黒澤明監督の「用心棒」という映画に感銘を受けたレオーネ監督が勝手にリメイクしてしまった作品である。
訴訟問題にまで発展したが、世界的な大ヒットとなったため、いわゆるマカロニ・ウェスタン(イタリア産西部劇)の先駆けとして映画史に残っている作品である。
その後、レオーネ監督は自身のオリジナル作品「夕陽のガンマン」で汚名返上し、マカロニ・ウェスタンの巨匠となった。
レオーネ監督が「用心棒」を西部劇に書き換えたように、「夕陽のガンマン」を美少女が活躍する異世界ファンタジーに書き換えたら、どんな作品が作れるだろうか?
原作キャラの女体化ではありませんので、性転換タグはついていません。
侍とガンマンほどに別人です。
そんな試みのもとに「夕陽のガンマン」の冒頭部を翻案した短編作品です。
黒澤明監督の「用心棒」という映画に感銘を受けたレオーネ監督が勝手にリメイクしてしまった作品である。
訴訟問題にまで発展したが、世界的な大ヒットとなったため、いわゆるマカロニ・ウェスタン(イタリア産西部劇)の先駆けとして映画史に残っている作品である。
その後、レオーネ監督は自身のオリジナル作品「夕陽のガンマン」で汚名返上し、マカロニ・ウェスタンの巨匠となった。
レオーネ監督が「用心棒」を西部劇に書き換えたように、「夕陽のガンマン」を美少女が活躍する異世界ファンタジーに書き換えたら、どんな作品が作れるだろうか?
そんな試みのもとに「夕陽のガンマン」の冒頭部を翻案した短編作品です。
序
魔法や闘気といった力で突出した戦闘力を持つ個人がいる世界では、警察や軍隊の組織力では犯罪を抑止できないことがある。
同じ魔法や闘気を扱う賞金稼ぎという職業が生まれた理由だ。
1.一人旅の少女
飛空貨客船ウェストホープ号の展望室のソファーで、眼を見張るような美少女が静かに詩集を読んでいた。
黒地に紅の差し色を入れた、フリルの華やかなドレスに小柄で幼げな身体を包み込み、銀色の輝くようなロングストレートの髪は窓から差し込む月明りに煌めいている。足元には古びたトランクケースが置いてあり、傍らにフリル付きのかわいい黒い傘が置いてあった。どうにも一人旅という様子がうかがえた。
しかし、まだ10代も前半ほどに見える小柄な少女は、西方開拓地域に向かう飛空貨客船にたった一人で乗っているというのはどうにも似つかわしくないように思われた。
少し不思議であったのは、詩集を見つめる少女の赤紫の瞳には、歳相応の若い活力や好奇心よりも、年月を重ねた落ち着きと知性が備わっているように見えることだ。
同じ展望室にいた紳士ブランドンは聖人でもなければ悪人でもない男であるが、少しばかり善人でお節介なタチであった。だから、少女が一人きりで展望室にいるのを放ってはおくのも気がひけた。
「バルー・フォベスの詩集ですかな?」
「ええ、エンリカ南部の貴族たちの屋敷を渡り歩いた宮廷詩人ですわ」
詩集から目を離さないまま、声をかけてきたブランドンに返事をする少女。
「今は無きエンリカ南部貴族たちの誇りと力強さを精神世界を今日に伝える偉大な詩人ですな」
ブランドンの評価は東方にあるオクトーバコースト王国の教養人の典型的な評価であった。それで少女はブランドンを雑談を楽しめる相手だと判断したのか、詩集から目を離してブランドンを見上げた。
「バルーの詩は実体からかけ離れた美化が目立ちますけれど、美化された分だけエンリカ貴族たちの想いや理想が詰まっておりますの」
その人形のように愛らしい顔立ちに、凛とした品格のある佇まいで微笑を浮かべる少女。それを正面から見つめたブランドンが思わず息を呑むほどの美しさであった。
「ん。いや。不躾ですが、お話してみたところ、しっかりとした家のご息女とお見受けいたします。あなたのようなお嬢さんが一人で西方開拓地へ向かわれるのですか? この船の向かうオーバゼアの街は手前のケイロス山脈ほどでなくとも、治安のよろしいところではありませんよ。ご両親なりと連れ立ってのほうがよろしいかと思いますか」
少女の美しさに気圧されたブランドンであったが、相手は子供だと思い直して本題を切り出した。この船の向かう先は決して治安のよい場所ではなく、年若い少女に一人旅をさせるには不安がある場所だ。であれば、ブランドンはお節介を焼いて少女に声をかけたのである。
「ご心配いただき、ありがとうございます。両親はエンリカの南北内戦で亡くしておりますの」
「南北内戦? 30年以上も前だ」
ブランドンはきょとんとしてしまう。少女の言が正しければ、10代前半にしか見えない少女が30歳以上だということになる。
「ええ、こう見えましても40はもう超えておりますの。時の流れに置き去られたバケモノといったものですわ」
そう言って大きく口を開けて笑った少女の口の中には立派な牙がある。
「年上!? ああ、これは失礼した。気づかないで」
ブランドンは面食らって驚くが、牙を見て少女が吸血鬼であると判断した。そう思ってみてみると、黒いドレスも赤みの強い瞳もいかにも吸血鬼らしい。
吸血鬼やサキュバス、魔族といった知性のある人間型モンスターは人間社会の法令を遵守している限りは、ただモンスターであるというだけで討伐されなくなって久しい。同意さえなるならば、血液や精液など人間の一部を食料とすることは犯罪とはされていない。だから、ブランドンはそのまま会話を続けることを選んだ。それくらいには気安い存在に落ち着いている。それでも、エルフやドワーフなどの亜人種に比べるとイメージはよくない。
「いいえ、見ず知らずの子供の心配をされて声をかける優しさは素晴らしいことでしてよ。ええと……、わたくしはシャーロットと申しますわ。お名前をお伺いしてもよろしいかしら?」
「ブランドンと申します、シャーロット様」
「ブランドン様ですね。見た目のとおりの子供ではございませんが、せっかく声をかけていただいたのも何かの縁でしょう。しばらく船旅のお供をしていただけますかしら?」
「ええ、喜んでお相手させていただきますよ」
そういうとブランドンはシャーロットの隣に座ることにした。辺境へ向けた船旅の中で、思いがけず知的な女性との会話を楽しむことができることを喜んだのである。
会話を続けていくうちにブランドンの身の上話にうつっていく。
「では、オクトーバコーストでは荘園の荘官をされていらしたのですね」
「ええ。オーバゼアの街では農園や牧場が増えているのです。そこで私のような荘官経験者が役に立つということらしく」
「ええ、農場と荘園の違いは経営者の違いくらいのものですわ。そこを踏まえて人間関係に気をつければ、灌漑、治水、収穫物の保存や輸送、多くの知識が活かせることでしょう」
オクトーバコースト王国では貴族の荘園がいたるところに存在し、その実質的な経営をする者たちを荘官と呼んでいる。貴族に近いところで仕事をしている荘官は自然と洗練され、紳士然とした中流階級が多い。
「経営者の違いですか。正直なところ、オーバゼアをはじめとして西方開拓地はまだまだ荒野の鄙だと聞きます。貴族の皆さまの荘園をお守りしてきた身としては、シャーロット様のような教養のある話し相手がいらっしゃればよいのですが」
「ふふふ。大農場主の方々はオクトーバコースト本国の華やかな貴族文化に憧れていらっしゃるのです。荘官経験者をスカウトしているのも、実務能力に加えて箔付けという話でもあるのですわ」
「なるほど。私は教養をもたらす側の人間なのですね。バルー・フォベスのように」
シャーロットが読んでいた詩集の詩人に話を持っていく。
「ええ、バルー様はオクトーバコースト本国から遠く離れた封土を自力で開拓していたエンリカの貴族たちに、本国の宮廷の空気を伝えてくださり、そしてエンリカの貴族たちの理想を詩にしていただいたのですわ」
「もしや、直にお会いしたことがあるので?」
「ええ、まだ10になるかならないかの頃でしたが、父が屋敷に招きましたの」
昔を懐かしんで遠くを見つめるような表情を見せるシャーロットはずいぶんと老成しているようであった。
「……その、不老の道をなぜ選ばれたのですか? エンリカの封土が南北内戦で没収されたとしても、エンリカの貴族の血筋であれば本国の貴族に嫁ぐこともできたのではありませんか?」
ブランドンはシャーロットに尋ねる。生まれついてのモンスターもいるが、人間がモンスターに化生することもある。人間を辞めることを代償に不老長寿を求める手段は確立されて久しい。しかし、人間を辞める代償が小さくないのも事実であった。
「選んだのではありませんわ。エンリカ貴族の血を絶やしたい北部の者たちが、けれどもまだ幼かったわたくしを殺すのを躊躇って別の手段を用いたのです。バケモノになったわたくしは貴族の……いえ、人間の血を残すことはできませんの。当時のエンリカでは、よくあった話ですわ」
家族を奪われ、孤独のままに悠久の時をバケモノとして生かされる。シャーロットにとって生き延びたことを手放しに喜べるものではないことを知った。
「暴徒によって命を落とされた貴族も多かったと聞いていましたが、そのようなことまで……」
荘官という貴族側に仕える立場であったブランドンからすると、刺激の強い話であった。
「もう昔のことですわ。……けれども、もし、わたくしの身の上に同情して下さるのでしたら……血をいただけませんか?」
キラリとシャーロットの牙が輝く。
ゾクリとしたブランドンが少しだけ身を逸らすが、シャーロットの身体がそれを追いかけて、二人の身体が密着する。
「子を宿すことはできない身ですの。ブランドン様のお部屋でゆっくりしながら……」
密着したシャーロットはブランドンの耳元に囁き掛ける。
「えっ? いや、だが……子供相手に……」
「言いましたでしょう? わたくしはブランドン様よりも年上ですのよ、坊や」
幼いとさえ言える声であるのに、実に官能的な大人びた声音の囁きがブランドンの耳朶を打った。
窓から差し込む月明りに、シャーロットの銀髪と白い肌がぼんやりと浮かび上がっている。
シャーロットの華奢な身体は幼く感じられるのは胸の平板さがあるからであるが、腰のなだらかにくびれた曲線を描いており、肉付きは薄いながらも柔らかな女性的な丸みを帯びている。
男を蠱惑するような艶めかしさはないのであるが、均整のとれた美しさは見蕩れてしまうものであった。
このような全体としてはスレンダーで、小さな胸でありながら綺麗なプロポーションという体型はこの世界ではたびたび見ることができ、女性の美しさの一つの形である。稀代の英雄であったサトシ・ワタナベはこれを「女児アニメ体型」と呼んだと伝わっている。
「んぅ……ふぅ……はぁ……ブランドン様……いかがですか? これでもまだ、わたくしを子供と侮られますか?」
シャーロットはブランドンの上にまたがり、彼の怒張を飲み込んでいる。その手練手管はたしかに成熟し、経験を積んだ女性のものであり、見た目とのギャップにブランドンは眩惑されているようであった。
「あ、ああ……目で見えるものと、肌で、いや……アレで感じているものがまるで別物で……頭がどうにかなりそうだ……んあっ…くふっ」
シャーロットが腰を捻り、締め付け具合を変えるとブランドンは喘ぎ声をあげさせられてしまう。
「さあ、わたくしの中でまた硬くなってきましたわ。このまま3発目を搾り取ってさしあげてもよろしいですけれど、最後はブランドン様に動いていただいてもよろしいかしら?」
1発目はフェラチオで、2発目は騎上位で搾り取った後、萎えたものを腰の動きと膣の締め付けだけで復活させたシャーロットは最後はブランドンに主導権を譲るという提案する。
「そして……絶頂の余韻に浸っているところで血を吸わせていただきますわ」
「まったく……とんだ吸血鬼だな」
ブランドンはそう言いながら2発も出した後の気だるい身体を奮い起こして、シャーロットの小さくて軽い身体を抱き上げると自分の体の下に組み敷いた。
「お金を払うよりも、肌を重ねるほうが同意を得られやすいのですわ」
「身体に牙を突き立てられるなら、そういうものかな? いくぞ、シャーロット。君よりは若いんだ」
そう言ってブランドンは腰を激しく振り始めた。荘官の仕事は事務や管理も多いが小作人の先頭にたっての農作業も少なくない。若い男体は逞しく引き締まっており、力強い突き入れと引き抜きの繰り返しがシャーロットの狭い膣内を抉っていく。
「んあっ……あっ……ふみゅっ……あっ……みゃっ」
シャーロットは受けに回ると、先ほどまでの妖艶さを潜めて、愛らしい喘ぎ声を上げ始める。
自分が主導権を握った途端にかわいらしい様子を見せるシャーロットに、ブランドンは大いに張り切るのである。
「……ブランドン様の太いものが……んあっ……奥まで届いてっ……ふみゃあっ」
相手の奥のほうまで征服しているという事実にブランドンの昂りはますます燃え盛っていく。もっとも、奥まで届くのはシャーロットの小柄な身体ゆえであろう。
「ああ、シャーロット……君の奥まで届いてるのがわかる! こんなに激しく燃えるセックスは初めてだ!」
全身から汗を滴らせ飛び散らしているブランドンがあっさりと絶頂を迎えないように受け止め方を調整しながら、シャーロットは存分に快楽を貪っていく。
「あんっ……あっ……んみゅっ……っ……イキそうです……どんどん体が高ぶってきてぇ」
「シャーロット……そろそろ……私もイキそうだ……くっ!」
「一緒にぃ……最後に激しくしてぇ…あ、あああっ!」
絶頂のタイミングを合わせるシャーロット。彼女の手管はそれほどに卓越している。
「うおおおおおおっっ! でるぅぅっっっ!」」
これが最後とばかりにそれまで以上に腰を振るブランドンが猛る声をあげる。
「みみゃああああああっっっ!」
一瞬早く絶頂を迎えたシャーロットがその快楽に体のコントロールを話してしまうと、彼女の膣は本能に従うままに貪欲にブランドンの陰茎を締め付け上げた。
「うおおおおおおおっっ!」
射精の快楽に目の前が明滅するブランドン。
亀頭が爆発したかのような勢いで大量の精液が迸る。シャーロットのかつて子宮であった臓器の入り口に精液が叩きつけられ、その奥に進み切れなかった精液は2人の性器が結合している隙間から噴き出すほどの勢いである。
「んああっ……精液が奥にっ……当たってますのぉ……っ!」
精液を叩きつけられた子宮の入り口はこの世界の女性の身体構造では性感帯であり、シャーロットは再び絶頂へと駆け上っていく。
「……はぁ……はぁ……3発目なのにこんなにでるなんて……シャーロットがすごすぎる……」
全力で腰を振り続けたブランドンは力尽きるようにシャーロットの上に崩れ落ちる。普段であれば、300mlほどしかでない精液が500ml近く出ているのである。
その大量の精液がかつて子宮であった臓器に注ぎ込まれると、シャーロットの身体に魔力が満ちていく。新鮮な魔力が身体に行きわたっていく感覚は性的快感と混じり合うことで甘美なものであった。
「……はぁ……はぁ……では、血をいただきますわ」
自分の上に崩れ落ちているブランドンの首筋にシャーロットは牙を突き立てた。
シャーロットの愛らしい唇の端から血が一筋滴り流れた。
「この世界は人間の顔や身体の造詣もさることながら、セックスという行為においても『二次元』であると私は断言する。
射精に伴う視界の明滅はアダルトゲームの演出に似ており、射精される精液の量は『三次元』にいた頃の100倍を超える。
膣内射精すると、膣内に収まりきらない精液が結合部から噴き出すようにして溢れるのである。
これも二次元アダルトイラストの膣内射精でよく見られる表現である。
普通に3発くらいは連続で射精することができて、4発目くらいでようやく賢者タイムが訪れる。
フェラで一発、本番で一発、それに加えてオプションという具合でセックスができる二次元仕様であろう。
また、女性には膣内にも性感帯があるらしく、とりわけ子宮口に射精されることで処女でも絶頂することもあるらしい。
チンポには勝てなかったよというレベルの快楽を得られるらしく、それで身を持ち崩す女性も多い。
貞操逆転とまでは言わないが、セックスそのものの快楽の大きさが女性にも性的に積極的な層を生んでいる。」
――稀代の英雄サトシ・ワタナベの残した書物より。
シャーロットはまだブランドンが寝ているベッドから抜け出してシャワーを浴びた後、旅装を整え始める。
煌めく美しさを持つ銀色のロングストレートはハーフアップにまとめて紅いリボンで留める。
フリルをふんだんに用いた白いブラウスを着て、襟元は赤い紐タイ。
黒地に赤の差し色のジャンパースカートはパニエでふわっと広がっている。
ジャンパースカートと同色のケープ。
赤い薔薇のコサージュのついた黒いミニハット。
黒と赤のツートンカラーになったニーハイソックス。
ショート丈の黒い編み上げブーツ。
全体としてブラウスと髪の毛の白銀以外は黒地に赤の差し色でまとめており、自分は吸血鬼であるとアピールしているようであった。
アンティークな茶色いトランクケースと黒い傘を持てば、いつでも下船できる旅支度であった。
「シャーロット……? オーバゼアにつくにはまだかなり時間がかかるはずだが?」
まだベッドでぐったりとしているブランドンが目を覚ますと、すでに旅装を終えているシャーロットに疑問を持つ。
「わたくしはオーバゼアではなく、ケイロス山脈の盆地にあるテンプルヒルで下船いたしますの」
「ケイロス山脈の中にある街!? 馬鹿な! あそこは今、犯罪者の巣窟になっていて治安は最悪だ!」
シャーロットの答えはブランドンには驚くべきものであったが、シャーロットは涼しい顔で窓からケイロス山脈を見下ろしている。
「この船だって危険だからケイロス山脈を飛び越えてオーバゼアに直行するから、下船も何も……」
シャーロットが手に持った傘を一閃すると、窓ガラスが粉々に砕け散る。船内との気圧差と航行による気流で部屋の中に風が舞い踊り、シャーロットの髪やフリルがはためく。
「ブランドン様、今夜は楽しませていただきましたわ。それでは、ごきげんよう」
傘を広げて、窓からポンと飛び降りてしまった。
「何をっ!?」
ブランドンが壊れた窓の近くまでにじり寄って、飛び降りたシャーロットの行方に目を凝らす。
傘の生地が大きく広がってコウモリの形になると、シャーロットの落下は滑空に変わっていた。
ブランドンが見つめているうちに、シャーロットの姿は朝日に照らされるケイロス山脈の中に消えて見えなくなった。
2.犯罪者の巣窟と賞金稼ぎ
ケイロス山脈は犯罪者の巣窟である。
かつては山脈の中に点在する盆地を繋ぐようにして、山脈の東西を横断する地上交通網が存在し、山岳資源の採取と輸出で栄えていた。しかし、山脈のすぐ東側でエンリカ南北内戦が勃発したことによって治安が大きく悪化した。
官憲の追手を逃れようとする無法者、野盗と化した敗残兵などが流れ込み、力をつけた悪党の親玉が群雄割拠する有り様であった。
内戦終結後も、要害の地であるケイロス山脈での大規模な掃討作戦を行う余裕のないエンリカ共和国は無法地帯を放置するよりなかった。
テンプルヒルもかつては、山岳資源の積み出し拠点として栄えていた街である。アンティークなレンガ造りの瀟洒な街並みが往時を偲ばせる。
しかし、今のテンプルヒルは山賊あがりの男が”伯爵”などと僭称して支配している状態であった。奴隷を使って採掘された山岳資源は闇ルートで安く売り捌かれ、市場の取引価格を混乱させている。
シャーロットはそのテンプルヒルの入り口に立っていた。
「手書きのゼロが2つですか」
シャーロットは街の入口の門衛の詰め所に貼りだされている手配書の中に、手書きで賞金額の桁を変えてあるものに気付いた。
賞金額は悪党たちにとってステータスのようなものである。それ故、官憲の手の及ばないケイロス山脈の中でもネットを通じて配信される手配書はあちこちで貼りだされている。当の賞金首たちの力の誇示のためであった。
「ウェイナーの野郎が自分で書き足したのさ。俺様の賞金はこんなに安くないぞってな」
手配書を眺めていたシャーロットに声をかけたのは、詰所から出てきた中年の門衛だ。小銃と革鎧を装備しているところから、一般人クラスの強さだろう。
「嬢ちゃん。そのナリでここまで来たってことは腕に覚えはあるんだろうがな。ウェイナーは実際にこのゼロ二つ分の価値があるワルだぜ? エンリカやオクトーバコーストの目の届かないところでも名をあげているヤツだからな」
自分のことのように誇らしげに語る門衛は、長くケイロス山脈で様々な悪党を目撃してきたのだろう。その経験から誇らしげに悪党のあれこれ評論などをしてみせるのは、ある種の強者との同化なのであろう。
ただ、そうした門衛であったから、シャーロットが実力者であることも的確に推理できているのも事実である。見た目にかわいらしい少女であるシャーロットが単身でケイロス山脈をうろうろしているなら、それは長命種族の実力者というのが相場であるからだ。
「残念ですわ。賞金首の悪事はすべて賞金額に乗せていただけると、わたくしも助かるのですけれど」
門衛の様子にシャーロットはやれやれとばかりに薄く笑います。
「嬢ちゃん、賞金稼ぎか? やめときな。ウェイナーの強さは伊達じゃ……うっ、いや、嬢ちゃんなら……もしかすると……」
門衛が自分のことのように賞金首のことを語るのを、シャーロットはその愛らしい瞳から強い圧力を放って黙らせます。
「ウェイナーを呼び出してくださるかしら? 賞金首があなたの首を狙いに来たと。怖がって逃げ出されると厄介ですけれど、ゼロ二つ手書きした方ですものね?」
「へ、へい」
シャーロットに言われた門衛は慌てた様子で大通りを駆けていく。
「賞金稼ぎが来たぞー! ウェイナーの首を狙ってきたぞー!」
その様子を見てシャーロットはテンプルヒルの大通りを悠々と歩き始めた。
門衛が大通りで騒いだので、テンプルヒルの住人たちが物見高く大通りに集まってくる。
ならず者、盗賊、密売人、奴隷商人、賭博師、娼婦、奴隷といった無法地帯の住人たちが遠巻きにシャーロットの様子を見ている。彼らがシャーロットを見つめる様子は様々であったが、外見であからさまに侮る人間は少ないのは、門衛と同様に長命種族の実力者であるとの判断があるからだ。
「おいおい、ずいぶんかわいらしいお嬢ちゃんじゃないか」
「あの細腕でウェイナーさんに勝てるかよ。パワーは力だぜ」
であれば、シャーロットを笑うのはシャーロットよりも実力があると自負する腕自慢と名指し指名を受けたウェイナーの取り巻き達であった。
「さあ、張った張った! この辺りじゃ知らぬ者はいない、怪力無双の賞金首ウェイナー! それに挑もうってのは見た目は美少女だが十中八九はロリババアの賞金稼ぎ! 果たして、その実力や如何に!?」
賭博師は集まってきた人々を相手に商売を始めている。
「わたくしは、わたくしに、これを賭けておいてくださいませ」
賭博師を見たシャーロットはポシェットから白金貨を取り出して、賭博師に放り投げた。
「おおっと! 麗しき美少女賞金稼ぎが自らに白金貨を賭けた! これでオッズは大きく変動したぞ! さあ、張った張った!」
白金貨はオクトーバコースト王国で発行されている最上級の貴金属貨幣である。紙幣や電子通貨が使われている時代でも、ケイロス山脈のような無法地帯では現物としての価値が高く評価される。それ1枚でウェイナーに偏っていたオッズが補正されるのに十分なインパクトがあった。
シャーロットが通りを進んでいくと、その先にある娼館から筋骨たくましく厳つい顔の男が出てくる。
「てめえかぁ、俺様が楽しんでるのを邪魔しにきた賞金稼ぎってのは? 鶏ガラみてえにチマっこいガキだな」
怪力無双のウェイナーという通り名にふさわしい体格をした男は、脇にむっちりと豊満な肉体を持った美女を連れている。ウェイナーのお気に入りの娼婦で、歳の頃は20代半ばといったところであろう。
「女の賞金稼ぎっていうから、手足引き千切って犯してやろうと思ったが、てめえみたいなガキを犯してもつまらねえな」
「残念ですわ、その筋肉ダルマのピストンがどれくらいの快楽になるのか知りたかったのですけれど。こう見えても、あなたの抱きかかえている胸とお尻ばかり大きな小娘よりも長く生きておりますし、それなりに手練手管に覚えはありましてよ?」
あどけなささえ残す顔立ちでありながら、シャーロットは妖艶な微笑を浮かべてみせる。
「ハンっ! おい、聞けえ! 俺が手足を引き千切った後は誰でもこのガキを犯していいぞ! 俺様の好みじゃあねえが、好きなヤツの一人や二人はいるだろう?」
ウェイナーがそう宣言すると歓声があがる。未成熟な身体つきであってもシャーロットは美少女である。好みの身体つきでなくとも抱いてやろうという男は多いのであろう。
「さて、と。始めるか?」
「いつでもよろしくてよ?」
ウェイナーは宣言すると闘気を解き放つ。輻射熱さえ感じさせる強力な闘気が見物人の肌に照り付ける。解き放った闘気に呼応するように、それでなくとも巨体であったウェイナーの体がさらに一回り巨大化していく。メキメキと音を立てて筋肉が増大しているのである。
「ウェイナーの鋼筋爆体。純粋の闘気とパワーの塊は、生半可な実力者は叩き潰されるだけだ」
「脳みそまで筋肉だからな、アレは」
「だが、罠に気付かずに飛び込んでも、罠ごと粉砕するパワーがある」
見物人の中からそんな話が聞こえてくる。
一方のシャーロットはウェイナーの闘気と正面から向き合いながら涼しい顔をしている。
「暑苦しい筋肉ですこと」
持っていた傘を広げると、傘の布が何匹ものコウモリの姿になってバタバタとシャーロットの周囲を飛び回りはじめた。
「あの娘、やはり魔法使いか?」
「見た目の筋肉はなくても闘気があれば戦えるが、筋肉が無意味なわけではないからな」
「あのコウモリを弾体にするのか。だが、非力に見えるな」
同じようにシャーロットを評する声も見物人からあがる。
「へんっ! そんな程度で俺様に挑もうとしたこと、後悔しても遅いっ!」
ウェイナーが大地を蹴ると土煙が上がって、その巨体が見る間にシャーロットに迫る。
「ゆけっ! コウモリたち!」
迎え撃つシャーロットがコウモリたちをウェイナーに向けってけしかけると、コウモリたちは魔力のエネルギー弾となってウェイナーに襲いかかる。並の人間であれば一匹で吹き飛ばす威力が、闘気に阻まれてウェイナーの体に届く前に爆発四散し、爆煙だけがウェイナーを包み込んだ。
「死ねええッ!」
爆煙のうちから抜け出してきたウェイナーは、大きく振りかぶった掌に闘気をのけてシャーロットを叩きつぶす。大通りに直径数メートルの大穴が空く。
「ちっ! 勢い余って叩き潰しちまったか?」
勝利を確信しているウェイナーはニヤニヤといやらしい笑いを浮かべている。
「ウェイナー様っ! 肩の上にっ!」
「えっ?」
ウェイナーの情婦が悲鳴のような声をあげ、ウェイナーが間抜けな声をあげて自分の肩の上を見る。
「残像でしてよ」
にこりと笑うシャーロットがウェイナーの肩の上に乗っている。巨大化したウェイナーの肩に、小柄なシャーロットは腰掛けても余るほどであった。
「実力差は明白。大人しく捕まれば、エンリカ共和国で裁判を受けることができましてよ?」
そう言って傘の軸棒から抜き放ったレイピアをウェイナーの首筋に軽く押し当てる。その細い刃に血が滴っていく。
刃物で肌が切られただけ。
素人にはそう見えるであろうが、ウェイナーは絶望的な実力差があることを悟って全身が粟立つ。
ウェイナーは強大な闘気を纏っているし、肉体は鋼のように強化されているままなのである。その闘気と鋼の壁をゆったりとした動作だけで突き抜けて、ウェイナーの首筋を切り裂いたということである。それはシャーロットとシャーロットのレイピアに、ウェイナーよりも闘気、あるいは魔力が圧縮された状態で満ちているということである。
「あなたの血を味見させていただくのも楽しそうですわね。噂にたがわぬ闘気の持ち主ですもの」
ウェイナーは確かに実力者であったが、それを上回る実力者の言葉としては煽りのようにしか聞こえなかった。
「くそっ!」
ウェイナーの決断は速かった。彼は腕輪にしていた転移魔法のアミュレットを起動させる。魔力が満ちてウェイナーの巨体はその場から消失した。
足場にしていた巨体がなくなったが、シャーロットは危なげもなく着地する。
「逃げられてしまいましたわね」
慌てる様子もなく、シャーロットは逃げられたことを冷静に受け止めているようであった。
「すげえ……あの小娘、ウェイナーに勝っちまいやがった」
「銀髪の少女の賞金稼ぎ……まさかっ!」
「これは大番狂わせだ! 勝者は美少女賞金稼ぎだぁっ!」
「なんでえ、ウェイナーの野郎め、口ほどにもない! ちょっと血が出ただけで尻尾巻いて逃げちまいやがった!」
勝負の顛末を正確に理解している者、賭けの結果に悲鳴と歓声をあげるもの、両者の実力差に気付かずにウェイナーを罵るものなど悲喜こもごもの人間模様がテンプルヒルの街に拡がっていく。
「さて、と。どこまで逃げたか知りませんけれど、首は上げないといけませんわね」
そんな中でシャーロットは一人冷静であった。彼女は持ち歩いているトランクケースを使い魔のコウモリに持ってこさせると、それを路上で広げる。
俗に無限収納と呼ばれる魔法がかかったトランクケースは見た目から想像できないほどの収納力を持っている。シャーロットは魔法陣を描いた羊皮紙を広げ、魔法陣の頂点に燭台を並べて蝋燭に火を灯していく。中央に禍々しいデザインの杯を置き、そこにレイピアに付着したウェイナーの血が1滴、2滴と落とされた。
「我が声に応えしは、闇の眷属なり。
血と肉に飢えた闇の眷属よ、我は汝に血と肉を捧ぐ。
我が敵を打ち滅ぼし、その心臓喰らうこと
我が名と共和国の法の元に許しを与えん。
顕現せよ、死を告げる大鴉よ」
呪文を唱えると魔法陣はそのおどろおどろしさに相応しい呪いを発し始める。
次に大鴉の姿をした魔獣が魔法陣から顔を出し、呪いの力を吸い上げられていく。
受肉した呪いがウェイナーを打ち滅ぼす大鴉となって飛び立っていく。ハードウェアを持つ存在となることで、呪いの弱点であるソフトウェア的な弱点が緩和されている。もちろん、ハードウェアな戦闘力ではじき返すこともできるが、実際に戦ってみてウェイナーの実力は読み切っているのである。
「くそっくそっ、ここまで恥をかかされて……覚えていろよ」
転移魔法で離脱したウェイナーはテンプルヒルの街からほど離れた丘の森の中にいた。打ち捨てられた猟師小屋を改装して非常時の為のフロッカを用意していたのである。
フロッカは魔力によって浮遊することで高速度と荒れ地の走破性を両立したオフロード車両で、インフラの不十分で荒廃しているケイロス山脈では多く使われている。
ウェイナーは猟師小屋に入ると偽装のためのガラクタを押し分けて、中からセダン型のフロッカが姿を見せる。
賞金稼ぎのシャーロットから逃げ出したのは、今後、同業者から舐められる要因となるであろう。無法者の世界では舐められるのは大きな痛手であり、メンツは重要な資産であった。しかし、ウェイナーは命あっての物種と割り切れる男であった。シャーロットほどの実力者はそうそういはしない。格下が舐めた態度を見せるなら自分の実力で叩き伏せる。格上の相手ならシャーロットの実力から逃げのびたことは十分な「戦果」として自慢できるはずであった。
フロッカを発進させた山小屋から飛び出してケイロス山脈の荒野へと走り出す。
「とっととトンズラだ。しばらくほとぼりが冷めるのを待って……」
だが、その時、フロントガラスに黒い影が映った。
「なんだ? 召喚獣!?」
ウェイナーの目に映ったのは大きな鴉であった。
カラスは空気を切り裂くような鋭い泣き声をあげた後、ウェイナー目掛けて突っ込んでくる。
「くそっ!」
ハンドルを切って鴉の突進を避けたが、鴉はすぐさま旋廻して今度は背後からウェイナーの乗るフロッカに襲い掛かってくる
「車の中じゃ見えづらい!」
ウェイナーは視界を制限されるフロッカを自動運転に切り替えると、ドアを開けて車外に飛び出した。フロッカの軽量化されたボディよりも、自分の闘気と筋肉のほうが防御力に優れているのである。
「さあ、こっちだ!」
元より大鴉はウェイナーを追尾する呪いであった。フロッカには目もくれずにウェイナーに向かっていく。
「うらあああああっっ!!」
再び闘気を纏い、筋肉を膨れ上がらせたウェイナーはずしりと構えて向かってくる大鴉にストレートパンチを繰り出した。それは拳を繰り出した風圧だけで地面を抉り取るほどの威力であった。
「ぐ、ふっ……ちくしょ……う…め……」
その拳を紙一重ですり抜けた大鴉の嘴がウェイナーの胸板に深々と突き刺さっている。闘気も熱い胸筋も貫くほどの魔力を大鴉は帯びていたのである。それは引いては、シャーロットの術式と魔力の大きさによるものであった。
エピローグ
「……300、400、500万。怪力無双のウェイナーの賞金だ。まったく羨ましい厚みだね」
カウンターに札束を積み上げていく冒険者ギルドの担当者は自分の年収にも匹敵する現金を扱いながら、花形の賞金稼ぎを羨むのである。
「100万はオクトーバコーストの銀行に預けて、400万は白金貨にしてくださる」
シャーロットはウェイナーを打ち取った証拠を換金すると、一部を貴金属貨幣に両替する。
「金貨類への両替は手数料がかかるがね?」
「エンリカの紙幣の価値を認めてくれるところにはあまりいきませんもの」
「共和国政府の役人としては喜べない話だね」
冒険者ギルドの担当者はそのように語る。
「地域を安定させればいいでしょうに」
「簡単に言ってくれるな。しかし、そうなったら俺もあんたも失業の憂き目だな」
「それは否定できませんわね」
美少女賞金稼ぎシャーロット。
彼女は今日も荒野に生きている。