わたしはくっと背伸びして、身体をほぐし、目をしばたかせました。わたしの対面で図書室から借りてきた学術書をひもとき、精魔法の構造について講義してくれていたハートが、講義を中断させ、相部屋の窓の外を見やり、陽輪を読みました。
「あら、もうこんな時間ですわね。そろそろ休憩しましょうか?」
「あ、わたしはまだ全然平気です。それに、まだ途中ですし」
「第二象限からずっとかかりっきりじゃない。あたしが疲れたんですわ。休憩させてちょうだいったらっ」
「す、すみません」
ハートは机に肘をつき、本をぺらぺらめくりながら、感心した風に言いました。
「ほんとに目覚ましい成長ぶりですわね。つい六月前までは魔法のまの字も知らなかったくせに、もう精魔法に着手してるなんて」
「きっとハートと先生の教え方がうまいからですね」
「まァあたしもうまくできてるほうだとは思いますけど。それにしたってめちゃくちゃな速度ですわよ、あなた」
「え、えへへ、それほどでも」
実際、わたしの魔法の練習はすこぶる順調と断言できるものでした。熟練度はまだ双子には遠く及ばないものの、使える魔法の種類ならば、双子とほぼ同程度はこなせる自信があります。
身体能力も、かなり向上しました。魔法の鍛錬をするには、たとえ文民だろうと体力と健康な肉体が欠かせませんし、そのほうが断然効率がよいので、先生はあまりいい顔をしませんが、身体づくりを目的に壁登りも、もちろん保護具を着用の上で、継続していました。つい先周、二階層上まで登れた瞬間の喜びと自信を味わってからというもの、わたしの意欲は周に周に増大するばかりでした。
ハートに持ち上げられて面映さを覚えていると、ハートは語気を強めて、ただし、と前置きしました。
「ものになってるのは実技だけですわね。実際のところ、あなた、理論や原理はこれっぽっちも理解していないでしょう」
「あ、あはは……恥ずかしながら」
ハートの厳しい評価はごもっともで、わたしは身体を動かし、感覚で覚えることには長けていても、座学を甚だ不得手としていました。向き不向きの問題なのだと、勉強でみんなに追いつくことはなかば諦めていました。
「あなたほど文民向きじゃないひとは初めてですわ、まったく」
「ハートは教えるのが上手ですし、教室の室長さんとかになれそうですね」
「……文民になんか、なりたくありませんわ」
「前から気になっていたんですけど、ハートは、どうして猟民になりたいんですか」
「……言いたくありませんわ。あなたには、特に」
「ど、どうしてわたしには、なんですか」
「……」
ハートは黙殺して、遠い目で物憂げに天井を見上げました。そのサファイアはひどくけだるげで、今にも泣きだしそうで、わたしを引き付けて離しません。
わたしが教えを乞うようになってからというもの、ハートと過ごす時間はずいぶん増えました。当初避けられていたのが嘘のように、遊ぶのも勉強をするのも家事をするのも壁登りをするのも一緒で、ハートがどう思っているかはわかりませんが、今ではわたしの大親友です。だから、知っているのです。ハートはときどき、そんな失意をたたえた目をすることを。
ハートは猟民に憧れていました。角なしに、猟民はいません。猟民とは、羊を狩る狩猟室や、塔同士の紛争を担う検疫室など主に塔の外で活動するシシどもの総称です。猟民は身体能力と魔法の出力を問われるのを避けられませんし、先生が嫌っている通り、非常に危険なお仕事であるのは語るべくもありません。ゆえに角なしが猟民に配属された前例はありません。きっとこれからも、ないはずです。たとえ、ハートがどれだけ優秀だとしても。
ハートはどうしてそんな叶いようのない夢を追い続けているのか――双子でさえ、親友のわたしでさえその理由は知りませんでした。
「そうだ、ハート、告白か服従かをしませんか」
「はあ? あなたまさか、あたしに告白させようって?」
「だめ、ですか?」
「いやに決まってるじゃありませんか。あたしは喋りたくないんだったらっ」
「わたしの選択肢は、そちらが選んでいいですから」
「あたしはべつに、あなたに訊きたいこともしてほしいこともないのですけど?」
「まァまァそうおっしゃらずに。はい、告白か服従か!」
「ほんっと、強引でわがままなひと……はあ、わかりました、わかりましたわ。降参ですわよ。告白すればいいんでしょう」
「では改めて、こほん、ハートはどうして猟民になりたいんですか?」
諸手をひらひらさせて吐息するハートに、わたしは咳払いをして問いかけました。
訥々と語りはじめたハートの声には――激痛をこらえるかのような響きが含まれていました。
「……強くなりたいからよ。角ありの命令に従うだけの……、管理されるだけの生き方なんて、あたしはまっぴらですもの。あたしは――あたしは、あのひとと違って……決して、候補殿、候補殿、って角ありに媚びへつらったりしない……角ありから評価やお金を得るために、どんなことだってするような汚いおとなに、なりたくありませんの」
先生がハート以外と話すとき、ハートをあの子としかと呼ばないように、ハートが言及するあのひとが誰を指しているのか、あまりに自明のことでした。はじめてハートの口から紡がれる先生の話は、忌み嫌う感情に満ち満ちていて、わたしは、心臓が締め付けられるような心地でした。
「先生は、そんな――」
「そんなひとじゃありません、って? 甘いですわね。タルト、あなたはあのひとのことを何もわかっちゃいませんわ」
ハートはわたしをせせら笑いました。
「あなた、あのひとのことが好きなんでしょう」
「そッ、そうですけども……」
「なら、服従してくださる。あのひとの部屋の、寝台の反対側の壁に、塗装が剥げているところがありますの。今周、第四象限までに、そこに小さく、血で名前を書いてきなさい。合図したら、名前を通して識魔法で部屋のなかを覗きなさい。それで、あのひとの本性がはっきりしますわ」
/鉄の空
/第一部 不灼の鹿々
/第二識魔法
/catch the rainbow of iron
相部屋の中央、ハートの寝台とわたしの寝台の間をそわそわ行ったり来たりしながら、わたしは直前まで葛藤していました。
覗き見だなんて――。ハートに服従することとなってから、わたしのなかで好奇心と罪悪感が激しくせめぎ合い、渦巻いていました。せっかく室長先生が当番だったというのに、料理の味もわかりませんでした。
名前を刻むことには、成功していました。食事の後、精魔法についてわからないことがあるとかなんとか理由をつけて先生の部屋にお邪魔したのです。ただ、その際、うしろめたさのあまりに先生のエメラルドの虹彩をまともに見られず、ずいぶんとんちんかんな受け答えをしたような気がします。ただでさえこのところ、妙に意識してしまって先生とふたりっきりでいるとどぎまぎして平静でいられないのに、きっと変な子だと思われたことでしょう。
個人授業がなくなってからというもの、先生とふたりっきりでいる時間が減ることで、わたしはかえって先生を意識するようになっていました。廊下で鉢合わせれば心拍数は跳ね上がり、講義の時は一挙手一投足を目で追い、本来なら憂鬱でしかない生理も楽しみになって、その根本的な理由も、今ではあますところなく理解していました。
――先生に対する自分の気持ちの意味を把握したのは、いつごろでしょうか。恋愛や生殖の意味をきちんと解釈できるようになったのは、いつごろでしょうか。
わたしにそういった物事を教えてくれたのは双子です。双子は先生やハート以外に、第一〇〇九塔にはなかった常識をわたしに教授してくれる先生のひとり、もとい、ふたりです。
とっぽいふたりはわたしに、先生にたずねてもはぐらかされるようなことも啓蒙してくれます。先生が触れたがらない開拓民や狩猟民に関すること、角ありのこどもたちが好む危険な遊びのこと、羊の狩り方、授業をさぼる方法、気になる子の誘い方、角ありだけに許された薬の数々、化粧の仕方、それに、先生のことも――。わたしに血の繋がったきょうだいはいませんでしたが、双子はわたしにとって姉のような存在でした。先生と同様に、わたしは双子のことを本心より信頼しきっていました。
不意に戸が開かれ、わたしは飛び上がります。相部屋に入ってきたハートはそんなわたしを見て、肩を竦めました。
「そろそろよさそうですわ。見るも見ないも自由ですけど、第一象限のなかごろには終わってしまいますから、あんまりぐずぐずしないことですわね。あたしは今周はメグ先生の部屋にお邪魔してますから、ごゆっくり」
一方的にそう言い捨てて、ハートはそそくさと本を片手に立ち去ってしまいました。ひとり残されたわたしは、ぽつんと立ちつくします。
かわいくて優しくてまじめで思いやりがあって、ちょっとぶきっちょで、わたしの命を救ってくれた、大好きな先生。その先生の本性がわかると、ハートは言いました。
興味がないと言えば嘘になります。それどころか、わたしは覗きたくて覗きたくてたまりませんでした。先生のことで、わたしが知りたくないことなどありません。先生への想いは、周を重ねるごとに強まっていました。
知るだけ。観測するだけだから。先生に危害を加えるわけでも、危ないことをするわけでもありません。三十分も悩みぬいた結果、わたしは自分にそう言い訳し、寝台に横たわり、精神を研ぎ澄ませ、自らの体内を巡る血に没入しました。識魔法の応用、自らの名前に意識を浸透させる魔法です。
ふっと闇のなかに意識が落ちていき、次の瞬間、光を感じ、音を感じ――。
「ん……ッ、ふく……ッ、やッ、やめなッ、さい、ってばッ、ぅくッ……」
ぱんぱんと何かがぶつかりあっている音と、くちゃくちゃと水っぽく何かが掻きまわされるような音に、ぎしぎしと何かがきしむ音。それに、噛みしめた歯の奥から絞り出すみたいな、先生の声。
光が徐々に広がってきます。寝台の上で見慣れた先生の漆黒の衣装が揺れているのが、ぼんやりとですが判別できます。
「きみッ、たち……、こんな、ことっ、くぁッ……、ほんと、だめ、なんだから……ッ」
「そんなこと言ったって、ニッカせんせ、こっちはこんなにぐっちょぐっちょに泣きべそかいちゃって、どんだけ発情してるのって感じだし」
「こっちもぐねぐね動いてるし、ちょーっと説得力ないよねえ?」
諌める先生の声に続いたのは、スキュラとナキュラの声でした。接続したばかりなので、くぐもっていて、会話の内容ははっきりとは聞き取れません。いったいこんな時間に三人で何をしているのか。やがて視界と音声が明瞭になり、その疑問に対する答えも明らかになりました。
「それ、はッ……、きみたち、がぁっ、あん……ッ! ね? ねえ? やめよ? もう、やめ、よ? 先生と、こんなこと……、しちゃ、だめなん、だから……ぅあッ」
「えぇー、だって我慢できないし。生理のときぐらい、いいじゃん?」
「それとも、前みたいに近所の子、片っ端から食べちゃっていいの? 下手したら二、三人壊しちゃうかもだけど……ま、角なしなら気も咎めないし、いっか」
「だッ! だめっ、だめだよっ! 角なしでも……、だめッ! だから……ッ、ぼくが、手とか……、くぅん……ッ、口とかで、したげる……からあッ!」
「もちろんあとで手とか口でもしてもらいますけど」
「ニッカせんせのここ、一度でも味わっちゃったら抜け出せるわけないんだよねえ」
「あーッ! あーッ! あッ、あッ、待ってッ、いやッ! やだッ! やッ! またッ!」
「あれ、ニッカせんせ、もう降参? まだ泣かせてないのに、だんだん間隔短くなってきたね」
「すっかり病み付きになっちゃったかな――おまんことおしり一緒にほじくられるの」
衣装をお腹の辺りまでまくりあげられ、寝台で仰向けに寝るスキュラの上で、後ろからナキュラに抱きすくめられる先生の姿が、像を結びます。先生は下半身に何も身に着けておらず、それは双子もおなじでした。識魔法に深くのめりこんでいるので認識できませんが、自室のわたしの身体はきっと今頃息を呑んでいることでしょう――露わになった先生の陰唇と肛門は体液でてかてかと濡れそぼち、双子のいきり立った陽根によって、貫かれていましたから。
「そんッ、なことッ、言わなッ、言っちゃぁッ、やッ! あッ! あッ! いっちゃ! イッちゃ! イッく! ん―ッ! んんーッ! ふーッ! ぅーッ!」
「おー、イッてるイッてる。声抑えるの大変そー」
「すっごい締め付け……ニッカせんせ、悦びすぎでしょ」
上半身をそらせて、先生がうめき声をあげます。双子はくすくす笑いながら腰を振り、痙攣する先生の身体に陽根を抽送し続けます。ふたりの肉棒に絡みついた先生の体液は泡立ち、真っ白になっています。
「んわッ! 待っ、待ちなさッ! イッた! 先生、おしりもイッたあ! こらッ、イッたからッ! やめなさいってばあッ! あっ、あっ、やだッ、せっ、先生っ、本気でッ、怒るよっ!」
「ねえねえ、ナキュラちゃん、怒られながらはめるのってやったら興奮しない?」
「あー、なんか、癖になるね……ニッカせんせ、もっと喘ぎながら怒ってみて?」
「なにッ、ばかな、こと……ッ、んああッ! もッ、やすませッ、てよおッ! 先生っ、こわれちゃ……ッ!」
「ニッカせんせの身体がよすぎるのが悪いんだよ? 手ェ出すなっていうほうが無理だって」
「これでおっぱいさえあればねえ」
衣装をはぎ取ろうとするナキュラに、嬌声を上げながらも先生は全力で抵抗しました。
「だめッ! 胸だけは、ほんとにやめて! ほかのことなら、なんでも――んひゃッ! あんッ! あんッ! 急に動いちゃッ、うぅんッ!」
「わかってるわかってる。おっぱいを見たり触ったりするのはだめ、生でするのはだめ、ちゅーもだめ、約束を破ったら二度としない。そういう決まりだもんね」
「ニッカせんせのなら、貧乳でも全然いいんだけどなあ……どうして見せてくれないかなー?」
「だッ、だって、だってえ……ッ! ぼく、きみたち、より……ちっさいから……っ、恥ずかしッ! んああぅうッ! やあッ!」
「ま、おしりとおまんこ使わせてくれるなら文句はないけどねー」
「つッ、使うとか、ひど――ぃひィっ!」
一周のなかでもっとも冷え込む周の変わり目にも関わらず、いよいよ荒々しくなった双子の動きに珠のような汗を浮かばせ、仰け反る先生。双子の暴力的ともいえる行為を受け止めるだけで、精一杯のように思えます。
「だめえッ! だめッ! だめッ! だめ……ッ! ぼく、またイキそぉ……だめッ、だよお……!」
「はああ、せんせ、盛り上がりすぎ……たまんなくなってきたァ」
「こっちもめっちゃいい具合ぃ……わたしも我慢できないかも」
「イふ……ッ! いっくぅ、いくぅ……イっく……ッ! ふ――ッ! く――ッ! あッ! あッ! んああぁッ!」
がつがつ先生の両穴を責めたてていたふたりが急に動きを止め、先生に腰をぐいぐい押しつけはじめます。息を弾ませ弛緩する先生をよそに、陶然となりながら、より先生に密着して嘆息する双子。
「はああ、やっぱニッカせんせのなか、最高ぉ……」
「こどもじゃ、こんなとろっとろなのは味わえないしね」
「は……ッ、はーッ、はー……ッ、終わったなら、はやく、どいてってば――ぇあッ!?」
「何言ってんの、まだまだ乗ってきたばかりじゃん」
「そうそう、あと五回は出さないと逆にすっきりできないよ」
「そんなにするのぉ……? こッ、降参するからぁ……、もうやめようよお……っ! ぼくっ、あっ、あっ、もっ、もういきたくなぁい……ッ! んあッ! うそぉっ、まだおっきく――っ!」
「わたしたちも体力ついてきたとはいえ、いくらなんでもニッカせんせのおまんことおしり、だらしなさすぎでしょ。そんなんじゃ、この先やってけないよ?」
「そうだ、スキュラちゃん、わたしたちでニッカせんせのちょろまん、鍛えてあげようよ」
「お、名案だね。ってことで本気の本気でいくね?」
「せめっ、て! ぅんっ! 避っ、妊具っ! つけなおしっ! んぐうっ! ぼくっ、もうすぐッ、やんッ、新月だか、らッ、破けちゃッ、あかちゃんっ、できちゃッ!」
「へーきへーき、羊の盲腸って案外頑丈なんだよ」
ほとんど泣きかけながら懇願する先生ですが、スキュラもナキュラも攻めの手を緩めるつもりは毛頭ないようです。それどころか、かえって激しさを増したようにも思えます。怒張の抜き差しを同調させたり、あえて交互に強弱をつけたり、先生は双子に翻弄され、なすがまま、ただただ悶えるばかりです。わたしが見たこともない、余裕のない、そしてどこか恍惚とした表情を浮かべ――。
「ニッカせんせ、頭もいいけど苛められる才能にも溢れてるよね。止めらんなくなっちゃう」
「ほんっとどすけべだよね。生まれついての好きものっていうか。普段は角ありなんか知りませんって顔してるくせに」
「あッ! うあぁんッ! そッ! そんなんじゃっ! ないよぉ……んっ! んっ! ひっ! んひぃいっ! ひっ、ひどいことっ、いわないでえ……!」
「とか何とか言って、自分のこと貶められるの好きだよね、ニッカせんせ」
「言うたびにとろとろになってくしねえ。ニッカせんせって実は昔っから遊び好きでしょ、床上手だし、いっつも本気で気持ちよさそうにえっちするし、穴開けた後まであるし」
「もうしないの?」
「そ、れはぁ……はあッ、はぁんんッ! べつにッ、開けたくて、開けたわけじゃ――やぁんッ!? そこっ、そこだめえッ! あっ! だめっ! あっ! だめぇ……っ!」
「いいと思うんだけどなー、角なしはこうでなくっちゃって感じ」
「立派なおちんちんには言いなりになって、なんでもしちゃうもんね」
「しッ、しないよぉッ……どうしてそんなっ、ひどいこというのお……ッ! ふたりとも、好き勝手、いいすぎだってばぁ……もお、やめてよお……いじめないでよお」
せわしくなくよがっていたかと思うと、信じられないことに、先生はまるで駄々っ子のように甘えた声を上げ、ぐすぐすと泣きじゃくりはじめたではありませんか。持ち前の童顔とこどもっぽさも相まって、双子よりも幼く見えます。双子はぴたりと動きを止めて、にたにた笑い。
「でも、わたしたちの生理楽しみにしてるんでしょ、ニッカせんせ」
「知ってるよ? わたしたちの生理近づくと、必ず予定開けるの」
「だ、だってぇ……そうしないと、よその子襲う、でしょお……」
「ニッカせんせ、もしかして、妬いてる?」
「わたしたちがほかの子ばっかり相手して、おまんこしてくれなくなるかも、って焦ってるの?」
「なッ!? なに、ばかなこと――ぼ、ぼくは……したくなんか……」
「ほんとかなあ? 毎回わたしたちが触る前から、ほしがりまんこぐっちょりさせてるじゃん」
「わたしたちに襲ってくれないか、はめられたがりおまんこうずうずさせてるじゃん」
「させて、なんか……ないよお……」
「それに、おしりでするのも最初っから拒まなかったじゃん」
「ごっ、強引に押し切ってきたのは……ふたりでしょぉ……後ろでするなんて汚いし……、変だよお……変態すぎるもん……」
「そんなこと言って、最近じゃ後ろも自分で準備してくるくせに」
「だ、だって、出すとこ、見せろっていうじゃない……死ぬほど恥ずかしいん、だからね……?」
「恥ずかしがってるニッカせんせ、かわいくて好きなんだけどなあ」
「発情して理性なくなっちゃってる先生もいいよね」
「ま、イキまくってだらしない顔してるとこが一番かわいいけどね」
「もおお……! 喋ってないで、はやく終わらせてよお……!」
身体をゆすり、ふたりの射精を促す先生。その所作は、わたしの眼にもおねだりしているようにしか映りません。案の定、スキュラはくすりと笑みをこぼします。
「どうしたの、ニッカせんせ? そんなにもじもじして、おまんこ寂しいの?」
「そッ、そうじゃなくてぇ……ぼくは、おしまいにしたいだけなのぉ……」
「ほんとかなァ? もの欲しそうにきゅんきゅん締め付けてきてるけど」
「息も半端なく荒いし、目もうるうるしてるし」
先生は、もはや言い逃れできないほどあからさまに腰をくねくねさせています。金糸の長髪は肌にはりつき、頬を紅潮させ、唇は半開きで半ば舌をつきだし悩ましげな吐息が漏れて、エメラルドの虹彩は情欲に濡れ。そのみだらで、浅ましく、はしたない姿の、なんと――。
「うぅぅ……いじめないで、よお……はああ、からだ、あつくて、おかしくなりそぉ……」
「正直に言わないと、ずっとこのままだよ、ニッカせんせ?」
「ずっとおまんこもおしりもむずむずしたまんまだよ?」
「わッ、わかったぁ、わかったからあ……動いて! 動いてよお! ぼくのなか、めちゃめちゃにかきまわしてえッ!」
そのあられもない叫びの、なんと――美しいことか。
「わたしたちはこのままでも構わなかったんだけど、ニッカせんせがそこまで言うなら」
「しょうがないなァ、ひと働きしてあげますか」
「はああぁあッ! あっ! あっ! あっ! あーッ! 待っ、てえ! も、っと、ゆっくりっ、してえっ! さっきよりぃっ! いぃんッ! 感じっ、ちゃっ!」
性交の引き起こす享楽にただひたすら没頭し、屈服させられ、蹂躙され、支配され、言いなりになって、尊厳を奪われ幸福を与えられ――その光景はまさしく、角ありに征服される角なしそのものとも言えようものでした。
「おまんこイクぅっ! イッてるっ! イッたあっ! おまんこイッてるのにいッ! またあッ! イキそおッ! おしりもイクかもぉっ! こんなッ! こんなのおッ! あたまっ、おかしくなっちゃうぅッ!」
「おーおー、すっごい悦び様。泣いてからの先生の盛りっぷりは、やっぱりすごいねえ」
「これだけめろめろになってくれると、わたしたちもはめ甲斐があるってもんだね」
「これからもわたしたちが幸せにしてあげますからねー、ニッカせんせ」
「あーっ! あーっ! あーっ!」
「って、もう聞いてないか」
そこにわたしの入り込む余地はなく、わたしがもたらしうるしあわせもなく、今の先生のなかには、わたしの記憶は、名前すら一片の熱もないのでしょう。
でも今の先生が、わたしの知っているどの先生よりも、いえ、この世の何よりもきれいなことは、疑いようもない事実で。
わたしは一秒たりとも目を離さずに、先生の痴態を、わたしの名前を通して、先生が教えてくれた魔法を通して、覗き続けたのです。
ハートに忠告された通り、第一象限のなかごろに差し掛かったころ、三人の交尾は終わりました。幾たびもの絶頂を極めた先生は、息も絶え絶えといったていで、ぐったりしています。ナキュラが呆然とした先生の顔を覗き込みました。
「ね、せんせ、ちゅーしようよ」
「はー……っ、はー……っ、だ、め……だってば……それ、は、いちばん……、好きなひととしか、しちゃ、だめ、なの」
「わたしたちこんなにニッカせんせのこと好きなのに」
「どうせ、誰にでも……言ってるんでしょ。先生、だまされないんだからね……」
頬を膨らませる先生から、双子が離れます。避妊具を外し、白い体液にまみれた陽根を先生の前に突き出しました。
「ほらニッカせんせ、おくちでお掃除して?」
「おくちはだめだってば……おくちは、食べたりお話したり……するためにあるんだから――」
「えェ、いいじゃん、ニッカせんせのこと、愛してるからさァ」
「はあ、自分勝手なんだから、きみたちは……」
先生は初めは嫌がるそぶりを見せつつも、すぐに、まるでそれが自然なことのように口を開き――わたしはその先を直視できず、反射的に魔法を中断しました。
わたしは自室で跳ね起きました。長時間魔法を使用していたからでしょうか、ひどい頭痛がします。宛然、第二一八塔の麓からてっぺんまで一気に駆け上ったかのごとく心臓が激しく脈打ち、息が詰まります。寝間着は汗を吸い、冷たく重くなっていました。下着はとりわけべとついていて、覗いてみれば、触れてもいないのに、生理でもないのに、何度も何度も何度も精液を漏らしていたようでした。
わたしは下着を洗い、部屋に陽光が差し込む時間になるまで、胸中に巣食ういがいがちくちくした気分の原因を探していました。
わたしの月が満ちたのは、予定よりずっと早い、三周後でした。