その郷は魔術を志す者たちが目指す地とされている国であり、世界の魔術師が集まる国とされている場所である。そこはまさに、“魔術師の魔術師による魔術師のための郷“。
そここそが"キミア魔法士団領"である。
深い山間の谷の底にあるこの郷は、陽の光も差さないほどに薄暗く、郷に辿り着くのさえ困難な立地に加えてさらに、魔法による結界によって他国(主にアルファディオス)からの武力干渉を跳ね除けてきた。
過去に郷を"追い出された者"と郷を"捨てた者"がいたが、それ以外のキミアの魔術師達は、結界に護られた郷の中で世界の真理に至る為の研究に勤しんでいる。
「おっ、おぉぉぉぉ!!!」
そんなキミアの郷に辿り着き、目を爛々と輝かせているタイガを見て、アストリットは意味が分からずに首を傾げていたがそれ以上にタイガはまるで新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせていた。
「す、スゲェ!!ここがキミア魔法師団領!魔法の国か!」
「ここでは魔法の発明や魔術師の育成、魔術の道具の材料を作ったりしてるのよ。それにここには「うぉ!!これでっけぇ窯!なにやってんだ!?こっちの箒は空を飛ぶのか!?」こ、こら!?勝手にウロウロしないの!?」
まるで子供のように走り回るタイガに、アストリットはアタフタしながらも後を追い、なんとか彼を落ち着かせる。
「くぅ〜!どれもこれも俺の知らない事ばっかりで楽しい!!魔術師の郷最高だ!!」
「あのねぇ、そんなに子供みたいに騒いで喜ぶのなんて貴方くらいよ?」
「何でだ?こんなに楽しい国に来たんだぜ!楽しくなってしょうがないだろ!」
心の底から楽しそうに笑いながらそういうタイガに、アストリットは苦笑すると、俯いて呟いた。
「…貴方くらいよ。この国が楽しいなんて、"あの人"はこの国を捨てたのに……。」
「?あの人って?」
「あぁ、こっちの話よ。それより宿に案内する前にお師匠様に会ってもらいたいの。それから宿を紹介するわ。」
「お師匠様ってどんな人?」
「この郷の長でグランドマスターと呼ばれている方よ」
そう言うとアストリットは、タイガを自身の師であるグランドマスターと呼ばれる人物のいる場所へと向かった……。
〜〜〜。
一方その頃、アルファディオスの謁見の間。
そこでは五神将の面々とディレク・ロンドによる会議が行われていたがその会議も終わった時、帝はシュタインに話しかけた。
「シュタイン。」
「?何用か、主よ。」
「実はさぁ、ある国に行ってちょこっと突いて来てほしいんだ。」
「何処か?獣か?忍か?騎士か?」
「お前の生まれ故郷、キミア魔法師団領だ」
その名を聞いた瞬間、シュタインは帝の方を向いて溜息を吐いた。その様子を全員は静かに見ているだけであった。
「陛下よ。それは何故?」
「別に?たまには故郷の様子でも見てくるがてら遊んでこいって言ってるだけだよ。それに妹さんにも会ってきたらどうだい?」
「……。」
帝の言葉に黙り込んでしまったシュタイン。
すると、ディレクが立ち上がりシュタインに話しかけたのであった。
「おいおい、陛下がこう言ってるんだ。五神将として従わないといけないんじゃないか?まぁお前は国を"捨てた"身だ。いやと言うなら俺が「ディレク。」何でしょう陛下?」
「俺はシュタインと話してるんだ。お前は引っ込んでろ、てか消えてくんない?」
「っ!?は、はっ。」
帝から睨まれ、その場に膝を付き俯いたディレクは廊下に出る。その血走っており、悔しそうに歯を食いしばっていた。
「それで、どうする?シュタイン。」
「……御意のままに。我が神よ。」
シュタインはそう言うと、謁見の間を出てキミアへと向かうと帝は楽しげに微笑むのであった。すると、宝瓶のハリベルが口を開いた。
「宜しいのですか?陛下、シュタインは故郷を。」
「大丈夫。彼は俺に忠誠を誓ってるからな。ちゃあんと突いて来てくれるよ。」
そう言う帝の笑顔は子供のように楽しげであった。
そして帝から"キミアを突いてこい"と言われたシュタインは、自身が保有する絨毯のような魔導具に乗り込むと、ドカリと座り杖で絨毯をトントンと叩くと、絨毯は宙に浮かび上がった。
「行くか。キミアまで翔べ。」
絨毯はシュタインの声に反応すると、そのままキミアへと向かって飛んでいき、キミアの存在する山間の上空に到着すると、空から自身が"捨てた"故郷を見下ろす。
「相変わらずカビ臭い国だ。まぁいい、ちょいとばかし突くか。」
シュタインは杖を高く掲げると、紫の魔法陣を展開した……。