「う……うぅ……?」
目が覚めると、そこは見慣れた自室のベッドの上だった。どれくらい寝ていたのだろうか、外は既に夕暮れ時だった。
「あ、タイガさん。」
「セレスティン様、母様……」
「大丈夫よ、そのままで。」
部屋の扉が開き、入ってきたセレスティン様と母様に驚き立ち上がろうとするが、母様に止められる。
すると、母様に抱き締められた。
「全く……心配したんだから。」
「私もクラウディアから聞きました。無茶をし過ぎですよ。」
「母様、セレスティン様、ごめんなさい……。」
「ですが、無事で安心しました。お2人を助けてくれてありがとうございます、タイガさん。」
セレスティン様から礼を言われ、俺は恥ずかしくなり頬を掻きそうになるが、静かに一礼して終わりにした。
そんな中、扉がノックされ両手首に包帯を巻いたアリシアが入ってきた。
「失礼します。タイガ、起きてるか。」
「よ。アリシア。この通り無事だ。お前大丈夫か?あんな思いしたのに。」
「あぁ。少しまだ本調子ではないが、それでも多少は大丈夫だ。」
「そっか。まぁでも取り敢えずは無事でよかった!また何かあったら言ってくれよ、力になるから!」
「っ!あ、あぁ。ありがとう……あ、私は砦に戻るから!お前はしっかり休むんだぞ!」
そう言ってアリシアは何故か顔を赤くして、そそくさと去っていった。
何か馴れ馴れしすぎたか……。
「どうしたのかしら、アリシアさん?」
「さぁ?」
アリシアの顔が何故赤かったのか、全く分からず首を傾げる事になった。
~~~。
私はタイガのいる部屋を足早に去っていた。あんな風に屈託の笑顔で微笑まれたのは始めてだ。
今までアルクトゥールス家の名前に寄せられてきた者達が多かった。しかし、タイガは"アリシア"と呼んでくれた。
こんな気持ち、初めてだ。
「何なんだ、この気持ちは……。」
パラサイトエンペラーを倒した後、タイガは1日休むように言われ、1の砦の警戒を父クラウスが受けることになった。
クラウスもタイガを心配していたが、祖父によって行くなと言われていたらしいが、特に気にしてはいなかったが、何か引っ掛かるものがあった。
「(爺の奴、何を考えてやがる?ここ最近、アイツからは敵意しか感じない。それに、何か引っ掛かる。)まぁ考えても仕方ない……寝るか。」
タイガはゆっくりと眠りに着いたが、しばらくして目を覚ますと、そこは真っ黒な世界だった。
「ここは?」
「お初、マスター。」
「うぉっ!?誰だ?!」
後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには長い青い髪に黒い服を着たキリッとした顔立ちの少女が立っていた。
「お答、私は管理者である飛鳥より貴方をサポートする為に作られたスキル"案内人"のメルト。宜しく。」
「あぁ、宜しく。ところでここは?」
「お答、ここはマスターの精神世界。ここでは仮想の敵と戦い、経験値を積むことが出来るし、起きればそれも反映される。」
「え、マジでか?それは便利だなぁ。」
「……鍛練バカ……それと、そろそろ朝なので起きた方がいいですよ?うるさいオバサ……お母様が起こしに来られます。」
「今さらっと毒吐こうとしたな?まぁいいや、これからも頼むわ。メルト。」
そう言ってタイガは眠りから目を覚ました。
その後、タイガは母クラウディアと共に黒の城に向かい、そこで囚われていた民達を助けた。幸い誰1人怪我も死人も出てはいなかったが、タイガは助けられなかったことに対して、深く頭を下げた。
その姿に戸惑いながらも、タイガの謝罪を受け入れてくれた民達に感謝し、共に頑張っていくことを誓ったタイガであった。
その後、タイガは兵達と共に壊された町の復旧作業をしていた。民達と一緒に汗を流し、新しく直していく事が楽しくなっていたのである。
「ふぅ。こんなところかな。さて、みんな!飯にするぞ!一旦休憩だ!」
「「「分かりました!タイガ様!」」」
兵達との修繕に1度休むように伝えると、タイガは手作りの握り飯と肉の入ったスープを兵達や民達に振る舞った。
ベルセルクの世界で、散々料理をやった為か多少の料理なら作れる為、兵糧などの管理にも携わっている。
そんな、タイガの下を訪れていたアリシアが現れた。
「張り切っているな。タイガ。」
「あぁ、アリシア。おっす。」
「これは……なんだ?」
アリシアは見慣れない白い三角形の食べ物を指差した。
「おにぎりだよ。色んな具が入るから便利なんだ。因みにこれは鶏肉を揚げたものを入れたんだ。」
「そうなのか?それより、今話せないか?少し話したいのだが。」
「ん?あぁ、良いぜ。」
その後、タイガは工事を一区切りつけ、用件の記された手帳を見るが、すぐにアリシアの待つ庭園に向かい、そこで侍女が淹れてくれた茶を飲みながら雑談をしていた。
「じゃあ、タイガは子どもの頃には既に旅をしていたのか?」
「あぁ、すごい楽しかったぞ。野宿したり、知らない土地に行ったりしたんだ。見たことのない物ばかりだった。」
「そうなのか。しかし、よくご両親が許したな。」
「渋ってたけどな。まぁでもそのお陰で旅に出れてみんなにも会えた。あ、そろそろ行かねぇと。」
タイガは何かを思い出したのか、席を立ち上がる。
「何処か行くのか?」
「あぁ。実はカグヤが話があるって行ってたから今から行くんだ。」
「そうか……気を付けてな。」
複雑な思いを持ちながらも、アリシアは微笑んだ。
「あぁ。んじゃ行ってくる。」
そう言うと、タイガは3の砦へと向かっていき、残されたアリシアはため息を吐いて俯く。
「タイガの奴、私とお茶している時にあんなこと言わなくてもよかったのに……(しかし、何なんだ?この胸に広がるモヤモヤしたものは?)」
アリシアが悶々とした思いを抱え頭を悩ませている中、空を見上げる。彼女の頭の中には、パラサイトエンペラーと戦っていた時のタイガが強く残っていた。
苦戦しながらも楽しげに笑みを浮かべてタイガ、その姿にアリシアは目が離せず、戦っていた彼の姿をじっと見ていた。
その後、穏やかに笑うタイガにアリシアは胸を高鳴らせ、そこから彼女はタイガの顔をまともに見ることが出来ずに戸惑う日々が続いていた。
「(タイガ……あいつの顔を見ると胸が熱くなる。いったいどうしてしまったんだ……。)」
「あら、アリシアさん。」
「!?せ、セレスティン様!クラウディア様!」
突然現れたセレスティンとクラウディアに驚き、膝を付いて頭を下げようとしたが、それはセレスティンに止められる。
すると、クラウディアがアリシアに質問をした。
「アリシアさん、タイガを見てないかしら?ちょっと用があるのだけど。」
「タイガでしたら、今さっき3の砦に向かわれました。何でもカグヤ殿が話があるとかで。」
「そう。分かりました、ありがとうございます。」
「あ、あの!」
立ち去ろうとする2人にアリシアは、席を立って2人を止めた。この事が後にある出来事を招くのであった……。
~~~。
一方、タイガは馬車に乗って3の砦に来ており、目の前にあるのは、カグヤが住む城なのだが1の砦の城とは違う造りをしており、まるで神殿のような形をしていた。
「(どうやって建てたんだ?)」
そんな事を考えつつ、階段を登り扉に手をかけた時だった。
「待て!」
背後から女の声が聞こえ、振り返るとそこには赤い着物に褌と足袋というカグヤと同じ格好をした数人の女性が立っていた。
「(この世界の巫女って、コスプレみたいだな。)」
すると、リーダーらしき短髪の女性が前に出た。
「貴様、何者だ?ここに何の用だ?」
「あ?俺はタイガ、タイガ・レーヴァンタイン。カグヤに呼ばれてきたんだが……カグヤはいるか?」
「タイガ、レーヴァンタイン……だと。」
タイガの名を聞いた者達は、急にざわつき始め、タイガよ首を傾げる。
「少し待て。」
巫女はそう言うと、建物の中に入っていき、しばらくするとタイガに近付く。
「カグヤ様がお呼びだ。すぐに来い。」
「おう。んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ。」
タイガは階段を上がり靴を脱ぐと、神殿の中に入っていった。神殿の中は木造で、外とは違う造りになっていた。
「どうぞ、楽にしてください。」
「ありがとな。」
タイガは胡座をかいて座り、カグヤは上座に正座をした。すると、以前にタイガの前に現れたイカルガがお茶をもって現れた。
「久しぶりだなカグヤ、あのあと大丈夫だったか?」
「はい。おかげさまで傷もありません。」
「そうか。そいつは良かった。」
「タイガさんこそ、無茶をし過ぎですよ。怪我で済んだから良かった物の一歩間違えば死んでたかもしれないのに。」
「無茶と無謀は戦術なもんでな。止めるにやめられない。」
ケラケラと笑うタイガに、カグヤは微笑みながら目を瞑る。
互いに茶を啜った後、タイガは早速本題に入った。
「んで、カグヤ。用件はなんだ?」
「……タイガさん。我がカミは貴方がリューマという侍から受け取ったという刀について、教えていただいても?」
「ん?良いぞ、ほらこれがその刀、秋水だ。」
カグヤは秋水を受け取り、鞘から抜くとその黒い刀身を見て、何かを思ったのか目を瞑りタイガに返す。
「黒刀、でしたか。」
「ん?黒刀を知ってるのか?」
「はい。私の先々代……祖母がその刀と同じものを使っていたと聞き及んでおります。」
「何だと……?!」
カグヤの言葉にタイガは驚いた。
黒刀がこの世界に有ったということを始めて知り、驚いていた。
「なぁカグヤ、お前のその先々代の巫女長さんはこんな風に腕を黒くできたのか?」
そう言ってタイガは武装色の覇気で腕を硬化させる。その腕を見てカグヤは首を横に振った。
「いえ、私も祖母から聞いたので詳しくは。ただ未来を見ることが出来、人の心を読むことが出来たらしいです。」
「そうか……なぁ、他に何か聞いてないか?」
「すみません、私も詳しくは聞いていないんです。何せかなり昔の事でしたので。」
「そうか。ありがとうな、カグヤ。また何か思い出したら話してくれ。」
そう言うとタイガは少し寂しげに、1の砦に戻っていった。
一方、カグヤは立ち上がると窓から歩いていくタイガを頬をほんのり赤く染めながら眺めていたのだった……。
〜〜〜。
タイガさん、ご無事で良かった……。
あの虫と戦うタイガさんの姿、以前に見た彼のままでした。
勇猛で、危なげながらも誰かを護ろうとするあの姿……やはり惹かれてしまいます。
あの日、まだ私が巫女としての大切な事を学んでいた時、彼と初めて出会い、手を握ってくれたタイガさん。
あの時の笑顔は、とても暖かく感じました。
何より、初めて同い年の彼に手を握られた時は何だか胸がドキドキしました。
「タイガさん、また会いたいです…♡」
また、いつか……。