TS憑依して美少女になったので、エッチな日常を満喫する。 作:宇治金時正宗
平野君との勉強会の翌々日の朝、月曜日ということで普通に学校があり、僕と平野君は教室で顔を合わせた。
「平野君、おはよう……」
「あ、吉祥院さん、おはよう……」
顔を合わせたことでお互いに一昨日のエッチのことを思い出してしまい、気まずい空気が二人の間に流れる。
クンニで感じて絶頂してしまった僕も大概だが、見せるだけの約束だったのにそれ以上のことをしてしまった平野君は僕以上に顔を合わせ辛いのだろう。この前会った時よりも平野君の頬が赤い気がするのはそのせいかもしれない。
黙っていると更に気まずくなるので何か話そうと思ったが、共通の話題となると勉強会のことくらいしかない。だが、そもそもこの状況の原因は一昨日のことだからそれは話すわけにはいかない。
そんな僕の苦悩は、
「おっはよー! 梓沙ちゃんが私以外と話してるって珍しいじゃん。どうしたの、2人で見つめ合っちゃって」
僕の背後に突如として現れ、僕達の間に割って入ってきたのは僕の親友、ここあちゃん。
ここあちゃんは今日も元気で明るくて可愛いなあ。小動物みたいで一緒にいるだけで癒される。
「ねえ、梓沙ちゃんと平野君って、付き合ってるの?」
「ブフォッ、ゴホッゴホッ」
「えっ!?」
突然のここあちゃんの発言に動揺して思わずむせてしまった。あー、びっくりした……。ちなみにむせてる方が僕。乙女に有るまじき音が口から漏れちゃったよ。これでも一応学校だと清楚キャラなんだよね(笑)
たしかに俯きがちに向き合っているし、平野君なんか顔を赤くしてるから付き合ってるって疑われることもある……のかな?
その後、付き合ってないということをちゃんとここあちゃんに伝えた。誤解されたままだと僕の精神衛生上にも良くないからね。
──その時のここあちゃんの言葉が、れっきとしたフラグになっていたことを後になって僕は知ることになる。
◆◆◆
「そこまで! 鉛筆を置いてください」
教室に備え付けられているスピーカーの鐘が鳴るのと同時に試験監督の教員が試験時間の終了を告げる。
「よしっ、最後の科目終わったぜ!」
「帰ったらたくさんゲームしよーっと」
「今日は帰るの早いからスイーツ食べてこっ!」
まだ試験の答案の回収が済んでいないにも関わらず、中間試験最後の科目が終わったことで皆気が緩んだのか堰を切ったように騒ぎ出す。当然教員が静粛にするように言うのだがなかなか静かにならない。試験期間から開放されたことで皆浮かれているのだ。
僕もその例に漏れず、ようやく中間試験を終えたために気分はだいぶ晴れやかなものになっている。こんなに勉強したのなんて生まれてこの方ない。前世での受験勉強よりもここ2週間頑張ったと思う。『僕』が入る前の梓沙ちゃんに少しでも近づけただろうか。
HRが終わると、クラスメイト達は再び談笑を始め、一緒に遊ぶ約束などを交わしている。みんなから距離を置かれている僕は当然そんな約束をする相手など居らず、日直のここあちゃんが戻ってくるのをぼんやりと窓の外を見ながら待つ。
そんな僕のところへ1人の来客が現れ、この後急展開を迎えることになる。
◆◆◆
校舎裏に呼ばれた僕は、平野君と対面していた。
「お願いします! 僕と付き合ってください!」
あ、これこの前勉強会のお願いした時と、逆の立場じゃない? なんて暢気に構えている場合じゃないか。展開が急過ぎる。今まで平野君が僕のこと好きだなんていうそんな脈なんてあったか?
うーん、なんて答えようか。平野くんのことは別に嫌いじゃないし、真面目なのでむしろかなり好感が持てる。高梨クンみたいなイケメンはいけ好かないけれど、平野君はフツメンだから、というあまり声を大にして言えない理由もあったりする。
だけどそれとこれは別だ。いくら平野君に好感を持てていたとしても、それは人間性を好いているだけで恋愛的に好きなわけじゃない。そもそも僕は身体は女の子になったけれど、精神は男のままだし、恋愛対象は当然女性だ。
真の意味での女の子じゃない僕なんかを好きになってくれた平野君には申し訳ないが、今回は断ろう。思春期の少年の恋心を弄んだみたいで断る側の僕も心苦しい。
あと、なんで僕のことを好きになったんだ? 僕って、学校だとみんなに距離置かれてるし……。この前1日勉強会したくらいで恋に落ちるものなのか?
「ごめんなさい。付き合えません……」
「うっ、そんな……」
平野君は見るからに肩を落としている。しょげているってことは、ある程度勝算があって告白してきたのかな? 彼、そんな自信家には見えないけど……。
「この前──の家で──させて、くれたのに……」
平野君は何やら呟いているが、その声は聞き取るには小さ過ぎて途切れ途切れでしか聞こえない。ただその落ち込みようからは悲しみ、落胆がひしひしと僕にまで伝わってきた。
「えっと……なんか、ごめんね? 突然過ぎて私も困惑してるの。なんで私のこと好きになったのか教えてくれる、かな……?」
「なんでって……、僕にもわからないよ……。この前勉強会を僕の家でしてから吉祥院さんのことを見ていると、なんかドキドキしちゃって……。
最初は気のせいだと思ってた。だけどやっぱり気のせいなんかじゃ無かった。現に吉祥院さんと話していると心が落ち着かないんだ……。これが恋、なのかなって……」
あー、そういう事ね。平野君、性欲と恋愛感情がごちゃ混ぜになってるんじゃないか?
精神的な愛と肉体的な欲望を平野君の中で取り違えてしまっている、ということは大いに有り得ると思う。この前の勉強会でエッチしちゃったんだから尚更そうかもしれない。
「それって私とまた、その……エッチ、したいってこと? 私なんか、ほら、見た目は自分でも可愛いと思うけど……クラスの人達から距離置かれてるし、愛想もよくないじゃん。なのに好きになるって、やっぱりそういう──」
「違うっ! 」
平野君の叫びに思わず僕はビクンと肩を震わせてしまう。そのくらい今の彼の声には迫力があった。
「あっ、ごめん……。大きな声、出しちゃったね……」
平野君はぽつりぽつりと語り出す。
「なんで吉祥院さんのことを好きになったのかはやっぱりわからないよ。
でも、これだけは言わせて。吉祥院さんが可愛いからだなんて理由だけで好きになったわけじゃないし、それに吉祥院さんは愛想、悪くないよ。
僕はさ、高梨くんみたいにイケメンなわけでもないし、陽キャなわけでもない。自分で言ってて悲しくなるけれど、みんなよりも多少勉強ができる、そんくらいしか僕には取り柄がないと思う。
吉祥院さん、陰キャの僕がクラスの人達に影でなんて言われてるか知ってる?」
「え、知らない……」
「ガリ勉。それが僕のあだ名だよ。ああ気にしないで、もうこのあだ名には中学の頃から慣れっこだし別に気にしてはないよ。
僕は別に虐められてるわけじゃないんだけどさ、僕と関わるとスクールカーストで低くみられるから僕に話しかけてくる人は僕に似た人だけ。それが今までの僕の中での常識だった。でもね、そんなのお構い無しに吉祥院さんが話しかけてくれたことが何より嬉しかった。
あと、吉祥院さんが愛想悪くないってのは本当、だからね? たしかに学校だと吉祥院さんは静かだけど、この前僕の家に来た時は普通に喋ってたじゃん。あの時、僕、びっくりしたんだ。吉祥院さんってこんなに普通の女の子みたいに話せたんだって。あ、悪い意味じゃないよ? 僕なんかとは違う世界に住んでる人みたいに前までは感じてたのに、その時から親近感持っちゃって。
あ、やっと僕、好きになった理由、言語化出来たかも。えへへ」
平野君は、そう言ってポニポリと頬を掻きながら苦笑いする。話し始めは自信なさげだったが、話の終わりの頃にはすっかり饒舌になっている彼の様子が見てとれた。
平野君の話す彼自身の人物像は、転生前の僕と重なって感じられ、平野君が僕に感じたように僕も彼に親近感を覚える。まあ、転生前の僕と違って平野君は勉強熱心なんだけどね。
平野君が僕に抱いている感情はたしかに恋愛感情なんだと彼の話でよくわかった。平野君は僕に対してこんなにも真剣に向き合ってくれている。
この前エッチをしたせいで少し増長してるんじゃないか? などと勝手に決めつけていたほんの少し前の自分が恥ずかしかった。
「平野君、さっきはごめん。平野君はエッチ目的に私と付き合おうなんて言う人じゃないよね。あんなこと聞いた私がバカだった」
「全然気にしてないから大丈夫。普通に考えたら僕が吉祥院さんと付き合おうなんて烏滸がましい話だから」
どこまでも謙虚な彼はそう言って笑って許してくれる。
平野君は高梨クンと自分を比べていたが、電車で痴漢してきた上にトイレでエッチしようだなんて考える高梨クンなんかよりも平野君はよっぽど人格が出来ていると思う。
平野君、さっき付き合おうなんて言ってたけど、そういえば僕達、勉強会1回したくらいでまだ友達と呼べる関係じゃないんじゃないかな?
「ねえ、私達まだ友達って呼べる関係じゃないと思うの。まずは友達から始めよ?」
「たしかに僕達、付き合うもなにもそんなに話してないもんね」
平野君は照れくさそうに笑う。彼が言うような『陰キャ』のようには今の彼は見えなかった。
これからもよろしくね、平野君。
◆◆◆
「ふ〜ん、そんなことがあったんだ。梓沙ちゃんっ!」
バシッと背中が叩かれる。い、痛い……。
「友達出来て良かったね!」
ここあちゃんに平野君とちゃんと友達になれたことを報告すると、僕に友達ができたことを自分のことかのように喜んでくれた。僕に友達がここあちゃんしかいないことを心配してくれていたみたい。
実際僕もウキウキしている。何しろ男友達ができるは転生前の中学の時以来だから2年ぶりだ。女の子と話す時とは違って男同士の会話は、気を使わなくて済むからラクだったなぁ、なつかしい。いずれ平野君ともお互いに気を使わなくてもいいくらいに仲良くなりたい。
「平野君、梓沙ちゃんは友達付き合い苦手だから色々気を使ってあげてね!」
「は、はい、頑張りますっ!」
流れで一緒に下校することになった平野君もここあちゃんに声をかけられ、背筋をピンとして返事をしている。ここあちゃんは心配しているかもしれないけれど、前世で中学のときは僕にも男友達はいたから平野君と話す分には問題ないと思う。
別れ際にここあちゃんは、平野君とサクッとLINEの友達登録をしていた。ここあちゃん、コミュ力高いよ……。陽キャはすげぇや。
◆◆◆
その夜。
「あずねえ、何かいい事あった? なんか嬉しそうだけど」
スマホをソファーに座って弄っているとテレビを見ていた柊斗に声をかけられた。
嬉しい気持ちが顔に出ちゃってたのかな? 何を隠そう、僕は今テンションがものすごく上がっているのだ。友達から家に誘って貰ったのなんて何年ぶりだろう、小学生の時以来かもしれない。
「ふふ〜ん♪ べつに〜」
「ふーん、そっか」
わざわざ柊斗に教えることではないから適当に誤魔化しておく。あ、充電こんなに減ってる。充電器取りに行かなきゃ!
◆◆◆
今日のあずねえは帰ってきてからずっと機嫌が良さそうにしている。なんかいいことがあったのかな? 変な胸騒ぎがするが案外、テストの感触がよかったなんて理由かもしれない。あずねえに機嫌がいい理由を聞いてみたが、結局教えてくれなかった。
僕がテレビを見ていると、あずねえが「充電器持ってくる」と言ってスマホをテーブルの上に置きっぱなしにして2階に上がって行った。
あずねえはスマホを見てニヤニヤしていた。だからスマホを見たら何かわかるかもしれない。そう思った僕は、マナー違反だとわかってはいたが、あずねえのスマホを覗き込んだ。
スマホを覗き込んだ僕は、開かれていたLINEを見てしまってから観なければよかった、と後悔する。そのままテレビを見続けていたら穏やかな心持ちでいられたのに……。
──そこに表示されていたのは、僕以外の男の家に遊びに行く話だった。