そこから、地獄の日々が始まった。
稔も含め、皆が剛を無視した。剛は常に暴行を受け、常に洋介が主宰するショーで暴行された。その様子は全て、洋介の取り巻きに撮影されていた。取り巻きの男だけではなく、学校の女子や地域の大人まで剛を拷問した動画を持っていた。驚く事に、洋介はその動画を有料で販売しており、マニアックな趣味を持つ一定の大人達がその動画に大金を支払っていたようだった。
深刻な不況から経済的にも精神的にもヤクザに支配された藤川市の市民は、暴力に歪んだ好奇心と従属願望を持っていた。小学生のいじめの動画コンテンツを大人が購入する様な、奇妙な状況が起きていた。
剛が救おうとして失敗した稔は継続的に、洋平達に集団暴行を受けていた。
期間は3年間に及び、稔は心身共に疲弊し、空手道場はやめていた。剛は、稔が最近自殺を図っていることを知った。
(稔も俺ももう限界だ。そろそろ決行するしかない)
剛も度重なる暴行といじめで、肉体的にも精神的にも消耗し切っていた。だが、剛はじっと耐えていた。
(こいつらは全員、殺してやる)
剛は絶望している中でも、復讐への熱意を絶やす事はなかった。度重なる拷問は当初死ぬ程に怖かった。だが、数回拷問されている中で、極めて大きな変化があった。
脳の奥の方で何かの決壊が破れ、特殊な液体がドクドクと染み出してくる感覚を覚えたのだ。
この液体が放出されると、物理的な苦痛を耐える事が出来る様になり、脳が異常に冴えた。
この液体は脳内物質ドーパミン等であろうが、剛の場合は、この液体が自分の脳の皺を駆け巡り始めると、ドス黒い蛇が脳の皺を舐め回す様に蠢く感覚があった。この黒蛇の蠢きを感じると、むしろ快感を感じる様になって来た。そして、むしろ拷問される程に、「絶対に復讐してやる」とエネルギーの泉に源水を注いでもらえている様な感覚になった。
(失敗は許されない)
剛は肌で感じていた。2年が経ち、中3になった洋平は凶暴性を増していた。2年が経ち、中3になった洋平は凶暴性を増していた。洋平は藤川市を支配するヤクザ赤川会とは既に盃を交わしていた。
(今回失敗したら、リアルに殺される)
文字通り、確実に殺される。実際に、洋平の上の兄は殺人罪で刑務所に居る。洋平もその下働きしていた。
剛への凄惨な集団暴行が始まってから2年間、剛は格闘技や殺人術の技を磨き、身体や技術を磨き上げて来た。数十人に常に暴行された身体と精神を奮い立たせ、常に気が狂った様に鍛え上げて来たのだ。
剛は確かに、凄惨な集団暴行を受けている事を、鍛錬への異常なモチベーションとして転化し、育み続けて来た。
だが、前回の闘いで、自分の限界は深くわかっていた。
剛は前回の敗因は、「奇跡が起きて、洋介とまともに闘っても勝てる筈だ」と思い込み、冷静さを失った事だと深く理解していた。洋介に集団で拷問され、頭が冴え渡ってくる程に、剛は死闘における冷静さの重要性を心に刻むのだった。
剛と洋平間の、競技者としての差は着実に縮まっていた。
だが、そこを過信し、蛮勇で正々堂々闘う気は更々なかった。
知力と汚さを持って、確実に殺す。そのための鍛錬、計画を練って来た。