黒の城の地下牢獄、その中でも一段と広い牢屋の中には囚えられたオリガ、マイア、クロエ、クラウディア、セレスティンが鎖で繋がれている。
彼女達はタイガ達が月光の兵達と戦っている間に、月光の策によって捕えられ、この城に連れて来られていた。その際にクラウスは別の牢に入れられ、クラウディアは夫の安否と息子の無事を祈っていた。
そんな中でクラウディアは自分達を捕えた者達を見て、驚きで言葉を失った。その者達はレーヴァンタイン家の下男達であり、彼らは自分達を移送中に尻や胸を揉んできたが、何かを恐れたのかそれ以上はして来なかった。
そして暫く目隠しをされたが、黒の城に着いた時に目隠しを外され鎖に繋がれて今に至る。
そんな中、クラウディアがセレスティンに対して口を開く。
「セレスティン様、御身をお守り出来ず申し訳御座いません。こんな情けない姿を晒して、なんと、なんと詫びれば」
「クラウディア、貴女は必死に私や皆を守ってくださりました。そんな貴女を責めはしません。今は救援が来るのを待ちましょう。」
セレスティンのそんな言葉に対して、オリガは溜息を吐く。
「温いモノじゃのう。奴らが妾達を縛ったままにしておくと思うか?奴らにとってみれば妾達は、人質であり餌じゃからな。」
「まぁ恐らく嬲るだろうね。アタシ等はともかく女神様を前にしたら、男は我慢できないだろうし。」
マイアがケラケラ笑いながらそう言うと、クラウディアがキッと睨みつける。しかし、そんな視線を受けても、マイアはケロッとしており、どこ吹く風の様な態度である。
クラウディアは未だにオリガ、クロエが信用出来ずにいた。オリガとクロエは黒の女王とその騎士という事もあって、心の底では信用出来てはいなかった。
そんな中で人の足跡が聞こえ、セレスティン達が外を見るとそこには会いたくない4人の男たちと月光がいた。
「これはこれは、裏切り者の大司教様に将軍様、それと日和見だった貴族様に、あと……誰だっけ?」
「がくっ!?ぼ、僕を忘れるなよ!?ミシェル!ミシェル・パンティエール!?」
「ミシェ……あぁ、あの時のボンボンか。」
やっとミシェルの事を思い出したマイアは、はぁ、とため息を吐き、クロエが訪ねると彼女はやれやれと言った様子で答えた。
「昔護衛してた変態貴族様さ。あたしは興味なかったのに、しつこくてさぁ。ある日、ボクの物になれ!とか言ってきたから平手してバイバイしたわけ。」
「あ、貴女とんでもないことした訳ね。貴族のご子息を殴るなんて。」
「だってコイツ、アタシのタイプじゃないのよ。弱いくせに態度デカイし。」
ケラケラと笑うマイア、しかしそんな中でクロエは目の前の老人から目を背けていた。
「おい、あの爺さん知ってるの?誰あれ?」
「……サー・ジョン・マンデヴィル、私を買った奴だ。」
「え?あんた、奴隷だったの?」
「そうだとも。その女ではなく私がクロエの本当の主だ。子供の頃に散々教え込んだ筈だがな。」
マンデヴィルの言葉にクロエは、目を見開いて反論する。
「違う!!私は、私はオリガ様の騎士だ!!私はお前の愛玩肉奴隷ではない!!」
「うわマジで?引くわ~。」
「なんと言う事を。マンデヴィル卿あなたまでそのような!?」
「……全て月光から聞いている。その忌々しいダークエルフの雌などに汚されているとは、何と可哀想に。この戦争の後、その雌も七盾の奴等や民も皆殺しにせねば。」
「っ!?ふざけるな!!貴様、必ず殺してやる!!」
クロエは鎖が千切れんばかりにマンデヴィルに噛みつくが、等の本人は何処吹く風と言った様子で恐れてすらいない。
そんな中、ミシェルが今度は口を開いた。
「ぼ、ボクはマイアさえ手に入れば良いんだけど。」
「あんたみたいな奴の物に誰がなるかっての!アタシはアンタみたいな豚に興味ないっての!」
「……埒があかないな。月光よ、頼んでいたあれはあるか?」
「勿論。」
グラーヴが訪ねると月光は、マンデヴィルにある物を差し出した。それは細い首輪であった。
「これは?」
「奴隷化の首輪。装着させた相手を思いのままに動かせる道具だ。使ってみるといい。」
「これはありがたい。では。」
「や、やめろ!近付くな!?」
嫌がり暴れるクロエだったが、マンデヴィルに対する恐怖からか抵抗しようにも身体は動かず、奴隷化の首輪を填められてしまう。
すると、クロエはガクンと俯く。マンデヴィルは彼女の鎖を外すと、彼女はまるで糸が切れた人形のように座り込んでいた。
するとしばらくして、クロエは立ち上がるとマンデヴィルにすり寄っていった。その姿は先程と打って変わって猫のようであった。
「クロエ!クロエ!?しっかりせぬか!」
「マンデヴィル卿!?このような非人道的な事、許されませんよ!?」
「クラウディア、貴様らは自身の心配をせぬか。お前たちもこうなるのだからな。」
「お義父様!?なぜこのようなことを!?この様な事、なんの為にするのですか!?」
「決まっているであろう。名門レーヴァンタイン家の為、そして、その血を残すためにお前には儂の子を産んでもらう。種無しの息子ではなく、我が子がレーヴァンタイン家を継ぐのだ。」
「そんな、お義父様……目を、目を覚まして……!」
「セレスティン、貴様も我が傀儡となってもらうぞ。そのダークエルフの女王共々我が奴隷としてやる。」
「ま、マイア。覚悟するんだな!」
ジリジリと躙り寄るグラーヴ達。本来であればクラウディアは泣き叫びたかった。愛する夫と息子を侮辱され、変わってしまった義父に泣きながら暴言を吐きたかった。
しかし、縛られ何もできない自分が情けなかった。
そんな中、オリガが笑みを浮かべた。
「ふふっ。ふふふっ……。」
「何がおかしいんだい?黒の女王様?気でも狂った?」
「いや何、うぬ等の頭の中身がない事に、ちと笑ってしまってな。」
「なに?」
「うぬ等は気づいておらぬのか?妾達を攫ったのならば、それを奴に気付かせぬほうが良かったのではないか?奴を、タイガが怒ればどうなるであろうな?」
「貴様、何が言いたい?」
オリガが何を言いたいのか分からないグラーヴは、彼女に質問したが、オリガは構わず続けた。
「タイガ、あやつはすでにこちらに向かってきている。恐らく怒り心頭であろうな?奴は仲間等は大事にするだろうが、敵にはどう出るであろうな?」
「タイガが来たところで、何ができる?ここに来るまでには儂の家臣達や部下達が居る。それをすべてどうや」
グラーヴが続きを言おうとした瞬間、背後から爆音と悲鳴が聞こえ、全員が振り返ると金を握らせ、自分達の仲間にした下男の首を掴みながら、月光達を睨むタイガとその背後には救出されたクラウスがいた。
「あなた!タイガ!」
「みんな、遅くなって悪い。」
「凄いね。ここまでたくさん兵士がいたはずだけど?その人達はどうしたの?」
「全員倒してきたよ。ん?」
「侵入者か……丁度良い。クロエ、あの小僧を殺せ。七盾の奴等の良い見せしめだ。」
「はい。ご主人様。」
マンデヴィルがそう言うとクロエはゆっくりと立ち上がり、黄泉閊から渡された2本の双剣を受け取り構える。
「クロエ!?お前何やってんだよ!」
「クロエ、殺せ。」
「はい。」
マンデヴィルの言葉にクロエは返すと、タイガに向かって斬りかかり、タイガはそれを驚きながらも受け止める。
「てめぇら!クロエに何しやがった!?」
「その半端者のダークエルフは、すでにこっちの味方だよ。まぁ頑張って何とかしてね♪」
「くっ!?クロエ!止めろ!!?」
タイガの叫びにクロエは反応することはなかった。クロエは光の無い目をしたままタイガに切り掛かり、彼はそれを流すことしか出来ずにいた。
「クロエ止まれ!分からないのか!?」
「……。」
「ちぃっ!?」
クロエの双剣術、それはタイガが教えた物であり、彼女の本来の技は鋭く相手を殺すのだが、今のクロエの攻撃はただ相手に当てるという物であり、それ故に荒かった。
「くそっ!止めるのは簡単だけど、クロエを傷つけるなんて出来るかっての!?」
そんな中、タイガはマイアとセレスティンに首輪のような物を持って入るミシェルと大司教を見て、剃で近付き、その腕を切り落とす。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」
「う、腕がぁぁぁ!!?」
「俺の仲間に何してんだてめぇ!!」
腕を切り落とされた事で悲鳴を挙げるミシェル、そんな中でタイガはマイアの腕に鎖を切り落とすと、ニヤニヤしている月光から離れるスキに分身を作り、セレスティン達を助ける。
しかし、そんな彼らを守るように立つクロエを見て、タイガは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「くそっ、どうしたら……。「タイガ、ちょっといい?」なにマイア姉?」
「あのクロエって奴は、あの首輪で操られてるんだ。あの爺さんが填めてからあぁなったんだ!」
「え?!そうなの?」
「あぁ、この目で見たから間違いない!」
マイアからの言葉にタイガは頷くと、クロエに向かって駆けていきクロエが剣を一閃する瞬間に、月歩でそれを避けて、三角飛びと剃刀を併用してクロエの背後に立つとそのまま首輪だけを破壊する。
いや、破壊しようとしたが寸での所で足を止めて後ろに飛び退く。
「!?」
「タイガ、何で攻撃を!?」
「この首輪。破壊できないようになってるな?」
タイガの質問に、月光はニヤニヤと笑いながら答えた。
「正解だよ。その首輪は破壊出来ない。無理に壊そうとすれば、装着者を殺す。まぁ手がない事もないけど「なら、簡単だ。」え?」
タイガはそう言うと、マンデヴィル、ミシェル、大司教、グラーヴ、月光に向かって斬りかかる。月光とグラーヴ以外の2人はその斬撃を受けて絶命する。
するとクロエは、マンデヴィルが絶命した事によって首輪が外れ、その場に倒れそうになるがタイガは抱き止めるとオリガに彼女を預けて、月光達の方を見る。
「さぁこれで残りはアンタらだけだ。どうする?まだやる?」
「ふっ、やるね。たっぷり楽しめそうだが……ここは彼に譲るよ。若返りホルモン。」
そう言うと、月光は右手人差し指の爪を針状に伸ばすと、それをグラーヴに向かって刺した。
「ぐっ!?な、何を……ぐっ、お、おぉぉぉぉぉ!?」
叫び声を上げながら悶苦しむグラーヴ。
そんな彼の身体は徐々に若返っていき、ざっと20代前半位にまで戻っていき、若々しさと力強さに溢れていた……。