2年前。
洋介の集団暴行の対象は稔だった。
洋介は取り巻きを従え、稔をリンチしたり、裸でオナニーさせて撮影したり、万引きさせたりしていた。
悪いことに。
稔は剛の幼馴染だった。
稔はいじめられっ子のようなタイプではなかった。運動もできたし、ひょうきんな奴だった。
剛は稔とよくコンビを組んでお笑いをし、クラスや空手道場の皆を笑わせていた。
洋介はそういう明るく強い稔を完璧な奴隷として苛め抜く事で、全ての生徒に「自分だって標的にされたら、殺されてしまう」という恐怖を与える意図を持っていた。稔はそういう観点で選ばれたのだった。
剛はひょうきんな稔が大好きだった。
稔と一緒に居る時に、不思議とひょうきんになれる自分も大好きだった。
今まで明るかった稔は、洋介の標的になってから驚く程に変わった。
虚ろな眼をし、ふらふらと歩いていた。
恐怖と絶望から自我が崩壊し、よだれを垂らしていることも多かった。
明らかに小便や大便をズボンに漏らしており、それをそのまま履き続けている様な時も多かった。
小4の剛は悩んだ。
それは、洋介が残虐な上に、身体的にも技術的にも極めて強かったからだ。
剛は小1からやっている空手で、同学年では全国大会でベスト4に入ったこともあった。
だが、
洋介は競技者としても優れており、何度も全国を制していた。
剛と洋介は同じ道場で練習しており、剛は実力の違いを肌で知っていた。稽古では完全に遊ばれてしまう程、実力差があった。
3つの年齢差や体格差だけでなく、競技者としての資質が違っていた。
だが、
剛は稔への凄惨な暴行を、絶対に許せなかった。
周囲は教師も親も含め、洋介が稔に凄惨ないじめをしていることを知っていた。見て見ぬふりをしていたのだ。
それは特に経済が低迷してから、ヤクザに経済的にも精神的にも支配されてしまった藤川市住民の、ヤクザに対する共通姿勢だった。
誰もが、洋介の標的になること、洋介の家族の標的になることを心の底から恐れていた。稔のいじめについて、話を振ることは、学校や街のタブーになっていた。
洋介は怖かった。
だが、剛はこう思っていた。
「ここで稔を護らなければ、一生ヘタレとして生きる事になる…」
剛は口先では綺麗事を言っているが、ヤクザに支配されている事を許容し続ける藤川市全体、学校の雰囲気を軽蔑していた。皆が虚ろな眼をして、「これが賢い生き方なんだ」と小利口な表情を浮かべていた。剛はこの小利口な表情が昔から嫌いで、虫唾が走る思いをしていた。
(俺はこいつらの様に小賢しい男じゃない)
ある日「やめろ!こらーー!」と叫び、洋介の頬を思い切り殴った。
(必死になれば、必ず火事場の馬鹿力が出るはずだ)
(洋介はやっていないレスリングや柔道を、俺はやっているんだ)
今までに感じたことがない憤り、恐怖を乗り越えた勇気。それが、自分も知らない様な偉大な力を呼び醒すことを信じた。
闘いが始まった。