立花響を捕獲したので虐待してみた。 作:テスタメント
「おぼっ……うぇ…」
立花響はかれこれ三週間を、この仄暗い密室の中で過ごしていた。一日に配られる二回の食事はお粗末なもので、ここ三日間はそれに手をつけていない。
何処からか湧いたハエがその異臭を放つ食事の周辺を飛び回っている。
立花響、かつては世界を救った英雄。
立花響、やがては敵国に拐われる少女。
「許……じて」
その日、立花響を含む一行はいつものように出現した敵、ノイズを倒すためはるか遠い異国までやってきた。
それが間違いだった。そもそも、ノイズが自然発生する原因のバビロニアの宝物庫は閉じたはずだ。明らかに作為的、人為的な要因がなければ発生することはないのだ。
明らかに罠だと知っておきながら、敵の術中にはまってしまう様は相手からすれば滑稽だったろう。
初めはクリスだった。ギアを解除した途端、その額が突然撃ち抜かれ、その体が鮮血で満たされた。
次はマリアだった。ギアを二番目に解除した彼女が狙われるのは当然とも言える。現実を理解できず、狼狽した瞬間を再び狙われた。
あとは見るも無残だった。誰かの発した阿鼻叫喚の叫び声で辺りは満たされる、人が死んだという事実を受け止めきれぬ者がいれば、事態を冷酷に受け止め再びギアを纏おうとするものもいた。全員が殺された。ギアを纏おうとしたものは声帯を、叫んだものは心臓を。
生き残ったのは、響一人のみだ。
「どうしで……こんな……」
目の前で、翼さんが死んだ。
目の前で、クリスちゃんが殺された。
目の前で、調ちゃんが鮮血と共に倒れた。
目の前で、切歌ちゃんの額に穴が空いた。
目の前で、マリアさんが動かなくなった。
目の前で、未来が、未来が、私を庇って。
「うああああぁぁぁぁ………!!」
あの真っ赤に飛び散る赤をを思いだし、響はその場で吐いてしまった。鎖で壁に張り付けにされ身動きができず、少しばかりがその着ている制服に飛び散ってしまう。
地面にボタボタと、何色と形容すればいいのかわからない液体が垂れていく。その異臭で、響は嘔吐を幾度もなく繰り返す。
もはや何も残っていないはずの胃は逆流を続け、異臭を放つソレを口から流し続ける。
残飯に群がっていたはずのハエが響の周りを飛びまわり、様子をうかがっているようにも見えたが、響は既にそんなことを考える余裕もなかった。
理由は、朝が来たからだ。
こうして、響の朝は始まる。
A.M.9:00、朝と呼ぶにはいささか誤解が生じる時間帯、響のいる独房に、二名の屈強な男が現れた。
かと思えば、いきなり響の腹部を渾身の力で殴りつけた。
「――カッッ!? ゴエッ」
先ほど吐いたことによる痛みが残る腹部に突然加えられた鈍痛。間違いなく響が耐えられるはずもなかった。
再び、響は嘔吐を繰り返す。
「オエエェェェッッ!! ガハッ……ア…ア……!!」
ビチャビチャと滴り落ちた液体を不満げに目の前の男は一瞥したが、やがてその嘔吐も止まると、今度は響の髪をガシリと掴み、上に持ち上げられた。
いとも容易く上がる華奢な少女の顔面を襲ったのはやはり、拳だった。頬がはれ、人間の弱点である鼻が何度も殴られていく。
「イ゛ッダイ!! やめて! お願いします!! 許して!!」
気づけば響は泣いていた。響はどうしても理解しかねるのだ。
そこらをひらひらと舞う蝶でさえもが竜巻を起こしうる可能性を秘めているならば、人が団結すればやがては宇宙の果てすらもやすやすと理解できるはずなのだ。
なのになぜこの人たちは復讐にその身を費やすのだろうか、なのになぜこの人は憤激に魂を燃やすのだろうか。それがどうも、響には理解できないのだ。
ぼんやりと頭の隅で考えるその思考さえも、腹部に再び響く痛みに掻き消されてしまう。
命乞いの言葉は相手に響くことはない。当然だ、目の前に佇む両者は言葉も、国境も、秘める想いも、何もかもが違えるのだから。
腹を殴る男は響の泣き叫ぶ声を聞くのが楽しかった。男はかつてノイズに巻き込まれ、唯一の娘と妻を失った。件のS.O.N.G.とくればのうのうと、その間別の国の手助けに行っていたらしい。
ふざけるな、なにがS.O.N.G.だ。男は目の前の必死に生にしがみつく少女を殴打する時、クリーム色の髪を掴む時、罪悪感で押し潰されそうになる。
だからこそ、男は死ぬ間際の娘の姿を、ノイズに襲われる前に妻を思い浮かべるのだ。
故に、男は募る罪悪感を復讐で塗りつぶし、今日も酷薄に目の前の少女に涙を流させ、懺悔させる。
「『死ね』!!」
「アッ……!! ァァァ……!! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
少女はあまりにもの恐怖で我を忘れた。ひたすら謝った。謝罪は受け入れられない。男の拳が迫る。見事なアッパーカットだった。脳が揺さぶられ、思考が曖昧になる。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
いつまにか男が持ってた金属製のバットが振りかざされ、響の右腕を強打する。
メキリ、それだけが響の腕から鳴り、それ以降、響は右腕の感覚が消えたことを理解した。
同時に、吐瀉物の臭い臭いが吐き気を誘い、もう何度も吐く。少しばかり赤いのは、血が混じっていたからだろうか、止めどなく涙が流れてくるが、助けはこない。
「許してください……許して…お願いします」
懇願する声は届かない。今度は左足だ。大きくバットが振り上げられ――
「『おっと、力の加減をミスっちまった』」
「『はは、でも見ろよあの顔、ざまあみろだぜまったく』」
「イギっ……あし、あしがっ、いだい、痛いよぉ……!」
間違いなく、今の一撃で足が使い物にならなくなった。強打された部分を見れば、浅黒い痣ができている。中の骨が間違いなく折れる明確な感覚があった。
「『おい、あれの用意だ』」
「『あれ?』」
「『電鋸だよ、電動ノコギリ。こいつの脚を
「『いいですね、今日はオレにやらせてくださいよ』」
「ふぇ……?」
突然収まった拷問を、響は訝しげに感じた。何かがいけないと響の脳内が告げている。動物の持ち合わす本能が危険と伝えているのだ。
「『おいクソ野郎、こっちに来い』」
「……出ろってことですか?」
しかし、動物にそれを具体的に想像させる能力はなかった。勘違いのまま。拘束から開放された響は、男の後へとついていく。
「やだっ!! やめっ、やめて!! 痛い!!」
「『おい、ちゃんと固定したんだろうな?』」
「『ああ、ちゃんと釘で固定した。叫ぶことしかできねぇさ』」
あれから約10分、響は拘束台にくくりつけられていた。縄に縛られてはいない、御大層な拘束具もなにもなかった。
ただ、響の四肢に一本ずつ、計四本の釘が刺さっている。深々と刺さるそれは響の肉を貫通し、その後ろの木にまで到達していた。
血がドクドクと流れるが、響はそれよりも恐怖に思っている。
今、自分の足に向けてセッティングされているその電動ノコギリは一体何なのか。本当は理解しているが、信じたくなかった。
「なんでっ、その機械はどうするつもりですッ!? やだぁっ! お願いしますっ許して」
「『セッティングしました』」
「『とっとと起動しろ』」
「『りょーかい』」
カチッ、と軽快なリズムでそのノコギリは起動する。回転を繰り返すそれは響の左足に向けて動き―――。
「きゃああっ! それッ! こっちっ、こっち向けるのやめて!!」
「『地獄でやってろ』」
電ノコの刃は響の左太ももに当たり、その部位を軽々しく切断した。
「ぎゃおおおああ!!」
ピシャッと前掛けに血が飛び、少しガリッと音がして簡単に脚は切れてしまう。響の口から泡が出る。その目から涙が流れる。
「あへ…あへぇ……」
そして男が右足も切ろうとした時、側にいた男性が不意に口を開き
「立花響、お前のその傷、見てみろよ」
「どう…して……私は……ただ…」
発した言語は間違いなく日本語だった。彼は元々日本語のガイドをやっていた。この男もやはり、家族を失っていた。彼が失ったのは敬愛すべき祖父だった。彼もまた、シンフォギア装者を許せないのだ。
「おい……おいッ!! 聞いてんのかッッ!! この人殺しが!!」
「ひぃっ!! ごめんなさい……ごめんなさい……許してください……聞こえてます…」
「だったら足元見てみろよ、面白いモン見れるぞ」
声をかけられた響は自身の切断された脚を今一度確認した。
やはり、抉られている。
その事実を認識したと同時に、響の身体に激痛が駆け巡った。痛みに再び吐きそうになるが、それを中断した。
理由は、あり得ないことだ起きたからだ。
「えっ、あっ、わたし、脚切られたハズじゃっ」
「わからねぇか? お前はもう人じゃねぇんだよ、
「わたしが……化け……もの」
切られた脚の欠損部位、そこから肉片が突然膨張しかと思えば、それは足の形を作っていき、みるみると元通りになっていく。これと前に似たような症状があったのを響は思い出す。
かつて、ネフィリムと呼ばれる聖遺物が響の右腕を喰らった時の有り様を。
「わたし、がっ、ばけ、化け物…?」
「そういうこった、まったく、こんな奴に今まで人類は守られていたのかよ。気色わりぃ」
「違うっ! わたしは!」
「じゃあその脚はなんだ? もう一度確認しやがれッ!」
「ギャヒィイイィィッッッ!!?」
再び、ノコギリが響に襲いかかる。今度は右足だ。苦痛の叫びを響は叫ぶ。
だがボトリと落ちた足とは別に、もうひとつの足が響の右足にくっついてるのを、響は再確認した。間違いなく、これは響の足が再生した証拠だった。
足が再生する彼女はもはや、人間ではなかった。
全ての響の認識が、覆されていく。
ワタシは――ヒトではない
「『キモッ、こいつ殺そうぜ』」
「『それだけはダメだ。こいつにはもっと苦しんでもらわねぇと、今日はもういい。元のところに戻せ』」
「わたし、が、わたしが化け物?? 違う……、違う、ハハハ、アッハハハハハハハハハッッ!!!!!」
「『こいつ壊れましたよ』」
「『前回もそうだったろ、気にすんな、明日には記憶全部トんで覚えてねえよ』」
「ヒャーハハハハハッッ!! ハハハッ!! ハハっ、は」
拘束台で狂い笑う響の釘をズブッと抜き、男は響を運んで戻っていく。道中、何度か殴ったかのような音が聞こえたが、それを気にするものは誰もいなかった。
「おぼっ……うぇ…」
立花響はかれこれ三週間を、この中で過ごしていた。食事はお粗末なもので、最近は手をつけていない。
立花響、かつては世界を救った英雄。
立花響、やがては敵国に拐われる少女。
「許……じて」
目の前で、翼さんが死んだ。
目の前で、クリスちゃんが殺された。
目の前で、調ちゃんが鮮血と共に倒れた。
目の前で、切歌ちゃんの額に穴が空いた。
目の前で、マリアさんが動かなくなった。
目の前で、未来が、未来が、私を庇って。
「うああああぁぁぁぁ………!!」
響はその場で吐いてしまった。
地面にボタボタと、何色と形容すればいいのかわからない液体が垂れていく。その異臭で、響は嘔吐を幾度もなく繰り返す。
もはや何も残っていないはずの胃は逆流を続け、異臭を放つソレを口から流し続ける。
残飯に群がっていたハエが響の周りを飛びまわっていたような気もするが、響は既にそんなことを考える余裕もなかった。
理由は、朝が来たからだ。
こうして、響の朝は始まる。
Q&A
・どうしてシンフォギア纏わないの?
胸の歌がなくなったから。
・OTONAはどうして動かないの?
立花響は人質にされている。OTONAが動けば立花響は殺される。