the abyss of despair〜R18&if話置き場 作:佐谷莢
ジェイドのアレをしゃぶってるだけ。
「……ときにスィン。私に対して詫びる気持ちはありますか?」
背を向け、仮眠を取ったかと思われたジェイドだったが。彼は唐突にむっくりと起き上がってスィンを見た。
「白状したからそれで勘弁してほしい、っていうのが正直なところですかねー」
「勘弁ならない──と言ったら?」
「……口封じ?」
ふう、とため息をつくジェイドに、彼女は冗談ですよ、と手をぱたぱた振っている。
「で、大佐は何をご所望で?」
「夜伽です」
彼は実にしれっと言い切ってのけた。
言われたスィンはといえば、半眼になってジェイドに視線を寄せている。
その彼女から、思いもがけない一言が発せられた。
「それでいいんですか?」
「おや、応じていただけるので?」
「夜寝ないで付き添うか、死人の傍で夜通し過ごすことでしょう。この場合は仕留め損ねたから、大佐の枕元で正座で徹夜しましょうか」
この年で徹夜は厳しいけれど、と嘯くスィンを、今度はジェイドが見つめる番だった。
この飄々とした調子。間違いなくジェイドの求めた意味は理解している。
「夜伽にはもうひとつ意味があるのですが」
「女が男の意に従って夜の共寝をすることでしたっけ」
「夜の共寝が何を指すものだと思っているんですか」
「寄り添って寝ることだと解釈しています。まあ僕の場合、大佐の添い寝なんかしたら朝には悶死してるんじゃないですかねー」
異性恐怖症なんでー、と締めくくるも、彼が納得している気配はない。
沈黙が漂う中、スィンはジェイドの挙動に注意しながらもひょい、と両手を挙げてみせた。
「わかった、わかりました。共寝も同衾も無理ですが、お詫びのご奉仕なら何とか頑張ってみますから」
そんな欲望にまみれた眼で自分を見るなと軽口を叩きかけて、抑える。
本音は、共寝──同衾はおろか、奉仕も願い下げだし、そもそも触りたくない近寄りたくない。
しかし素直にそれを告げて相手が引き下がるとは思えないし、下手を打てば襲いかかられるのではないかという危惧がスィンの中にはあった。
そんなことをされた日には本当に悶死してしまう。自信過剰かもしれないが、用心をするに越したことはない。
そこで、応じる素振りを見せてジェイドの出方を窺った。
これまでのやりとりで萎えてくれればそれでよし、応じるようなら──覚悟を決める。
問題のジェイドはといえば、呆れたように肩をすくめながら首を振った。
「やれやれ、まさかあなたがそれを言い出すとはね。拒んだところをお仕置きがてらと思ったのですが、まあいいでしょう」
何をしてくださるのか楽しみです、と。彼はあの胡散臭い笑顔のような表情を浮かべて促してきた。
萎えてくれなかったのは非常に残念だが、
しかしそうなると、スィンにも下準備が必要になる。
荷袋を探って取り出したものを手に、背中を向けた。
「じゃあしばしお待ちを。下準備するんで」
「?」
「あなたに触れることができるおまじないをね」
注射器に少量のアルコールを溜め、空気を押し出してから注射針を炙って滅菌消毒をする。
ジェイドに悟られぬ内に静脈へ注射し、血管内にアルコールを流し込んだ。
瞬く間に、意識に霞がかっていく。ふわふわとした高揚感に包まれながら、使用済みの注射器を荷袋へ押し込んだ。
──現時点ではガイしか知らないが、スィンは一口で言うと酒豪である。
度数の高い酒を流し込むようにしても、滅多に酔うことはない。
それでも微酔状態時において発見した事柄がある。
酔っ払っていると、感覚が鈍くなるのか、異性恐怖症は緩和される。男に接近しても素手で触れても、怖くなくなるのだ。
発見したはいいが、スィンが酔うこと自体は稀で。
てっとり早く酔うためには本来アルコールを吸収する胃ではなく、肝臓による解毒機能を介せず全身に巡らせればいいと学び、必要に応じてその方法を取っている。
すなわち、アルコールを直腸に流し込むか、皮下あるいは静脈に注射するか。
浣腸用具は持ち歩いていないにつき、今回は後者を選択した。
「お待たせしました~」
足元にだけは注意しながら、酒を飲んだのだと思わせるべくそれらしい口調、千鳥足を装ってジェイドの元へと戻る。
一瞬だけ漂ったアルコールの香りと、千鳥足で判別したのだろう。
彼はわずかに眉根を寄せている。
「おまじないとはそれですか。酔っ払いは嫌いなんですがねえ……」
「ん、やめます? いいですよ。襲いかかっても無理やりはできないでしょうし」
いいことを聞いた。それらしく振舞えば、奉仕もしなくて済むだろうか。
座っているジェイドに目線を合わせるべく、膝をついて覗き込むようにする。
視線が合ったその瞬間に、スィンは。
「っ」
薄い唇に、かすめるような口付けをした。
ジェイドは何も言わない。
「ふふふ」
意図的に笑みながら耳に唇を寄せ、軽く噛み付いて舌で舐め上げる。
軍服の上から股間に手を這わせば、彼は少なからず驚いているようだった。
「酔うだけでここまで変わりますか……」
「酔っ払いはお嫌なんですよねー残念ですー」
適当なことを言いながら梃子摺りつつも、どうにかベルトを緩めて下衣をくつろげる。
ちらりとジェイドの顔を見て、拒否を示さないことに少なくとも落胆して。そのまま彼自身を取り出した。
他の面々を起こさないよう、あらかじめ焚き火からは離れているため、光源がない。だから詳細はわからないが──少なくとも萎えているわけではなさそうだ。
そのことに、疑問を覚えざるをえない。
「……あれ?」
「どうかしましたか」
「い、いえ別になんでもー」
てっきりなかなかその気にならない彼自身に悪戦苦闘させられて、口ほどでもないと罵られて、有耶無耶の内に終了せざるをえなくなるのでは、と予想していたのだが。
手探りで撫でただけで、軽く勃ち上がっているように感じる。
棹の部分を握り軽く上下しただけで、かすかな吐息が聞こえた。
「……感じて、ます?」
「おや、言葉責めですか? 奉仕のふりした陵辱ですね」
なんか「けがされてしまいました……」とか呟いているようだが、おそらく意味合いが違う。
もう安易に話しかけるのはやめようと、腹をくくってかがみこんだ。
探り当てた亀頭を、おそるおそる舌先でくすぐる。
「っ」
裏筋を舐めるようにしながら、全体をゆっくりと口腔へ収めにかかった。
全体にかかる刺激に対してだろうか。本来の形を取り戻した陰茎を頬張るのは苦しく、零れかけた唾液をすすり上げた。
結果として、淫猥な音が口腔にて響く。
(あ、できるかも)
垂れそうになった唾液を飲み込むタイミングで、喉奥を突く亀頭も同時に呑みこんだ。
ブウサギの腸詰で練習したことはあるが、スィンはこれまで一度たりとも想い人の愛撫でこれを成功させたことはない。
しかし今回、大きさに個人差があったためなのか。喉の奥より先に、棒状が感じられる。
「スィ、スィンっ!」
ゆっくりと引き抜きかけて、また呑みこむ──それを幾度か繰り返して、変に切羽詰った制止に近い声音を聞き、中止させる。
ずるずるっと音を立ててこれまでねぶっていたものを吐き出し、息をつきながらも見上げた。
「どうかしましたか」
「いえ……」
「ひょっとして、達しそうになりました?」
返事こそないが珍しく息を荒げるその様子、まったくの間違いではないはずだ。だとしたら惜しいことをしたものである。
彼が満足したならば、『ご奉仕』も終焉を告げたというのに。
「我慢しなくていいのに」
「一体どこで、こんな技術を……」
「昼は淑女、夜は娼婦になるのがいい女の条件だと聞きまして」
できるようになったのはついさっきだが、そんなことを馬鹿正直に告げてやる理由はない。
唾液まみれになってしまった彼自身を、舐め取るように舌で丁寧に愛撫していく。
もう一度挑戦しようかとして、あえなく断念した。
先ほどの後遺症なのか、軽い吐き気を覚える。同じことをしようものなら、今度は確実に戻してしまうだろう。
「もう、してくださらないので?」
「──ええ、ちょっと間違えると戻しそうになるので。無理はしないことにしてるんです」
すでに剥けている亀頭に無理やり皮をかぶせて、尿道付近をくりくりと刺激する。
棹の手淫を合わせて続けながら、陰嚢を吸い込むように口に含んだ。
口の中で転がす暇はあまりなく、まるで空気でも流し込んだかのように膨らむそれを舌で弄ぶ。
「き……」
気持ちいいかを聞こうとして、やめる。また言葉責め扱いされても癪だった。
幸いにも、眼を閉じて男くさいため息をついているジェイドに文句はなさそうなので。手淫へ移行し、再び顔を出した先を咥えた。
結局、拒絶は聴けなかったな。
そのことをちょっと残念に思いながら、ちゅうちゅうと音を立てて吸い上げる。おそらく、先ほど男性自身を喉奥に送り込む性技──ディープスロートの影響だろう。
スィンが想像していたより遥かに早く、彼は限界に達した。
「スィン……っ!」
「んっ」
後頭部を抑えるように置かれた手を反射的にぺいっと払い、射精を促すように棹をさすり上げる。
口の中に広がる独特の苦さと栗の花に似た匂いに辟易しながら、即座にその辺の茂みにそれを処理すると、息を乱したジェイドの声がかかった。
「飲んではくれないんですね……」
「あ、はい。苦かったので」
甘かったら飲んでいたのかという質問は無視して、医療用の消毒液で湿らせた綿で口元を拭き、軽く口をゆすぐ。
同じように湿らせた脱脂綿を手渡すと、その腕をぐい、と掴まれた。
瞬間、掴まれたその場所から悪寒が走る。
「良かった、ですよ。お返ししましょうか、と言いたいところですが……」
「た、たた、タイムリミット、です」
出来うる限りやさしくその手を引き剥がして、距離を取った。
尻餅をつくような形になってしまったが、無闇に悲鳴を上げて彼らを起こすわけにはいかない。
「それにしても、アルコールを摂取した気配がないのに酔うとはどんなカラクリで?」
「摂取ならしましたよ、間違いなく」
そういやあそういうことにしてあったっけなあ、とすっかりはっきりしてしまった意識下でそれを思う。
同時に、先程までは、かすかでしかなかった感覚が、増大した。
「僕ちょっとお手洗い行くんで。見張りの交代はその後でー」
呼び止めるジェイドの声など聞かずして、スィンはその場から走り去った。
十分すぎるほど距離を取り、周囲をおざなりにだが警戒して、誰も何もないことを確かめてその場に跪く。
「うぷっ……ぇっ、げ……」
できそうだからと調子に乗って初めて成功させてしまった性技か、あるいはいつもは押し込めている彼への思いか。
まぜこぜになってしまって、スィン自身もよくわからない。
悠長にえづいている場合じゃない。早く戻らないと、と焦燥に駆られながら、彼女は自分の指を喉奥へ押し込んだ。
~次の日~
「スィン、体の具合はいかがです?」
「……持病のことをおっしゃっているなら、あなたの迷惑にはなりませんよ、多分」
いつになく馴れ馴れしいジェイドの態度に軽くうんざりしながら、ちらり、と早急な出立を訴えているルークを見た。
彼を見る──視界に収めるだけで、気持ちが瞬時に入れ替わる。
ふと視線を感じて振り向けば、その先にはジェイドとガイが仲良く焚き火の始末をしていた。
不気味な静けさを運ぶ風が、崩れた焚き火跡をがらりと崩す。
大罪は、もうすぐそこ。