拘束されたマイアを助けたタイガは、目の前にいるヴォルトを見ながら刃を向けている。彼もヴォルトが生きていることに内心驚いていた。
タイガは視線を外さずに、横抱きにしているマイアに質問した。
「遅れてごめん、マイア姉。無事だよな?」
「タイ、ガ……。」
「遅くなったところで悪いんだけどマイア姉、アイツってヴォルトだよな?何で生き帰ってるんだ?」
「さ、さぁね。アタシもなんで生きてるのかは分からないけど……その、タイガ?」
「ん?あぁ、ごめん。今降ろすね。」
タイガがマイアをゆっくりと降ろすと、彼女は少し名残惜しそうに立ち上がり、タイガから上着を渡される。
「それ羽織ってて。目のやり場に困る。」
「あ、あぁ。ありがとう……。」
上着を受け取ったマイアはそれを着ると、その場から離れると肩で息をしているヴォルトを見る。
そう訪ねると、ヴォルトは薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「久しぶりだな、小僧?お前のおかげで奉仕国家は潰れ、部下は殺され、俺の面子も潰れた……その礼をさせてもら、ぞ!」
凶悪な笑みを浮かべながら、こちらに向かってくるヴォルト。しかし、奴は剣ではなく腹から腕を伸ばしてきて、その腕には全て剣が握られており、こちらに向かっていた。
「ひゃあぁははははっ!誰がお前なんかとまともにやりあうか!!串刺しになって、無様な死体を曝せ!!」
「……だと思ったよ。」
ズバッ!ザンッ!ズバババァァァッ!
見聞色の覇気をフル回転させて、すべての攻撃を回避し、伸びてきた腕を切り裂く。あとで火で消毒しないと……。
「なぁっ!?お、お前!!?」
「これで詰み……ふっ!!」
「「っ!?」」
ズバッ……ボトボトボトボトッ。
マイアに背後から迫っていた触手を切り裂く。
その先端には針のような物が着いており、明らかに何かを注入する類いの形をしていた。
それを踏み潰すと、俺はヴォルトの方を見る。
「お前……何処まで戦を汚す気だ?多少なりともプライドはあるだろう?」
「プライドぉ?はっ!そんなもの犬にでも食わせておけ!戦いは勝てば良いんだよ。どんな手を使おうが、最後に勝った奴が正義だ!」
「はぁ……。」
俺はため息を吐いて空を見上げた。
こいつは、俺が見て来た中で最低クラス……。
こいつ、ガッツに似てるけど心根が腐ってる。多分こいつが人間だった頃に戦っても勝てたと思う。
何よりボスコーン、ゾッド、他にも色々なやつと戦ってきたが、こいつは同じ黒犬を率いていたワイアルドよりもくそ野郎だ。奴も大概のくそ野郎だったが……。
そう考えると、自然と口元に笑みが溢れてくる。
「……ははっ。はははっ、はははははははははっ!」
「どうした?気でも狂ったか?」
「いやぁ。やっぱし殺すならお前みたいな奴がいい。すげぇ気兼ねせずに殺せるからよ。」
「ガキが……!調子こいてんじゃねぇ!!!」
タイガの言葉に苛立ったヴォルトが腕を大量に伸ばして、タイガに襲い掛かるが、その全てを避けつつ秋水て切り飛ばしていく。
「くそっ!?なんで当たらねぇ!?」
「(右、右下、左上、真下、真上、正面……攻撃の流れがよく分かる。鷹の目よりも遅い!)」
タイガは以前の戦いで見た鷹の目からの攻撃と比べて、迫ってくる攻撃を予知でき避けていった。そして、タイガ自身も大技は出さずに、秋水を振る際の力の入れ方を理解し始めた。
「よしまずは……鷹波!」
「ぐうっぅぅぅ?!」
「閃、登楼、砂紋!」
「ぐばぁ!んぐぁ!?ぐひぃ!?」
「虎狩り!……七十二煩悩鳳!!」
「ぐぼあぁぁぁぁ!!?」
ズゴォォォォッと、凄まじい斬撃のを飛ばしヴォルトを吹き飛ばすと、秋水をしまって剃で近付き、武装色の覇気を纏った流水岩砕拳を放つ。
「あくっ!?ぐはっ!?げばっ!!?アガガガガガ!?」
「おらぁ!!」
連撃のラッシュの追い打ちとばかりに、武装色を纏った拳でヴォルトを殴り飛ばしたタイガ、すでに虫の息のヴォルトだった。
そんなヴォルトに対して、タイガは回復魔法をかけた。
「なっ、なんのつもりだ?」
「俺さ、お前がマイア姉に言ってた事に対して、色々言いたい事があってな。それに対して、ちょっとばっかしキレてんだわ。」
「俺の言ったことだと?」
「あんた、マイア姉に便所だとか商品だとか色々言ってたよな?お前は人をなんだと思ってるんだ?」
そう言った瞬間、タイガの身体から覇王色の覇気が溢れ出し、その覇気に砦の中にいた者達の大半は気を失った。しかし、ヴォルトは気を失えなかった。
己の中にあるプライドが、目の前にいる男に反抗している。その一方で身体の方は恐怖で足元がガタガタと震えており、目には恐怖の色が浮かんでいる。
心と身体でバランスが取れず、ヴォルトは口から泡を吹き始めていた。
「覚悟はできてるんだろうな?」
「く、くひぃぃぃぃ!?た、助けてくれ!?俺はもう、抵抗しない!!お、お前も騎士の家系なら、そんな奴は殺さないだろ!?」
「……お前、何言ってんの?」
「へ……?」
「あれだけ散々好き勝手やって、民にまで手を出して、挙げ句の果にマイア姉に巫山戯たことを吐かしたんだ。生きて帰れるわけ無いだろ?」
そう言って秋水を向けたタイガ、しかし、すぐに鞘に収めて後ろを振り返った。
「だが、あんたが二度と悪さにしないって言うなら、ここで見逃してやる。さっさと失せな。」
「っ!?」
そう言ってヴォルトに背を向けて歩き出すタイガ。その様子がヴォルトのプライドという炎に大量の油を注いだ。
「……るな……。」
「……。」
「俺を…!コケにするな!!見下すんじゃねえぇぇぇ!!!?」
そう言って足元に落ちていた大剣を拾い上げ、タイガに襲い掛かろうとしたがその瞬間、タイガは秋水を抜いて振り抜きざまに大剣を切り裂く。
「そうだろうと思ったよ。このまま潰れろ。」
そう言うとタイガは右手をヴォルトに突き出して、魔法を放つ。
「ブラックホール。」
静かに拡がる黒い闇にヴォルトは飲み込まれていき、最後には姿形も無くなり、その様子を見ていたマイアや兵士達、そして民達は言葉を失い、呆然と見ていた。
「た、タイガ。アイツは、ヴォルトはどうなったの?今のは?」
「今のはブラックホールって魔法で、簡単に言えば真っ暗な闇の中に引きずり込んで潰して焼いて殺す魔法。魔力の消費が激しいから1回しか撃てないけど。」
「へ、へぇ?アタシにはよくわからないけど、何となく凄いってのは分かったよ。」
「うん。マイア姉、遅くなってごめん。砦の修繕やらは俺が持」
そう言おうとした時、タイガはマイアに抱き締められた。
「ま、マイア、姉?」
「そんなのまで無理しなくていいよ。アタシ達で何とかするから、あんたは休んだ方がいいよ。」
「ありがとう……あの、マイア姉?そろそろ離してくんない?みんな見てるし。」
「何だい?恥ずかしいの?子どもの頃は夜一緒に寝た事もあったのに。」
そう言いながら笑うマイアのその笑顔は優しかった……。
その後、タイガは身体を休めるために4の砦にて休む事にした……。
〜〜〜。
眠りについたタイガ、しかし、そんな中で黒の城の月光の前に1人の人物が立っていた。
「やぁ、来てくれて嬉しいですよ……グラーヴ将軍。」
「……。」
嵐が迫っていた。