3/9
フラスカは、サイマトで連絡を寄越してくれました。
ミルテさんに疑念を抱かれていると報告したところ、時間の問題だからそっちのこともこっちのことも心配しなくていい、とフラスカは請け合ってくれました。ただ、評価証が受理され、審査を経たのち、処分までにどれだけかかるのかは、フラスカもペケット候補殿も明言できないとのことでした。
明周かもしれないし、一〇周後かもしれない――問題は、その間こちらが下手を打たないようやり過ごすしかないという点です。
ミルテさんが訪ねてくるおそれがある養護室にはできるだけいたくありません。許しがたいことに、わたしが評価証を渡しに行っている間、ミルテさんはまたハートに薬を嗅がせたそうですから。
フラスカのところも、どこかに監視の目があります。図書室はひとめに付きにくいので避けるべきでしょう。かと言ってふたりだけで姿をくらまし、なにをしていたか立証できなかったり、普段と異なる行動を取れば、不審に思われて計画を露呈しかねません。
そこでわたしとハートが赴いたのは――壁でした。こどもたちが常にいますし、おとなの往来もそこそこあります。
「……薬で体調がまだすぐれないですし、新月で魔法が使えないから行ってもどうせあたしは登れやしませんのに」
と、ハートは不平を並べたものの、わたしの意図を汲み取り、ほかにいい案も思いつかなかったのか、結局了承してくれました。
壁の前で抗菌飴を舐めきると、銀髪を結い上げ、準備運動。縄がしっかり腰に結ばれているのを確かめ、歯止めを点検します。そして革袋から石膏の粉を一掴みし、両手を擦り合わせました。
ハートに見守られながら、久々の登攀――近頃横着していたのでうまく登れるか不安でしたが、幾度となく反復した壁でしたので、経路は手足が覚えていました。
壁と格闘していると、不思議と錯雑な思いが、しかしひとつながりになって次々と頭を駆け巡っていきました。
双子や、ハートとともに魔法の勉強をして、毎周のようにより高く険しい壁に挑戦していた頃――みんなで目指していたのは、猟民でした。
角なしにして誰より熱心に取り組み、猟民へ執着していたハートは、ミルテさんに凌辱されながら、本気で猟民になりたかったわけではないと、そう口にしていました。それはミルテさんに口答えしたかったわけではないのだと、わたしは解釈していました。
ハートは単に、産親である先生に反発していただけなのでした。
喪われた器官と才能、閉ざされた栄光――その真相を打ち明ける気のない産親に、なにかしらの嫌疑をかけてしまうのは、無理もない話でしょう。
先生もまた、不器用で嘘がつけないひとです。胤親に去勢された事実を告げられず、ただ道理も立てずに猟民から遠ざけようとしたのは、ハートからすれば横暴な振る舞いに思えたはず。そして先生の気遣いも、花売りをしていることが露見した瞬間に、逆効果となってしまったのでした。
状況証拠はそろっていました。ハートの目には、先生がさぞ無責任で情のない放縦な角なしに映ったことでしょう。きっとどことも知れぬものの胤を受け、腹いせか、あるいはおなじ花売りにでもするために、自分の可能性を奪ったに違いないのだと。
角ありは胤親の名を継ぎます。どうしても角ありのほうが少ないシシにとって、胤を続けることがもっとも重要だからです。シシが自分と墓碑以外に名前を残せるのは、こどもだけです。こどもこそ、自分の魂の一片であり、もうひとりの自分なのです。逆に言えば、こどもにとっても、それはおなじこと。
魂の根源たる胤には名もなく、物心つく前に分身まで切り落とされ、魂の過去と未来の両方を持ちえないハートにとって、魂の実在を証明するには、いっそ残された血銘さえも唾棄し、あらゆるシシに己の魔法を認めさせるしかないのでした。その唯一の手段こそ、猟民になることでした。
ハートは、猟民にはなりたくなかったのでしょう。ハートはとっつきにくいですが、根は優しい子です。おそらく羊を狩るのでさえ躊躇するでしょう。
ゆえに――ミルテさんを廃棄処分にしようというハートの提案は、尋常ならざる憎悪の激しさを現前させているのでした。それは先生に向けてしまっていた嫌厭が屈折し、集約された結果であり――ハートのこころの優しい部分はずっと先生を信じようとしていて、案じていた裏返しでもありました。
ハートは聡い子です。一歩引きながらも、ぎこちなさがありながらも、先生からもらっていた愛情を察せられない子ではありません。それは――それこそ、先生とハートの、血と魂の繋がりの証左であると、わたしにはかすかに感じられました。
ならば――真相を知った今となっては、ハートがあえて猟民になる意義も薄れてしまったのでしょうか。
ならば――わたしはどうでしょうか。フラスカの指摘通りの展開になれば、養護室以前の貧困に喘ぐ生活に逆戻り――いえ、以前以上に過酷を極めるでしょう。もとよりわたしが猟民になる目的は、先生を守り、養護室の生活の向上のため。ますますもって、なんとしてでも、わたしだけは猟民にならねば――。
「づッ!?」
夢中になっていたのと、久しぶりで力加減を誤ったせいでしょう、いつぞや自ら剣筆で切り裂いた左手の傷が開いてしまっていました。血で手を滑らせて身体を持ち上げそこね、わたしは壁から手を離してしまいましたが、命綱はわたしを頼もしく宙に吊り上げてくれています。
気づけば四層上まで到達していました。不覚にも怪我をしてしまいましたし、ハートから離れすぎるわけにはいきません。今周のところはこの辺で撤収するべきでしょう――が、傷口を魔法でふさぎかけたわたしの頭に、ある閃きが到来しました。
わたしはLCと刻まれたからくり短刀を左手で取り出してぱちんと展開すると、右のたなそこにも、新たに一条の線を引きました。ぱっくり割れた切創から血が溢れだし、手のひらを薄く覆います。
壁登りにあたって、壁を汚すことは礼を欠く迷惑行為ですが、わたしはいてもたってもいられなくなり、実行に移しました。
血にまみれた両手を、塔の壁面の真っ平な面に押し付け、心魔法で昇温して血液の粘稠度を高めたのです。はたしてわたしの血は手と壁をぴったり貼りあわせ、突起を指で掴むよりも遥かに安定してわたしを支えたのでした。
血を用いた登攀法の発見は大躍進で、わたしはすいすいとさらに上の階層まで登りきってしまいました。なにせ足場を探す手間もなく、筋力に頼らない登り方なものですから、あたかも平地を歩くように危なげなくよどみなく上へ上へと進むことができたのです。
しかし――この手法はどうやら並みならぬ消耗量らしく、さらにその上の階層の半ばまで来たあたりで、わたしは全身汗みずくで疲労困憊していることを自覚しました。
それでも懸命に鉛を詰めたみたいに重くなった腕を持ち上げ動かし、ようやく辿り着いた露台のへりを掴もうとして――上方から、わたしの手首を握る手がありました。その手に引っ張り上げられ、なんとか上体を乗り出し、鉄の床に身体を転がします。
貧相な胸をせっせと上下させて必死に酸素交換していると、見慣れたシシが仰向けになったわたしの顔を覗き込んできました。
「まったく、こんなむちゃをして、加減というものを知らないんですのッ!?」
誰かさんみたいに、ぷりぷり怒るハート。
「すみ……っ、ませ……っ、ねっちゅー……っ、しちゃって……っ」
ぜいぜい弁明しようとするわたしに、ハートは盛大にため息をついてみせるや、ぶすっとして言いました。
「ほんとに、ほんッとに、心配したんですのよッ」
「で、でも……、ちゃんと、縄は……、してましたし……」
ハートがその縄を指差し、ぎろりと怖い顔をしました。
「それ、ふたつ下の階層のですわよ」
「え――、あ、わ、わ」
わたしはもたもたと縄を外して塔の外へ投げ出しました。
階層の切り替わりで上層に結ばれた縄に付け替える手はずが、登ることに没頭しすぎてすっかり失念してしまっていました。落ちたとき、体勢が悪ければ塔の壁面に叩きつけられるか、縄が絡まって腕なり胴なり首なりをへし折られていたやもしれません。
我ながら恐ろしい愚行を犯していたものだといまさらながら怖気が走ります。
「ハートは、どうやって先回りしたんですか」
「搬入用の昇降機に潜り込んだんですわ」
ハートは鼻を鳴らしました。
農場のときもそうでしたが、なにかにつけてはどこかに潜り込む、存外に大胆というか、肝の据わったハートらしい行動に、わたしは思わず吹き出すと、ハートはいっそうむすっとしました。
「なにがおかしいんですのッ!? はやく傷口を洗って、消毒しますわよッ」
ハートに助け起こしてもらい、水場がないか探そうとした段になって、ようやくわたしは自分がどこにいるかを悟りました。無数の名前を刻み込まれた巨大なミスリルの直方体が鎮座した、ただっ広い広場――シシのお墓でした。
わたしがはじめて先生に魔法を教えてもらい、はじめて魔法を使った場所です。
「すみません、ちょっと待ってください。挨拶していきます」
ハートにそう断って、わたしは母の名のもとへ。
マーキュラ・バルタ・エアライデン。
あれから何度かたずねてきてはいましたが、数か月ぶりです。
「お母さま――、胤親、ですのね」
「はい。角の、析出しないひとでしたけど」
母には、角がありませんでした。幼少時に風呂に入れられたとき、陽根があった記憶はありますし、名前から角ありであることは間違いありません。
デンドライトとしてエアマイグレーションしない金属も存在するそうで、母もその類だったのでしょう。おかげでわたしは角ありと角なしの定義について、先生に教えられるまで誤解していたのですが――。
ミルテさんの評価証を提出したことについて、母はどう思うでしょうか。仇を討ってくれたと喜ぶのでしょうか、それともシシを陥れたことを怒るでしょうか、命を軽んじていると悲しむでしょうか。わたしには、まったく想像がつきません。
でも――先生なら、必ず悲憤慷慨するでしょう。その相手が誰だったとしても、先生はわたしを許さないでしょう。
だとしても、わたしは先生を守りたいのでした。絶対、ぜえったい守ると約束しましたから。
あのひとはもうじきいなくなります。養護室の生活は辛くなります。頑張らなければならないのはこれからです。
「ハート」
「なんですの?」
「わたし、やっぱり猟民になります。お金を稼ぐために。この先ずっと、先生を守っていくためだけに」
「……そう」
「だから、猟民になるのを手伝ってくれませんか」
「はァ……、きっと今までで、いいえ、これからも、あなたを猟民にする以上に、困難な大仕事はほかにありませんわね」
「うゥ……」
「そのかわり! 必ず、なるんですのよ、猟民。……託しましたから」
なにを、あるいは、誰を、とはついぞ言葉にしませんでした。聞く必要もありませんでした。わたしにはその覚悟がありました。
立ち去り際――ふと、わたしは気づいてしまいました。
あのひとの名前は、誰が書くのだろう、と。
墓標から三分も歩かないうちに、ちょうどお手洗いがありました。増設されたばかりで、ひとけもない区画なので、清潔そうでした。
ハートに手伝ってもらって、血を洗い落とします。痺れる痛みはあるものの、どちらもさほど深くありません。二、三時間も舐めていればすぐに塞がるでしょう。
「とくに異物も入り込んでなさそうですわね」
わたしの両手を点検しつつ、ハートが診断しました。細菌だらけの外壁に傷口を接触させたものですから、念入りに。
「じゃァ、あとは――……ハート?」
わたしの右手を持って押し黙ったまま、ハートは薄ら血の滲む傷に視線を注いでいます。なにか問題が見つかったのかとわたしはハートの動向を見守っていると――ハートはおもむろに、赤い舌を手のひらに這わせてきました。
「ぅひゃッ!? ハ、ハート、どうして――」
「ん、ちゅ……精、魔法……で、消毒、しませんと……ぇろ……っ」
ハートは今新月で、精魔法が使えるはずがないのに――ぺちゃぺちゃ熱く柔らかい舌が、わたしの蒼い血を丹念に舐めとっていきます。最初はくすぐったさに身悶えしそうになりましたが、一滴もこぼすまいとじゅるじゅるすすられ、次第に腰のあたりがぞくぞくしてきました。
右手がすっかりハートの唾液にまみれてねとねとになった頃、ようやくハートは顔を離しました。頬はほんのり色づき、サファイアの虹彩は濡れて深みを増しています。その陶然とした表情に虚を突かれていると、今度は左手を取られて、また血をねぶられてしまいました。
やがてハートは熱が入ってきたのか、血だけに飽き足らず、手首や指の間、指先までねっとり舌を絡めて吸い付いてきます。こども特有の粘膜の柔らかさと熱さに、わたしの陽根は浅ましくも準備態勢になってしまいました。
「ハート……ッ、そんなに、されたら……ッ、わたし……ッ」
情けなく前屈みになりながら腕を引くと、ハートは名残惜しそうに顔を上げました。こんなところでいきり立たせてしまった羞恥でまともに目を合わせられず、あとずさりしかけます。
「あの、あとは自分でなんとかしますから――んぷッ!?」
ハートが詰め寄り、燃えるように発熱した唇を重ねてきました。舌を強く吸い出され、唾液を絞り出すがごとく甘噛みされます。
わたしは驚きのあまりハートの身体を受け止めきれずによろけ、そのまま後退して、お手洗いの個室の壁に後頭部をしたたかにぶつけてしまいました。そして反作用でハートにも頭突きをしてしまうかたちになり、接吻は中断されました。
「あだッ!? ……す、すみません、ハート。だいじょうぶですか?」
「い、いえ……こちらこそ……急に……悪かった、ですわね……」
額をさすりつつ、やっと我に返ってくれたのか、ばつが悪そうにぼそぼそ謝罪するハート。
「えと、ハートは先に戻っててもらえますか。ちょっと、出歩ける状態ではなさそうなので――」
不恰好に前の膨らみを手で隠しながらいそいそ個室に閉じこもろうとすると、ハートがおずおず申し出ました。
「その……手伝ってあげなくもない、ですわよ」
「えッ!? いや、あの、さすがに、悪いですし――」
「……ッ、もとはと言えば! あたしのせいですし! いいから黙って座ってくださる!」
「え、あ、はい……」
なぜだかむきになった、というよりやけっぱち気味のハートに命じられ、わたしは素直に便座の蓋に腰かけました。ハートは個室の扉を閉めて施錠すると、わたしの前で膝をついて服をめくりあげてきて、下着の生地を突き破らんばかりに猛るわたしのそれを目にするや、かすかに息を呑みました。
「……ッ! ほんとに、がちがちじゃ、ないですの……」
「すみません……」
「ほんとうに……しょうがないひと、ですわね……外なのに……こんなに腫らすなんて……まるで変態じゃないですの……」
ぶつくさ文句をくちにしながらもわたしの下着に手をかけるハートの様に、なぜだか異様にそそられます。おかげで外性器には指一本触れていなかったのに、ハートが握ってくるまでに九割ほどまで充填してしまいました。じっとり汗ばんだこどもの皮膚が、竿に張り付きます。
硬さを確かめるようにゆっくりしごきながら熱い吐息を漏らすハート。瑞々しい唇は半開きになり、こどもながらも、先生では出せないような凄まじい色香を放っています。
「はあ……、やけど、しそうですわ……」
鼻を近づけすんすん匂いを嗅がれ、わたしは心臓が肋骨を叩くのを感じます。
「あの、汗かいてますし、汚いですから――っくぅッ!」
というわたしの警告は聞き入れてもらえず、ハートは鈴口をぺろりと舐め上げました。ハートが舌先をくるくるまわし、敏感な先端をあやすように刺激を与え、ひりつく快楽が、わたしに無抵抗を強要します。
「んむ……っ、ちゅ……っ♥」
「んっ、ふー……っ、う……ハートぉ……ッ」
わたしがよく感じる場所を、よく感じる具合で、的確に責められ、肉茎はものの一〇秒で皮膚がぱんぱんに張りつめるほど巨大化しました。
もうこれ以上はおおきくならないと察したのか、ハートは舌にたっぷり唾液を乗せて、全体に万遍なくまぶしてきます。根元から先端まで丁寧に、熱を込めて体液をすりこんでくるハートの表情は、明らかに奉仕の恍惚に酩酊していると言えようものでした。とろみのある唾液が陽根にしつこくまとわりつき、ぬらぬらと妖しく光っています。
「はー……っ、はー……っ、はー……っ」
舌だけを使って完全な勃起に導かれた陽根は、神経が研ぎ澄まされ、ひとりでにぴくぴく震えてしまっていました。みっともなく、さらなる肉欲をおねだりするがごとく。
そんな劣情を見透かしたかのように、ハートが喉を晒して口を開き、ぱくりと仕上がりきったわたしを咥えこみました。
ハートの体温がじんわりと優しく外性器を伝播し、登攀で消耗しきった腰が溶けてなくなってしまいそうなほどの温もりに包まれます。
「じゅぅ……っ♥ ずず……っ♥ んぐ……っ♥」
ハートの口戯の上達っぷりは、目覚ましいと評するほかありませんでした。先生ほどとまでは言いませんが、先生とやり方が似ているので、わたしはすぐに骨抜きになってしまうのでした。わたしが先生のやり方をそのままハートに教えたので、当然と言えば当然ではあるのですが、よもやここまで似寄るとは――。
そこで唐突に、わたしは先生とハートが親子であることを強く意識させられました。同時に、自分の今までの行い――先生に愛を誓った一方で、はからずもその娘に手を出し、先生としていたのとおなじ交尾を教え込むと言う、屈折した、あまりにも屈折した不灼の所業が、わたし自身のさがが不灼であるゆえにことさらに共鳴し、かつてない昏い昂ぶりを惹起したのでした。
「んる……っ♥ ぐぷ……っ♥ じゅずず……っ♥」
堕ちていく感覚――どこまでも、どこまでも、とめどなく終わりなく際限なく、汚物にまみれ、汚物を吐き出し、わたしに関わったすべてを不灼で染め上げ、破滅をもたらす、そんな感覚が、お腹の底で渦巻きはじめます。
極度の興奮が一気に噴き上げます。わたしは予告もなしにハートの頭部を掴みよせて、陽根で喉奥を穿ち、煮えたぎった濃厚な子種をぶちまけました。
「ごぽっ!? んぶ……ッ!♥ えほっ♥ げほっ♥ ずぞぞ……ッ♥」
「くぁ……ッ! ハート……ッ! それ、すごぉ……ッ!」
ハートが驚き、えずきつつも、懸命に喉で締め上げ、吸引してきます。わたしは誘われるようにしてますます奥へ突きこみ、むせるハートにもお構いなしに己の性感だけを追い求めます。
尿道口が炸裂したと錯覚するほどの射精感が、お腹の芯を貫きます。肉体は疲弊しきっているというのに、尿かと疑う量の精液が、ハートの喉へ叩きつけられました。
「んーッ♥ んんーっ♥♥ ふーっ♥ ふーっ♥ ふーっ♥ ごくっ♥ ごくっ♥ んくっ♥」
ハートはびくびく肩を震わせ、涙ぐみながら、わたしの律動に合わせて喉を鳴らし、胤を嚥下していきました。やがてハートが激しく咳き込みはじめたので、慌てて腰を引くと、どちらのとも知れぬ粘っこい体液が陽根とハートの顎に橋を渡しました。
「すみません、つい……」
「ごほっ、……べつに……、へいき、ですわ……」
いつもの強がる口調ですが、酸欠からか紺碧の瞳には覇気がありません。というより今しがたしゃぶっていたわたしの一物に見惚れているといったていです。
制御できないほどの情欲が、わたしの硬度を維持し続けていました。それどころか、射精する前よりも長く太く硬く張りつめている実感さえあります。ハートのどこか物欲しげな、いかにも新月の角なし然とした様子を見て、それはなおもって助長されました。
「よけいに……おっきく、なってるじゃ、ないですの……」
「う……すみません」
「しょうがない、ですわね……くちじゃ、埒が明きませんし……これは、しかたなく、なんですから――」
まるで自分に言い聞かせるみたいにそう繰り返しつつ、ハートは立ち上がると、わたしの太ももの上にまたがってきました。湿った下着に包まれた生温かいハートの陰部が、わたしの反り返った剛直を押さえつけます。ハートの体温は異常なまでに上昇し、焼けた鉄でも抱えている気分にさせられます。
ハートは、左手をわたしの肩に置いて支えとし、右手で下着をずらすと、腰の動作のみでわたしを迎え入れました。ぬるりと一切の抵抗なく、わたしはハートの胎内に飲み込まれました。
「う、ぐ……ッ、これ……」
わたしは息を詰まらせ、歯を食いしばり、下腹部にちからを入れなければなりませんでした。ハートのなかは飢えた溶鉱炉そのもので、厖大な熱量と貪婪な蠕動をもって侵入者を溶かし尽くさんとしていましたから。それに、ひとたびハートが腰を揺すれば、無数の肉襞ひとつひとつがぞわぞわと陽根の表面を舐めくすぐったり、あるいは群体となって根元からじゅるじゅるとむしゃぶりつき、煮えたぎる蜜をねろねろと絡みつかせてくるからでもあります。
つい三〇秒前にしこたま放ったばかりだと言うのに、入れただけで精を漏らす不名誉を回避するため、わたしは懸命にこらえました。が、その努力も一分と持ちませんでした。発射寸前で精魔法を励起できたのは、ほとんど奇跡と言えましょう。
「っくはぁあ……っ! ハート……ッ!」
「あつ――っ♥ ――っ♥ ――っ♥」
ちから強い脈動で、ハートの最奥に精液を吐き出します。さっきより勢いはありませんが、より濃厚でどろりとしたものが尿道を通過しているのがわかります。そしてそれを待ち構えていたかのように、ハートの膣内粘膜は獲物を汲み上げる動きで蠢きはじめました。同時に、みじめったらしく果てて喘ぐわたしの唇にハートが吸い付き、唾液を求めてきます。
上下から体液を貪られ、鮮烈な愉悦で視界が真っ白になります。じっくり焦らされたわけでも、激しく刺激されているわけでもないのに、歯の根が合わなくなる絶頂感で、意識が細切れになります。捕食されるような被虐的な悦びが呼び覚まされ、精は留まるところを知らず、溢れ続けました。
「んんッ! んんーッ! んぅーッ! ――ッ!」
ハートが本格的に腰をくねらせ、こりこりした弾力あるものが、射精に震える陽根の頭に擦りつけられます。おかげで絶頂感は鎮まるどころか、果てている真っ最中であるにも関わらず、お腹の奥で次の子種が込みあげてきたのを感じるやいなや、わたしは無様に吐精してしまう有様でした。
ある種の拷問にも近い間断ない絶頂体験で口づけしていられなくなり、仰け反って悶絶していると、ハートがびっしり汗をかいたわたしの喉元を舐めまわしてきました。まるでそれが甘い甘い汁のようにすすられます。
「ふーっ♥ んむっ♥ れろっ♥ ふーっ♥ ふーっ♥ えあっ♥ れるっ♥」
わたしは理解しました。血と言い、精液と言い――ハートはわたしの体液を飲みたがっているようでした。いつかの先生と、同じように。これもまた、薬の副作用なのでしょうか。
「ぅはあぁあ……ッ! くぅ――ッ! ふぅ――ッ!」
立て続けに三発――貯水槽に思い切り頭をぶつけてしまいますが、凄絶な快楽が完全に痛覚を消していました。視界がばちばち明滅しています。
手足は痺れて指一本動かせません。もはや精魔法を使うので精一杯でした。だというのに、猛りは一向に萎えず、ハートの内臓を抉っています。心魔法が自動的に働き、ひとりでに充填しているのです。あたかもわたしの魂が、目の前の角なしになんとしてでも胤を付けようとしているかのごとく。
シシの本能とも言えよう直感が告げていました――今、避妊せずに膣内射精すれば、ハートは確実に孕む、と。そのひりひりするほどの危機感があったからこそ、わたしは毎回精魔法を忘れずにいられたのでした。
「っくぅうんっ♥ はーっ♥ はーっ♥ あぁーっ♥ んちゅっ♥ あむっ♥ じゅるっ♥」
よっぽどわたしを犯すのが気持ちいいのか、ハートが首にかじりついてきて、上体を密着させ、つんと生意気に尖らせた乳首を擦りつけ、恥じらいもなく前後に腰を振りたくってきます。耳を甘噛みしつつ、鼻先を押し付けて、甘い吐息を吹きかけてきます。そして――。
「はーっ♥ はあぁああんっ♥ ちゅっ♥ んちゅっ♥ すきっ♥ すきぃいっ♥ すきっ♥ すきっ♥ すきっ♥」
今まで欠片も見せなかったハートらしからぬ甘えっぷり。その言葉が交尾による陶酔のもたらした本心なのか、あるいは薬に惑わされた一時の気の迷いなのかは判然としませんが、わたしの陽根が限界を超えて膨張率をいや増させたのは揺るぎない事実です。
「んんんっ!?♥♥ っくっふぅううっ♥♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥」
胤を迸らせつつもさらに伸長した外性器が、より具合のいい場所に当たったのか、ハートは身震いして蜜壺を収縮させ、甘美な絶頂に酔い痴れました。
まぶしい――まぶしすぎる。手の施しようのない高揚が、わたしを押し上げていました。
肉茎に隙間なくみっちりまとわりつく幼膣の感触を味わいながら、わたしは繋がったまま背丈の変わらぬハートの肉体を抱えて便座の蓋に座らせ、体勢を入れ替えました。
「あっ!?♥ やんっ♥ んっ♥ んっ♥ おくっ♥ ひびいてっ♥」
粘膜の感触を愉しむように、根元から先っぽまでの長い往復行程でゆっくり抜き差しします。がむしゃらに腰を振りたくりたいのはやまやまでしたが、きっと体力が続かないだろう予感があったからです。
それが、逆にハートのつぼにはまったようでした。
「っはあぁぁああああっ♥♥ っふぅうううんんっ♥♥♥」
引き抜くときには、肉ごと掻きだすように。
「うはぁあぁああ……♥ そっ、れっ♥ ひっかかっちゃぁ……っ♥」
押し込む際には、粘膜を掻き分けるように。
「んいぃいいぃいっ♥♥ ごりごりっ♥♥ えぐれてっ♥♥ ますわっ♥♥」
急所に到達すれば、内臓を揺さぶるように。
「おおっほぉおおっ♥♥♥ っぎゅぅううぅううんっ♥♥♥」
それらを時間をかけて丁寧に執拗に無慈悲に繰り返しました。ハートはびくびくと絶え間なく、ひと突きごとに常時の絶頂に等しき愉悦を堪能しているようでした。よがり声はもはや手洗い場の外にまで響いているはずで、なかでなにが起こっているのか想像するのはたやすいことでしょう。
「うはぁああ♥ んひいぃいっ♥ おおっ、おっ、んおおぉっ♥ それぇえ♥ すぐっ、いくっ♥ もういぐっ♥ いっでますのにっ♥ い゙っぎ――♥♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥ ん゙はあぁぁあ♥♥ いっでるのにぃ♥ いぎっぱなしっ♥♥ んにぃい♥♥ まだいぐっ♥♥ おおんぉお♥♥」
ハートは便座の蓋の上でびくびくのたうっては、透明な液体をひっきりなしにしぶかせ、淫行に溺れていました。一切の恥らいもなく乱れまくるその媚態には、およそシシの尊厳のかけらもありません。
だからこそ、わたしにはいよいよハートを愛おしく感じられ、さらなる高みに押し上げてみたいという衝動を止められなかったのでした。
「も゙ぉ゙おお♥ む゙り゙ぃぃいいっ♥♥ ごわ゙れ゙る゙♥♥ ごわ゙れ゙ぢゃでる゙ぅううっ♥♥♥」
愛おしい――あまりにも愛おしい。
ぼたぼた汗が垂れ落ちて、揺れ動くハートの乳房を打ちます。窮屈な個室は蒸し風呂のようでした。噎せ返るほどの発情した角なしの匂いと、精液のすえた臭気が立ち込めています。
ハートの膣粘膜の具合は、先ほどの子種を絞りあげるために特化したからぎちぎち締め上げるものから、子種を受けるためにもにゅもにゅと柔らかくまとわりつくようなうねりに変容していました。
「はー……っ、はー……っ、んっ」
わたしは発作的に覆いかぶさり、ハートに接吻していました。舌を絡めながら性器を直接擦り合わせる本能的な歓喜が激情となってこころの障壁を突き破り、口をついて出ます。
「す――、きっ、すきっ、すきぃ……っ!」
「――っ♥♥ っ♥♥ しゅひぃ……っ♥」
言葉になった互いの想いが共鳴し、相乗的に高まります。ハートが達すればわたしが達し、わたしが達すればハートが達し、ふたりで達すればより深く、達していないときはより飢えて――融けあい混じりあうような絶頂を極めあいました。
「――っ♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥♥」
「――っ♥ ――っ♥♥ ――っ♥♥♥」
その交わりはわたしが体験したなかでもっとも甘やかで想いのこもったものとなりました。先生と致したときよりも。なおずっと。
呼吸さえ億劫なほどに体力を根こそぎ使い果たしたところで、ようやくわたしはハートから陽根を引き抜きました。ハートの酷使された幼膣はすっかり緩んでごぽっと大量の白濁液を溢れさせています。
息が整ってくるにつれ、わたしは襲いくるとてつもない罪悪感で角が折れそうになっていました。
行為の熱に浮かされていたとはいえ、自分はなにを口走ってしまったのか――交尾が終わってもハートへの感情は変化していませんでしたが、決定的に道を踏み外した、そんな感覚が、わたしにはありました。わたしは、ひょっとするとハートを――。
ハートも察知したのか、はたまた理性を失ってきまりが悪かったのか、身体を拭いて身支度をする間も、養護室への帰り道も、ずっと目を合わせようとせず押し黙ったままでした。
養護室に戻ると、食事時でもないのに珍しく食堂でみんなが出揃って、机を取り囲んでいました。かててくわえて奇妙なのは、みな沈痛な面持ちでこうべを垂れていることでした。
わたしはどうしたのかとたずねました。スキュラとナキュラに、机の上の異動広報を見せられました。
それは、組合が発行する文書にしては素っ気ない文章かつ、非常に明確な内容でした。
『速報
以下のものを反乱分子として廃棄処分とする。
結晶検疫室 主任 キューリィ・アンシィ・ペケット
精肉室 室員 フラスカ・血銘なし
以上』
4/9
残る可能性はひとつだった。信じたくはなかった。悪夢だった。
医務室へ向かう。頭痛がする。恐怖が忍び寄る。呼び出される。
前置き抜きでたずねる。「それで、結果はどうなりましたか」
初老の角ありが問うてくる。遠慮がちに。おずおず。「あー、今まで、なにか特殊な毒を浴びたことはあるかね? あるいは、内臓におおきなけがは?」
顔に書いてある――厄介な結果になった。
「今わたしが知りたいのは検査結果です」
角ありが渋面をつくる。「……検査結果から言うと……、子種がないようだ。まァ、その、言ってしまえば――きみには、シシを孕ませる能力が、ない」
両手で顔を覆う。「……間違い、ないのですね」
「残念だが……」
おお――。
やはり――。
ニッカとハートに子ができない最後の共通点。
自分だった。自分の、生殖能力だった。
思い当たる節はなくもない。月毒。ラジエイション。魂が死するときに発する、毒の光。
一度、内臓まで溶かされた。元通りに復元したつもりだった。
だが、認識できない規模の小ささで、破壊し尽くされてしまっているらしい。治療は不可能らしい。
すべてが崩れ去った。炎の塔は荒野に横たわっていた。鉄の塔はぐらついていた。
第六天魔法は、最初から砕かれていた。
ティファレトは自分を利用するつもりだった。ティファレトでさえも想定外だったに違いない。だが、ティファレトの呪詛だった。
片割れを手にかけた報いのようだった。娘の胤を断ちきった罰のようだった。
いったいいつまで――どれだけ奪われれば終わるのか。
目が眩む。頭痛はしない。憎悪はすっかり魂と血肉に馴染んでいる。水分のごとく。酸素のごとく。細菌のごとく。
私室に戻る。眠り続けるニッカのかたわらに寝そべる。
ニッカはすうすう寝息を立てている。いとけない寝顔をしている。あえかなる穏やかな光を放っている。泣きそうになる。
一瞬、このまま連れ去って逃げ出すことも頭をよぎる。
ニッカはそれを是としないだろう。ニッカはここにいたがるだろう。ニッカはとっくにここに居場所を見出している。
ニッカは自分のことを愛している。家族として。だが執着はしていない。もう自分はニッカの片割れではない。つがいでもない。
自分の居場所はどこにもなかった。片割れも胤もなく、もはや何者でもない。自分であることを証明できるものは、根の国には存在しない。
角なしと変わらなかった。羊同然だった。
客観的な分析――どれもこれも、感傷的な醜い嫉妬にすぎなかった。
結局、自分は無力だった。なにもできなかった。それで、やっと冷静になれた。
もう、なにをしても徒労に終わる予感があった。いや、むしろ――。
自分はニッカを壊しているだけだった。もっとも害なす細菌は、自分自身だった。
なにもかも手遅れだった。修復不能だった。疑問と悔恨は尽きなかった。
ニッカと静かに暮らしたかっただけだった。ニッカを助け出したかっただけだった。ニッカを守りたかっただけだった。なのに、いったいどこで誤ったのか。
はっとした。怖気が走った。
最初の邂逅。二度目の接触。ニッカの誘拐。第一〇〇九塔の建設。ハートの去勢。第一〇〇九塔での戦い。第六天魔法。タルト。
どの可能性を遡っても、行きつく先にはティファレトがいた。すべての契機にティファレトがかかずらっていた。
ずっと、ティファレトに勝利した気はしていなかった。まぎれもなくこの手で斃したのに。胤を失ったのも、その違和感を構成する部品のひとつだと、今になって悟った。
ティファレトは、おそらくすべてを語っていない。最後の一手がある。まだなにかを見落としている。
そこには、決して辿り着けないだろう。いや、いや――。
そこに到達するために、またなにかを失うことが、耐えられなかった。
ティファレトがつくる第六天魔法は、依然として息づいている。火は昇らんとしている。地に堕ちてなお。地平線のように。
ティファレトは生きている。思想となって。悪意となって。憎悪となって。
声が囁く――もう終わりにしよう。
自分は敗残者だった。完膚なきまでに打ち負かされていた。あくまで駒でしかなかった。手のひらで踊らされ続けていた。最初から、ずっと。
自分の第六天魔法は、欠陥品だった。はなから成就しえない幻想だった。幻覚だった。
幻覚のために、ニッカを壊していた。
もうやめよう。
ニッカを元に戻そう。目覚めさせよう。
それで終わりにしよう。
ニッカのためには、それが一番いい。