 汗だくで、息は荒く、けだるげ。例の薬の副作用でしょう。いつかの先生と症状がよく似ています。計画がうまくいくとわかって、張りつめていた気が緩んだのか、ハートはぽわぽわした面持ちでわたしをぼんやり見つめています。

 

「すぐ帰ってきますから、ちゃんと寝ててくださいね」

 

 そう言い残してフラスカの部屋に引き返すはずが、胴衣の裾を掴んだハートによって阻まれます。甘えるようで、妙に色っぽい雰囲気と仕草に、わたしの心臓は高鳴ります。ハートの潤んだサファイアは、悲愴と寂寥の紺碧をたたえていました。

 

 崇敬していたはずのシシに薬を服まされ暴行され、こころを開いていた育て親にも等しきシシの裏切りまで発覚し、今やハートは、鋼鉄の荒野たったひとりきりで置き去りにされたような孤独感に打ちのめされていることは、想像するのに難しくありません。

 

 こんなことになってしまったのは、わたしが関わったせいだという責任感もありましたし、なにより、親友としてなにかちからになりたい、楽にしてあげたいという気持ちがありました。

 

「お水、飲みますか? 汗、拭きたいですよね。手拭いを持ってきましょうか」

 

 ハートは火照った顔でわたしを仰ぎつつ、そろそろと手を伸ばしてわたしの人差し指を握りました。かすかに汗ばんだ手のひらの薄い皮膚が、わたしの指にぺっとり張り付きます。

 

 ハートはかすれた声で囁きました。

 

「……が、……り、……ます、の――」

「え?」

「……おなかの、おくが……、ちりちり、します、の」

 

 ゆっくり、ゆっくり、ちからなく腕を引っ張られます。わたしの指先が導かれていくその先は、ハートの服のなかの、下腹部の、さらに奥で、肌に沿って進めば進むほど、熱量と湿り気を増し、わたしに痺れを伝えるのでした。

 

「ハ、ハート、あの――」

「なにも……、いわないで……」

 

 熱に浮かされた深い瞳が、わたしの浅ましい情欲を覗き込んでいます。誘われるがままに、わたしはハートの下着に触れました。そこはぐっしょりと大量の水分を吸い、軽く触れただけで粘液が溢れてくるほど。

 

 このまま、薬効できっと正気じゃないハートの身体を弄ぶような行為を続けるのには相当な抵抗がありましたが、ここで中断すれば余計に気まずく、そしてハートを拒絶したという誤解まで招きかねません。

 

 わたしは評価証を置いて寝台に上がり、ハートの隣に寝そべりました。顔を寄せると、ハートは目を閉じました。

 

 懐かしい、ですが今思えばたった一月ぶりの、瑞々しい唇の感触。

 

 あまりに熱い舌が、わたしの口唇を断ち割ってきます。ハートは喉の渇きをうるおさんがごとく、貪欲にこちらの舌を吸い、唾液をすすります。

 

 下着をずらし、陰唇に触れると、鼻息荒く、接吻はますます激しいものへ。いざしとどに濡れた秘裂をかきわけると、ハートはたまらず顔を逸らしました。

 

「ふうっぅうんっ♥ ――んっ! んっ! んぅっ!」

 

 一瞬漏れた甘い嬌声を封じ込めるように、ハートは自らの口元を押えて喉を鳴らしました。

 

 ハートのそこは、すっかり様変わりしていました。口内粘膜にも勝る柔軟さと潤いと熱量を備え、ゆっくり膣壁をなぞれば、応えるように吸いつき、さながら先生のそれを思わせるような熟れ方です。

 

「っくぁっ! はぁあっ! あっ! あっ! あっ♥」

 

 わたしが開発したところをねちっこく撫でてみれば、感じ方まで先生を彷彿とさせるものでした。次第に甘く甘くとろけていく幼い声音を耳元で聞かされているうちに、おそるおそる遠慮がちにいじくっていたわたしの手にも熱が入ってきます。

 

「んっ! んっ! んうぅうんっ♥ ふーっ♥ ふーっ♥ あっ♥ はっ♥ はあぁんっ♥ あーっ♥ あーっ♥」

 

 わたしの責めに呼応して、ハートが我を失いはじめます。ハート自身は気づいていないでしょうが、自分から腰を揺すり、わたしの手のひらに陰核を擦りつけるようにして、快楽を貪っています。

 

「んあぁっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ っくぅ♥ いっく♥ いっく♥ いっく♥ ――っ♥♥」

 

 小刻みにかくかく脚を震わせ、登りつめるハート。それでいくらか収まるかと思いきや、ハートはますますもって充血した陰部を押し付けてきました。八重歯の覗く口端からは唾液がこぼれ、瞳には理性のかけらもありません。ハートは自分で自分の身体を止める手立てを知らないかのようにも見えました。

 

「あぁぁ……♥ はあぁぁ……♥ あっ♥ あっ♥ うあぁっ♥ んんんっ♥」

 

 わたしは一切動かしていないのに、室内では再びぐちゃぐちゃと淫靡な水音が奏でられていました。その構図はもはや、わたしの手を使った自慰とも言えましょう。

 

 わたしのなかで、加虐嗜好じみた昏い衝動がふつふつ沸き立つ実感がありました。わたしはハートの動きに合わせて、より深く幼膣をほじくりかえしました。

 

「んはあぁっ!?♥ あ゙っ♥ あ゙っ♥ あ゙っ♥ んっぐぅううんっ♥♥」

「きもちいい、ですか?」

「いいっ♥ あ゙っ♥ いいからぁっ♥ あ゙っ♥ もっとっ♥ あ゙っ♥ おくぅっ♥♥ おくぅっ♥♥♥」

「ぅ……、すみません、これ以上は――」

 

 その要望に応じたいのはやまやまでしたが、いかんせんわたしの指では今触れている場所が限界でした。あのひとの長くたおやかな指ならいざしらず、さらに奥へ刺激を与えるとなると性器を挿入するしかありません。

 

 ハートから指を引き抜きました。糸を引く愛液で、陰部と中指が結ばれます。わたしはいそいそと衣服を脱ぎ、屹立しかけた肉茎を露出させました。昨周、農場であれだけ出したからか、充填率はいまひとつ。

 

 勃起させきろうと自ら扱きあげようとしたところで、ハートが陶然とした面持ちで擦り寄ってきて、陽根の匂いを嗅ぎました。そしてぺろりと一度舐め上げるや、ゆっくり口に含みはじめました。

 

「――っ、あつ……ッ」

 

 わたしのもっとも敏感な粘膜の先端が、煮えたぎるぷりぷりしたこどもの口腔に包まれていきます。

 

「んじゅ……っ♥ んろ……っ♥ ずる……っ♥」

 

 狭く、弾力のある口内粘膜にじんわり温められながら吸い上げられ、わたしの一物は瞬く間に限界まで膨張しました。

 

「あの、ハート、もう準備、できましたから……」

「じゅるる……っ♥ ぐぷ……っ♥ ん……っ♥ ん……っ♥」

 

 わたしの声が届いているのかいないのか、ハートは口淫を一向に中断する気配がありませんでした。それどころか、ハートは頭を前後に振りはじめ、一層熱烈な刺激を送り続けてくるのでした。

 

「んちゅ……っ♥ ちゅる……っ♥ んぶ……っ♥ ぇお……っ♥」

「……っく、ハート……!」

 

 わたしにもたらされる性感の質と量は、性交時のそれと遜色ない域に到達しつつありました。中腰気味の体勢だったわたしは、すっかり腰を抜かして寝台に座り込み、ハートの口技を受け入れるしかありませんでした。

 

「あっ、くぅ……っ! も、そんなに、されたら……ッ! でちゃいます……ッ!」

「ずずず……っ♥ んぐ……っ♥ ぇほ……っ♥ ごぽ……っ♥」

 

 限界を訴えるや、鼻息を荒ませ、わたしの腰に抱き着き、むせつつも喉奥まで使って咥えこんでくるハート。最大まで感度を高められた上に、剛直を根元まで飲み込まれたとあっては耐えられるわけもなく。

 

「で、ます……っ! ――っ! ――っ!」

 

 びちゃびちゃとハートの口内に精を吐き出します。射精に合わせて吸引されるので、凄まじい絶頂感がわたしのお腹の奥で噴き上げています。

 

 精液を放ち終わっても、ハートは執拗に鈴口を舐め、舌で突っつき、むしゃぶりついてきました。尿道の奥の方に残っている分まで掻きだし、味わわんとしているかのごとく。

 

 ひとしきりすすると、ハートはやっと外性器から口を離しました。そしていくらか落ち着いた調子でぼやきました。

 

「ん……、いつもより……少なく、ありませんの?」

「昨周、羊たちにいっぱい絞られたばかりなので……って、なんだか不満そうですね、ハート」

「……ッ!」

 

 顔を真っ赤にしたハートは、誤魔化すためか、再度わたしの陽根を飲み込みました。達したばかりで敏感な先端に、労わるように優しくかつねっとりと舌を絡ませ、わたしの肉欲を煽ってきます。

 

 やがて滾りが硬度を取り戻し、芯が通ってくると、わたしはなお吸い付いて離そうとしないハートから腰を引きました。

 

「あの、もう、できますから――」

 

 なんだか飲み足りないという顔をしていたハートは、渋々といったていで、わたしの上にまたがり、ぬかるみを押し当ててきました。熱く、とろっとした雫が、肉竿を伝い落ちていきます。

 

 ハートが腰を落とし、陽根が温柔な肉をかきわけはじめたところで――不意に、扉が叩かれました。

 

「こんにちは、ミルテです。昨周のことで、ハートにお話したいことがあるのですが」

 

 まさかこんなときにミルテさんが――予想だにしない展開に、脳が凍りつきます。それはハートも同様で、完全に固まって、脳の処理が追いついていない様子でした。

 

「ハート? 起きていますか? お邪魔しても?」

「待ッ、待って、ください! 今、お部屋、汚くって、見せられないんです!」

 

 わたしは咄嗟にそう返し、大急ぎで着衣して、有用性評価証を服の下に仕舞い込みました。

 

「おや、タルトですか。ハートはそこにいるのですか?」

 

 わたしは動転しました。昨周の今周で、どうしてミルテさんがハートを訪れてきたのか――。その目的が皆目見当つかないまま、ハートを会わせていいものか。いえ、いいはずがありません。かと言って、この場をやり過ごせそうな嘘も思いつきません。

 

 どう答えるべきかわたしが逡巡していると、おなじく服を着直したハートが口を開きました。

 

「いますわ。すこし体調が悪くて……寝ていましたの」

「あァ、やはりそうですか。農場から戻ってきたあとに、もしやと思ったのですが……先周軽く説明した通り、塔外で悪い菌をもらってきたのでしょう。昨周のように、また処置をしたいので、先生の部屋まで来てもらえますか? ――ひとりっきりで」

 

 はやくも先手を打たれた――わたしは奥歯を噛みしめました。あくまで菌の処置ということにするつもりなのでしょう。これまでのミルテさんのやりくちから、今となっては、十分想定できたはずと悔やむばかりです。こちらの手札ばかりに気を取られていた結果でした。

 

「……わかりましたわ。支度をして行きますので、先にあのひとの部屋で待っていてくださる?」

「急がなくても構いませんからね」

 

 唇を噛んでハートを見やると、ハートはこころなしか怒った風に言いました。

 

「そんな情けない顔をしないでくださる? あのひとがなにを企んでいようが……それさえ提出すれば、すべて終わるんですのよ。逆に考えれば、今こそ絶好の機会ですわ」

「でも――」

 

 それ以上の議論は許さないとばかりに、ハートは若干のふらつきを見せながらもひとりで寝台を降り、扉に手をかけました。

 

「……あとは、頼みましたから」

 

 そして振り返ることなく、部屋を出て行ったのでした。

 

 わたしもすぐさま養護室を発とうかとも思いましたが、ミルテさんと廊下で出くわし捕まる危険を回避するために、先生の部屋の名に接続し、動向をうかがうことに。なにより、ハートのことも気になります。

 

 先生の部屋では、ミルテさんが椅子に腰かけ、エメラルド板を手に取って観察していました。その横顔はひどく疲れているようにも感じられ、はじめて見るそのミルテさんの表情に、わたしは少なからず動揺しました。

 

 思えば、今までミルテさんがたったひとりでいるときの様子を覗き見たことはありませんでした。きっと、あらゆる警戒を解いたときの顔――どうしてだか、見てはならぬものを見てしまった気分にさせられます。

 

 ハートは間をおかず、先生の部屋にやってきました。ミルテさんはエメラルド板を革袋に片付けました。

 

「……なんの御用ですの?」

 

 いつでも逃げだせるようにか、扉にぴったり張り付いて、臆面なく敵意を剥き出しにするハート。対し、ミルテさんはおっとりと微笑みました。

 

「そう邪険になさらないでくださいな」

 

 ハートには、ことを荒立てないようにするために、ミルテさんの嘘に乗るという選択肢もありました。そのほうがまず間違いなく話を穏便に済ませられたでしょう。

 

 ですがハートが聡い子であり、自尊心が強いことを、ミルテさんも承知しているはずです。ハートが下手な芝居を打てばたちまちなにか裏があると見抜いてくるに決まっています。

 

「昨周のこと、ちゃんと説明してくださるかしら?」

 

 ならば自身の安全を犠牲に最初から正面を切ってぶつかり、目くらましとなったほうが計画を守れるというものです。ミルテさんの目的を暴く契機にもなるやもしれません。そんなハートの覚悟と魂胆を、わたしは取り違えることなく汲み取っていました。

 

 ミルテさんがだしぬけに立ちあがり、ハートに歩み寄りました。一瞬、ミルテさんの手元が光ったような気がします。金属の反射か、あるいは――。

 

 ハートは眉をしかめて身構えました。

 

「それ以上近づくと、大声を出しますわよ」

「もう少し穏やかにいきませんか。きちんと説明してさしあげますから」

 

 ミルテさんは両の手のひらを掲げ、なにも持っていないことを示しました。若干のわざとらしさを残しつつ。途端に、わたしは形容しがたい胸騒ぎを覚えました。

 

「タルトに、聞いたんですのよ……昨周は、なにか妙な薬を……、炭酸水に混ぜていた……ことを――」

 

 さすがはハートと言うべきか、自分がいくらか利発であること役立てつつ、こどもであるがゆえに核心には至っていないと仄めかすことで、反応を引き出しながらうまく一線を引いています。

 

「タルトには何度も抗菌目的の薬だと説明していたのですが、なにやら誤解されているようですね」

「そんな……話……、しんじ……られりゅ……わけ……」

 

 突然、ハートは舌が制御不能になったみたいに口をもごもごさせると、がくがく膝を痙攣させ、その場にへたり込んでしまいました。よく目を凝らしてみれば、普通ではない量の汗をかき、サファイアの虹彩は虚ろになっています。あの粉薬を、投与されたときのように。

 

 ハートの整った鼻梁を汗が伝い落ち、床に染みをつくります。

 

「あぇ……な、に……こ、え……」

「おやおや、よっぽど体調がすぐれないようですね。診てさしあげましょう」

 

 ミルテさんは扉の鍵を閉め、ハートに手を伸ばしました。ハートは弱々しく抵抗しますが、あっさりミルテさんに担がれて寝台へ運ばれます。ミルテさんは衣類を使ってハートを寝台に縛り付けると、窓を開けました。

 

 やっぱりなにかしていた――わたしは名前のなかで、歯ぎしりせんばかりでした。

 

 でもいったいなにを……? いくつか不審な動きはあれど、なにをしたのかさっぱりわかりませんでした。

 

 わたしは今すぐ識魔法を解除して、先生の部屋に駆け付けようかとも思いましたが、評価証のことがあり、迂闊な行動をとることができませんでした。

 

 そもそも、ミルテさんはなぜわざわざ養護室に出向き、そして先生の部屋でハートを襲おうとしているのか。もしミルテさんも評価証の存在に行きついたのであれば、ハートが身を挺してミルテさんの足止めをしている今こそ、わたしが評価証を届けに行くべきなのでした。

 

 ハートを助ける術は、ありませんでした。誰かを代わりに行かせようとも、養護室にいるこどもたちでは言いくるめられるだけでしょう。

 

 寝台の上で弱々しくもがきながら、ハートが唸りました。

 

「ほどきな、さい、ったら……ひとを……呼び、ます、わよ……ッ!」

「呼んで意味があるとお思いなら、すでに呼んでいるのでは?」

 

 ミルテさんは寝台の端に腰を下ろすと、汗ばんだハートの太ももの間に手を挿し込みました。

 

「ひゃわッ!? やっ、やめ――ッ」

「おや、すごい濡れようですね。ひょっとして、さっきまでご自分で致していたとか」

「やっ! あっ! あっ! あっ! んんっ! んーっ!」

 

 水っぽい音が、ハートの噛み殺した呻きを上回りはじめます。わたしよりずっと長く巧みな指に、もっとも触れられたかった最奥まで抉りかきまわされ、ハートは悶絶するしかありませんでした。

 

 粉薬と、わたしとしていた際の熱が冷めきっていないせいでしょう。ハートはとっくに抗う意志を折られ、秘部をいじるミルテさんの指技に翻弄されていました。

 

 これ以上見ていられないと、評価証を届けるために識魔法を解こうとした、そのときでした。

 

「そういえば……先ほど、塔の下層にいましたね」

 

 どうして、ミルテさんがそのことを――名前の向こう側で、わたしは戦慄していました。

 

 どこからか、監視されていたに違いありません。たしかにフラスカの部屋へはこれといって用心もせず出かけていました。ミルテさんはずっと先生といると思い込んでいましたから、そんなこと気にも留めなかったのです。

 

「――ッ!? あっ! はああっ! んっ、くうぅうっ!」

「昨周、農場に同伴していた精肉室の方――フラスカとお会いになっていたようでしたが、どういったご用向きだったのでしょう? わたしに教えていただけませんか?」

「いぃっ! ひいぃっ! あ゙っ! あ゙っ! ま゙っ! っくぅ、――っ! ――っ! ――っ!」

 

 誰が見ても明らかに、がくがくがくっと大きく腰を跳ねさせ、絶頂したことを表現するハート。わたしでは得られなかった深く鋭い性的充足を強引に与えられたからか、軽く意識を飛ばしてしまっています。

 

 ミルテさんは真っ白な粘液が絡みついた指を引き抜くと、ハートの脚を開かせ、硬化しきった長大な陽根で、成熟しきっていないハートの――すなわち娘の陰裂に狙いを定めました。押し付けられた肉竿の熱のせいか、そんな体勢になってようやくハートは我に返り、ふるふると首を振りました。

 

「い……、やぁ……っ! それ、だけは……、もう……いやぁ……っ!」

「では、教えていただけますか? フラスカになにを話したのか」

「……っ!」

 

 ハートはほとんど泣きそうになっていました。屈辱と無力感で頭のなかがぐちゃぐちゃになっているのが、サファイアの瞳を通して察せられます。ですが、ハートのまつろわぬ意志だけは潰えず、瞋恚と憎悪を燃やし続けているのでした。

 

「おぼえて……、ませんわ……っ!」

「そうですか。では、思い出すまで頑張ってもらいましょうか」

「え……――んおぉおおっ!?」

 

 一気に巨大な陽根で貫かれ、ハートが野太い声を上げます。目はおおきく見開かれ、口はぱくぱく開閉しているものの息はできていないらしく、いかに高い負荷がかけられているのか想像するのはそう難しくありません。

 

 ミルテさんはゆっくりと陽根を抜き差ししはじめました。ちから任せになぶって犯す昨周の交尾とは打って変わって、小さな肉壺をほぐし、愛でるように。

 

「くっふぅううう……っ! ぅっはぁああぁああ……っ! んいぃいい……っ!」

 

 緩慢な、しかし確実に存在感を植え付けられ、性感帯を開発されるような腰使いに合わせて、ハートが不随意的に声を漏らします。よく濡れているため、抽挿は非常になめらかでよどみがなく、ハートに絶えず刺激を送り続けていました。

 

 しかしハートのほうも慣れてきたのか、歯を食いしばってミルテさんを正面から睥睨し、ささやかな抵抗をしてみせました。

 

「んっ! ふーっ! んっ! んっ! っくぅっ! ふーっ!」

「二度目とはいえ、よく耐えられますね。さすが角なしにして猟民を目指すだけのことはあります」

「……っ! べつ、に……っ! ほんと、にっ! あっ! 猟民、に……っ! なりたかった、わけじゃ……っ! ない、ですわ……っ! ッふぅん……っ!」

「おや、そうなのですか? ではなぜ猟民になろうと?」

「あなたに……っ! 教えるっ、義理は……っ! っ! ぅっくぅっ! ないです……っ、けど……っ! んぁっ! けどぉ……っ!」

「けど?」

「あなたをっ! 狩るためっ、ならぁ……っ! あっ! あっ! っく、うっ……、ぜったいにっ! 猟民になると……っ! 決心、しましたわ……っ!」

「それは穏やかではありませんね。あなたとは親しくなりたいと思っているのですよ、ハート。もっと仲良くやりましょう」

「んむぅっ!? んっ! んっ! んーっ!」

 

 ミルテさんはおもむろにハートに覆いかぶさり、唇を奪いました。同時に、腰は単純な往復運動から、最奥のほうを探るような動きに。

 

「んっふぅうぅうっ! うっ! うぅううんっ! んんーっ!」

 

 そしてハートがひときわ悶絶する部位を探り当てるや、執拗にそこをくすぐり、擦り、押しつぶしはじめたのでした。

 

「んぷっ! ぷぁっ! はぁあっ! へぁっ! はっ! はっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ♥」

 

 せわしなくハートの口を衝いて出る声が、徐々に鼻にかかったように甘くなっていくのを、わたしも、そしておそらくミルテさんも聞き逃しませんでした。

 

「はっ、はぁああっ! あっ! まっ! まってっ! だ、めっ! ですわ……っ! そこっ! だめっ! もっ! あっ♥ いっ♥ っくぅっ! っく! いっくっ! いっく!」

 

 もっとも弱く、柔らかく、めくるめく悦楽を生じさせる箇所を容赦なく執拗にえぐられて、その瞬間を訴えだしたハートでしたが――。

 

「いくっ、いくっ、いく――っ! い――っ、……は、ぇ――?」

 

 もうあと一突きというところで、見計らったようにぴたりとミルテさんは停止しました。

 

 達しそこねたハートは、もどかしげにひくひくと全身を震わせつつも、自分が一番憎んでいる相手に一番無防備であられもない姿を晒しかけたことを悔やみ、より一層反抗的な眼差しをミルテさんに向けました。

 

 ミルテさんは変わらぬ態度で微笑みました。

 

「考え直してくれましたか?」

「なに、を……」

「フラスカに会っていた理由ですよ。そろそろ、教えてくれませんか」

「そんな、こと……いえる、わけ――あっ♥ あっ、あっ、あっ、はぁあぁあっ! ぅくぅっ!」

 

 ハートが上擦った声をこぼします。ミルテさんが責めを再開させたのです。

 

「はっ! はっ! はぁうっ! おっ、んおぉおっ! まっ! またぁっ! そこぉっ! あ゙っ! あ゙ーっ!」

「親子だからでしょうか。感じるところも、先生とおなじですね」

「あっ! あっ! あっ! ぅあっ! いっ! ひっ!」

 

 ハートのよがり声が切羽詰まり、細い腰が浮き上がってきます。見ているこちらまでお腹のなかが熱く白く弾けそうな、その瞬間への予兆。

 

「っく! あっ! くるっ! くるぅっ! あっ! きちゃうっ! きちゃ――、……あぁぁああぁ……っ」

 

 はたしてミルテさんは動きを止め、ハートはその高みに到達することはなく、ぐったり虚脱し、物欲しげな吐息を漏らすのでした。

 

「どうですか? 考えは、変わりませんか?」

「はー……っ、はー……っ、かわ、る……、わけ……、ない、ですわ……っ、はー……っ」

「今のままでは、さぞお辛いのでは?」

 

 ミルテさんはハートの平坦な下腹部に人差し指を這わせました。小さくかわいらしいお臍のずっと下、今や柔らかくほぐされ、掻痒感に蝕まれて、蹂躙と子種を待ちわび脈動しているはずの子宮の上で、円を描きました。

 

「お腹の芯で、こころまで融けるような接吻をされている感覚でしょう? 内臓までぐずぐずにほどけてとろけて、掻きむしってしまいたいほどでしょう? 無数の細かな針にちりちりと刺されているようで、身体の奥底から叫びだしてしまいそうでしょう? わたしの質問に答えてくれさえすれば、その切ない疼きを、甘い絶頂でわからなくなるほど満たしてさしあげるのですが」

 

 ミルテさんは異様なほどに、わたしたちがフラスカと会っていたことに固執していました。固執しているということは、それだけ危機感を抱いているという意味です。つまり――こちらがなにかしらの思惑を抱いていると睨んでいる反面、それがなにかはまだ掴めていないとも言い換えられるでしょう。

 

「ふー……っ、ふー……っ、なに、を……、言われても……っ! あたしの、きもちは……っ、揺るぎませんわ……っ!」

 

 たとえどんな状況に陥ったとしても、相手がどれほどのちからを持っていようとも、ハートを帰順させることだけは叶わない――決然としたサファイアの輝きを見て、わたしは改めて確信させられました。

 

「――ッ、……強情な」

「んぁあうっ!? んあ゙ッ! あぐっ! っふーっ! くふーっ! うくっ! んっ! んっ! んっ! んあ――っ♥」

 

 再三の攻防がはじまった段になって、わたしはようやく識魔法を解除し、評価証を持っていく決心がつきました。

 

 ハートは屈することを知りません。ハートはなにものにも下されません。それこそハートの魂の顕れ、ハートの魔法なのですから。

 

 わたしは養護室を飛び出し、息を切らせて下層を再訪しました。が、居住区の目と鼻の先まで来たところで、得も言われぬ寒気が走ります。

 

 監視していたのがミルテさん本人なら、今こそ機ですが、もしほかのひとだったなら――? いえ、それ以前に、この現場を押さえられようとなかろうと、ミルテさんにはすでに疑惑をもたれているわけで――。

 

 嫌な汗がぶわっと噴き出るのがわかりました。座り込みたくなるぐらいのこころ細さに囚われます。わたしは生唾を飲み込み、息をひそめて居住区に踏み込みました。すでに疑われている以上、もう敢行するしかないのです。

 

 はたしてわたしはフラスカの住処まで何の問題もなく辿り着き、フラスカは汗の浮いた顔だけを半開きにした扉から覗かせました。居住区に漂う油臭さのなかに、さっきまで自室で嗅いでいたような匂いが混じります。

 

「ごめん、ね、……ちょうど、先輩が、帰ってきてさ」

「いえ……、えと、わたしのほうこそ、遅くなってしまってすみません」

 

 わたしはフラスカと視線が合わせられないでいるまま、評価証を差し出しました。

 

「あの、これ――」

「あァ、うん、ちゃんとご主じ――ペケット候補殿に、渡しておくよ。あとは任せてくれればいい」

「お願いします……あ、あと、その、相談したいことが」

「今ちょっと……手が離せないから、悪いけど――また連絡するよ」

「……はい」

 

 ひどく打ちのめされた気分になりながら、養護室に戻ります。相部屋に、ハートはいません。先生の部屋に踏み込むべきか思い惑った末、識魔法で名前に繋ぎます。

 

「っはぁあぁあああっ♥♥ イくっ♥ イくっ♥ イくっ♥ またイきますぅっ♥♥ ――っ♥♥♥ ――っ♥♥♥ ――っ♥♥♥」

 

 寝台の上でミルテさんに背後から組み伏されたハートが、甲高い嬌声を迸らせて痙攣していました。上体を反らし、小ぶりなお尻を押し付けるようにして巨大な陽根を根元まで飲み込み、見るからに凄絶な絶頂に悶絶しています。

 

 結合部からはどちらともわからぬ白濁液が溢れかえり、ハートの内腿までべとべとになっていました。

 

「はーっ♥ はーっ♥ はーっ♥ んぐ……っ♥ はー……っ♥ はー……っ♥ はー……っ♥ んあっ!?♥♥ お゙っ♥ お゙っ♥ お゙ぐぅっ♥ あだっでますぅっ♥ まだっ♥ イっへます、のにぃっ♥♥」

 

 瞳は濁り、息も絶え絶えで今にも気絶してしまいそうなハートでしたが、ミルテさんがばちゅばちゅと腰を打ち付けはじめるや、喜悦に喘ぎだしました。

 

「もおぉっ♥ やあぁあんっ♥♥ イくのぉっ♥ やぁあっ♥♥ あだまっ♥♥ おがぢくなりますぅうっ♥♥」

「そういう割には、咥えこんで、離さないですね。自分から、腰を振ってることにも、気づいてないのですか?」

「してないぃっ♥ そんなことぉっ♥ してないぃいッ♥♥ んおっ♥ お゛お゛ぉ゛っ♥ ま゛ら゛っ♥ イっぎゅ♥♥」

 

 ミルテさんの指摘は虚偽ではありませんでした。ハートはたしかに、ミルテさんの動きにあわせて薄い尻っぺたを波打たせるようにして剛直をより深くより激しく迎え入れているのでした。

 

 自分よりも強く、たくましい相手に肉体を開き、身を委ね、愛玩人形であることを悦んでいる、発情した羊さながらの痴態――こころは折れずとも、従わされる快楽の味を教え込まされた肉体は、完全に屈し、翻弄されることを嬉々として受け入れてしまっていました。

 

「んっきゅぅううっ♥♥ っぐぅうう♥♥ ふーっ♥ ふーっ♥ ふーっ♥」

 

 覗きはじめたたったの三分間で、三回、いえ、四回でしょうか。ハートは成熟した肌羊のように易々と気をやっていました。

 

「まったく、堪え性のないこと。親子そろって淫乱ですね」

「いんりゃん、じゃ……♥ にゃぃい……っ♥ んにっひぃいぃ……っ♥♥」

「そんなによがり狂っていては、説得力がありませんよ。気持ちいいと、はっきり認めてはどうですか」

「きもぢ……っ♥ よくなんか……っ♥ にゃぃい……っ♥ んぎぃっ!?♥ あっ♥ あっ♥ あーっ♥ くるっ♥ くるぅうっ♥ あっはぁああっ♥♥ きてるぅうっ♥♥ イッでますがらぁああっ♥♥ おくっ♥ どんどんっ♥ つかないでぇえっ♥♥ んむぅっ!?♥ んちゅっ♥ あむ……っ♥♥」

 

 達すれば達するほど、ハートは混濁している有様でした。粘膜を直に擦りあわせつつ舌を絡め合い、あたかもわたしと致しているときのような甘い交尾にも応じるようになっていました。

 

「ぷあっ♥ あひっ♥ はひっ♥ んわっ♥ はあぁぁ♥♥ っくぁああっ♥♥♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥」

「っく……っ」

 

 絶頂を極めながら、よほど強烈に肉茎を締め付け、絡みついているのか、出し入れするたび、蜜壺がめくりかえらんばかりに鮮やかな恥肉が見え隠れします。時折ミルテさんも驚愕したように、腰の動きを滞らせています。

 

 ハートの蠱惑的な黒髪に鼻を擦りつけながら、ミルテさんがささめきました。

 

「そろそろ、また出しますよ。子宮に、意識を集中させてくださいね」

「んおっ♥ おっ♥ おふっ♥ んやあぁあっ♥ なかっ♥ いやぁあっ♥♥ またっ♥ またっ♥ とんじゃうっ♥ とんじゃうぅうっ♥♥ あおっ♥♥ おぉおんっ♥♥ おっ♥♥ おっ♥♥ うくっ♥♥ イ――ッ♥♥ っく――っ♥♥ んにぃっ!?♥♥ あづっ♥♥ やめ――っ♥ しきゅーにっ♥♥ あづいのっ♥♥ べちゃべちゃってぇっ♥♥ ―――っ♥♥♥ ―――っ♥♥♥ ―――っ♥♥♥」

 

 ハートは背筋が折れ曲がってしまうのではないかと心配になるぐらい仰け反り、育ちきっていない子宮で胤を受け止めました。じっくりたっぷり一分ほどかけてミルテさんは精液を注ぎ続け、その間、ハートはずっと頂点に押し上げられ、途方もなく暴力的までの性的歓喜に脳髄をかき乱されていたのでした。

 

 長すぎる吐精を終え、ようやく解放されるのかと思いきや、ミルテさんは未だ勃起を維持した陽根でハートの最奥をこねくりまわしはじめました。

 

「はー……っ♥♥ はー……っ♥♥ ぁー……っ♥♥ ……っ♥ ……っ♥ ……っ♥ ぅ……っ♥ ぁ……っ♥ ん……っ♥」

 

 ハートにはすでに気絶し、ミルテさんに小突かれるたびに小さく呻き、無意識に果てるだけの肉塊と成り果てていました。

 

 もう少し、あと少しで終わる――ハートのあられもなく無惨な姿を目に焼き付けながら、わたしは、評価証を提出したことは誤りではなかったと強く強く確信していました。

 

 

 

 

 

 

 2/9

 

 

「……賭け、ですけど。ひとりだけ、頼りになるかもしれないひとがいます」

「誰ですの?」

「フラスカ、です」

 なるほど、なるほど――タルトは有用性評価証を使うことにしたらしい。

 タルトとハートの会話のなかに、符牒めいた言葉、言い回し、なし。盗聴を意識したふしもなし。

 評価証は偽造書だった。ずいぶん前にすり替えていた。

 ニッカが提出するはずはないと踏んでいたが、用心するに越したことはなかった。仕掛けた罠が、功を奏した。

 タルトとハートが養護室から出てくる。配管のなかから這いずり出る。油と細菌が服と素肌にこびりつく。通路に出る。ふたりのあとをつける。

 下層に着く。悪臭渦巻く居住区に入っていく。薄暗く、狭い通路。自分は目立つ。追跡はここまでか。

 居住区の前で張りこむ。三〇分、一時間、一時間半――見慣れたシシが現れる。おや、おや――。

 キューリィ・アンシィ・ペケット。

 フラスカでは、評価証の代筆ができない。キューリィなら遊牧民の特権がある。

 キューリィは名簿に載っている。もう用済みだ。ちょうどいい。

 評価証を提出させてやろう。束の間の優越感に浸らせてやろう。だが――。

 タルトはほかの誰にも接触していない。まだまだ負荷が足りないらしい。

 そういえば、そろそろエメラルド板も回収せねばなるまい。ハートにも子を孕んでもらわねばなるまい。

 タルトとハートが養護室に戻っていく。あとを追う。しばらく待つ。タルトの部屋を識魔法で覗く。タルトがハートの股ぐらに指を突っ込んでいる。やってる、やってる。

 時期を見計らって、養護室を訪問する。ふたりの部屋の前で声をかける。ハートをニッカの私室に呼ぶ。ハートは警戒している。

 手のなかで粉薬を汗に溶かす。回路で温め、揮発させる。室内に充満させる。息を止める。

 ハートが腰砕けになる。効き目は弱い。

 加熱したので効果は増すかと思ったが、直接摂取せねばならないらしい。だがさっきまで前戯していた身にはたまらないはず。

 ハートを犯す。タルトの視線を意識する。揺さぶりをかける。

 同時に、ハートの魂に屈服した事実を植え付けようとする。ハートは頑なに折れない。凄まじい精神力。こどもとは思えない。

 一度手を出した以上、あとには引けず、あまり悠長にもやってられない。さっさと身籠って、可能な限り大量に産んでもらわなければ。

 方向転換。ハートの肉体に服従と隷属の味を教え込もうとする。薬をかがせる。陰部に振りかける。

 ハートがめろめろになる。見境なく達しまくる。甘い交合をしてやると、壊れたからくりのように気をやりまくる。種付けしまくる。だが――。

 着床した気配はない。やはりハートも、シシからは外れた存在なのか。

 漠然とした恐怖が焦慮を上回る。第六天魔法にひびが入る。

 炎の塔がかしぐ音が聞こえる。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。