※この作品はR-18です。

TS憑依して美少女になったので、エッチな日常を満喫する。   作:宇治金時正宗

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第2話 優しいココロ

 

「え、なんで……」

 

 僕の口から弱々しい声が意思に反して漏れ出る。

 スカートに付着しているモノは、白いゼリー状。前世含めて何度も見たことがあり、見間違えようもないもの。それは、精液に他ならない。

 

「梓沙ちゃん、コレって……」

「アレ、だよね」

 

 心愛ちゃんも正解を知っているからなのだろう。言い淀んでいた。彼女は制服に男の人の体液が付いているだなんて考えたくもないのだ。でもそれは僕も同じ。

 

 どうしてこんなものがここに。

 

「梓沙ちゃん……」

 

 ポケットティッシュを取り出した心愛ちゃんはそれを拭い出す。

 

「気づいてなかった、でしょ?」

 

 僕はこくりと頷き、彼女が僕のスカートを擦る様子をただ眺めた。

 

 肌の上を蛇が這っているような悪寒が僕を襲う。全身の産毛が逆立つような気がした。

 

 元男だからこそ男の人のどろりとした欲望がわかってしまい、顔も名前も知らぬ人物のどす黒い感情が容易に想像できてしまう。知らぬ間に性の対象とされ、欲望をぶつけられるのは気持ち悪すぎたのだ。

 

 腹の奥から酸が込み上げてくるような気がして思わずハンカチで口を抑える。そして、一瞬の目眩の後、椅子から崩れ落ちるようにして僕は気を失った。

 

 

 ◇

 

 

 これは知らない天井……ではないや。

 僕が見上げる先にあるのは、学校特有のトラバーチン模様の穴のあいた天井だった。その事と背中の下の弾性からここは保健室なのだろうと僕は当たりをつける。

 

 どれくらい気を失っていたんだろう。確か僕のスカートに──

 

「き、吉祥院」

 

 目を開けてぼんやりと考えていると、横から声をかけられる。低く太い声。

 

「吉祥院、大丈夫か?」

 

 僕はスっと枕元へ目をやる。やはり、そこにいたのは僕のクラスの担任の中田先生だった。体育科の教師である先生は、腰掛けたパイプ椅子からその巨躯をはみ出させながらも身を乗り出して僕のことを見ていた。

 先生と目が合った僕が軽く会釈すると、先生は会釈を返して僕の額に手をあてた。

 

「先生、私……どれくらい寝てましたか?」

「あ、あー、1時間半くらいか? 今は二限の最中だからな」

 

 先生、動揺している? いや、気のせいか。

 それより長いこと保健室で寝ていた方が問題だ。

 一旦寝て起きたおかげか、徐々に頭は冴えて冷静になってきている。あの時は動揺してしまったが、今思えば、スカートに体液をかけられたくらいで気を失うなんて情けない。女の子になった影響か精神まで女々しくなってしまったのかもしれない。

 

「先生が運んでくだっさったのですか?」

「あぁ、七海がお前のことを知らせてくれたからな」

「ありがとうございます先生。心愛ちゃんにもあとでお礼を言っとかなきゃ」

 

 そこまで言って僕は上体を起こし、周囲を見回す。

 カーテンで仕切られた空間にいるのは僕と先生だけのようで、保健室内は静寂に包まれている。身につけているセーラーは汚れておらず、あの時の吐気で吐いてしまわなかったことに安堵する。

 そんな中、先生は事の発端となった事件についてぽつりぽつりと話し始めた。

 

「き、吉祥院、災難だったな」

「あ、はい」

「まったく、未成年にそんなことをするなんてどうかしているよ。どうせろくでもない大人なんだろうけどな。いくらなんでも吉祥院が美人さんだからって」

「せ、先生、そんなこと……」

 

 どうやら彼は人格者の部類らしい。なかなかに熱いものを内に持っているようにみえる。真面目で無駄口は叩かない人間だと思っていたが、軽口を生徒と交わせるくらいには冗談が言えるようだ。

 まあ、僕が可愛いのは厳然たる事実なんだけどね。僕の中での中田先生の株が少し上がったことは認める。我ながらチョロいもんだ。

 

「三限は出るのか?」

 

 先生の問いかけに声は出さずに首肯する。

 

「そうか、真面目な吉祥院のことだからそうすると思ってたよ。先生が体育着を取ってきてやるからここで待っていなさい」

「先生、ありがとうございます」

 

 後ろが白くカピカピになったスカートを履いているわけにも行かず、先生が僕の体育着を持ってきてくれることになった。授業中の時間とはいえこんな制服で校内を歩くのは恥ずかしいので、先生のお言葉に甘えた形だ。ただ単純に別校舎にある教室まで戻るのが面倒だったのもあるけど。

 仕切りカーテンを捲った先生が振り返る。

 

「吉祥院、ロッカーのパスワードは?」

「123です」

「了解。でも俺以外にパスワードを教えるんじゃねえぞ? 学校内で盗難事件もないわけじゃないんだからさ」

 

 僕に諭すように言って、今度こそ先生は去った。 

 

 

 先生が僕のところに帰ってきたのは5分くらい経った頃。小脇には僕の体操着袋が抱えられていた。

 

「先生、何から何までありがとうございます」

「なに、俺は今日は三限と五限しか授業を持ってないから気にすんなよ。それより、もし吉祥院がよければだが……帰るまでにスカート、洗濯しておいてやろうか?」

 

 なんとスカートを洗濯してくれるつもりらしい。ここまで生徒に尽くしてくれる先生はなかなかいない。僕の中での先生の評価がさらに上がる。ストップ高だ。

 気の利いた申し出に感動して僕が固まっていると、先生は言葉を続けた。

 

「い、いや、吉祥院が嫌ならいいんだ。ははは、単なる思いつきだからな。俺には小学生の娘がいるから、どうも娘と同じように考えちまったみたいで──」

 

 僕の沈黙を断られたと勘違いしたのだろう。言い訳がましく矢継ぎ早な話しっぷりだ。

 そんな先生の様子を可笑しく思いつつ、体育着のまま帰るのは恥ずかしすぎるので、僕は先生の申し出を受けた。

 

「ふふっ、それじゃあお願いします。先生は優しいんですね」

 

 僕がそう言って笑顔を向けると、先生も不器用な笑顔を浮かべた。

 

 それから一旦、先生にはカーテンで区切られた仕切りの外に出てもらって体育着に着替え、脱いだスカートを畳んで手渡す。

 

「乾燥機にかけるから、渡せるのはHRの1時間後くらいになるぞ」

「わかりました。じゃあ放課後残って待ってますね」

 

 先生に今の時間を聞けば、あと五分ほどで二限が終わるくらいだという。

 僕と中田先生は、三限の中田先生の体育の授業に出るべく保健室をあとにした。

 

 

 ◇

 

 

 帰りのHRが終わると、一人また一人と教室から人が捌けていく。体育着を返してもらうために残って席に座っていた僕がそんなクラスメイトたちの様子をぼんやりと眺めていると、平野くんが近づいてきた。

 

「吉祥院さん、朝のことだけど……大丈夫?」

 

 平野くんは普段、恐れ多いと言って教室では話しかけてこないのだが、よほど今朝の事が心配だったらしい。

 ちらと周囲を見渡すと、幾人かのクラスメイトは僕達の方を見ている。みんな僕に気を使っていたのか、それとも平野くん同様、『孤高の天使』の僕に遠慮しているのかわからないが、今日一日、誰も今朝のことを聞いてこなかった。しかし、動きを止めて耳をそばだてている様子から、彼ら彼女らがこの話題に興味を持っているのは一目瞭然だった。

 

「えっと……平野くん、ちょっと来て」

 

 僕は立ち上がって彼の手を掴み、教室の外へと連れ出す。

 あまり人の多いところでする話でもない。クラスでは曲がりなりにもクールな人物として通っているため、今朝のことは僕だって恥ずかしいのだ。

 

「き、吉祥院さん?」

「人のいないところに行きましょ」

 

 僕が平野くんを連れてきたのは階段裏のぽっかりと空いたスペース。廊下や階段から死角になり、通りかかった人から見られる心配はない。

 

「もう大丈夫?」

「うん。えっと、今朝のこと……だよね?」

「ま、まあね。心配してたからさ」

 

 平野くんは少し照れた様にポリポリと頬を掻く。

 

「もう知ってると思うけれど、私のスカートに精液が付いてて、それで気が動転しちゃってさ……。見ての通り気を失っちゃって。でも、二限の途中には目が覚めたんだよ」

「そ、そっか。大変、だったんだね」

 

 デリケートな話だから彼も聞いたはいいもののコメントしづらいのだろう。この間まで童貞だった彼には刺激が強すぎたか。できる美少女梓沙ちゃんは気遣いも完璧なので彼のフォローも忘れない。

 

「あ、でも心配しないで。制服なら中田先生が洗濯してくれてるから。たぶん、あと30分もすれば乾燥も終わると思う」

「え、吉祥院さん、中田先生にスカート渡したの……?」

「そうだけど何か?」

「う、ううん。別に。ただあの先生、目がちょっとね……」

 

 目? 何の話だ? 中田先生は普通に親切な人だと思うけどな。

 

「ねえ、それよりもさ。平野くんは犯人誰だと思う?」

「えー、犯人かぁ。詳しいことはわからないからなんとも言えないよ。吉祥院さんに害意を持つ人か、それとも……吉祥院さんに対して性的な欲望を持つ人か」

 

 そこで平野くんは言葉を切った。

 

「吉祥院さん、心当たりはある? 人通りの少ないところや、逆に人混みの中で異常なほどくっつかれたとか」

「あっ、朝に──」

 

 そこまで言いかけて僕は口を噤む。スカートにかけられた精液のことで忘れていたが、高梨クンに電車内でキスをされ、胸を触られたことを思い出したからだ。

 

「朝?」

「ううん。何でもない」

 

 余計なことを言って平野くんに心配だけはかけたくなかった。

 彼には勉強のことと性欲解消のことでお世話になっている。一方的に心配される関係は長続きしないのだ。

 それに、精液が付いていたのはスカートの後ろ側。車内で高梨クンにかけられたとは思えない。

 

「深くは詮索しないけどさ、もし辛かったら言ってね? 話を聞いてあげるくらいはできると思うから」

「うん……ありがと」

 

 僕の背中におずおずと腕が回される。もう何回も僕達は体を重ねているというのに、その動きは緩慢としていてぎごちない。良い意味で彼らしい。

 

 平野くんに身を委ね、僕は彼の腕の中に包まれる。彼の胸に頬があたり、薄いシャツを通して体温が伝わってくる。

 

 空調設備のない階段裏の暑さでお互いの肌はベタついているが、全く不快とは思わない。むしろその汗が、僕達がこうして繋がっているということを現実のものとして実感を湧かせてくれている。

 まるで、ここ──彼の腕の中が僕のあるべき場所であるかのような安心感さえ覚える。

 

「吉祥院さん、何かあったらそのときは僕がいるから一人で抱え込まないでね。それに七海さんだって君の力になるはずだよ」

 

 平野くんの手が僕の頭を一撫でする。

 

「僕は、吉祥院さんが完全無欠の『孤高の天使』だなんて思ってないから。等身大の女の子だって、僕は、知ってる」

 

 言葉を選びながら彼はそう口にした。

 

 見知らぬ人からのどす黒い感情が形となって現れた、白い精液。ただそれだけのものに気持ち悪くて仕方がない。

 僕に性欲を向ける人は僕の周囲だけでも複数人いる。平野くんに柊斗、高梨クンもだ。だけど、平野くんはいつもお世話になっている友達だし、柊斗は女の子みたいに可愛い弟。高梨クンは嫌いだが、痴漢されたことが嫌というよりは、痴漢しても俺はイケメンでカッコイイから許される、だなんて思っていそうなあたりが嫌いだ。

 

 自分の知らないところで向けられる劣情が、こんなにも気持ち悪いだなんて知らなかった。性的な目で見られているのは同じなのに。

 今朝のことは、本当に気持ち悪くて、怖くて。この不安な気持ちを誰かに打ち明けて楽になりたかった。でも、『孤高の天使』という肩書きがそれを許さなかった。

 

 犯人は誰なのか、今後同じようなことがまたあるのか。そんな不安は今も暗雲のように頭上にかぶさっている。けれど、彼の前では体面なんて気にしなくていい。そう、思えた。

 

「なんで、私がこんな目に合わなきゃなの……」

 

 気づけば、僕も彼の背に手を回し、不安でごちゃごちゃになった感情を吐露していた。

 

「怖いよぉ……」

 

 きつく目を閉じると堪えていた涙が頬を伝う。

 首筋に平野くんの吐息がかかる。頭の上の温かい感覚からして、平野くんは、僕の項(うなじ)に顔を埋め、髪を撫でているようだ。

 彼の胸に頭を預けて俯くと、体育の授業が終わってからも着ていた体操服の襟元から汗の匂いがした。

 

「ごめんね。私、汗臭いよね」

「まあほんの少し。でも全然嫌じゃないよ」

「じゃあ……もうちょっとだけこうさせて」

 

 そう言って僕は彼を抱き締める腕の力を強めた。

 

 

 ◇

 

 

 夏の暑さと二人の体温でお互いにベトベトになった頃。平野くんは抱擁を解き、スっと僕から離れた。

 彼の腰の引けた姿勢に目がとまる。

 

「勃ってるの?」

「……まぁ」

 

 僕とくっついていたことで生理現象が起きてしまったらしい。男の子だから仕方ないな。

 

「えっと……抜いてあげた方がいい?」

「い、いや、いいよ」

 

 もともと、今日は彼とエッチをする予定の日だった。だから口では大丈夫と言っても、きっと溜まっているはず。

でも──いくら性欲の強い僕とはいえ、今朝の件が響いているのかそういう気にはなれなかった。

 

「……ごめんね。今朝ああいうことがあったからさ、今日はまっすぐ家に帰るね」

「う、うん。仕方ないよ。吉祥院さん、何かあっても抱え込まないでね?」

「……気、つかってくれてありがとね」

 

 少し背を屈め、心配そうに僕の顔を覗き込む平野くん。そんな彼の頬を軽く突くと、彼はようやく笑顔を見せた。

 

「じゃあまた明日」

 

 

 帰ったら、精液をかけたのは柊斗じゃないか聞いてみよう。そんなことを考えて僕は平野くんと別れた。

 




近いうちに次話投稿したい(願望)
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