タイガSide
声が聞こえた。とても懐かしい、それでいて知っている声だった。
目を開けて、その声のした方向をゆっくりと見るとそこには、あいつがいた。
「ガッツ……?」
「よぉ。久しぶりだな?」
そこにいたのは黒い鎧に身を包み大剣を背負ったガッツだった。
一緒に死線を潜り抜けてきた仲間であり、幼なじみ。
蝕の際にもう1人の仲間と一緒に別れてしまった仲間。
それでいて、大切な友達。
「何で、お前がここに……?」
「てめぇが生きてるって、アスカって奴から聞いてな。そんで連れてきて貰ったんだが、なに情けねぇ面してやがる。」
ガッツとの再会に驚くが、俺は俯いて自分の手を見る。
「俺は、負けた。強くなったのに、それなのに負けた。負けたら俺には何も無い。何の価値もない……あの時と同じ……!」
そんな俺を見てガッツは、ため息を吐いた。
「…お前、貴族になってからずいぶんおめでたい頭になったみたいだな。」
「どういう意味だよそれ!?喧嘩売ってんのか!?」
その言葉にムカッと来た俺はガッツに掴み掛かった。けれど、ガッツは構わずに続ける。
「オレの知ってるお前は、甘ちゃんではあるが泣き言はほとんど言わねぇ。それに……戦に負けたからってそんなにいじけねぇ。なにより……。」
「……?」
「てめぇはまだ生きてんだろうが。なら敗けじゃねぇ。戦ってのは、最後に立ってたもん勝ちなんだよ。忘れたか?」
「っ!?」
「殴られたら、殴り返せ。オレならそうする。」
ガッツにそう言われ、俺は自分の手を再び見る。
確かにそうだ……俺はまだ生きてる。
死なない限り俺は負けてない。俺はベッドから立ち上がり、ガッツに向かい合う。
「ガッツ……俺を思い切り殴ってくれ。出来るだけ強く。」
「おう。歯ぁ食いしばれよ?」
そう言うと、ガッツは"義手"の方の腕を大きく振りかぶって本気で力一杯殴ってきた。その衝撃で思い切り吹き飛んで頭を強く打った。
「ぐっ!?痛ってぇぇぇぇ!?」
「てめぇがやれって言ったから殴ったんだ。文句言うんじゃねぇぞ。」
「痛てて……いや、ありがとう。おかげで目が覚めたわ。」
俺は立ち上がると、殴られた方の頬を擦りながらガッツに頭を下げる。
「サンキュ、おかげでさっぱりした!」
「そうか……ま、これで目が覚めたなら何でも良いがよ。」
「あ……そうだ。ガッツ、あの後……俺が消えた後どうなったんだ?」
「……さぁな、そんなのは自分で考えろ。あとこれ、渡しとくぞ。」
ガッツはそう言うと、秋水を渡してきた。
「秋水?」
「アスカの奴が強化とか言うのをしたらしい。」
「そうか……ありがとうな。」
「礼は良い。さっさと行け、お前はお前の戦場にな。」
ガッツは完全に消えると、そこには俺と秋水だけが残され、俺は口元に残っている血を拭うと、着替えをして秋水を腰に差して、部屋を出る。
すると、そこにはプリムが立っていた。
「……タイガ、さん。」
「プリムか。」
「何処に行かれるんですか?」
静かにこちらを見てくるプリム。その目にはこちらへの憎悪のような物が少し宿っている。
「アリシア達を助けにいってくる。」
「本気、ですか?一度負けたのに。そんなあなたに……。」
「あぁ。けど、2度と負けない。必ずアリシア達を助けてくる。」
「では、どうか姉様を……皆さんを助けてください、お願いします。」
そう言って頭を下げるプリムに、俺は静かに頷くとその隣を通り過ぎる。
待ってろよ、トミーロッド……!
〜〜〜。
黒の城の地下牢、その1つに手枷をされ宙ずりにされたアリシアとカグヤ。
そんな2人に水が入った桶を持って近付く人物があり、その人物は2人に向かって水をぶっかけた。
「ぶはぁ!?」
「うっ……」
「起きた?やっほ~、初めまして。」
アリシアとカグヤは目の前にいる青年、黄泉閊 月光を見て首を傾げる。
「誰だ、貴様は……ここは、黒の城か?」
「まぁね。あ、自己紹介しておくね♪僕は黄泉閊 月光。この城の主だよ♪」
「何だと……黒犬ではないのか。貴様は、何者なんだ……?」
黄泉閊 月光の纏う雰囲気にアリシアは顔をしかめ、彼を睨み付ける。すると、月光は妖しく微笑む。
「僕は破戒者、全てを壊す者であり、人の絶望を望む者だよ♪」
「民達はどうした……?」
「なにもしてないよ。まぁ、この後に何かするけどね。」
民が無事だと聞いたアリシアは小さく安堵の溜め息を吐く。その次にカグヤが質問した。
「私達をどうするつもりですか?」
「う~ん?そうだなぁ、前に幾つかの世界でやったように素っ裸にして犯し殺すってのも考えたけど、2人とも蟲の苗床になってもらおうかな?」
「む、虫……だと?」
「そう蟲♪正確には昆虫獣類ってやつらしくてね。別名寄生昆虫、なんでも肛門を食い破って腸に卵を産み付けるって奴らしいよ。」
それを聞いた途端、2人から血の気が引きそれと同時に月光の後ろから2体の青い鎧のような身体をした虫、アーマーホイホイが現れた。
そんな中、シャムハザが月光に近付く。
「おい。」
「う~ん?なぁに、シャムハザ?」
「この姫騎士はともかくカグヤは俺が使う。それにお前は俺に力を貸すといっただろう。」
「……あぁ、そんな事もあったね。」
シャムハザの言葉に月光は耳をほじりながら聞いている。そんな彼の態度に苛立ったシャムハザが彼の襟元を掴む。
「ふざけるなよ?俺はお前に砦に関する情報を渡したんだ。その見返りにカグヤを」
「うるせぇんだよ、三下。」
「なに……!?」
「僕はお前の糞みたいな夢に協力してやったんだ。それなだけでも感謝してほしいくらいだね。」
月光の言葉にシャムハザは睨みをきかせ自身の蟲を呼び出そうとしたが、なにも起こらなかった。
その時何かが背中にくっつくのを感じ、背中に触れると筒のような虫が大量に背中にあるのが触れて分かった。
すると、月光はシャムハザから距離を開ける。
「……殺っちゃって良いよ。トミーロッド♪」
「了解♪生まれろ、起爆虫。」
トミーロッドは大きなトンボと蚊を合わせたような蟲を口からそれを見たアリシアとカグヤは嫌悪感から顔をしかめる。
「バイバイ、シャムハザ♪」
「スイッチオン!!」
起爆虫を切り裂いた瞬間、シャムハザに張り付いていた虫、爆虫の目が赤くなり次の瞬間、ドッカァァァンッとけたたましい爆発が起こった。
「ぐわあぁぁあああぁぁぁっ!?!?」
一匹が爆発すれば、凄まじい爆発の連鎖が起こりシャムハザの身体は肉片と化した。そんなシャムハザを見てアリシアとカグヤは言葉を無くし、顔を青ざめさせる。
一方シャムハザの飛び散った肉片の匂いにつられて、アーマーホイホイはその肉をムシャムシャと食べ始めた。
「な、何なんだ……貴様は!?何故奴を……!」
「う~ん?邪魔になったから殺しただけ。それよりも自分の心配した方がいいんじゃない?次こいつらに喰われるのは、君達なんだから♪」
「「!?」」
楽しげに笑う月光にアリシアは顔を歪め、カグヤは目を背けた。そんな中、トミーロッドが話しかける。
「ねぇ、それよりも外にいる"奴ら"はどうするの?こいつらの仲間なんでしょ。」
「あぁ、七盾の奴らか。適当に殺して良いよ?どうせこいつらを助けるために来たんだろうし。なんだったら蟲の餌にしても良いよ。」
「オッケー、んじゃあ早速。」
トミーロッドは自分の口から新たな蟲を産み出す。
その蟲は巨大な蚊のような姿をしており、見ているアリシア達はその姿だけで鳥肌が立つのを感じた。
蟲の名はガムラモスキート。その数は20体。
「よく出せたね。」
「あの程度の奴らなら、こいつらで充分だよ。さぁ、奴らの血を啜ってきな!」
トミーロッドの指示を受けてガムラモスキート達は外に向かって飛び立っていった。
そして、残された月光はアリシア達の方を向く。
「そんじゃまぁ、早速餌になってもらうよ。」
「くっ!?来るな!!」
アリシアとカグヤは何とか逃れようと身体を捻るが、腕を拘束されているのでそれ以上は何も出来ず、足下に這い寄るアーマーホイホイから逃げられないでいた。
アリシアはアーマーホイホイを蹴るが、その硬い身体は彼女の細い足では傷つく筈もなかった。
「それじゃ、美味しく食べられてね♪」
「だ、誰か……助けて……!!」
アリシアが必死に声を絞り出して、目を瞑りながらそう言った時。
「おい。」
突然聞こえた声に月光達が、その方向を見るとそこには、右手でガムラモスキートの頭を掴み左手に秋水を持ったタイガがいた。
「「タイガ/さん!!」」
「あれ?お前生きてたんだ?ちょうど良いや。お前達、あの男の方が食い出があるよ?殺っちゃいな。」
そう言ってトミーロッドはアーマーホイホイ達に命じて、標的をタイガに変更させた。
アーマーホイホイはタイガに向かって突進していき、まるで弓矢のような速さで迫っていく。しかし、タイガはゆっくりと秋水を抜いて深く呼吸し、アーマーホイホイ2体をバラバラに切り裂いた。
「なっ!?」
「っ!?」
「へぇ?」
「あらあら?やるじゃん。」
アリシア、カグヤは驚き、月光、トミーロッドはアーマーホイホイを切り裂いたタイガに感心した。
タイガはゆっくりと秋水をトミーロッドに向ける。
「さぁ、次はお前の番だ。」
「へぇ?そんなに早く死にたいのなら……どうやって殺してあげようかなぁ~?」
トミーロッドは笑いながらタイガを見据え、タイガも彼を睨み付ける。
そして、タイガが反対の手に持っていたガムラモスキートの頭を地面に落とした時、2人の姿は消えたがその瞬間、タイガの持つ秋水とトミーロッドの蹴りがぶつかり合った……。
~~~。
一方、黒の城の外では負傷した兵士達が治療を受けていた。彼ら黒の城から現れたガムラモスキートの群れに襲われ、僅かではあるが被害を受けていた。
しかし、中には数人血を吸われて、絶命した者もおりそう言った者達は荷車に積まれている。そんな中、救援部隊を指揮していたクラウディアとその副団長が団の者達と一緒に治療を行っていた。
「団長、こちらは終わりました。」
「ご苦労様、副団長。あなたは少し休みなさい。」
「いえ、私は……それよりもタイガ様は。」
彼女の質問にクラウディアは表情を暗くする。
彼女自身も幼い頃にタイガと出会っており、団員達もタイガとは交流があり、一緒に鍛練をした仲でもある。
そんな中、クラウディアは複雑そうに微笑みながら言った。
「あの子は、タイガは止まらないわ。どんなにこちらが心配しても……決して。」
ガムラモスキートの群れが現れた際に、クラウディアが襲われそうになったのだが、タイガはその首を切り裂いてクラウディアを助けた。
初めはタイガを叱ろうとしたが、タイガは全てのガムラモスキートを倒し、クラウディアに近付いて謝った。
『ごめんなさい、母様!叱りはあとで受けますので、今はアリシア達を助けに行かせてください!』
そう言ってタイガは黒の城に向かっていったのであった。
「(タイガ……お願い、せめて無事に帰って来て……!)」
クラウディアは切にそう願った……。
~~~。
そんな中、タイガとトミーロッドは黒の城の中で激しい戦闘を繰り広げていた。
「はぁ!」
「フフンッ!!良いね良いね!前より強くなってるね!?でも……無駄だけどねぇ!!!」
トミーロッドは蟲を次々と生みながら、タイガの様子を伺う。タイガもトミーロッドの生む蟲を1匹ずつ確実に倒していく。
そして、無数に産み出された蟲を全て倒した所でトミーロッドに視線を移し、挑発するように指をクイクイッと動かす。
「ほら来いよ?それとももう蟲切れか?」
「こいつ……ナメるなよ!まだまだ蟲は生めるんだよ!」
「そうかい。けど、俺はお前の本気と戦ってみたいな?」
タイガの挑発にトミーロッドは、少々苛立ち始めていた。しかし、すぐに冷静になりタイガに反論する。
「僕の本気と戦ってみたい?蟲相手に疲労して倒れたお前が?プフッ!!笑っちゃうよ!あはは!あはははっ!」
「そうだな。けど、前よりは多少強いぜ?」
そう言うと、タイガは秋水を上段に構える。それを見たトミーロッドは首を傾げる。
「ぷふっ!プハハハハ……キミ馬鹿だねぇぇえぇぇ!!腹ががら空きだよ!」
トミーロッドはムカデのような姿をした蟲"バタフライワーム"を産み出し、タイガに襲い掛からせたが、彼はそれを秋水で細かく刻み、切っ先をトミーロッドに向ける。
「っ!」
「まだやる?悪いけどアリシアとカグヤ、返してもらいたいんだが?」
そんな中、ずっと沈黙を守っていた月光がパチパチっと拍手をした……。
~~~
パチパチっと手を叩く音に引かれ、俺はその音のした方向を見るとそこには笑顔で微笑む男がいた。
俺は秋水を鞘に戻すと、その男の方を見る。
「いや~凄いね♪トミーロッドの蟲相手に生き残るなんて。」
「お前、何者だ?」
「これは失礼、僕は黄泉閊 月光。世界の破戒者だよ♪宜しくね、タイガくん。」
にこやかに手を振って挨拶をする月光、しかし、タイガはそんな彼に対して目を細める。
何故かは分からないが、この月光とかいう奴からは嫌な物しか感じない。それはまるで、あいつら……ゴッドハンドと同じような雰囲気だ。
「タイガ!油断するな!そいつは普通じゃない!?人の命をまるでモノのように平気で奪う!気を付けろ!」
「そうか。ありがとうな、アリシア。2人ともすぐ助けるから待ってろ。」
アリシアにそう言いながらも、トミーロッドと月光から視線を外さずに2人を見据える。
そんな中、トミーロッドはまた蟲を産み出そうと口を膨らませる。その瞬間に俺は剃を使って近付くと武装色を纏った拳で突きを放つ。
「ちっ!?」
「逃がすか!」
トミーロッドの実力、つまり本気になれば腕力、牙、機動力がメインの武器なる。それまでは蟲を使って戦う。
なら、使わせないようにするまでだ!
「くっ!?(こいつ、前より速い!しかも僕が蟲を生む事が出来ないように至近距離まで近付いて攻めてきてる!だが!)調子に乗るなよ!!」
トミーロッドは後ろに大きく跳躍すると、その反動を活かして蟲を産み出してきた。
けれど、甘いぜ!!
「嵐脚"凱鳥"!!」
「っ……がはっ!!!?」
鎌風が鳥のような形になって相手を切り裂く嵐脚"凱鳥"をトミーロッドは蟲の壁に守られながらも攻撃を受けると、そのまま吹き飛ばされていく。
凱鳥の威力として砲弾並みになっており、さらに高い切れ味によって、トミーロッドの身体に大きな刀傷らしきモノが着き、黒の城の石壁はズパンッと切り裂かれた。
「がはっ!?ば、馬鹿な……!?グルメ細胞も、ない。ただの人間の、くせに……この、僕を……!!」
「んなもんなくったってなぁ、人は強くなれるんだナメんな。」
「ふふっ……馬鹿みたいな、事を言うんだね……でも、嫌い、じゃ……ないよ。お前、みたいな奴、は……。なら、ば……!」
トミーロッドはそう言うと、両手首と両足首、そして腹に着けていた金属を外す。
すると、トミーロッドの身体から細さが消え、筋骨隆々な身体着きへとなっていき、傷も塞がっていった。
「タイガ。お前の力に敬意を評し、ボクも全力でキミを叩き潰すよ。」
「……良いぜ。お前の本気の姿、これを待ってたんだ。」
「ふんっ。そんな口が聞けるのも今の内だよ!」
互いに睨み合い、その緊張感の中でアリシアとカグヤは唾を飲み込んだ。その瞬間、俺らは即座に拳をぶつけ合い、拳による殴り合いが起こる。
こいつは強い。蟲に頼らなくてもこの強さだ。
いくらレベレーター、スリーフォールでも追い付けるのか分からないくらい強い。
けどよぉ、だからこそ……
負けたくないんだよなぁ!
「オララララ、シャアァァァァァ!」
「ハァアァァァァ!!」
猛烈なラッシュ、気を抜いたら身体がバラバラに成りかねない勢いだが、身体がこいつの動きにようやく成れてきたのか全てを流水岩砕拳で流して、いなして行くことが出来る。
「行くぜ。剃!」
「ちぃっ!?どこに行った!?「ここだよ。」なっ!?」
「雷竜崩拳!」
雷を纏った拳がトミーロッドに直撃すると、トミーロッドはその場から吹き飛ばされて床に叩きつけられる。その瞬間に追い討ちをかける。
「天竜剛翼!」
暴風のごとき竜巻をトミーロッドに放つと、今度は天井に叩きつけられ、奴は血を吐き出してその場に倒れこむ。
「(ここで決める!まだ完成してないから、威力は劣るけど放てる!)はぁぁぁぁ!!」
武装色"硬化"で硬度を上げた拳で、旋風鉄斬拳をトミーロッドの胸に叩き込む。すると、トミーロッドは身体はバキバキッという音を立てながら吹き飛んでいき、壁に激突した後、動かなくなった。
「はぁはぁ……!ふぅ……。」
俺は呼吸を整えると、アリシアとカグヤの2人がいる檻に近付き、鉄格子を切って2人の拘束を解いて2人を連れ出した。
「タイガ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「仲間だからな助けるのは、当然だ。それにプリムからも頼まれたしな。」
「プリムが……そうか。」
そんな時、また月光が拍手をしてこちらを見ていた。
「いやぁ、お見事お見事。よくトミーロッドを倒せたね。けど、まだ終わってないよ。」
そう言うと、月光はニヤニヤしながら嗤うと、右手にどす黒いオーラを纏わせてトミーロッドの頭を掴む。すると、トミーロッドの身体は干からびていくが、口からは何かが産み出された。
それは、紫色の巨大な蠍のような姿をしており、前足はカマキリのような鎌、頭にはクワガタともカブトムシともつかない凶悪な角が生えている。
俺はそいつを知っている。
「こんなところで終わらせちゃつまらないでしょ?お代わりを楽しんでってよ。この……パラサイトエンペラーをね。」
「「「なっ!?」」」
「ギュオアァァァアァァァァ!!」
パラサイトエンペラー……。
トミーロッドが生むのを抑えていた巨大な混合昆虫獣類の蟲。トリコの中の蟲の中でもっともグロいし、キモいし、ある意味の使徒と同レベルの強敵だ。
こいつはハッキリ言って……ヤバイ。
そんな中、2人を見るとカグヤはその場にへたり込んで座っており、アリシアは目には恐怖が浮かんで震えていた。
「あ……あぁ……。」
「アリシア!カグヤ!?」
何とか呼び掛けるが、アリシアは固まったまま動けずにいた。そんな中、パラサイトエンペラーはアリシアに向けて尻尾を伸ばしてきた。
俺は秋水で尻尾を防いで踏ん張る。ギリギリと火花を散らしている。
取り敢えず力に任せて尻尾を弾き飛ばすと、パラサイトエンペラーは少し怯んだ。
「2人とも掴まれ!!」
2人を掴むと、全速力の剃でその場から走り去る。
転移の魔眼を使おうにも、身体も魔力も先程の戦闘でガタガタだし、こんな状態で使えば何処に飛ぶか分からない。
後ろの方でパラサイトエンペラーが唸り声を挙げているが、今は取り敢えず2人を連れて城の外に向かっていた。
そして城門を出ると視線の先には、救援部隊の面々が見えていた。
「っ!?タイガ、それにアリシアさんにカグヤさん!」
「母様、みんな遅くなってごめんなさい。2人とも何とか救出できました!!すぐにここを離れてください!」
「いったいどうしたの?そんなに慌てて、何があったの?」
すると、黒の城の中から凄まじい勢いで俺達を追ってきたパラサイトエンペラーが現れた。
「「「な、なぁぁあぁぁぁ!?」」」
「な、何なのあれは!?あんな魔物、見たこと無いわ!」
もう追い付いて来やがった……このままだと被害が出る。俺は秋水を腰から抜いて構えながら母に言った。
「母様!ここは俺がなんとか止めます!その間にみんなを逃がしてください!」
「な!?何を言ってるの!?あなたも逃げないと!」
「あんなの放っといたら逆にヤバイでしょ!?俺なら大丈夫だから、みんなを逃がして下さい!」
「タイガ、あんな化け物……勝てるはずがない!ここは逃げた方が……!」
アリシアの言葉にタイガは、彼女の方を見ずに答える。
「あんなの放っといたら、それこそヤバいだろうが。お前らは母様達と一緒に逃げろ。」
「だが!」
「第一、俺はそんなに弱くねぇよ。簡単には死なねぇし。んじゃ!」
俺はそう言うと、パラサイトエンペラーに向かって走っていく。そんな中、後ろでは母の声が響いていたが、そんなこと気にしてる暇はない。
秋水を構えて、パラサイトエンペラーに斬りかかったが、その一撃はハサミで受け止められる。しかも身体は硬い。
「この……負けるかよぉ!!」
~~~
タイガがパラサイトエンペラーを相手に戦闘を行っている中、その様子を月光はお菓子を食べながら眺めていた。
「ふふんっ♪やるねぇ♪」
「おい、月光。」
「ん?あぁ、飛鳥か?久しぶり~、元気してた?」
「……何をしに来た。」
月光に対して飛鳥は冷ややかに返し、そんな飛鳥に月光はふぅっと溜め息を吐く。
「もう、そんな顔しないでよ。仲間なんだから。」
「"元"仲間だ。お前……今までいくつ世界を壊した?」
「う~ん、覚えてないなぁ。10から先は数えてない!♪」
月光の発言に飛鳥は頭を抱える。
「胸張って言うな……それよりもここで何してる。」
「ん?何って成り行きを見てるんだ。彼がどうなるのか、楽しみなんだ♪」
「……。」
月光と飛鳥の視線の先では、パラサイトエンペラー相手にタイガは1人で立ち回っており、ハサミや尻尾、そして吐き出させるブレスを避けながら攻めていた。
そんなタイガを飛鳥は、ただジッと見ているだけだった……。
〜〜〜。
パラサイトエンペラーを相手に立ち回りながら、タイガは突破口を探していた。
しかし、強固で頑丈な身体に加え、ハサミや猛毒の尻尾、冷凍や高温の炎のブレス、強靭で柔軟な糸といった攻撃手段を持つパラサイトエンペラーにタイガは苦戦していた。
「ちぃっ!」
タイガは剃を使いながら、パラサイトエンペラーを撹乱する。パラサイトエンペラーもタイガをしきりに追おうとするが、剃の速度に追い付けていなかった。
「ギイィィイィィィッ!!」
パラサイトエンペラーは苛立ったのか、タイガが見える辺り一帯に高温の炎のブレスを吐き始める。
タイガはギリギリの所で何とか避け続ける。
「っとと!?めったやたらにブレス吐きやがって!はぁ!」
タイガは秋水を振り、斬撃をパラサイトエンペラーに向かって飛ばす。すると、突然ハサミと尻尾で頭の部分を防御した。
その隙にタイガはパラサイトエンペラーから距離を取って様子を伺う。
「(なんだ今の……何で今頭を守って、いや、頭というより"何か"を護った?)」
タイガはパラサイトエンペラーの尻尾とハサミの間から見える"何か"を見た。
「なんだ、あれは……?芋虫?」
「キィーーー、キィーーー!」
タイガの見たもの、それはパラサイトエンペラーの頭から生えていると思われる芋虫を見つけた。
「おいおい、何だよあれ……もしかして、あれが弱点か……やってみれば分かるかな!剃!」
「チューーー!」
タイガは剃で一気に近づこうとするが、芋虫を守るようにパラサイトエンペラーが吐いていた冷凍ブレスを吐き、タイガを狙い中々攻めに転ずることが出来ない。
「ちぃっ!やりづらい……!」
「キィーーーー!」
「やばっ!」
しかし、油断して視線を反らせた瞬間にパラサイトエンペラーの尾がタイガ目掛けて、尻尾の先の鋭い槍状の針を伸ばす。
「くそっ!流水岩砕拳!」
流水岩砕拳で尻尾をいなし、パラサイトエンペラーから再び距離を取る。しかし、肩で息をし明らかに疲れていた。
「はぁ、はぁ……!(やばい、疲れで手足が重い……それに何だか目の前が霞む。けど、何とかして倒さねぇと。)」
タイガはパラサイトエンペラーから距離を取り、秋水の柄と鞘に手に力を入れ、深く深呼吸をしながら脱力をする。
そしてパラサイトエンペラーが高らかに吠えると、タイガに向かっていき、その鋭いハサミと尻尾でタイガを仕留めようと迫ってくる。
そんな中、タイガはゆっくりと目を開くと秋水を抜き一閃する。
互いに微動だにしない1人と1匹、それを固唾を見ている一同。すると、パラサイトエンペラーの身体は垂直に割れ、ドシンっとその場に倒れ付し、タイガも肩で息をしながら膝を着く。
「は、はは……ざまぁみやが……れ。蟲、野郎……!」
タイガはそのまま倒れて眠りにつき、そんな自分に駆け寄るアリシアが見えた。しかし、タイガは迫り来る睡魔に瞼を下ろしていくのだった……。
~~~。
一方、タイガの戦いを見ていた月光は驚きで、口が半開きになっていた。
「ありゃりゃ……パラサイトエンペラーが負けるなんて。」
「どうする?まだやるか?」
「……いや。今回はこれ以上は手を出さない。まぁ次の機会では手を出すけどね?」
ケラケラ笑いながらそう言う月光に飛鳥は舌打ちをして、黒の城から消えた。
飛鳥は遠くから解放されているタイガを見ながら微笑むと、指をパチンっと鳴らしてその場から消えた。
その後、アリシア、カグヤ、タイガはクラウディア率いる救援部隊に連れられて連合に帰っていき、倒されたパラサイトエンペラーの死骸は、ボロボロに崩れながら腐敗したため、全員で火をくべて燃やしていった。
「(こんなにボロボロになってまで、あんな怪物と戦うなんて……無茶苦茶な奴だが、何故か目が離せない。)」
その傍らには、アリシアが寄り添って手を握っていた……。