どうか寛大な心で見てやってください。
もし面白いと思っていただけたら、第二回人気投票にてランスロットに一票をお願いします。
投票数33万0568票、これこそが俺の女神に捧ぐ愛だ。
(pixivにも同じ内容の作品を投稿しています。)
(注)拙作『弟殺しの伊達政宗』の続きになります。
結局あの後、モードレッドは怒り狂う伊達政宗から鉄拳3発と国外退去及び再入国禁止処分を喰らい、顔面にでっかいタンコブと青痣をつくる羽目になった。
政宗はブリタニアとの国交断絶やモードレッドから正妻証明書没収をしたかったようだが、チハヤが止めたため、1年間のジパング領への入国禁止で留まった。
何にせよ確かな事は、シャドウナイト一味の一件により悪化したジパングとブリタニアの関係が今回の一件でさらにさらに悪化した事だけだ。
「申し訳ございませんアーサー様。 その……色々やらかしてしまいました」
ブリタニア領香港にて、モードレッドが主君・アーサー王に事の顛末を報告している。
アーサー本人は太平洋を隔てたほぼ地球の反対側にいるため、報告は遠距離通信用の大型通信石を使ったものだ。
基本堅物で優等生なモードレッドが主君に自らの失態を報告するのは珍しい事である。
「愛……ですわね」
……そんな状況下であるのに、アーサー王は涼しい顔をしていた。
大型通信石越しの会話なのでモードレッドからは見えないが、まるで明日の天気の事を話しているかのように、その表情は余裕たっぷりだ。
「あ、愛……ですか……?」
いくらアーサーがおおらかでも、一言か二言くらいは叱責か嫌味を言われるものだと思っていたモードレッドは、いくら肩透かしを喰らった気分になる。
「昔から言うでしょう『心に愛が無ければスーパーヒーローじゃないのさ』と」
「それはキ〇肉マンです」
「ブリタニアの円卓の騎士……いいえ、私の騎士であるならば、
心に愛があってほしいと常々望んでいます。 願っています」
「はぁ……それは大変ですね」
モードレッドは自分も円卓の騎士だという事を盛大に棚に上げた。
現実逃避とも呼ばれる状態だ。
「極論、他はどうでも良いのです」
アーサーはそう断言した。
モードレッドは思わず頭を抱えたくなる。
「アーサー様、そうではそれでどうかと思います」
モードレッドのツッコミが迸る。
ジパングに織田信長がいるならば、ブリタニアにはモードレッドがいるのだ。
なお、ブリタニア出身のツッコミ眼鏡ことジェームズ・クックはアーサーが即位した直後に国外脱出を図った事も付記しておこう。
「ランスロットにも、貴女にも、心に愛があります。
ランスロットの行動も、今回の貴女の行動も、心に抱く愛によって成された事です。
私には分かります」
「アーサー様、もう少し他人を疑った方が良いと思います。
特にランスロットはロクでなしです」
モードレッドの再度ツッコミを試みたが、アーサーは聞く耳を持たない。
「故に私は許します。 他の誰が許さなくとも私は許します。
心に抱く愛の為の行動である限り、ランスロットにも貴女にも罪は無いと許します。
そして私は認めます。 他の誰が認めなくとも私は認めます。
心に愛がある限り、ランスロットも、貴女も、
アーサーが信じ頼る円卓の騎士であると認めます」
「アーサー様、貴女は国家元首ですよ。
パブの酔っぱらい達のなんちゃって政治談議ならともかく、
国家元首がその言動はどうかと……」
意訳『ラリってんじゃねー!』
大型通信石越しの会話でなければ、勢いそのままに右ストレートをブチかましていたかもしれない。
「もう一度言います。 心に愛があるならば、極論他はどうでも良いのです」
しかし、アーサーは聞く耳を持たない。
ある意味で硬くなで、ある意味で純真で、純粋だった。
「はぁ……」
モードレッドは深いため息をつくと色々と諦めた。
その後、モードレッドとアーサーはいくつか事務的な報告と承諾を経て、長距離通信用の大型通信石を切断した。
何個かアーサーに判断を仰ぐ事項があったのだが、返事が全部『良きに計らえ(意訳)』だった事に一抹の不安を覚えた……が、悲しむべき事にそれはいつものアーサー王である。
そして……
「ランスロット、この前お墓の所に記録石を置いたの貴女でしょ」
大型通信石が魔法力を切らして単なるでかい石になったのを確認すると、モードレッドは独り言を呟いた。
「(心に愛があるので無罪ですよ~)」
するとこの場に居ない筈のランスロットから返事が来る。
世界中の英雄の中でも数人……いや、数十人しか使う事の出来ない念話的かつギャグマンガ的な超能力・ギリワンテレパシーである。
法や道徳、忠義よりも自身の個人的な都合や思惑を優先させるギリワンのみが扱えるアイコンタクト的な何かしらである。
「やるなとは言わないけど事前に教えなさい、こっちにも心の準備ってものがあるのよ。
いやそれより、あんな悪趣味なの何時! どこで! どうやって準備したのよっ!!」
「(事前に役者さんを雇って再現しただけですよ~
顔と声は認識疎外魔法のちょっとした応用で~)」
「ああそうそりゃ大変だったわねっ!
じゃあ貴女どうやって政宗の父親や弟が死んだ場面を知ったのよ!?
政宗の様子、尋常じゃ無かったわよ!!」
「(この前オーディンの迷宮で拾ってきた~並行世界の私が情報源ですね~
呂布さんにアロンダイト折られた時に死んじゃい……いえ、消えちゃいましたけど~)」
「ああ、そう……そういう事ももう少し早めに言って頂戴、びっくりするでしょう」
モードレッドは呆れ顔で肩を落とした。
ランスロットは必要に迫られればダーティ・ファイトを厭わない性格だ。
ランスロットは必要な時は手段を選ばない性格だ。
だがしかし……それにしたって今回のは色々な意味で過激が過ぎる。
伊達政宗の心の傷を盛大に抉るそのやり口は……それはそのまま、ランスロットに手段を選ぶ余裕が無い事を示していた。
「ランスロット……貴女、何を見たの? 何を知ったの?」
その言葉に対する回答は無かった。
モードレッドは思った……ランスロットをここまで追いつめた、ここまで追い込んだ何かがある筈だと。
そうでなければ、あのランスロットがこうまで他人の心の傷を抉る手段を使う筈が無いと。
……
…………
………………
伊達政宗は、父・伊達輝宗を愛していた。
伊達政宗は、弟・伊達小次郎を愛していた。
では伊達政宗は、チハヤを本当に愛していたのだろうか?
政宗は何度も何度も、何十回も父・輝宗に抱かれる自分を妄想していた。
きっかけは幼い頃、ちょっとした拍子に父と母が交わる姿を見たせいだと思う。
母のお〇んこに父のお〇んぽが挿入される瞬間を見た。
いつも厳しく、いつも誇り高く、いつも毅然とした態度を崩さない母が、父のお〇んぽが挿れられた瞬間に豹変した。
淫らで、ふしだらなメスの顔になって、あんあんと大きな喘ぎ声を出していた。
政宗は父と母の行為から目を離せなかった。
そして政宗は思った……自分も母のように、父に愛されたいと。
自分も母のように、父に抱かれたいと。
行為が終わる寸前に政宗は我に返り、飛び去るように自分の寝所へ戻っていった。
布団に包まると、取り憑かれたかのように、発狂したかのように自身の陰核に手を伸ばし、指を這わせて自慰に耽った。
頭の中で父・輝宗に抱かれる自分を妄想した。
頭の中で父・輝宗のお〇んぽを挿れられ、母と同じように狂乱する自分を妄想した。
そして父の身体がビクンと震えて、母と同じように膣内射精を受けて……父・輝宗の仔を孕む自分を妄想した。
そんな妄想は、その日だけに留まらなかった。
毎日毎日、来る日も来る日も同じ妄想をして、同じように自慰に耽って、父親と交わって父親の仔を孕む事を妄想した。
……政宗が父・輝宗を射殺した日までそんな妄想続いた。
政宗は父・輝宗の死を心の底から嘆いた。
政宗は父・輝宗の死を心の底から悲しんだ。
政宗は父・輝宗のために……いいや、自分の欲求、自分の欲望を満たすために様々な事ができなかった事を嘆き悲しんだ。
そしてその日から、政宗の妄想の対象は弟・小次郎に移った。
毎晩毎晩布団に包まると、取り憑かれたかのように、発狂したかのように自身の陰核に手を伸ばし、指を這わせて自慰に耽った。
頭の中で弟・小次郎に抱かれる自分を妄想した。
頭の中で弟・小次郎のお〇んぽを挿れられ、母と同じように狂乱する自分を妄想した。
そして弟の身体がビクンと震えて、母と同じように膣内射精を受けて……弟・小次郎の仔を孕む自分を妄想した。
……政宗が弟・小次郎を斬殺した日までそんな妄想続いた。
そしてしばらくの間、自慰と妄想は納まり……政宗がチハヤと出会った日から、政宗の妄想の対象は新たな弟・チハヤに移ったのだ。
「結局……それがしにとって弟は父の替わりで、チハヤは弟の替わりだったのか……」
そして政宗は絶望の淵にいた。
父を愛して、父が死んだら弟を愛して、弟が死んだら替わりの弟をでっち上げた。
畜生にも劣る愚劣な行為だと自覚しつつも、いつもそんな愚劣な行為止められなかった。
モードレッドに国外退去を命じた後、政宗は全ての気力と体力を使い果たしたかのように倒れ、泥のように眠った。
目が覚めたら、自分が途方も無く浅ましい真似をした事を自覚してしまった。
自覚してしまったのだ。
自覚してしまったら、もう政宗はどんな顔をしてチハヤに会えば良いのか分からなくなった。
どんな言葉をチハヤに向ければ良いのかも分からなくなった。
そして政宗は目が覚めるや否や、逃げ出すかのように姿を消した。
いや……伊達政宗は逃げ出したのだ。
……
…………
………………
「ん……あ……あぁっ」
政宗が胸を愛撫され、艶めかしい吐息を漏らす。
彼女が逃げ込んだ先は陰間茶屋であった。
陰間茶屋とは同性愛者の男性か、性欲を持て余した女性向けの売春宿である。
売れない歌舞伎役者が糊口をしのぐために性的なサービスを提供する場所だ。
「んんぅ、あ……んんぁっ!」
そこで政宗が美形の少年から愛撫を受けていた。
チハヤ達の目を避けるため居城から逃げ去った後、どこをどう走ったのか覚えていていない。
気が付けば浴びるように酒を飲み、足元がふらつく程に酔いが回り、酌をさせていた童顔の少年……いや、男娼に手を引かれて布団に誘われ、そして……
「あぁんっ、う、ああぁ!」
そして今、政宗は男娼によってされるがままだ。
政宗の嬌声が徐々に大きくなっていく。
一応、政宗には愛する夫兼弟がいる。
頭の片隅でこのまま身を任せるのが悪い事だという認識はあった。
あったが……政宗は半ば自棄になっていて、昏倒寸前まで呑んだ深酒によって抵抗する意思と力が殆ど失われていた。
「い、いかん、これは……ふ、んんぅっ! ああんんっ!」
流される、流されていく、流されてしまう。
父を殺した時も、弟を殺した時も、状況に流されて殺した。
あの時も、あの時も、やむを得ず殺したのではない、殺さないで切り抜ける方法はあった、確かにあったのだ。
……あったにも関わらず、政宗は殺したのだ、父も、弟も。
「ふあぁぁつ! あんううぅ! うあぁあんんぅっ!!」
そして政宗の嬌声が徐々に大きくなっていく。
政宗の嬌声が獣のようになっていく。
彼女の股座は既に唾液や愛液でぐしょぐしょだ。
愛する夫兼弟がいる身であるのに、またもや状況に流されて股座を濡らしている。
そしてこの後の流れも予想がつくというのに、政宗は目の前の男娼を振りほどくことができなかった。
そして……
「では、そろそろ挿れますね……」
男娼が自らの男根を扱き、勃起させる。
その手慣れた手つきを見るだけで、何度も何度もヤッてきた事なのだと分かる。
「あ……や、やめ……」
情けなくやめてくれと懇願する。
だがしかし、心身共に弱り切った今の政宗では男娼1人腕ずくで跳ね飛ばす事すらできやしない。
「んぅぅ……」
勃起した男根が政宗のワレメに宛がわれる。
こういう女性向けの娼館で避妊は基本的に期待できない。
一応、豚の腸や魚の浮袋を加工した避妊具は流通しているが、今目の前にいる男娼はソレを用意している様子は無い。
射精する寸前に膣外に引き抜いてくれればいっそ良心的で、そうでなければ客側の自己責任……そういう場所に政宗はわざわざ足を運び、しかも酔い潰れて立つ事もできなくなっていた。
「ふあぁっうぅ!?」
ずんっ!! と硬く長く熱い肉竿が政宗の膣口とドッキングした。
ナカを抉られる感覚……久々の女の快楽に政宗の身体は狂喜した。
「ぅあぁ……し、子宮がキュンとなってぇ……」
それはメスの本能がこじ開けられるような感覚であった。
モードレッド程長期に渡る放置ではないにしても、ここしばらく政宗は男に抱かれていなかった。
チハヤは嫁を増やし過ぎたのだ。
そしてそうなった原因の何割かは政宗だ。
「どうですかお客様? 気持ち良いでしょうか?」
男娼がニヤニヤと、ニタニタと厭らしく笑っているのが分かった。
済ました女が乱れるのを見て興奮するタイプなのだとすぐに分かった。
そして自身の顔がメスの快楽に溺れてぐしゃぐしゃのぐちょぐちょに蕩けてしまっているのもすぐに分かった。
「も、もういい。 こんな接待は求めては……うあぁあっ!?」
抗議の声が子宮口への一突きで止められる。
両脚がピンと伸び、全身が震え、汗を出し、たった一突きで軽くイッてしまう。
「お客様のココは、随分とお喜びの様子ですよ」
またも男娼が笑う。
メスの快楽に翻弄される政宗を上から見下し嘲笑う。
しかし、最早政宗は抵抗不可能だ。
「ああぁっ!? んああぁぁっ!!」
ずんっ! ずんっ! ずんっ!! と何度も何度もピストンを受ける。
政宗の一番弱い所を的確に、しかも執拗に責められる。
「だ、や……んんぅっ! んああぁんんっ!! ふあぁぁあんっ!!」
政宗の顔が蕩けていく。
政宗の声が蕩けていく。
政宗の全身が蕩けていく。
「(き、気持ち良い……気持ち良い、気持ち良い、気持ち良いっ!!)」
政宗の思考がセックス一色に塗りつぶされていく。
何度も全身が震え、何度も膣口がぎゅうぅっと締まり、何度も絶頂に達していた。
その口はだらしなく弛緩し、空気を求めてぱくぱくと開くだけになっている。
「お客様、気持ち良いですか?」
政宗は蕩けかけた思考の中で、首を振って否定しようとしたが……既に身体は快楽に流され、快楽に浸され、首を動かす事すらできなくなっていた。
「やめ、やめ……て……んんぅあっ! ああんんう!」
抵抗の代わりに、喘ぎ声が出た。
快楽に溺れています、お〇んぽに負けていますと宣言するかのような喘ぎ声だった。
身を焦がすような快楽に……いや違う、快楽に溺れて負ける自身の情けなさに涙すら出てきた。
「そろそろ……射精しますよ……」
……その瞬間、政宗の顔が一瞬だけ正気に戻り、恐怖に引きつる。
このままでは名も知らぬ男娼の児を孕んでしまうかもしれない、いやきっと孕んでしまうと恐怖した。
チハヤはやや特殊な生まれをしたせいか、女との間に子を成す事はできない。
だが目の前の男は普通の男だ、当たり前のように生殖能力を備えているに違いない。
そしてもし、自分が男娼の児を孕んでしまえば、それがチハヤに知られてしまえば……自分はもう二度とチハヤの妻を名乗れない。
「や、やめ……んんぅうっ!?」
ほんの僅かに残った理性、ほんの僅かに戻った正気を振り絞り、政宗は男娼を止めようとした。
だがしかし、また膣奥を一突きされてしまう。
膣奥を一突きされただけで、最後の理性と正気が瞬時に霧散して消えた。
「(ああ……駄目だというのに……こ、このままでは……うぅ……)」
政宗は再びメスの快楽に流される、流されてしまう。
ああ、自分はこうも弱かったのかと、ここまで意志が弱く、快楽に弱いのかと情けなくなる。
今すぐこの男を跳ねのけて逃げなければならないという思いと、もう少しだけ全てを忘れて気持ち良くなりたい、この快楽を貪りたいという思いが頭の中でせめぎ合う。
そして……
「(ああ、そうか……ここで孕んでしまえば、楽になれるのか……)」
何かが政宗の脳裏で囁いた。
「(ああ、そうだ……ここで孕んでしまえば、
もう二度と弟に愛されるために気を揉まなくて済むのか……)」
政宗の悪魔が二度脳裏で囁いた。
「(もうこれ以上、弟に愛されるために……何かを考える事も、何かをする事も……
愛を喪う事を怯える必要も……無くなるのか……)」
それはかつて政宗が父・輝宗を射殺した瞬間に囁いた。
それはかつて政宗が弟・小次郎を斬殺した瞬間にも囁いた。
そして今、弟にして夫であるチハヤを裏切ろうとしている政宗に囁いていた。
それは伊達政宗が胸中に巣食う『邪心』であった。
『愛されたい』と望みながら『愛を喪いたい』と望む破滅願望であった。
そして政宗は自らの破滅願望に身を任せ、父・輝宗を射殺した瞬間のように、弟・小次郎を斬殺した瞬間のように……名も知らぬ男娼に全てを委ねた。
「あ……」
男娼が全身をぶるんっ! と震わせる。
男根がびきんっ! と震える。
そして膣内でびゅるるっ! びゅるるるっ!! と膣内射精がされた。
政宗が自身の子宮が子種で満ちていくのが分かった。
それはつまり、政宗とチハヤの夫婦関係の破滅を意味した……
「(ああ、終わった……終わってしまった……終わってくれた……)」
政宗の瞳から涙がぽろりと落ちる。
死ぬほど恐れていたようで、死ぬほど恐れていたが故に望んでいたようで……複雑な心境であった。
いずれにせよ政宗は、心のどこかで清々した気持ちになっていた。
それが人倫にもとる心持であると気づいていながら、政宗は自身の心が幾許か軽くなったのを感じてしまった。
「……姉さん」
そして次の瞬間、政宗は背筋を凍らせた。
それはこの世で一番聞きたい声であって、同時にこの世で一番聞きたくない声であった。
「チハヤ……なのか……」
聞き間違える事は無かった。
他の誰の声、誰の言葉を聞き間違える事があったとしても、この声だけは、この言葉だけは聞き間違える事はあり得なかった。
その声はジパング王、政宗の弟にして最愛の夫であるチハヤの声に他ならない。
「ああ、俺だよ姉さん」
チハヤが笑いかける。
しかし、政宗は正直それどころではない。
チハヤには絶対に見られたくない自身の痴態を見られた驚きで心がこれ以上無く掻き乱されていた。
「ここで働いていた人に頼み込んで代わってもらったんだ。
ランスロットが急に現れて、姉さんがここで深酒をしてると聞いて……」
「待て、待ってくれ。 どうして弟が魔法の様に別人の姿に!?」
政宗は混乱しつつチハヤの言葉を遮った。
「ああ、ごめん、話が前後してしまったけれど、
俺が一時的に別人の様に見える魔法をかけたのもランスロットなんだ。
姉さんの居場所を教える代わりに、こうやって別人の姿で姉さんを抱いて……
もし本気で幻滅した時は姉さんと別れてくれと、ランスロットから頼まれたんだ」
「ほ、本気で幻滅を……だと……?」
その言葉を聞いた瞬間、政宗は血の気が引いた。
ついさっき自身の破滅願望に身を任せたばかりで、バレたら二度とチハヤの妻を名乗れなくなるような事をしたばかりだというのに、いざチハヤに自身の痴態を知られたと思った瞬間、何故か驚愕と混乱と絶望で政宗の心臓が跳ねまわる。
きっと……いや、間違いなくチハヤは本気で幻滅したに違いない。
政宗は混乱の渦中にありながらその一点だけは心の底から確信していた。
「愛している、姉さん」
……だがしかし、そんな政宗の絶望をチハヤは一瞬で覆した。
「なぁっ!?」
政宗は絶句する。
どん底から天井にとでも言うべきか、凄まじいまでの落差があった。
惚れた男に眼前で愛を囁かれた……ただそれだけ、たったそれだけで政宗は天にも登るような心地になれた。
自身にその資格は無いと確信しているにも関わらずだ。
「弟よ、無理をして言ってはおらぬか?
それがしは……それがしは、お主が思っているような女では……」
あまりにも自身に都合が良すぎる言葉を受けて、もしやこれは夢なのではと思い始めていた。
「……俺は姉さんにとって、死んでしまった弟の替わりなのかもしれない」
チハヤが自嗤気味に呟く。
「俺は姉さんにとって、家族ごっこのために拾った人形のような存在なのかもしれない」
チハヤが真剣な面持ちでそう呟く
辛そうな顔だ、苦しそうな顔だ。
そんな顔にさせたのは間違いなく伊達政宗が原因だ……そう思うと、政宗は死にたくなった。
「……だけど、それでも俺は伊達政宗という女性を愛しているんだ」
……だがしかし、チハヤはそう断言した。
「他の誰でも無い、俺自身の心が、貴女という人を愛していると叫んでいるんだ」
チハヤは力強くそう断言した。
同時に政宗のナカで、チハヤのお〇んぽが隆起する。
チハヤの政宗に対する愛の誓いが真実だと訴えるかのように、政宗を抱きたい、繋がりたい、孕ませたい訴えるように男根が硬く、熱く、太くなるのを感じた。
「もうやめろ! やめてくれ! それがしは……儂はもう駄目だ、駄目なのだ!
もうお前の顔を見たくない! お前の顔が見られない!
また……また何かの拍子でお前を殺してしまうかもしれない……
ある日お前の愛が無くなって、儂を殺そうとするかもしれない!
それが怖い、恐ろしいのだ!」
気が付けば何故か一人称が『それがし』から『儂』に変わっていた。
それはチハヤと出会う前に使っていた自分を呼ぶ時の言葉だ。
それは政宗の拒絶であった。
「俺は姉さんを残して死んだりしない」
チハヤは優しく笑みを浮かべながらそう囁く。
「姉さんを殺そうとする事も無い」
それは全くの無根拠の説得だ。
未来に事なんて誰にも分からないし、それを他人に納得させる事だって無理だ。
だけどチハヤは、それが当然の真実であるかのように断言する。
「俺は姉さんを……伊達政宗を世界で一番愛している」
……その言葉は、伊達政宗にとっては福音にも等しい宣言だ。
そして同時に、伊達政宗以外の全ての正妻に泥を投げつけたに等しい言葉だ。
チハヤは今、生まれて初めて自分の妻に序列をつけたのだ。
「そ、それがしは……それがしは……」
そしてその言葉の意味が分からない政宗では無かった。
言いたい事は次から次へと思い浮かんだ。
自分はチハヤに愛される資格が無いと叫びたい気分だった。
だがしかし、チハヤの言葉はそんな政宗の思惑を一瞬にして吹き飛ばしていた。
『自分はチハヤに愛されていた』ただそれだけが政宗の心の暗雲を見事なまでに吹き消していた。
……
…………
………………
「では、ブリタニアに詫びを入れに行ってくる」
……数日後、政宗は憑き物が落ちたかのような爽やかな笑みでチハヤに別れを告げた。
無論、それは永遠の別れではない。
ちょっとした用事を済ませたらすぐに再開できる、ほんの僅かな別れである。
国交断絶一歩手前になっているブリタニアに『ごめんなさい』と言いに行くのだ。
「姉さん、俺も一緒に行った方が良いんじゃないか?」
「何のそれがし。 これ以上弟の時間を奪っては他の嫁御に恨まれてしまうわ。
それがしはもう十分過ぎる程……
ああ、他の嫁に悪いと思う程、弟に愛されてしまっているからの」
政宗が苦笑する。
彼女の心の奥にあった後ろめたさは既に無い。
あれから数日間、目が覚めてから気絶するまで濃密に、激しくチハヤに抱かれて政宗はご満悦の表情だ。
「それにしても姉さん、謝りに行くのにその恰好は……ええと、どうなんだ?」
チハヤもまた苦笑する。
アーサーは基本おおらかだから、多少変な格好をしても問題無いと思っているのだが、世間一般の常識からすれば、謝罪の格好からはかけ離れているように見えた。
政宗は全身真っ白の死装束、頭には三角の頭巾をして、やたらと目立つ金メッキの十字架を担いでいた。
「ああ、これか?
大分昔、義経を奥州で匿って姉の頼朝に弁明しろと鎌倉に呼びつけられた時があっての。
その時に用意した装束よ」
「義経を匿った……だって?」
チハヤが首を傾げる。
そもそも、義経に姉がいる事も初耳だった。
「まあ昔は色々あったのだ。
その辺りは義経が自分で話す気になるまで信長や弁慶には聞かんでやってくれ。
さておき、この格好は一ヶ月遅れのハロウィン仮装とでも言ってやるさ」
そのまま火葬されても文句の言えない格好で、政宗がけらけらと笑う。
それは伊達政宗という名の少女が生来持つ明るさであった。
「……じゃあ、行ってらっしゃい。 気をつけて」
チハヤがそう言うと、そっと政宗に口づけをした。
「うむ、帰りを待っていてくれ。 我が愛しい夫よ」
政宗はそう囁くと、港に停泊する船に乗り込んでいった。
……
…………
………………
「(はい~、それじゃあリザルト見てみましょうか~)」
チハヤと政宗のイチャつきを隠れて眺めていたモードレッドの元に、ギリワンテレパシーが届いた。
声の主は絶賛行方不明中の円卓の騎士・ランスロットである。
「(今回の評価は~……どどん! Sランクです~!!
いや~前回は異世界の私が死ん……いなくなって派手に予定が狂っちゃいましたけど~、
意外とど~にかできるものでしたね~)」
気の抜けた間延び声でモードレッドを称えられる。
悪い気分ではないが、アーサーや政宗を騙して喜んでいるようで、少し気が引けるのもまた事実である。
「ランスロット、本当にこれで良かったの?
ジパング王と政宗を別れさせるのが目的だったのじゃあ……」
モードレッドがそう呟く。
まるで想像上の友達に話しかけているかのような光景だが、彼女は真面目だ。
「(え? ど~せ別れたりしませんよ、あのお2人は~。
ああいうのをジパングの諺で~『破れ鍋に綴じ蓋』って言うんですかね~)」
「要するにお似合いの2人って事?
呆れた、それなら最初からちょっかいかける必要無かったじゃないの」
「(そ~ですね~、人間関係を複雑骨折させる爆弾があって~、
1個や2個ならどうにでもなるんですけど~、10個も20個も同時に破裂したら~、
ちょ~っとトンデモない事になるって言えば良いですかね~)」
「……どういう事、今回と似たようなのがまだあるの?」
「(なので~、余裕がある内に起爆しました~)」
「でもやり口がちょっと悪趣味よ。 あんな他人のトラウマを抉るような方法……」
……そこでモードレッドは、この前はぐらかされた事をもう一度追及するべきだと思った。
円卓の騎士・ランスロットはイザとなったらダーティ・ファイトを躊躇わない性格だ。
追いつめられ、他に手段が無いと分かれば、汚い手段を使ってでも勝利をもぎ取るのがランスロットだ。
そう、ランスロットは『追いつめられて』『他に手段が無ければ』汚い手段、他人を傷つけるような方法を辞さない人物だ。
それならば、ああも冷酷に、ああも残虐非道に伊達政宗のトラウマを抉った今のランスロットがどれだけ追いつめられているのだろうか。
「ランスロット、貴女今どこで何をしているの?
目的が達成したのでしょう、いい加減にブリタニアに戻って来なさい。
無断欠勤を咎められるのが嫌なら、私も一緒に謝ってあげるから」
「(ああ、すみません~。
対処しなきゃいけないのは~、政宗さんだけじゃないんですよ~)」
ランスロットが申し訳なさそうな声を送ってくる。
「それなら、もっと私達に少し頼りなさい。
貴女1人で何でもかんでもやろうとするものじゃないわよ」
「(すみません~、それも駄目なんですよ~)」
再び、ランスロットが申し訳なさそうな声を送ってくる。
「(ど~しても私1人でどうにかしなきゃいけない爆弾がありまして~。
一歩間違えればブリタニアが吹き飛んで~、
二歩間違えれば世界そのものの理が大きく歪んでしまいまして~。
放置はできないんですけど~、ど~にも決心がつかず~)」
「何、どういう事? 貴女本当に何をやってるのよ?
いやそれより、そんな事どこでどうやって知ったのよ?」
「オーディンの迷宮を探索中に~、他の世界の私……
正確には私だったモノの成れの果てを拾いまして~。
ソレ事態は呂布さんに壊されて今はもう無いのですけど~、
そのせいでちょ~っと聞き捨てならない事をダース単位で知ってしまいまして~」
「ダース単位って……だったら猶更他の人を頼りなさいよ!
なんで貴女だけでどうにかしようとするのよ!?」
ランスロットはしばし無言になる。
モードレッドとの会話は全てギリワンテレパシーを介したもので、実際には2人はかなりの距離を隔てている。
しかしモードレッドにはどういう事か、ランスロットが苦悩に苦悩を重ねているように思えてならなかった。
「(聖杯を……聖杯をどうにかしないといけない)」
……いつの間にかランスロットは、普段の妙に間延びした喋り方を止めていた。
「聖杯……?」
モードレッドにとって、それは聞いた事のない単語である。
聞いた事の無い単語であったが、何故か全身が総毛立つかのような寒気がした。
「(だけどそれは、そのためには、私があの人以外の男に抱かれて、他の男の子を孕んで、
他の男の産まなければならない……だから……だけど……
だけどその決心がどうしてもつかなくて、それで……)」
ランスロットの声が震えていた。
ギリワンテレパシー越しの会話であったが、モードレッドにはランスロットの苦悩が、ランスロットの恐怖が、ランスロットの怯えが確かに感じ取れた。
「ランスロット、どういう事か知らないし分からないけど、早まった事はしちゃ駄目よ。
一旦ブリタニアに戻って知ってる事を全部話しなさい。
皆で知恵を絞ればどうにかなる、どうにかするから」
モードレッドがそう呼びかける。
ランスロットは『追いつめられて』『他に手段が無ければ』人倫に反した行動も辞さない性格だ。
例えそれによって傷つくのがランスロット自身だとしても……だ。
「(だけど……幸せそうに笑うししょーを見て、
なんだかんだで納まるべき所に収まったししょーと政宗さんを見て……
ええ、やっと決心がつきました)」
……しかし、モードレッドに返ってきた言葉は、彼女の求めとは相反するものであった。
「や、やめなさいランスロット! もっと冷静に……もっと自分を大切にしなさいっ!!
世界の危機だか何だか知らない! 分からない! 分かりたくもないわっ!!
どうしてそんなちっぽけなものの為に貴女が苦しんで、傷つかなきゃいけないのよ!!」
モードレッドが叫ぶ。
怒鳴り散らすかのように叫ぶ。
傍から見れば物凄い声で独り言を叫ぶ変な人だが、今のモードレッドには自身の姿を顧みる余裕は無い。
そんなモードレッドの叫びに対する返事は……何も無い。
ランスロットは一方的にギリワンテレパシーを打ち切ったのだ。
……静寂が辺りを包む。
「私が……私が何とかしないと……」
モードレッドの孤独な戦いが始まろうとしていた。
後の人々が『モードレッドの乱』と呼ぶ戦いが始まろうとしていた。