the abyss of despair〜R18&if話置き場 作:佐谷莢
ヴァンに襲われているだけ。読まなくても、本編には影響ないはず。
多分無理やりなので、苦手な人はご注意を。
コンタミネーションによって顕現した手裏剣が翻る。
ヴァンの腕を引っかくようにして雫を滴らせた切っ先が、次は頚動脈を狙って突き出された。
人の身である以上首を狙われて防御もしない人間は少ない。まずは何が何でも距離を取ろうとスィンなら考える。組み敷かれていなくとも、接近戦──純粋な力比べでは彼女に分はない。
それを見透かした彼は、あえて何もしなかった。
迫る鋭利な刃物を意図的に無視して、小さな顔を両手で捕まえる。
垂れ気味の瞳が驚きに大きく見開かれ、それを正面から見つめながら、唇を重ね合わせた。
笹の葉を象った手裏剣が、予想よりも遥かに小さく首をひっかく。手首を掴んで捻り、それを手放させ。より深く彼女を求めた。
「ん、んっ」
首を振って逃れようとするのを、床へ押し付けるようにして固定し。がちん、と音を立てて閉ざされた歯列を突破するべく舌を深く差し入れたところで、後ろ髪を引かれた。
「……」
見開かれていた瞳には驚きと取り替えられた批難がはっきりと浮かんでいる。
結われた髪を掴んで引き剥がさんとする手に逆らわないまま、彼女の後頭部を手をあてがった。
「!」
そのまま、共に上体を起こしにかかる。
掴んでいた手首は離し、その腕ごと押さえるように身体に手を回してしっかりと抱きしめた。
その拍子、ほんの僅かに緩んだ歯列を強引に割り、その奥に息づく柔らかな舌を絡め取る。
逃れようともがいているようだが、彼にしてみれば抵抗の内に入らない。そのまま、満足のゆくまで唇を貪る。
やがてゆっくりと、彼女の後頭部に当てられた手が外された。
「ぷ、はっ!」
「よかったか?」
返事はない。酸素不足か、違う要素か。耳を赤くした彼女は、大きく息をついている。
片手間に密着する身体を押しのけようとしているようだが、それはふざけているのかと錯覚するほどに力が入っていなかった。
彼女にしてみれば現在の出しうる全力なのかもしれないが。
「は、ぁっ」
戯れに耳をかじり、細い首筋に舌を這わせれば、切なげな吐息が貪ったばかりの唇から零れた。
──愛おしい。
裏切られ、一方的に離縁を申し渡され、道を違えると宣告されようと、気持ちが冷めることはなかった。
彼女が物でないことを承知しながら、誰にも触れさせたくない、渡したくないと嫉妬にすら駆られた。
選ぶべきものは見定めていても、譲れないものがはっきりしていても。
分かり合えないことがこれほどまでに惜しいと、敵に回った女に対してすがりつくにも等しい、みっともない執着を晒してでも手中に収めておきたかった。
どんな形でもいい。彼女が自分の傍にいるのなら。
そのために、彼女が彼女たる所以を失うことになったとしても。
首筋を辿るように顔を埋め、肌のそこかしこに所有印を刻んでいく。
音高く描かれるその行為を恥らうように彼女は身体を捩らせたが、そんなものは抵抗の内にも入らなかった。
「やっ」
「身体は許していないか。重畳だ」
接吻の余韻か。僅かに汗の味がするきめ細かな肌のどこにも、不自然な虫刺され痕はない。
そのことに彼は、心底安堵を覚えていた。
もしそんなものがあったなら、締め落とすどころか絞め殺していたかもしれない。
ただの勘ぐりではなかった。
時折報告に上がる一同の動向──彼女と
そんな報告が耳に入る度に、彼の心は激しくかき乱された。
その際彼の手元には、彼女が肌身離さず持ち歩いていた短刀があったから、でもある。
女性から刃物を贈るのは、絶縁を意味するのだ。
贈られたそれが幼少より手放すことがなかった持ち物ならば尚更、その覚悟は計り知れなかった。
「は……?」
「わからないならいい」
色違いの瞳を潤ませながら、言葉少なに真意を問う彼女にまた口づける。
ぐい、と顔を押しのけられたが、すでに彼の視線は下へと降りていた。
シーツを剥がしたことで露になった、細身の肢体にはいささか不釣合いの豊満な乳房に顔を寄せる。
初夜、彼が初めて目にしたスィンの身体は肉付きが悪く、付随して女性の象徴も非常に慎ましやかなものだった。
気持ちを通わせ、婚姻を結び、誰に気兼ねすることなく──と言えば語弊はあるが──付き合うようになってから、スィンの体型は一年ほどかけて激変している。
わかりやすく太ったわけではない。体型が崩れたわけでもない。
どこもかしこも細く、少年に近い体型だったのが締まるべき場所はそのまま、女性の象徴ともされる場所がふくよかになっていたのだ。
おそらくはヴァンと愛し合うようになった弊害だと、幾度も制服の直しを余儀なくされた彼女は、恥じらいながらもどうしてくれるんだと八つ当たりしてきたものだが。
そんな睦み合いの記憶をたぐるように乳房を掴むと、記憶にある拒絶がヴァンの耳朶を打った。
もっとも、こんなに弱々しいものではなかったが。
「離して……やめて」
「嫌なのか」
「……いや、だ」
「ここはそうでもないようだが」
閉ざされた足をこじ開けることなく持ち上げ、太腿の裏からその付け根へ辿るように秘所へと手を伸ばす。
その手から逃れるようとしながらも、響かないかすれ声で反論された。
否、その内容は言い訳に近い。
「……生理現象、だよ! でなければ反射、何回君と……その、したと思ってるんだ!」
その場所は、触れられてもいないのに十分すぎるほどの湿潤を孕んでいる。
けして無理やりではないが、有無を言わせる暇も与えず武骨な手が誘われるように局部へ滑り込んだ。それだけで、走る快楽が理性を蝕んでいく。
もはや夫婦の契りは破綻しているのだ。夫でもない男と肌を重ねて、あまつさえ悦んではいけないとわかっていながら、染み付いた感覚は消えない。
すでに彼自身を求めてよだれを垂らして口を開いていることは、認めがたいが事実だ。
「慣らす必要はなさそうだな」
なぞるようにしていた指が消えて、どうにか一息つく。
直後身体を軽々抱えられ、長椅子に押し付けられた。閉ざしたままの足を、足首を掴まれてその意を悟る。
「やめっ、いやっ!」
「こんなにしておいて、まだ拒むのか」
「関係ない! 結婚してなきゃ、こんなことはしちゃいけない!」
「……お前は初夜にもそう言っていたな」
貞操観念を理由に頑なに交わることを拒む唇を塞いで、閉ざされた足をあっさりと割った。
くぐもった悲鳴が嬌声に似ていることをいいことに、濡れそぼる蜜壷へ猛る自身をそのまま差し入れる。
「んんっ!」
慣らさなかったことで膣口が緊張したように強張るも、優しく腰を沈めてゆくにつれてそのすべてを受け入れた。
今にも泣き出しそうなほど潤んだ瞳が、上気した頬が、それらと裏腹な思いを訴える。
「駄目……だめ、ぇっ」
「嫌ではなく駄目か。さしものお前も、快楽には逆らえんようだな」
「あ、あぁっ」
間違っても押さえつけないように、こみ上げる衝動を殺して繋がるその場所を今更慣らすかのように優しく、律動を始める。
乱暴に抱いても意味がない──たとえ身体が反応を見せても、本当の意味で善がらないことはこれまでの交わりから察していた。
無理強いや強制されることで過去の忌まわしい記憶が蘇るのか、彼女の目は正気を取り戻す。
『お、おやめください、総長! お戯れが過ぎます、こういうことは『お前、二人のときはそれをやめろと言っただろう! さあ、いい加減覚悟を決めろ。大人しくするんだ!』
『ひっ! ヴァン、やめてっ……いやあっ! 痛いっ、ああっ!』
情動に支配されるまま、すれ違いから生まれた嫉妬に抗うこともしないまま。
まだ緩和してもいなかった異性恐怖症も手伝って力の限り抵抗する彼女を……泣き叫ぶ彼女を力づくで犯した初夜のことは、忘れていない。
「だめっ……ねえ、やめて、優しくしないで……!」
「よくなってきたか? 動くぞ」
粘る水をかき混ぜるような音を聞いて、まぐわっていることを改めて思い知らされたのだろう。水音をかき消さんと声を張るその様子を見て、更なる快感を与えんと、彼は訴えを聞き入れて優しくするのをやめた。
隙あらば逃げようとする柳腰を掴んで容赦なく己の腰を叩きつける。
長椅子の軋む音の合間、咽び泣くような女の嬌声が、室内に鬱々とこもった。
「ひ、ぃっ、ぐっ、ううっ」
「……初夜を思い出すな」
下唇を噛みしめて声を、おそらくは快楽も殺そうとするその様子を見て、懐かしさだけがこみ上げる。
顎を掴んで噛むのをやめさせ、血の味がする接吻を繰り返した。目端に宿していた雫に舌を這わせると、どこかくすぐったそうに色違いの瞳が細まる。
押しのけようとしていた手は、いつしかヴァンの背中へと回っていた。
「ああっ……!」
寄せては返す漣のような快感が、抗う理性を押し流していく。
貫かれるたびに漣は大きさを増し、寸前で耐えていたのがついに限界を迎えた。
それに伴って唐突に跳ねた体が、知られてはいけない相手にもそれを教えてしまう。
「限界か。我慢するな」
「だっ……あっ、やめ、ぬいて……!」
「俺を離さないくせに、よく言う。下の口の方がよほど素直だ」
嘘でも揶揄でもない。
事実、スィンは自らの意思に反して彼自身をくわえ込み、離そうとしないのだ。
無意識だったのだろうか。指摘されて初めて、巻きついていた足が脱力し、背中に回っていた手ががっしりとした肩を掴んで押しやり始める。
せめてもの抵抗なのか、おそらく爪を立てているのだろう。肩にほんの僅かな疼痛を覚えた。
被服の上から、それも常に手入れされている彼女の爪では、たとえ素肌にされても大した抑制にはならなかっただろうが。
「だ……だ、めぇっ……!」
「くっ!」
肩を掴む手にこれまでにない力が加わり、柔らかな肌すらも強張る。
まるでそのまま食いちぎられるかと思うほど、自身を締め上げられ。達したスィンの後を追うように、ヴァンは彼女の胎内へ精を放った。
激しい息遣いは自分のものなのか、違うのか、それすらもわからない。
余韻に浸ってそのまま眠ってしまいたい衝動を払い、それでも疲労から来る睡魔を退治せんとスィンは己の頬を両手で張った。
「っ!」
頬に走った痛覚でどうにか正気を取り戻し、霞かかる意識を起こすように首を振る。
肩で息をするヴァンに意識的に触れないようにして身を捩り、長椅子の上から脱出した。
内腿に垂れる何かを意識しないようにしながら、わだかまるシーツを回収、そのまま扉へ駆け足……したかったが。
「あっ!」
「腰が砕けてるぞ」
思うように力が入らず、失速したところで追ってきたヴァンに捕まる。
振りほどこうと棒手裏剣を握りしめ、振り払い……その手ごと握りしめられた。
棒手裏剣の穂先にひっかかれたことにも頓着した様子はない。
コンタミネーションによって顕現した手裏剣が、翻る。