錬金術士ライザが幼馴染の父親と背徳交尾しまくって調教された挙句、親友であるクラウディアを中年親父に売り渡し、自分と同じハメ穴に変えていく話 作:黒胡椒サラミ
夏もようやく盛りを過ぎつつあった頃。その日、クラウディアがライザのアトリエを訪ねると、アトリエの外の草地で、ザムエルが作業をしていた。肩にライザの作った建築材を乗せ抱えていたザムエルは、クラウディアがやってきたことに気付くと、それをドスンと地面に突き立てた。
「ようクラウディア、また来たのか」
「こんにちはザムエルさん。……ライザは?」
「あいつなら、今日はまだ来てねぇな……。てっきり、お前と一緒に来るもんだと思ってたが。村で一緒にならなかったのか?」
「はい、ライザのほうが先に行っていると思ったんですが。……ひょっとしたら、すれ違ったのかもしれません」
ライザとクラウディアは、ラーゼンボーデン村のあるクーケン島から、小舟で海を渡ってここまでくる。使える小舟は数艘あって、その気になれば、ザムエルを含めた彼ら三人が別々に島とアトリエを往復することは可能なのだが、クラウディアはライザと一緒にここまで来る事が多い。少なくとも、ライザの方がアトリエに先に居るのがほとんどであり、こうしてライザが居ない状況で、クラウディアとザムエルが二人きりになる状況は滅多になかった。
さっきクラウディアは、まるでライザがここに来ていないことを知らなかったかのように言ったが、実は彼女は、ライザがまだ村に居る事を知っていた。今日のライザは彼女の両親に捕まって、朝から乳しぼりなどの農場の手伝いをやらされているのだ。
――だからごめん、今日はクラウディア一人でアトリエに行っててくれる?
クラウディアは、ライザに直接その事情を聴いた。だから間違いない。
ならば素直にそう言えばよさそうなものであるが、クラウディアはどうしてかそうしなかった。
「ライザに会いに来たんだろうに……空振りで残念だったな」
「いいえ、待っていればじきに来るでしょうから、問題ありません」
なぜ彼女はそんな小さな嘘をつくのか。「ライザに会いに来たのにたまたま彼女がいなかったから、偶然ザムエルと二人きりになった」――そんな言い訳を、己に残しておきたいのだろうか。
クラウディア本人に聞いても否定するだろうが、実のところ彼女は、ザムエルに会いたかったのだ。ライザがいなくて彼と二人きりになるのなら、それでもいいと思っていた。クラウディアは親友に対する若干の後ろめたさを感じながら、ライザの話を止めて、ザムエルの傍まで来ると言った。
「もうすぐ完成ですね」
「おお、だいぶしんどかったが、ようやくだ」
二人の前には、ザムエルがアトリエの外に組み立てている最中の露天風呂がある。ライザが錬金術で作った建築材を組み合わせて土台と枠を作り、そこにボイラーがついている。アトリエの傍を流れる小川から水を引いてくることもできて、完成すれば、かなり便利で立派な浴場になるはずだ。落成の暁にはお泊り会をして、一緒にこのお風呂に入ろうと、ライザもクラウディアに言っていた。
ザムエルは、首にかけていたタオルで顔の汗を拭きながら言った。
「しかし、こう毎日ここに来てて……、親父さんは心配したりしないのか?」
「…………大丈夫です」
クラウディアは少し表情を曇らせ、顔をうつむけた。そんなクラウディアの内心をすぐに察したかのように、ザムエルはふぅとため息をつく。
「また親父さんと喧嘩したのか」
「…………」
「まあ、喧嘩するほど仲がいいって言うがな。……親父さんの気持ちも、分かってやんな」
「…………はい」
クラウディアも分かってはいるつもりなのだ。父が自分を心配して、あれこれと言ってくる事くらいは分かっている。でも、最近のクラウディアは、父の前に出るとどうしても素直になれなくなる。今ザムエルの言葉に頷いたように、父の言葉に素直に従えなくなる。
「そりゃあ多分、お前が大人になろうとしてるからだ、クラウディア」
「……え」
クラウディアがうつむいていると、まるでクラウディアの頭の中身を読み取ったかのように、ザムエルは彼の考えを言い始めた。
「誰だって、いつかは親から巣立つ時が来るもんだ。自分の事は、全部自分で決めるようになってな。そんな時は、親からあれこれ言われるのがうるさく感じるもんさ。俺もそういう時期があった。……うちのレントだってそうだろ? あいつは最近、ここに姿も見せやしねぇ」
ザムエルは寂しそうに笑った。
「ライザたちの冒険に付き合えば、俺もレントとの関係を、上手いこと修復することができるかと思ったんだが……、浅はかだったみてぇだな。…………へっ、話がズレちまった。とにかくクラウディアも、親父さんの事を分かってやるようにしてくれよ。親父さんは親父さんで、きっと大変なのさ」
「ザムエルさん……」
クラウディアは今の話を聞いて、自分が父との間に抱いていたわだかまりよりも、ザムエルの家庭の事を考えた。
(そう言えばザムエルさんも、奥さんと別れてレント君と二人きりなんだよね。ライザが相談に乗ってあげるまで、ずっとお酒ばかり飲んでたって言ってた……)
ライザへの恩を返すために冒険に付いて行きたいと言っていたザムエルだが、もしかするとそれは建て前で、本音ではそれを、子供であるレントとの関係修復の機会としたいと思っていたのかもしれない。……だがこのようなクラウディアの思考は、ザムエルにとってあまりにも都合が良すぎた。ライザへの恩返しというのはもちろん建前だが、彼の本音は、あくまでクラウディアをメス穴に調教して、この森のアトリエを、彼のヤリ部屋へと変貌させることだ。
しかしクラウディアは、改めてザムエルの家庭の事情に親近感を抱いた。男手一つで子供を育て、その子供との関係に悩む父親――そんなザムエルの姿は、クラウディアの父にも重なるような気がした。
ライザが不在であると承知していながら、たった一人でザムエルのいる森の隠れ家へとやって来る。この時点でクラウディアは、ザムエルの計画にまんまと嵌り、彼に心を開きつつあった。屋敷の部屋に居るとどうしても不安に駆られ、このアトリエに来たくなってしまうのも、ザムエルがライザに用意させたお香の影響だ。だがしかし、今や彼女はこのザムエルがいるアトリエを、自分の家よりも安心できる場所として、認識しつつあったのだ。
そして、話が単に安心できるとかできないとかで収まるならば、それはまだ可愛らしかった。
(………………んっ)
クラウディアの脳の奥に、わずかに甘い痺れが走った。その痺れの元は、ザムエルから漂ってくる汗の臭いだ。
ザムエルは今、上半身に袖なしの薄手のシャツしか身に着けていない。日差しの下で肉体労働をしていたせいで、そのシャツも汗みずくになり尽くしている。シャツの脇の部分には、少し黄色い染みができていた。
「それにしても、本当に暑いなぁ今日は。そろそろ涼しくなってもいい頃だろうが」
うんざりとした声で、ザムエルが太陽を見上げた。そうしながら、彼は再び首にかけたタオルで、顔や首の後ろを拭いていく。ザムエルが動く都度、酸っぱいようなすえた臭いがクラウディアの鼻腔に届く。香水や花のような芳しい香りではなく、むしろ吐き気を催しそうな嫌な臭いであるはずなのに、クラウディアはどうしても、その臭いを嗅いでしまう。
(………………はっ)
そのたび、クラウディアの頭の奥はジンと痺れたようになり、下腹部が切なく疼く。ザムエルが登場する悪夢を見るようになって以来、クラウディアはこの謎の疼きを、ほとんど常に感じていた。
そんなクラウディアの様子を横目で見ているザムエルは、これまでの調教の成果を確実に感じていた。
(一々エロい仕草でもじもじしやがって……。バレてねぇとでも思ってやがるのか? それとも今すぐハメ犯されてぇのか? ……しかし、ライザの作る道具も大したもんだ。これほど効果があるとはなぁ)
最近のザムエルは、ライザが調合したある薬を飲んでいる。それは、体液の中に含まれるフェロモン物質の量を、飛躍的に増やす効果のある薬だ。なんでも元は、魚を引き寄せる撒き餌のレシピと、魔物を集める道具のレシピから閃いたらしい。そんなもん飲んで大丈夫なのかとザムエルが問うと、ライザは確信あり気に頷いた。
(大丈夫だよ。これは人間にしか効かないから)
だが、あまり効いてしまって、見境なく誰でも引き寄せてしまっても困る。それを聞くと、ライザはこう答えた。
(それも大丈夫。この匂いが分かるのは……、あたしみたいなメスだけだから。心の奥で、ご主人様のハメ穴になりたいと思ってる、発情したメスだけ♥ だから……クラウディアにもきっと効果があるよ♥)
実際、効果は劇的だった。試しにそれを飲んだザムエルが、ライザにチンポの臭いを嗅がせると、彼女はそれだけで潮を噴き、アクメから帰ってこれなくなった。
だが、果たしてそれが本当にクラウディアにも効果があるのか……。そう思っていたのだが、今のクラウディアの様子を見ると、それは杞憂だったようだ。そしてこのことはつまり、クラウディアがザムエルにハメ堕とされたがっていることの証明でもある。
さらに、クラウディアがザムエルの汗の臭いを嗅いで身をよじっているように、ザムエルもまた、クラウディアの匂いの変化を敏感に感じ取っていた。クラウディアは最近、日増しにメスの薫りを周囲に振りまくようになっていた。それは、ザムエルのようなオスの嗅覚でしか分からない微妙な変化だ。石鹸の香りと、乙女の花のように芳しい体臭に混じって、ほんのわずかに漂う蜜液の香り。
ザムエルには分かる。この女はつい最近、自分を慰める事を覚えたのだ。
事実、クラウディアはザムエルの夢を見るようになってから、自分の身体の疼きに耐えられないようになっていた。そして彼女は、誰に教えられることも無く、ただメスの本能で、自分で自分を愛撫する事を覚えた。それは、ショーツの上から指先で恐る恐るクリトリスを撫でるという、ザムエルから見れば児戯に等しい自慰行為であったが、それでも自慰は自慰であった。
たったそれだけの行為で、性の快楽に慣れていないクラウディアは、身を焦がすような電流に襲われる。枕を噛んで、必死に声が漏れるのを抑え、夢で満たされなかった部分を何とか満たそうと試みる。
だが、彼女は決して満たされなかった。肉芽を撫でて走る電流にさらわれると、どうにか身の内の衝動を一時抑えることができる。しかし、ただそれだけなのだ。その行為には何かが足りない。何かが決定的に埋まらないのだ。クラウディアの心と身体を満たしてくれる、彼女に欠けている何かが。
そんな時、クラウディアは自分が、無意識に今隣に居る男の名前をつぶやいていた事に、果たして気付いていただろうか。
(じっとりと濡らしてやがる。この娘も……俺を、誘っていやがる)
ザムエルの嗅覚は、今も少女の股の間が、ほんのりと濡れているのを捉えていた。
準備はでき上がりつつあった。アトリエやクラウディアの部屋に焚き染められた香、毎度飲ませる茶に仕込んだ薬、その他にも色々と、ザムエルはクラウディアの処女の肉体を蕩かせるための、様々な布石を打ってきた。その労苦がようやく報われようとしている。
契約が為される日は近い。あとは、ほんの少しのきっかけでいい。
下劣な思考を、「誠実な元傭兵」の演技で上手に覆い隠せるようになっていたザムエルは、そんなことを考えているとはおくびにも出さず、クラウディアに向けて微笑んだ。
「もうすぐできあがる。俺も本当に嬉しいよ」
「――え?」
「いや、この風呂場の話さ」
「あ、そうですね。本当に立派なお風呂になりそう。うらやましいな」
「クラウディアの屋敷には、もっとでかい風呂があるだろう?」
「う~ん……、でも広すぎて、逆に寂しい感じがするかも」
「おいおい、そりゃあ俺みたいな貧乏人にとっちゃ嫌味だぜ」
冗談を言い合って、二人は明るい声で笑った。
このようにクラウディアは本当に、自分を狙う、ザムエルという人以下のけだものに対して心を許しつつあった。
「そろそろ中に入ろうぜ。いつまでもこんな暑いところに居たら、ゆでだこになっちまうよ」
「はい、ライザがいないなら、私がお茶を淹れますね」
「ありがてぇ。クラウディアが淹れる茶は、ライザがやるよりずっと美味いからな」
「そんな事ばっかり言ってると、ライザに言い付けますよ?」
「はっはっは――。おっと……、そうだ」
そこでザムエルは、さも今気づいたという風な白々しい声を出すと、クラウディアに言った。
「茶を飲むにしたって、この汗だくじゃちょっとな。気持ち悪いし、何よりお嬢さんの前でする格好じゃねぇ。だから、俺は井戸の水を浴びてから行くよ」
「はい、分かりました」
クラウディアはごく自然に微笑んだ。
「ああ、だから――」
そう言うとザムエルは、がばりと両腕を上げ、おもむろに袖なしのシャツを脱いだ。ザムエルは、その絞れば彼のオス臭い汗がびちゃびちゃと零れてきそうなシャツを、汗拭きに使っていたタオルとまとめて右手に持ち、クラウディアに向かって差し出した。
「あ…………」
ザムエルは、己に向けられるクラウディアの視線が、脇や胸板を動き回って、最終的に下腹のあたりで止まったのを感じた。彼の汚ならしいへその下に生えた腹毛から、硬直したクラウディアは目を離せないでいる。この腹毛は、すぐ直下でザムエルの陰毛と繋がっているのだ。
「だからよ、茶を入れるついでに、こいつを洗濯籠に叩きこんでおいてくれねぇか?」
清らかな乙女の手にそんな汚物を握らせようとは、あまりにもデリカシーに欠ける振る舞いだ。しばらく前のクラウディアなら、顔色を変えて激しく拒否してもおかしくない。だが、ザムエルはこれまでずっと、彼女の常識と倫理観を揺さぶり続けてきた。今やクラウディアは、この程度ならば受け入れるはず。ザムエルには黒い確信があった。
「あ…………、は、はい」
事実、クラウディアはほとんど迷わなかった。呆気に取られたようになりながら、彼女はそれでも、ザムエルの右手の下にゆっくりと両手を差し出した。
「頼むぜ」
「――――――!!」
べちゃりという効果音を立てて、その汚物は少女の白く小さな手のひらの上に置かれた。一瞬、クラウディアがぶるりと肩を震わせる。
「じゃあ、俺はしばらく水浴びしてるから、よろしくな」
「…………」
クラウディアは、固まったまま立ち尽くしている。ザムエルは井戸の前まで歩くと、彼女を振り返って言った。
「どうした……? こんなオッサンの水浴びを見たいのか?」
「――! い、いえ、違います! ごめんなさい!」
硬直から解放されたクラウディアは、ザムエルのシャツを両腕で抱きしめて、逃げるようにアトリエの中に入っていった。そして、そんなクラウディアの背中を、ザムエルは何かを測るようにじっと見つめていた。
――――――――――――――――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
アトリエの入口の扉に寄り掛かり、クラウディアは息を荒くしている。
短い距離を走っただけなのに、こんなに息が切れたのはどうしてだろう。跳ね回る心臓が全く収まらず、体中が熱い。
「ん――――、くぅ」
あまりに熱さを感じるので、クラウディアは服の首元を緩めたいと思った。しかし、両手がふさがっている。そこで彼女は、自分の手にぐっしょりと濡れたザムエルのシャツと、彼の汗を拭いたタオルが乗っている事を思い出した。
彼はこれを、洗濯籠に入れておいて欲しいと言った。その籠は多分、このアトリエの二階にある。一階はライザのアトリエで、二階がザムエルの住居になっているのだから、それで当たっているはずだ。お茶の時間の前に水浴びをしたいから、汗に濡れた衣服を洗濯籠に入れておいてくれ。ザムエルは当然のように、クラウディアにそう頼んだ。だから、これは当然の事なのだ。変なお願いとか、妙なお願いとか考える事ではない。
「――――んっ」
こくりと、クラウディアの喉が動いた。ザムエルの汗に濡れたシャツ。そこから手に伝わってくるぐちゃっとした感触は、自分としてはそんなに歓迎したいものではないはずだ。同じように、このシャツから漂うザムエルの酸っぱい体臭も。
(ザムエルさんの、汗…………)
厭なもののはずなのに、どうしてか手に持ったシャツが、段々とクラウディアの顔に近づいてくる。彼女の手が顔に向かってそれを動かしているのか、それとも彼女の顔のほうから、それに向かって近づいているのか。どちらにしても、ザムエルの汗の臭いを間近で嗅ぎたいと思い、身体を動かしているのはクラウディアだ。
「――――!!」
しかし、彼女が汗だくのシャツに顔を埋める直前、背後からばしゃりという水音がした。これはきっと、ザムエルが井戸の水を浴びている音だ。まるで、その音によって自分も冷水を浴びせられたような気がして、クラウディアは正気に戻った。
自分は今、何かとてもいけない事をしようとした。勝手に他人の服の匂いを嗅ぐなど、とても無作法で、それ以前にあまりにも変質者じみている。もう一度、ドア越しに水音がした。ザムエルはクラウディアの事を信用しているから、あんなに何気ない調子で、これを彼女に任せたのだ。その信用を裏切るような真似をするなど、許されることではない。
「そう――、洗濯、洗濯しないと。洗濯は大事だものね」
彼女は自分の思考を誤魔化すために、敢えてそう口にしたのだが、その台詞は、とても上ずった変な声になってしまった。また、ばしゃりという水音がする。クラウディアがこうなっている事をザムエルに気付かれる前に、早く彼の頼みごとを済ませて、お湯を沸かしてお茶を淹れなければ。
クラウディアは、自分が再度妙な事を考えないように、シャツとタオルを捧げ持つようにして、できるだけ身体から離した。目を細めて顔を背け、できるだけ視界にそれが入らないようにした。
そろり、そろりと彼女は歩き出す。簡単な作業だ。ただ二階に行って洗濯籠を見つけ、これを入れるだけの事ではないか。クラウディアは心の中でそう唱えて、己を励ました。
二階に続く階段の前に立ち、最初の一段に足をかける。木の階段が、彼女の体重を受けてキシキシと軋んだ。
クラウディアがアトリエの二階に入ったのは、かなり久しぶりだった。皆で荒れ果てていたこの家屋を直した時以来だろうか。その時とは違い、二階はザムエルの住居となっている。そして完全に二階に上ったところで、クラウディアの頭は朦朧とした。
そこに充満していた、汗に濡れたシャツから漂ってくる以上の濃密なオスの匂いに、脳を焼かれたからだ。
「あ――――、はっ」
鼻から空気をひと吸いしただけで、彼女は呼吸困難に陥った。その部屋の空気は、まるで肌に直接触れてくるような濃厚さを持っていた。四六時中引っ切り無しに獣臭を放つむさい中年男が、そこで寝起きしているのだから当然だろう。一階で焚かれているような、臭いを紛らわすようなお香も、二階には焚かれていない。そこはほぼ純度100パーセントの、オスの匂いで満ちていたのだ。
いや、100パーセントは言い過ぎだったかもしれない。訂正しよう。80パーセントくらいはザムエルのオス臭で満たされているが、残りの20パーセントくらいはそうではなかった。その20パーセントに含まれているのは、ライザが残したメスの薫りだ。
この部屋をヤリ部屋にして、ザムエルとライザは、もう何度か数えきれないほどにサカり合ってきた。クラウディアがアトリエに居ない時、つまり二人きりになっている時には、ザムエルのチンポはほとんど常時ライザのハメ穴の中に収納されていた。そうして繰り広げられる獣セックスの舞台は、大半がこの部屋だったのである。
つまり、どれだけ丁寧に拭き取ろうと、この部屋の床や壁に染み付いたオスとメスの汗や涎、精液や愛液などのあらゆる体液の匂いは、もう決して取れなくなっているのだ。
「んっ――――――ふぅっ」
部屋に満ち満ちているフェロモンが、クラウディアのメス穴としての本能を絶え間なく刺激する。カーテンも窓も締め切られていて淀んだ空気。それによって籠った夏の熱気が、クラウディアが体感するオス臭とフェロモンの量を、百倍以上にかぐわしく醸成していた。
クラウディアは一瞬、自分がどうしてここにいるのか分からなくなった。頭がくらくらして、思考が定まらない。それでも、ふらついた足取りで、彼女は部屋の中央にまで歩を進めた。
早く目的を果たして、この部屋から出なければならない。そうしなければ、自分はダメになってしまう。そんな危機感を抱いて、彼女は部屋の内部を見回した。床には、ザムエルが脱ぎ捨てた衣服が無造作に散らばっている。そんな中でも元傭兵らしく、大剣と革鎧だけは丹念に手入れされ、所定の位置にしまわれていた。部屋の隅には、大きめのサイズのベッドがある。あそこで、ザムエルは寝起きしているのだろう。
(あ…………。せんたく、かご)
それが目に入ったところで、クラウディアは首を回すのを止めた。そこで彼女は、ようやく自分がここに来た目的を思い出す。手に持っているものを、自分はそこに置いてこなければならないのだ。
だが、洗濯籠は部屋の一番奥の窓際に置いてあった。今のクラウディアには、その僅か数歩の距離が、とてつもなく長いかのように感じられた。この部屋に入ってから、クラウディアは努めて口から呼吸するようにしていた。しかしそれも無駄なあがき、可愛らしい抵抗だ。一秒長くこの部屋にいるだけで、オスのフェロモンは洪水となって、クラウディアの身体のあらゆる部分、脳の内部にまで侵入してくる。そうなるごとに、彼女の奥で何かが目覚めていくのだ。
「………………」
まるで機械人形のようなぎこちない動きで、彼女は部屋の奥にまで歩を進め、持っていたシャツとタオルを洗濯籠の中にばさりと落とした。籠の中にはザムエルの下着と思われる布も入っていて、それがちらりと視界に入ると、クラウディアの喉はまたもこくりとうごめいた。
だが、これでようやく終わった。頼まれごとは果たしたのだから、あとはここを立ち去るだけだ。クラウディアは振り返った。
「…………あ」
そこでふと、クラウディアは己の手のひらに目をやった。彼女の両手がぐっしょりと濡れているのは、緊張から生じた彼女の手汗だけではない。ザムエルの汗みずくになったシャツを握り締めていたのは、その両手なのだから。
さっき、シャツの匂いを嗅ごうとした時には躊躇して思いとどまった。でも、これは自分の手のひらなのだから、その匂いを嗅ぐのに、誰に遠慮する必要があるだろう。そうやって己に言い訳する余裕が、彼女にあったのかは知らない。
「――すぅ」
そこにあったのは、彼女が両手で己の鼻と口を覆うようにして、目を閉じて鼻から息を吸ったという事実だけだ。
「あっ――――♥」
とんでもなく甘ったるい声が、クラウディアの喉奥から出た。ザムエルの濃い汗の臭いが、頭頂に突き刺さるような感覚。己で撫でてもいないのに、下腹部からも甘い痺れが来た。乙女の全身を、例の電流が襲う。がくがくと両膝が震えて、彼女は立っていられなくなった。
「きゃ――――っ」
ぽすん、と、彼女は尻餅をつくような形で、ザムエルのベッドに腰かけた。ベッドのスプリングが、ギシリと軋み声を上げる。床に倒れるような事にはならなくて済んだが、脚と腰から力が抜けて、すぐには立ち上がれない。
クラウディアはぼんやりと首を回した。その視界に、ザムエルが使っている枕が映る。そのとたん、抑えきれない疼きが、彼女の股の間に湧き上がってきた。
(ザムエルさんの、枕)
あそこに頭を乗せて、あの人は毎晩このベッドに寝ている。きっとあそこには、あの人の頭の匂い、髪の匂いが染み込んでいるだろう。さっき手のひらの匂いを嗅いだ時、例の電流がクラウディアの中を駆け抜けた。だが、あれでは不満足だ。クラウディアはまだ、自分の身体のどこも直接いじっていない。
クラウディアは、ザムエルの枕を凝視している。あそこに顔を埋めて、彼の汗に濡れた指で、己の股間の突起を撫でたら、一体どういう事になるだろう。彼女の頭の中には、そんな考えが浮かんで離れなかった。
じんわりと、股から何かが漏れていくような感覚がする。実際、クラウディアが履いている薄青のショーツには一筋の濡れ染みができ、それはどんどんと広がっていた。
(少しだけ、少しだけ、だから)
ほんの少しだけ枕を借りるだけだ。それならば、きっとザムエルも嫌とは言わない。股間の突起を、ほんのひと撫でするだけでいい。それで自分は満足できる。クラウディアは肉体の衝動に負け、いつの間にかぼふりと彼の枕に顔を埋めていた。そして右手の中指が、秘裂にそっと近づいていく。彼女のショーツはこれまでに無いほどしとどに濡れ、黒のタイツにまでも大きな染みを作っていた。
自分はとんでもなくいけない事をしている。それを分かっていても、クラウディアの手は止まらない。そしてほんの軽く、羽が触れるほどに優しく、クラウディアの白魚のような中指の腹が、彼女自身の張り詰めた肉芽を撫でた。
「く、きゅ、ううううううう!」
恐れが生じるほどの痛みに似た快感が、さっきの数倍の電流となってクラウディアの全身を駆け巡る。タイツの染みはさらに広がり、彼女は自分の身体が暴れ出さないように、ザムエルの枕を強く抱きしめ、歯を食いしばってその感覚に耐えた。
「はっ、はっ、はっ、はっ――」
中年親父のベッドの上で、金髪の少女がうつ伏せになり、ぴくぴくとその肢体を震わせている。
脳の機能がどうにか正常になり、身体の自由を取り戻すまで、彼女は五分以上もそうしていたのではないだろうか。
そしてその五分は、部屋の主が戻ってくるには十分な時間だった。
「…………クラウディア、お前はそこで、一体何をしてるんだ?」
ザムエルの低い声が、彼のベッドにうつ伏せているクラウディアの耳に入った。