運動場に着くと、人々が土まみれになりながら敷地外へ逃げ出して来るのが見えた。中には傷だらけになり、何事か叫びながら走っている人もいる。
場内へ視線を移すと、その場に不釣り合いに巨大な樹木群がまるで生き物のようにうごめいていて、おびただしい数の太い根が土から這い出て波打っていた。根に叩きつけられた地面からは土埃が舞い上がり、一帯がもやが掛かったように黄色くなっていた。
およそ、ありえない光景が広がっていた。
パトカーや救急車のサイレンが近付いてきている中で、烈と蒼矢に葉月が合流し、三人はいたって冷静に惨状を見る。
「蒼矢、[侵略者]の気配は?」
「…わかりません。こんなに[異形]がいるのに…」
「考えててもけが人が増えるだけだ、移動しようぜ」
烈の一声に二人は呼応し、胸元のペンダントを手に取る。それぞれの手に握られて、ペンダントトップにはまった鉱石が、光を増す。
次いで一瞬空間が暗転し…人々の前にはめくられた地面と瓦礫だけが残された。
『転異空間』――そう呼ばれる、『現実世界』とは隔絶された空間に降り立った三人は、同じく転送されてきた[異形]達…うごめく巨木の大群を前にし、戦闘態勢を取る。
転異空間に転送してくると同時に戦闘スーツに身を包んでいた三人は、銘々の専用装具を呼び出す。
『ガイアセイバーズ』――現実世界の誰にもそう呼ばれたことはないが、それが彼らのもう一つの名である。
現実とは別の世界線からなる[異界]から、征服あるいは略奪目的でやってくる[侵略者]達と、その手足となる[異形]の侵入をいち早く察知し、それぞれが所持する鉱石を起動装置として『転異空間』を造って[彼ら]と自らを送り、現実世界と異界の狭間であるその空間で対峙する。
彼らが転異空間に[異形]と呼ばれる巨木を転送することで現実世界からは消えて無くなり、その時点で侵略によるダメージを打ち消すことが出来る仕組みだ。
あとは
突如場所を移された巨木達はどよめき立ったが、すぐセイバー達へ焦点を合わせ、根をうねらせながら接近し始めた。
すぐさま葉月――セイバー『エピドート』が、斧槍の装具『
巨木らは自らの枝をねじ切ると槍のように構え、一斉にセイバー達に浴びせかける。しかしエピドートの厚い風の前に跳ね返され、上空へ巻き上げられ粉々に飛び散っていく。
「弱点属性は、多分"炎"だろうな。相性バッチリだぜ」
そして暴風壁から勢い良く飛び出した烈――『ロードナイト』は、両手に構えた太刀の装具『
その間、エピドートの後方に立っていた蒼矢――『アズライト』は、短剣の装具『
もはや山火事のようになっている巨木の異形達は、のたうちまわりながらもわずかに残る防衛本能から、アズライトへの妨害行動に焦点を絞ろうとしていた。燃え残っている根を地中からまっすぐアズライトの真下へ伸ばしていく。
「! アズライト、そこから離れるんだ!」
地の揺れに気付いたエピドートが叫んだが、ほぼ同時にアズライトの足もとが盛り上がり、噴き出た無数の根が身体を空中に絡め取る。
「っく…」
硬い根に全身を締め上げられ、アズライトの顔が苦痛に歪む。
「アズライト!!」
「ロード、動くな!」
アズライトの窮地に、思わず前方から戻ろうとするロードナイトを、エピドートが鋭く制する。
「…ろ」
「!」
アズライトが、声を振り絞る。
「…中心の…
「…! 了解!!」
そのかすかな声が頭の中に届き、ロードナイトが最高火力をもって巨木に急接近する。
思い切り放たれた『紅蓮』が、網の目状に広がる大量の枝の間を巧妙に縫い、巨木の洞を次々に貫いていく。そして、群れの最奥に位置していた巨木へ見定めたロードナイトは、その中心にある一際大きな洞めがけて跳躍し、渾身の炎拳を叩き込んだ。
そのままの軌道で着地したロードナイトの背面で、巨木の[異形]達は爆散した。同時に、アズライトにまとわりついていた根も消し炭となって散り、解放されて地面に落ちるところで、真下に控えていたエピドートに抱きとめられる。
ロードナイトもすぐさま二人の元へ戻り、エピドートの腕の中に横たわるアズライトへ駆け寄った。
「アズライト!」
「…悪い、油断した。エピドート、毎回すみません」
「いや、良くやってくれた。…お疲れ、防衛成功だ」
エピドートはそう二人に声掛けし、にっこり笑う。
「帰ろう、現実世界に」
現実世界に戻り、三人は改めて運動場を眺める。
怪我人などの搬送も終わっているようで既にひと気は無く、敷地内は非常線が張られ立ち入り出来なくなっており、重機が投入されてがれきの撤去が始まっていた。
少し前この場に『転異空間』が造られ、そこで起きたことは、誰も知らない。
[異形]達を殲滅したことで『現実世界』での脅威は無くなったので、セイバーである彼らの役目はひとまず終わっている。事後処理は専門機関に任せればいい。
気がかりなのは、目に見えて実際撃破できたのが[異形]だけだったことだ。
蒼矢は、何かに感覚を巡らすように、周囲を見渡す。
「結局、[侵略者]は姿を現さなかった。…この件はこれで終わらないと思います」
「…そうだね。しばらくこの辺りを警戒した方がいいかもしれない」
「了解」
葉月と烈が呼応し、頷いた。