いつまでも変わらないと思っていたガサツでボーイッシュな幼なじみがいつの間にか俺の知らないところで女にされていた件 作:第三世界(うたかたとわ)
午後五時。俺は家の前で花火大会のためにアイラと待ち合わせをしていた。待ちきれなくなってしまった俺はお気に入りの服に着替えると待ち合わせの五分前から外でスマホを弄っている。そしてアイラのやつはそんな俺の気を知ることもなく、五時ピッタリになっていから家を出てきた
「お待たせ~!」
余裕綽々な態度でアイラが俺に声をかけてくる。いつもならここで俺がアイラに軽口を叩くのが定番なのだが、いつもの様子が違うアイラに俺は声をかけることができなかった
アイラが美しかったからだ。いつものボーイッシュな格好にすっぴんのラフな姿ではなく、軽く化粧をして浴衣姿になったアイラはすごくきれいで俺に彼女が女であることをこれでもかというくらいに感じさせてくる。少しだけ傾いた夕日に照らされる彼女はまるで女神のようだ。誇張ではなく、本当に俺はそう思った
「なんだよ!なんか言えよ!」
「お、おう。まあ、花火大会に行こうぜ」
結局俺は恥ずかしくなりアイラの浴衣姿を褒めることができなかった。情けない。そんなことを思いながらも元気に俺に話しかけてくるアイラに俺は何とか自然を装い応答をしていく
「もう夏も終わるね」
「……そうだな」
ミンミンゼミの声が聞こえなくなり、カナカナゼミの音が目立つようになり始めた八月の後半の街並を俺とアイラは二人で歩く。アイラとはいつも並んで歩いているはずなのに、今日は何かが違う。涼しくなり始めた夕方の空気に夏の終わりを感じながら、俺はアイラの横顔を見つめていた
でも、化粧をして浴衣姿になったアイラは結局いつもと変わらなかった。彼女のその空気に安心をした俺は告白への緊張から平静を取り戻すと、取り留めのない話に努めながらアイラと花火大会の会場へと向かうことにする
俺たちが二人で花火大会に向かっていると、俺達と同じように花火大会の会場へと向かうカップルがチラホラと周りに見え始めてくる。すると俺とアイラの二人の間に流れる空気も、いつもと違う男女のもののように変わったみたいだ。いつもと違う空気を二人の間に感じながら、俺は告白の成功を予感していた
アイラと花火大会に向かう途中で同じ高校のクラスメイトと幾度もすれ違う。何度も俺たちは「やっぱりお前ら付き合ってんじゃん!」とクラスメイトから指摘されることとなった
いつのなら「ちげーよ!」と俺がそれを否定する流れなのだが、今日の俺はクラスメイトのからかいを否定することなく受け止めていく。俺は今日、アイラに告白をして恋人同士になりたかったからだ
そして周りの景色が薄暗くなり始めた頃になり、俺達は河川敷にある花火大会の会場へと着いた。でも河川敷は主に家族連れが多い場所だ。ここから少し離れると雰囲気のいい公園があり、カップルの多くはそこは向かうこととなる
俺とアイラも例に漏れずにカップルが集うその公園を目指すことにする。少し高台になった公園にたどり着くと、やはり会場近くの公園内には多くのカップルが花火大会の開始を今か今かと待ち構えていた
「周りから見たら俺たちもカップルに見えるのかな?」
「そうかもな!」
周りのカップルに紛れるようにして俺たちも公園内で自分たちの場所を確保する。アイラの本心を伺うためにかけた俺の言葉に、彼女は快活な返事をしてくれた。アイラのその元気な様子から、どうやら彼女は俺と周りからカップルに見られることを嫌がってはいないことが伺える。これは告白がうまくいくかもしれない。俺の心に期待の灯火が灯る
……ドーン!
そしてついに花火大会が始まった。俺とアイラはそれを並んで見上げることになる。アイラと見る花火はきれいだった。俺は今までむしろ花火になど興味がなかったタイプだったのだが、こうしてみるといいものだと思う
実は今までアイラから花火大会に誘われることはあったのだが、花火になど興味のなかった俺はいつもその誘いを断り続けていた。花火を一緒に見たカップルは両思いになれるという今年の流行がなかったら、俺は一生花火大会に来なかったかもしれない。俺は今までの自分の選択を後悔しながらアイラと並んで見る花火大会を満喫していった
そして花火大会はあっという間に終わることとなる。でも、俺はいまだにアイラに告白ができていなかった。彼女に告白をするまで帰る気になれなかった俺は未練たらしくも完全に暗くなり始めた公園内にアイラと二人残り続けている。公園内に明かりはあるが薄暗い場所では俺達と同じように残ったカップルがいい雰囲気になりながら体をくっつけ合っていた
そしてそんな俺の焦る気持ちに残酷な現実を突きつけるようにして、アイラのスマホが鳴った
「親からの呼び出しだ。わりーな!」
スマホの画面を見たアイラが俺に申し訳なさそうにその内容を伝えてくる。どうやら時間切れのようだ。俺は内心は渋々ながらもそれを彼女に感じさせないようにして家路につくことにする。俺とアイラは暗くなった道を並んで家まで帰った
「じゃあな!」
「どうしたんだよアイラ?道路に突っ立って?」
「別にいいだろ!それより、エイトをお見送りをしてあげようっていう幼なじみの気づかいに感謝しろよ!」
家の前での別れ際、俺とアイラは軽口を叩きあう。でも、今日のアイラはいつもと違かった。いつもならアイラの方からまっさきに別れを告げて家に入っていくのに、今日のアイラは俺が家に入るのを道路で見送ってくれている。もしかしたら、アイラも俺と別れるのが名残惜しいのかもしれない
俺はアイラのそんな変化に俺達の関係が進んだことを感じ嬉しく思いながら、彼女に向かって笑顔で別れの挨拶をして家に入る。これは今日彼女に告白をしていれば成功していたかもな。でも、脈がありそうなのが分かったのは大きな収穫だ。次は告白を成功させる。俺はそう誓った
俺がそんなことを考えながら自室に戻り部屋着に着替えていると、俺の家の目の道路を一台の車が通る音がする。こんな時間に珍しいな。そんな感想が頭に浮かんだ。そしてふと何かが気になった俺が隣の家にあるアイラの部屋を見てみると、家に帰ったはずの彼女の部屋にはまだ電気がついていなかった
「アイラのやつ何をしてるんだ?リビングで親とでも話してんのか?」
いつもと何かが違うような変な違和感を心に感じながらも特に何の考えにも至らなかった俺はアイラとの関係性が今日のデートで一歩進んだことに達成感を感じながらも、最近流行りだしたスマホゲームの攻略に励むことにしたのだった