五の砦救出後、タイガは五の砦の修繕作業を行いながら怪我人の治療を並行して行いながら、犠牲になってしまった民達の墓作りを行い、火葬してから埋葬した。
「……よし。それじゃあみんな、あと一踏ん張りだ!」
「「「ハッ!」」」
兵士達と一緒に街の修繕作業を行うタイガ。
彼らには普通の給金とは別にタイガから手当てと少ないながら飲食物が渡されている。それは勿論、しっかりと働いた者に支給される。
そんな時だった。
「兄〜ちゃ〜ん!!」
「がふっ!あぶねえ、何だよルー・ルー?」
「えへへ〜。」
名前を呼ばれて嬉しそうに笑うルー・ルー。彼女の言うタイ兄とは、彼女がタイガに着けた呼び名である。
トロル達と戦うとその後に自分を優しく撫でたのだが、それが彼女の心を何かを外したのか、しっぽを激しく振りながら喜び、その後はタイガに甘えるようになり、本当の兄妹のようになっている。
「ねぇ兄ちゃん、ボクにも何かさせてよ。ずっと休んでるの飽きちゃった。」
「そうは言ってもなぁ、まぁでも無理しない程度なら良いか。じゃあ、ルー・ルー。あの材木を運ぶのを手伝ってくれ。」
「分かった!よ〜し、頑張るぞ〜!」
張り切って材木を運び出すルー・ルーとそれを見て、他のハーフリング達も続々と動き出した。人間達と協力し、手慣れた様子で材木を切ったり、組み立て方を教えている。
そんな様子にタイガは楽しげに笑っていた。
一方、黒の城の玉座の間では月光と背中に昆虫の羽を持つ男がおり、タイガの様子を見ていた。
「この男を殺せばいいんだね?」
「あぁ、こいつはかなり強いよ。それに、能力もかなり高い方だね。」
「へぇ、そうなんだ?けど、そんな風には見えないけど?」
「甘く見ないほうがいいよ。少なくとも彼はそこらの人間より強い。」
月光の言葉に男は妖しく笑うと、玉座の間を出ていき月光は乾燥させた肉を頬張った……。
その頃、修繕作業を終えたタイガ達は外にて全員で食事をしていた。騒がしくも賑やかな食事風景は、かつての鷹の団にいた頃を彷彿とさせた。
「!?」
タイガは上から気配を感じ上を見た。イカルガも釣られて上を見ると、そこには黒い影が迫ってきているのが見えたが、それは異形の虫の大群だった。
タイガは既に城下に向かって走っており、彼が城下に着くと、そこでは兵士達が異形の虫達を相手に戦っていた。まるで鎧を着ているような虫や黄金色に光る虫、中には身体の長い虫が襲い掛かっていた。
悲鳴が響き、民の泣き顔がタイガの心を締め付けた。
「止めろこの野郎!!」
タイガは秋水を抜いて、民や兵士を襲っている虫を斬り伏せていき、時には覇気を纏った腕で殴り付けていく。
「た、タイガ様!!」
「遅くなってすまない!!みんなは民の避難を優先してくれ!?」
「しかし、タイガ様!この虫共はまるで鉄のような固さです!剣も槍も歯が立ちません!」
「分かった!だったら避難を優先しろ!民や怪我人を頼んだ!」
タイガは兵士にそう言うと、他の虫達を斬り伏せていく。その時、虫達は突然タイガの方を向きその牙を突き立てようとする。
タイガは咄嗟に一閃しようとしたが、虫達はまるで知能があるような動きで避ける。
「なっ……逃がすか!三十六煩悩鳳!!」
グオォォォォォッ!と、凄まじい威力の斬撃を虫達に向けて飛ばし、直撃した虫達はバラバラになって落ちていく。
そんな中生き延びた虫達は、再びタイガに向かって迫ってきていた。
「ちぃっ!邪魔だぁぁ!!」
タイガは再び斬撃を飛ばし、迫ってきていた虫達をバラバラにしていく。しかし、虫達の生命力は強く何体かはバラバラにされても襲い掛かってきた。
「っ!?この!」
タイガは驚きながらも刃を振り、斬り伏せていく。
「はぁ……はぁ……こ、これで全部……?」
そして虫の襲撃が収まった時、どこからか拍手する音が聞こえてきた。
「いや~凄いね、あれだけの数を一人で殺っちゃうなんて。」
「……誰だ、お前。」
タイガがその方向を向くと、そこには道化師を思わせる風貌をし、背中に昆虫の羽を思わせる翅を持つ年若い男がケラケラとした笑みを浮かべていた。
男は笑みを浮かべながら言った。
「初めまして、ボクはトミーロッド。宜しくね♪」
トミーロッドと名乗った青年に、タイガは驚きで言葉を失い呆然としていた。
「(トミーロッドって……今度はトリコのキャラかよ!?マジでどうなってんだ!?)」
「ねぇ、タイガってキミ?」
「だったら何だよ……あと、お前はなんでこんなことをしたんだ?」
タイガの質問にトミーロッドは考えるような素振りをすると、何となく答えた。
「ん~別に?。ただ彼に言われたんだ。"暴れろ。好きなだけ殺せ"ってさ。あと、キミを殺せとも言われたね。」
「何だそれ、ふざけてんのか?」
トミーロッドの答えに、秋水を握る手に力が籠る。そんな中、タイガの様子を見ていた彼は頭の天辺から爪先まで見て、首を傾げる。
「しかしキミ、弱そうだね?」
「ナメんなよ蟲野郎!!」
そう言ってタイガはトミーロッドに斬りかかる。
首や胸、頭といった急所を狙うがそんな攻撃を軽々と涼しい顔をして避けるトミーロッドにタイガは、多少ながら苛立ち始める。
「このっ!じっとしてろ!」
「ふふんっ♪そんな攻撃、僕には当たらないよ。もっと本気になってみなよ。」
「野郎……っ!」
子どものようにケラケラと笑うトミーロッド。
そんな彼を見てタイガは秋水を強く握り、飛び掛かりそうになるがすぐに深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。熱くなったら終わりだ。冷静になって気を落ち着かせる事にした。
そんな中、タイガが目を開くとそこにはトミーロッドの膝が迫っており、咄嗟に後ろに下がり覇気を纏わせた両腕を交差させて防ぎ、吹き飛ばされ転がっていくが体勢を立て直す。
「痛てて……ふぅ、痛てぇ。もう少しでやられる所だった。」
「(腕は潰れたと思ったのに。何だ今の固さは?)……頑丈な腕だね?どうなってるの?」
「さぁな……な!」
タイガは腕を振り上げて、トミーロッドに向かって秋水を振り下ろす。その瞬間に彼は口を大きく開き、そこから見えた顔のような物を見たタイガは後ろに跳んだが、その顔が吐き出した液体が腕に掛かった瞬間、異常な冷たさを感じた。
見ると、そこには凍り付き動かなくなっている右手があり、秋水を落としてしまう。
「っ!!!!?な……な、んだ……これは……!?」
「ふ~ん。腕全体は無理だったか、まぁでも君じゃその腕は治らないね。」
「く、くそ……(右腕が動かねぇ……まるで、凍ったみたいになってるし、どうなってんだ……まさか!)お前、何を飼ってやがる?!」
「ふふんっ。ちょ~っとだけヤバイのは飼ってるよ。狂暴で中々外には出せないけどねぇ!んじゃま、とりあえず……死んでおこうか?」
トミーロッドはそう言うと、タイガに接近しようとするがその瞬間に秋水を左手で拾うと、その刃を振るう。
「三十六煩悩鳳!!」
「っ!?」
ズオォオォォォッと迫る斬撃に、トミーロッドは身体を捻って避ける。その瞬間に剃を使って懐に入ったタイガは更に斬り上げた。
その際にトミーロッドの顔に大きな刀傷が出来た。顔を切られた事に額に青筋を立てた。
「っ!?こいつ……くたばれ!!」
「っ!?ぐはっ!?」
トミーロッドは力一杯腕を振り抜き、タイガを殴り飛ばした。殴り飛ばされたタイガは建物に激突し、その際に頭から血を流し、大量の血を吐き出した。
「僕の顔にこんな傷をつけるなんて……どうやって殺してやろうかな?」
「っ……く……」
朦朧とする意識の中でタイガは、トミーロッドは睨み付ける。しかし、ダメージが大きいせいかタイガは徐々に意識が遠のき始めていた。
「(ヤバい……くらくらしやがる。こいつは……何とかしなきゃ……いけねぇ、の……に……。)」
「はぁ……面倒くさいなぁ。そろそろ終わりにしようか?」
そう言うとトミーロッドは口からハチのような蟲を産み出した。
それは、黄色の巨大な身体を持ち、グラスビー。
「さぁ、あのガキを食い漁ってきな!寄生昆虫共!!」
トミーロッドの合図と共にタイガに迫るグラスビー。タイガは朦朧とする意識を保ちながら秋水を構えるが、スピードが早く、敵を完全には捉えられなかった。
「(ヤバい……死ぬかも。)」
タイガが膝を付き倒れそうになる中、グラスビーはタイガに迫ってきていたが、意識を保てずに地面に倒れ込んでしまった……。
タイガは闇の中を落ちていた。
深く、真っ暗で何もない闇の中を落ちており、優しくも冷たい感覚に包まれながらタイガは深みに落ちていく。
そんな中、遠くの辺りで人の気配を感じ、タイガはゆっくりと目を開けられなかった……。
〜〜〜。
「う……うぅ……ん……。」
目が覚めると視界の先には自室の天井が広がっており、両隣には泣きそうな表情になっている母と父がいた。
どうやらここは1の砦の自室で、自分は幸いにも生きているらしい。
「みんな……俺は、生きてるんですか……?」
「えぇ……生きてるわ……本当に良かった……!」
「あの……あと、どう……なったんですか……?」
タイガがそう訪ねると、クラウスとクラウディアは気不味そうに俯くが父が答えてくれた。
何でも彼が倒れたあと、民の数人と救援に来たアリシア、そしてカグヤが連れ去られてしまったらしく、数人が大怪我をしたが無事らしい。
「くそ……なら、早く行かねぇと。」
「ダメよタイガ!?あなた、今度こそ本当に殺されてしまうわ!私達が今、救援部隊を編成してるから、あなたは休んでなさい!」
「けど、俺が負けた……せいで、こうなったんだ。俺が行かなきゃ……」
「っ!タイガ!!!」
クラウディアは、タイガに平手打ちをして来た。
バチンッという音と共に衝撃が頬を走り、彼はベッドから落ちて、その場に倒れてしまう。
「あなたは……あなたは何度私を心配させるの!?そんな大怪我して、その前も大怪我して……こんな事じゃあ、あなたは本当に死んでしまうわ!!」
「母、様……?。」
「お願いだから、もうこれ以上……怪我しないで……命を粗末にしないで……!!」
母はそう言いながら涙ながらにこちらを見る。
その顔を見て、タイガは胸が痛かった。こんなに悲しませるとは思わなかった。
「……タイガ、お前が民や兵を守って傷付いた事は知っている。だからこそ今は休みなさい。私達が必ず捕らわれた者達を助ける。クラウディア、お前が側にいてやりなさい。」
「ありがとう、ございます……あなた。」
そう言って母を残して、父は部屋を出ていき、残されたタイガとクラウディアは互いに気まずい空気の中、中々話が出来ずにいた。
「母様……その、えっと。」
「……ごめんなさい。」
「え……?」
「叩いてしまって……ごめんなさい。私、自分の子供を、あなたを傷つけてしまって……!!」
涙を流しながら謝ってくるクラウディア、どうやら先程の平手打ちをしてしまったことがショックだったらしい。
「こっちこそ……母様。その、心配させてごめんなさい。その、1人にしてください。少し寝ます。」
「分かったわ。それじゃあ私も救援部隊の指揮に行くから、ちゃんと休むのよ。」
そう言ってクラウディアはタイガにキスをして部屋を出ていき、それから少しして、布団を被ったタイガは涙を流す。
悔しかった。何も出来ないで、民や仲間を連れ去られ、母を泣かせたことが悔しかった。
「俺は……何にも出来なかった……!!力も使いこなせないで無様に負けて、挙げ句の果てには仲間や民まで拐われて……!」
リューマに勝って、彼はどこか天狗になっていることが分かった。
本当は内心、トミーロッドに勝てるつもりでいた。けれど、そんな根拠のない自信は簡単に潰され砕かれた。
「(くそっ……!)」
タイガは布団を深く被り、そのまま眠ることにした……。
「(このまま寝てしまえば、もう戦わなくて済むのか……?悔しい思いも、嫌な思いもせずに済むんだろうな……。)」
「情けねぇな、おい。」
呆れたような声が聞こえ、その声音に聞き覚えのあったタイガは後ろを振り向いた……。