「んっ……ふ、ぅ……」
深夜。
食事処兼酒場でもある『豊穣の女主人』に併設された従業員用の宿舎。そこの一室から、熱っぽい声が漏れていた。
「はぁ……んっ、ベル……」
声の主は
白磁のようにきめ細やかな肌はうっすらと上気している。その右手を自らの寝間着の隙間に滑り込ませ、程よく実った二房の果実の片割れを揉みしだく。
「……ぁ、はっ……!」
ピクンッ、と身体に走る小さな電流。
その感覚はじんわりと全身に広がってゆき、同時にこれではまだ足りないと、シーツを握り締めていた左手を下半身―――より正確には、下着によって隠された秘部へと導いてゆく。
「はぁ、はぁ……はぁ、ぁ」
布越しでも分かるくらいにそこは濡れていた。まだ触れてすらいないと言うのにこれなのだ、直接触れてしまったらどうなるか。
待ち受けているであろう甘露に彼女は喉を鳴らし、意を決して―――それこそ、初めてモンスターを相手取った時のような気持ちで―――肌と下着の隙間へと左手を潜り込ませた。
「んぁっ!?」
途端に、抑えていた声が出てしまう。
すぐ隣の部屋で寝ている薄鈍色の髪をした少女に聞かれたのではないかと思うと気が気ではないが、しかしそれすらも今の彼女にとっては気分を燃え上がらせる為のスパイスに過ぎない。
「あっ、ぁ……はぁ、ベル……!」
再び想い人の名を呼ぶ。
その者の顔を思い浮かべつつも、彼女の両手は止まらない。
むにむにと形を変える乳房。その先端にある小さな桃色は固くなってゆき、僅かな刺激にも敏感に反応してしまう。秘部など更に敏感で、表面を指でなぞっているだけなのに溢れる蜜が止まらない。
「ベル……ベル……ベル……っ!」
はだける寝間着。
反る背筋。
熱い吐息を漏らし、全身に玉のような汗を浮かべ、その顔は
「………あっ」
そして、ついにその時が来る。
もぞもぞと動かしていた指が
「ふっ……~~~~~っっ!!」
ぎゅう、と太ももに力を入れて彼女は絶頂を迎えた。
右手は無意識の内に先端の桃色をつねり上げており、それが更なる快感を与えている事に、自身は気付いていない。
湖面に生まれた波紋が静まってゆくように快楽の波は引いてゆき、甘い余韻を味わいながら彼女は呼吸を整える。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
どこか呆けた顔でしばし天井を見上げていたが、ようやく思考から熱が引き始めたのか、下着の下に潜り込ませたままの左手を、そっと引き上げる。
「……っ」
指先に引っかかった銀の糸はすぐに切れた。
自らの蜜で濡れた左手をぼうっ、とした表情で眺めていた彼女は、未だ緩慢な思考の中で言葉を絞り出す。
「……下着を、変えなければ……」
リュー・リオン。
かつて正義を司る女神が率いる派閥【アストレア・ファミリア】に所属していたエルフの女性は、なんだかんだで今は『豊穣の女主人』という店で従業員をしている。
そんな彼女だが、実は数週間前にダンジョンで死にかけるほどの目に遭っていた。
詳しい説明は省いてしまうが、それは彼女の過去に関わる非常に大きな出来事であり、そんな場所から帰還した彼女は、真の意味での自由を手に入れる事が出来たのだ。
さて。そんなリューであるが、どうもダンジョンから帰ってきてからというもの、様子がおかしい。
具体的にはここ数日……共にダンジョンで死地をくぐり抜けた白髪のヒューマンの少年と一緒に外出した翌日から、彼女の様子がこれまでと変わってしまったのだ。
「サンドイッチ二つ、あとコーヒーも」
「………」
「……あの、すいません。注文良いですか?」
「………はっ!?」
常に気を張っていたかのような空気は弛緩し、客が目の前で注文を言っても聞き取る事すら出来ず。
「リュー!この料理は5番さんで良いニャ?」
「はい……」
「コラァッ、馬鹿娘!それは8番テーブルの客のだよ!」
「ウニャッ!?だ、だって母ちゃん!リューは5番って……」
「口答えするんじゃないよッ!!」
「ニ゛ャアッ!?リ、リュー!?」
「………」
自分で用意した料理を運ぶ席すら間違え―――しかもその被害を受けたのは、哀れな猫娘という―――。
そして極めつけは―――。
「………っ、すみません。少し、抜けます……」
そう言って厨房から出てゆくリュー。そそくさとした様子の彼女を、他の従業員の少女たちは心配そうな顔で見送ってゆく。
「リュー、またかニャ?」
「今日だけで3回目ニャ。今までこんな事なかったのにニャー」
「やっぱりまだ完治してないんじゃないの?」
そう口々に言うのは
彼女たちは数週間前の救出劇について思い出す。
『深層』で発見した時はどうなる事かと思ったが、今では笑い話に出来るほどリューの怪我も治った。だというのに、どこか以前までの彼女とは違うような気がしてならないのだ。
「……もう一回【ディアンケヒト・ファミリア】んトコに連れてった方が良いんじゃない?」
「いやー、あそこは主神様がお金にがめついニャ。きっともっとふんだくられるニャ」
「そもそも怪我はもう治ってるニャ。相談するならまずアミッドに……」
と。
なんだかんだ言っている内に、店主ミア・グランドの雷が落ちる。
「こンの馬鹿娘どもッ!!いつまでぺちゃくちゃ喋ってんだい!?さっさと仕事しなァッ!!」
「「「 ヒッッ!!? 」」」
その怒声は店中に響き渡り、従業員どころか客まで震え上がらせる始末。
直後、従業員も客も店主の怒りを買わないよう、各々の作業に没頭し、店内は静寂と化したのであった―――具体的には、従業員は無言で料理を運び、客は客で物音一つ立てずに食事を済ませていった―――。
そんな奇妙な空気が漂う店内。
薄鈍色の髪をしたヒューマンの少女……シル・フローヴァは、リューが消えていった出口を心配そうに見つめるのであった。
「……リュー」
「はぁ、はぁ……っん」
店内がそんな事になっているとは知らず、リューはと言うと、従業員用のトイレの中にいた。
『豊穣の女主人』は店主、従業員を含めて女性しかいない。故にトイレも女性用しかなく、それぞれが木の板で仕切られた個室の作りとなっている。
その内の一つに鍵をかけて入ったリューは立ったまま仕事着のスカートをたくし上げ、その端を口に咥える。
「……ふぅ……」
そうやって見下ろすのは、くっきりと染みが浮き上がった自身の下着である。今日だけで2回もこうしてトイレに駆け込んだのだから、当然と言えば当然なのだが。
「……っ」
簡素な三角形の布をするりと下ろせば、つうっ、と一筋の銀の糸が引くのが見える。
その光景にかあっ、と顔が赤くなるも、下腹部に生じた熱をどうにかしなくては仕事に戻る事も出来ない。早く済ませてしまおうと、リューは露わとなった秘部へと右手を触れさせた。
「ん……!」
指先に伝わるぬるりとした感触。
薄い茂みもしとどに濡れ、どこまでもみだらで正直な自身の欲望に嫌気が差しながらも、それを押し留める事すら出来ない。清廉なエルフの姿はどこへやら、そこには一心不乱に自慰にふける女の姿しかなかった。
「ふっ、ふぅ……んぅぅ」
くちゅくちゅ、といやらしい水音が響く。
溢れる蜜は両の太ももを伝い、膝裏まで垂れてきた。そればかりか指に絡みついたそれは、ぷらぷらと宙に揺れている。
秘部の割れ目をなぞる中指はもどかしく、奥深くへと突き入れたい衝動があるのにあと一歩の所で圧し留まっている。それはエルフという種族の誇りにかけて、自慰での処女消失だけは避けたいという意志の表れか。
しかし、そんな弱い刺激だけですぐに果てる事など出来るはずもなく。
結果として、リューは焦らされている感覚ばかりを募らせてゆく。
(ベル……ベル……ベル……!)
心の中で呼びかけるのは、あの想い人の名前。
頭の中に浮かび上がるのは、あの少年の顔。
共に死地を乗り越え、生まれたままに近い姿で抱き合い、自身の罪の証でもあった悪夢を共に打ち破ってくれた、あの白髪のヒューマンの少年―――ベル・クラネル。
抱き合ったその肌の温もり、意外なほどに大きく感じたその身体の感触を思い出し―――リューの下腹部が快感に震えた。
(あっ、はぁっ。も、もう―――!)
直感で分かる。これは絶頂を迎えるのだろうと。
割れ目をなぞる指の動きは激しさを増し、床にぽたぽたと蜜が垂れる。
熱にうなされた瞳で天井を見上げ、ついに彼女は絶頂を迎える―――。
―――その直前で。
「リュー?大丈夫?」
「っっっ!!?」
ビックゥッ!!と、リューの肩は大きく跳ねた。
薄い木の扉を隔てた先から聞こえて来たのは、大切な友人シルの声。復讐に疲れ、路地裏で朽ちかけていた自分を拾ってくれた恩人でもある少女の声に、リューは過去最大の窮地に見舞われる。
「っ、ッ!?……~~~~~~~~~~ッッ!!?」
スカートの端を噛んだまま歯を食い縛り、空いていた左手で口元を覆う。
一呼吸すらも漏らすまいと力を込めるも、呆気なく絶頂を迎えてしまった両脚はがくがくと小鹿のように震えてしまう。
が、そこはLv.4の冒険者の意地の見せ所。
未だ快楽の波が押し寄せる中、必死の思いで呼吸を整え直したリューは、扉越しにシルへと返事をする。
「な……何ですか、シル」
「リュー……はぁ、良かった。大丈夫そうだね」
何気ない風を装っているが、実際は大丈夫ではなかった。
トイレの縁に手を付き、両脚どころか腰まで震えているリュー。扉さえなければ突き出した尻と濡れそぼった秘部が丸見えになっており、ここが今は無き歓楽街の路地裏であれば、節操のない娼婦と言われても仕方がない有様である。
そんな醜態など毛ほども感じさせてはならないと、リューは話題を逸らす。
「私は平気です。少し朝に食べ過ぎただけなので、その、もう少し……」
「え?でもリュー、朝はパンとサラダしか食べてなかったような……?」
「うっ!?」
「えっ!?り、リュー、大丈夫!?」
「あ、だ、大丈夫です!大丈夫ですから、もう少し一人にさせて下さい……!」
少々強引だったが、こうして何とかシルを追い返す事に成功した。
「じゃあ、私行くね」と心配そうな声で去ってゆく友人に心の底から申し訳なく感じたのだが、その反面で、今しがたの絶頂の余韻を感じるかのように、トイレへと腰を下ろす。
「……ふ、ぅ……」
だらしなく開かれた両脚。その付け根にある秘部はひくひくと動き、涎のように蜜を垂らしている。
リューはその一筋の糸を指で絡め取り、顔の前まで近づけてゆく。
「……ベル……」
そして、自身の蜜で濡れた指を咥えた……想い人の形を想像して。
「………リュー」
トイレの出入り口。
そこに、シルが立っているとも知らずに。
その日の夜。
何とか仕事を終えたリューは夕食を終えてからシャワーを浴び、一日を終える場所でもある
「はぁ……」
しかし、早々に顔を覆ってしまう。理由はもちろん、仕事中の醜態についてだ。
(何をやっているのか、私は)
注文は聞こえない、料理を出す先は間違える。おまけに仕事を抜け出してトイレで自慰にふけるなど、まるで盛りのついた獣ではないかと、誇り高いエルフの血が彼女を責め立てる。
しかし、どうにもならないのだ。ダンジョンから帰還し、退院後初めてベルと一緒に街を歩いたあの日から、目を閉じればいつもあの顔が浮かんでしまうのだ。
そして、気が付けば自慰に及んでしまっている。
(昨日の夜だって2回もしたというのに、今日は昼間に、さ、3回!?このままでは私の理性と下着がもたない……!)
そうである。昨日の夜にもリューは2回もシているのである。おかげで洗濯を終えた下着を同じだけ交換するはめになった。
昼間の3回に至っては履き替える時間もなく、シャワーを浴びるまでは半分濡れたままでいたのだ―――アーニャが「なんか潮の匂いがするニャ」と呟いた時は心臓が口から飛び出るかと思った―――。
(何とか……何とかしなくては……)
ずーん、と暗雲が周囲に形成されるほど落ち込むエルフ、リュー・リオン。
これまでの人生の中でここまで猛烈に誰かを意識し、その想いが強すぎるが故の失態と醜態を重ねた事などない彼女にとって、これは正しく
と、そんな時。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「リュー?私だけど、入っていいかな?」
「シル?」
ノックの主はシルであった。
こんな時間にどうしたのか、と不思議に思ったリューだが、そんな考えは次に彼女が放った一言で凍り付く。
「単刀直入に言うけど……私、聞いちゃったの。リューがトイレで、ベルさんの名前を呼んでいるのを……」
「なっ……!?」
瞬間、ぼっ!!と赤くなるリューの顔。それはもう、茹で蛸の如く。
一体いつから……いいや、どの辺りから!?と、思考はパニック寸前だ。それもそうだろう、自分の指を
(べっ、弁明を……いや、事実なのだからそれはいけない!ならどうすれば!?手刀で気絶させて記憶を……あぁもっと駄目だ!私はいつもやり過ぎてしまうっ!!)
と、彼女の脳内を
しかし、そんなパニックはシルの言葉で突如鎮圧する事となった。
「……もうっ、それならそうと言ってくれればよかったのに!」
「へっ?」
「リュー、ちゃんとベルさんにお礼を言えてなかったんでしょ。だからトイレに籠ってまでベルさんに申し訳なさそうにして……」
……どうやらこの少女は、奇跡的な勘違いをしていたらしい。
リューが自慰をしながらベルの名を呼んでいるのを、まだちゃんと礼を言えていないからだと思い込んでいるシル。思いがけない渡りに船を逃すはずもなく、リューはしっかりとこの言葉に乗っかる。
「そ、その通りです、シル。本当に貴女はよ、よく見ていますね……」
「でしょ?リューの考えてる事なんて、お見通しなんだから!」
(すみません、全く見当外れです……)
などと言えるはずもなく、鼻を高くするシルに、リューはただ同意するしかなかった。
そして、次いでシルの放った一言に、リューは新たな悩みを抱えてしまうのであった。
「それじゃあ、私に任せて!リューがちゃんとベルさんにお礼を言えるように、時間を作ってあげる!」
辛い過去から解き放たれると同時に意識しちゃったら、そりゃあ抑えも効かなくなりますよね。