「ん……んん……?ここ、は?」
目が覚めると、そこは自分の部屋であった。ベッドに寝かされており、隣にはリューマから貰った秋水が立て掛けてあった。
身体の方も傷は手当てされており、多少気だるいだけであるが、それでも身体は動かせた。
ベッドの足元に重みを感じ、ゆっくりと視線を向けるとそこには母クラウディアが静かに寝息を発てて眠っていた。
「母様……?俺、どうしてここにいるんだ?」
「おぉ。気が付いたか。大丈夫か、タイガ。」
「父様?」
扉が開きに父クラウスが入ってきた。手には果物が入った籠があった。
俺はベッドから身体を起こして、父の方を見る。
「父様。いったいどうし痛っ!」
「無理に起きなくて良い、寝ていなさい。しかし驚いたぞ。アリシア姫から聞いたが異国の剣士相手に引き分けたそうじゃないか。どのような者だった?」
父がリューマの事を聞いてきたので、俺は隠さずに答えることにした。
「……リューマ、あいつは異国……東方の侍で、かなりの強者でした。正直引き分けたのが、奇跡でした。そこの刀はそのリューマから貰った物です。」
「そうか……とにかく、お前が無事で良かったよ。クラウディアはお前が負傷したと聞いて慌てて駆け付けたんだが、お前の傷を見て卒倒したんだ。」
「そうでしたか……すみません。」
「まぁいい、お前は少し休みなさい。戦の方はしばらく様子見になる。」
父のその言葉に、俺は首を傾げて質問をした。
何でも俺が気絶した後、オーガなどの魔物が攻めてきたが、それはアリシア、マイア姉の両軍で討ち果たし、黒の城に撤退したらしい。
その後、黒犬は黒の城に籠りセレスティン様も、奴らの陣地に攻め込む事も考えているとの事だ。
「そうでしたか……動けずに申し訳ありません。」
「タイガ、お前は気にしなくて良いんだ。1日でも早く傷を治しなさい。」
「父様、ありがとうございます。」
「わたしはそろそろ戻るが、クラウディアが目を覚ましたら謝るんだぞ?お前を寝ずに看病していたのだから。」
「はい。」
そう言うと父は部屋を出ていき、残された俺は父が剥いて切ってくれた林檎を取って齧りながら、窓から外を見る。
そんな中、足下で眠っていた母様がゆっくりと目を覚ました。
「タイガ……?」
「母様。あの「タイガ!!」あぶっ!!」
母は勢いよく抱き付いてきた事で、その大きな胸に思い切り顔を埋める事になったが、母はお構いなしに頭をぐいぐいとまるで確かめるように押し付けてくる。
その顔を見ると、その顔は涙でグシャグシャだった。
「良かった……本当に良かった!!あんな大怪我して、目を覚まさなくて、本当にもう心配じたんでずから~~~!!」
すごい大泣きして鼻水まで出している。どうやら、相当心配させてしまったようだ。
「タイガ……こんな無茶は二度としないで。もしあなたに何かあったら、私……私……っ。」
「……母様、申し訳ありません。でも、俺は大丈夫です。こうして生きていますから。」
「そう、ね。でも、もう無理はしないで。約束してね。」
母はそう言うと、優しく頭を撫でてくれた……。
~~~
一方、タイガとリューマの戦いを間近で見ていたアリシアは、1人庭にて素振りをしていた。
「はっ!はぁ!は……ッ!?」
手のひらに痛みを感じ、剣を落としたアリシア。彼女が自分の手のひらを見てみると、皮が擦り切れ血が滲んでいた。
アリシアはそれを見て、自身の手に布を巻き剣を鞘に納め、その場に座り込み、空を見上げる。彼女は初めて見た同い年の少年、タイガに対して何かを感じていた。
それは彼女が感じたことのないモノであったが、それが何かは分かっていなかった。
「(タイガ……大丈夫だろうか?)」
アリシアはそんな事を考えながら、青空を見上げていた。
「近々見舞いに行ってみるか。礼も言えてないし、そうしてみるか。」
アリシアはそう言うと、剣を鞘に納めて城の中へと戻っていった……。
~~~。
3の砦となっている寺院の奥にある座敷に座っている東方の代表である巫女の長をしている少女カグヤ、彼女は自身の部下である巫女の少女が彼に報告をしていた。
「タイガさんがケガを?」
「はい、カグヤ様。さらにそのタイガという者が倒したリューマという男の持っていた刀"秋水"は現在彼の者の手にあります。」
「そうですか……タイガさんが無事なら良かったですが、まさかその様な刀があるとは……。」
カグヤは目を伏せるも、すぐに部下に視線を戻す。
「みなさんに命じます。タイガさんと件の刀を、私とカミの前に。」
「「「はっ!カグヤ様!」」」
部下達はそう言うと、即座にその場から姿を消し、残されたカグヤは目を閉じて瞑想を始める。
「(タイガさん……。)」
彼女とタイガ、2人が出会ったのはタイガが東方に訪れたのだが、その時のカグヤは先代巫女長である母の下で、巫女長となるべく修行していた。
しかし、 そんなある日の事。
カグヤは修行を抜け出したが、その時にタイガと出会った。
東方の民以外では初めて見る異国の男、そんな彼女が初めて見た同い年くらいの少年に、彼女は何か惹かれるモノがあった。
彼女は人に追われてると、タイガに行って町の中を見て回りながら一緒に遊んだが、そんな中で巫女長である母の部下に見つかり、連れて帰られそうになった。
その時、東方の国を襲った魔物"鬼"の亜種である"黒鬼"に襲われ、カグヤも喰われそうになったが、それを助けたのがタイガだった。
タイガは黒鬼と相対しても、恐れずにその首を切り裂き、絶命させた。彼からすれば使徒で見慣れている為か、黒鬼程度では恐れなど起きなかった。
そんなタイガに、町の者達は恐れたがカグヤはタイガを庇い、その後に友人となり一緒に遊ぶ中で彼女の中に、胸が熱くなる思いが芽生えたのだ。
「(タイガさん……どうか無事で居てください。)」
カグヤは静かに祈る。
友であり、初めて好きになった相手の事を思いながら……。
~~~。
リューマとの戦いから目が覚めた翌日、タイガは1人秋水を手に庭に立っていた。
秋水を抜き、その黒い刀身を改めて見る。
「黒刀"秋水"、あのゾロが気に入っていた刀……どれほどの威力なんだ?」
タイガはそう言うと、その切れ味を試そうと魔力で砂を操作し、もっとも硬い鉄鉱石を産み出すと正眼に構える。
そして、深呼吸をすると上段に大きく振り上げ、一閃するとまるで鉄鉱石はまるで、バターか豆腐のように切れてしまい、ゴロンと崩れた。
「……スッゴい切れ味。これで技なんて使ったら、ヤバいことになるな。けど、いつかは使いこなしてみせる。」
タイガはそう言うと、秋水の刀身を紙で拭い清潔にすると鞘にしまう。そんな時だった、1人の女騎士が駆け寄ってきた。
「失礼致します、タイガ様。」
「ん?どうかしたのか?」
「は!2の砦よりアリシア様がお見舞いに来られたとの事です。どうなさいますか?」
「分かった。じゃあすぐに向かうから部屋に案内しておいて下さい。」
「はっ!」と返事をすると、女騎士は一礼をして足早に去っていった。タイガは汗を拭うために上着と下着を脱ぐ。
そこにはリューマとの戦闘で着いた大きな刀傷があり、針を縫って間もない為か、まだ塞がっておらず、少し血が滲んでいる。
「痛てて……あちゃ、血が出てらぁ。まぁこんなの唾付けとけば治るだろ。」
タイガはそう言うと、血が出ている所を拭うと唾を着けて服を着て部屋に向かった。
すると、そこにはアリシアがいた。
「タイガ!お前、医者に休んでいろと言われたのではないのか!?」
「あ?あぁ、この傷か。これなら少し痛むがその内治るから平気だって。それに、傷の1つや2つは勲章なんだぜ?」
「馬鹿なことを言うな!そんな事、何の自慢にもなら無いだろうが。」
「そうかねぇ……あ、何飲む?珈琲、紅茶、緑茶何でもあるぞ?」
「?こーひー?りょくちゃ?何だその2つは?」
聞いたことのない単語に、アリシアが首を傾げると大雅は、棚に入っている"それ"を取り出して見せた。
「こっちの茶色いのが珈琲だ。苦いからミルクや砂糖を入れると良いんだ。こっちの緑色が緑茶、東方で呑まれてる物より飲み口が良い。」
「そうなのか。なら珈琲を淹れてくれ。砂糖とミルクを頼む。」
「あいよ。」
タイガは自分とアリシアの2人分の珈琲を淹れる。
この2つは飛鳥がタイガに用意したものであり、初めは驚いていたが、呑んでみて美味しかったからかタイガは、その2つを貰ったのだ。
「ふぅ……少し鼻に来る匂いだが、嫌な感じがしない。それに、少し苦いが呑みやすい。」
「砂糖やミルクを淹れてるからな。んで、どうかしたのか?」
「タイガ、今回は何度も助けてくれた事。本当に感謝している。」
「あ?別に気にしなくて良いっての。俺がやりたくてやったことなんだし。礼とか要らない。」
「いや!これは大切なことだ!騎士として、助けられた恩義は返さなくてはならない。」
アリシアのそんな態度を見て、タイガは呆れたように苦笑いする。
「ははっ。お前、面白いな。まぁ良いか、それならまた茶でも呑みながら話し相手になってくれ。」
「なに?そんなことで良いのか。」
「あぁ、1人より2人で呑んだ方が美味いしな。」
「っ!あ、あぁ。私で良ければ、話し相手になる。では、私は政務に戻る!ではな!」
慌てた様子で部屋を出ていくアリシア、そんな様子を見てタイガは首を傾げた……。