失神した龍太の頭部をブーツで淡々と蹴り落とし続ける剛に、葵は叫んだ。
「剛君!」
剛は久しぶりに声を発した葵に振り向いた。
葵は龍太に殴られて蹴られてから、歯をボロボロにし、頭から血を流した状態でずっと尻もちをつくように茫然としていた。剛が龍太を殺戮している時も、状況を飲み込めず、ただただ呆然と現場を眺めていた。剛が龍太を圧倒しているのに、驚き・安心感・嬉しさはあったものの、目の前の殺戮が現実だとは思えなかった。
だが、龍太が自分の頭を蹴ったブーツを剛が龍太から奪い、龍太の頭部を蹴り落とし初めてから、ようやく目が覚めた。
(このままだと、剛君は大勢の人の前で龍太を殺してしまう・・・)
自分が止めないと確実に龍太が死ぬことは、本能的にわかった。そこから葵は人が変わったように本能的に叫び、恐ろしいエネルギーで動き始めた。
「これでパクられたら、私達、セックス出来ないよ!一回私とヤッてから、パクられなさいよ!」
「このクソ童貞のくせに!」
剛は健気に自分を止める葵に衝撃を受けた。
気が狂った自分をこの状況で止めた。公衆の面前で、こんな啖呵を吐けるほど度胸があることに驚いた。葵は無理矢理剛の腕を握り、駆け出した。
「一緒に逃げよう!」
剛は龍太が両眼をくり抜かれ、頭部からも避けた傷から白い液体がドロリと出ている事から、最低でも龍太が植物人間になることは確信していた。洋平同様、心臓を停止する所まで行けなかったことは心残りだったが、周囲に群衆が出来ている事もあり、逃げる事を決意した。
逃げる前に、剛は吾郎の元に戻った。
「おい。東日連合が報復したら、お前が漏らしたと判断するからな。必ずお前を見つけて、必ず殺してやる」
「絶対に漏らしません。許してください」
吾郎は泣きながら失禁していた。
吾郎は間近で剛の攻撃を見ていて、葵が止めなければ龍太は確実に殺されていたことを確認していた。龍太をはじめ、多様なヤクザや不良の喧嘩を見ていた吾郎だが、剛の攻撃は全く異質だった。
何というか、何の感情もなく。
相手への憎しみや怒り、相手を征服してやろうという意気込み、自分の残虐さを他人に見せてやろうという顕示欲など。そうしたものが一切感じられない。
剛がただただ相手を破壊するという目的だけに純粋に集中している事に、吾郎は同じ人間とは思えない畏怖を感じていた。
剛はすぐに連絡させないために、吾郎の携帯を奪い取った。
剛と葵は群衆を掻き分けて走り抜き、タクシーに飛び乗った。剛は追手をカモフラージュするために近くの病院の近くで降り、そこから葵の家に向かった。